夜景写真家・岩崎拓哉の夜景撮影講座
第7回:クルーズ船上からの工場夜景の撮り方
Photo : Takuya Iwasaki
TOPIX
今回の夜景撮影講座は2015年5月9日に実施いたしました 「 工場夜景撮影セミナー 」での写真を交えながら、船上からの工場夜景の撮り方をお届けします。文末のお勧め工場夜景ツアーもぜひ参考にしてください。 by 編集部 |
5月に入ってから気温が上がり、日中は真夏のような暑さを感じる日も出てきました。日没も遅くなり、梅雨も近づいて夜景撮影に最も厳しいシーズンとなりますが、気象条件を比較的受けにくい工場夜景撮影は今の時期に最もおすすめです。前回は陸地での工場夜景撮影について解説しましたが、今回はクルーズ船など足場が揺れる船上からの夜景撮影テクニックについて解説したいと思います。夏の涼みに工場夜景クルーズからの撮影を楽しんでみてはいかがでしょうか。
■水上と陸上での夜景撮影スタイルの違い
工場夜景に限らず、一般的な夜景撮影は陸地での撮影がメインとなります。基本的には三脚でカメラを固定して、長時間露光での撮影となりますが、水上からの撮影はカメラを固定できず、シャッター速度を日中の撮影時並みに速くして撮影する必要があり、夜景撮影の中でも特に難易度が高いジャンルと言えます。
(1)陸上の撮影場所
公道・公園・展望室・山上・バスなど車内
(2)水上の撮影場所
屋形船・クルーザー・フェリー・水上バス
同じ夜景撮影でありながら、これまでの三脚+長時間露光と全く逆の発想で考える必要があり、カメラ機材の性能はもちろん、カメラの設定に関する知識も重要になってきます。では、これから具体的な撮影テクニックの話に入りたいと思います。
写真2 船上からの撮影風景
■夜景撮影テクニックの基本
詳しいカメラの設定例は後ほど紹介しますが、まずは基本的な4つの設定について解説したいと思います。ストロボ発光禁止以外は陸上での撮影と間逆の設定になると考えて頂ければわかりやすいと思います。
(1)ストロボ
当然ですが、ストロボは発光禁止にしておきましょう。
(2)ISO感度
陸上での夜景撮影はISO感度を低めにして、三脚などでカメラを固定しますが、船上ではISO感度を高めに設定します。感度を上げすぎるとノイズが非常に目立ってしまうので、拡張ISO感度は極力使用を避けたいところです。
(3)絞り
一般的には絞りはF8~F11で撮影することが多いですが、船上からの撮影はたいてい開放値に設定することが多くなります。
(4)手ぶれ補正
手持ちでの撮影が原因によるブレは多少なり防ぐ効果が期待できるので、基本的には有効にしておきましょう。
■夜景撮影のシチュエーション
クルーズ船など、船上からの夜景撮影はワンパターンではありません。たいていの夜景クルーズは夕方から出港することが多く、日没後のトワイライトビューも楽しめる工夫がされています。撮影という観点から考えれば大きく3つのシチュエーションに分かれます。
(1)日没後【難易度:中】
空の明るさが残るため、移動中でもシャッター速度を多少なり稼げる。ISO感度も夜間ほど高くする必要は無い。トワイライトタイムに運良く停船するとさらに撮影のハードルが下がる。
写真3 トワイライトタイムの工場夜景
(2)移動中【難易度:高】
揺れが縦方向と横方向に広がるため、被写体の動きを止めるのは相当困難。開放絞り値の明るいレンズと超高感度でカバーするのが唯一の対策。作例では開放値F1.4の単焦点レンズで撮影。
写真4 移動中に高速シャッターで撮影した工場夜景
(3)停船時【難易度:中】
停船時間が限られる最も撮影しやすいタイミング。シャッター速度も1/2桁台で撮影できる絶好のチャンス。連射モードで集中して撮影に挑みたいところ。
写真5 船の停船時に撮影した工場のプラント
■カメラの設定
ここからは具体的なカメラの設定について7つのポイントに分けて解説します。クルーズ船によっては、何度も停船時間が設けられている場合があるので、様々な設定を試し、自分に合う設定を見つけるのも良いでしょう。
(1)ブレ対策
船上からの撮影は手振れと足場の揺れ対策を克服する必要がある。手振れはカメラ本体やレンズに手振れ補正機構がある場合は有効にしておきたい。特にシャッター速度が長めになるシチュエーションや望遠レンズを使った撮影時に効果を発揮する。足場の揺れ対策はISO感度を上げる、シャッター速度を短くする、絞りを開けることで対応。
(2)ISO感度
シチュエーションにもよるが、基本的なISO感度の目安はISO6400~25600程度。ノイズリダクションは有効にしておく。拡張感度設定を使うのも一つだが、ノイズが非常に目立ってしまうため、できるだけ利用は避けたい。
(3)交換レンズ
レンズ交換をする余裕が無いことも想定し、フルサイズ換算で24-70mmクラスのズームレンズがあると便利。また、35mmや50mmの単焦点レンズも威力を発揮する。
(4)撮影モード
絞り優先「Av」、シャッター速度優先「Tv」、マニュアル露出「M」のいずれか。ドライブモードは連写を推奨。
(5)露出補正
基本的には±0で良いが、ISOの増感やシャッター速度に限界がある場合はマイナス補正にして、後からレタッチで明るくするのも手。レタッチをすることを想定し、JPEGではなくRAWに設定しておきたい。
(6)フォーカスモード
MF/AFどちらでも問題無いが、一眼レフの場合は光学ファインダーの方がピント合わせが早く、撮影姿勢も安定する。ミラーレスの場合はAFでなるべく明るい部分(被写体)をタッチしてピントを合わせる。停船時など被写体との距離が変化しない(レンズのズーミングもしない)場合は、MFで撮影するのも良い。
(7)水平出し
揺れる船上では水平を保つのが大変だが、水準器を使いつつ、連写して「数打てば当たる」の気持ちで挑みたい。水準器を用意できない場合はグリッド線を目安にするのも良い。
■作例紹介
最後にいくつか作例を紹介したいと思います。カメラの設定情報を参考に、撮影に挑んでみてください。
写真6 扇町の工場夜景(日没後)
写真7 浮島町の石油プラント(日没後)
写真8 水江町の工場夜景
写真9 東亜石油のプラントを間近で撮影
写真10 タンカーを移動中に撮影
■今月のお勧め夜景スポット「工場夜景探検ツアー」
京浜フェリーボートに所属する「サンタ バルカ号」に乗船して、工場夜景を楽しめるツアー。90分と短い時間だが高速船のため移動時間が短く、運航状況によっては見所の観賞ポイントで停船する場合もあり、はじめての工場夜景の船上撮影にもおすすめ。船長のガイドもユーモアがあり、ツアーの魅力を増している。
開催日:主に金・土・日に運航(詳細は公式サイト確認)
所在地:大さん橋ふ頭ビル1階に集合
アクセス:みなとみらい線「日本大通り」駅 3番出口より徒歩8分
料金:おとな 3,800円 / こども 2,200円(2015年5月時点)
URL:https://www.keihinferry.co.jp/event/factory.html
写真11 サンタバルカ号