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デジカメの「しくみ」
第11回 : 魅惑のCCDの世界 その2.
      〜さらにスミアの少ないCCDの開発〜
 
CCDも改良され続けている
スミア対策に力を注いだFIT-CCD
ケータイで活躍するFIT-CCD
2005/08/03
スタジオグラフィックス公認 デジタルカメラの教科書
体系的に学ぶデジタルカメラのしくみ第2版 スタジオグラフィックス、デジカメのしくみ講座の著者、西井と神崎が執筆したデジカメの歴史、カタログの読み方、レンズや撮像素子のしくみなどをやさしく解説した書籍。待望の第二版
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シャープがボーダフォン向けに提供しているハイエンド携帯電話『Vodafone 903SH』。この製品のカメラモジュールはCCDを採用しているのですが、FIT-CCD方式という、他メーカはあまり採用していない方式となっています。さて、このFIT-CCDとはなんでしょうか。
 
■CCDも改良され続けている
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●ケータイで済ませてしまうクセが…
   最近はブログやソーシャルネットワークが流行ですね。わたくしもチョコチョコと試したりしていますが、やはり文章だけでは寂しいので写真を撮って掲載してページが華やぐように心がけています。しかし、ついついデジタルカメラを持ち歩くのが面倒になってしまって、ケータイでパチリなんてことが多くなってきてしまいました。

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【古いケータイではスミア発生するケースが多い】
2003年発売のケータイで撮影した画像。強い光を受けるとスミアが発生してしまうのです。
 
 ケータイのカメラ機能もずいぶんと画質が良くなってWebへの掲載程度なら充分やん、というクオリティになってきました。ですから、外食時のテーブルを撮影するくらいだとケータイで済ませてしまうんですよね。しかし、まだシチュエーションによっては、ケータイのカメラ機能では太刀打ちできないこともあります。それがスミアです。ケータイのカメラ機能だと、撮影しようとするアングルの中に、太陽や電灯といった光源はもちろんのこと、光を反射しやすいオブジェなどが入ってしまっただけでスミアが発生してしまうことが多いのですよね。

 え、スミアって何、ですって? がーん。ちゃんとスミアについては、「第5回 : CCDの電荷バケツリレーのしくみ 〜携帯電話カメラに多いスミアの謎も探る〜」で解説していますよぉ。そんな方はもう一度参照してくださいまし。

   
●CMOSだけでなくCCDも進化している
 

  スミアの発生を抑えるためには、高性能なメカニカルシャッターを装備すると良いと紹介しました。実際、メカニカルシャッターを装備した携帯電話も登場しているのですが、すべてに適用されるような状況ではありません。なぜなら、携帯電話の世界では、まだまだ「より薄く」というのが大きな課題であるためです。高性能なメカニカルシャッターは、CCDとレンズの間に装備しなければいけませんから、どうしても厚みが増してしまうのです。より薄い携帯電話を設計しているエンジニアからしてみると、高性能なメカニカルシャッターはまだまだ大きな敵なのです。

 そこで、携帯電話のカメラモジュールでは、撮像素子自体を進化させてスミア対策をしています。そのひとつはCMOSの採用。以前、CMOSがどんどん進化しているということを書きましたが、携帯電話で使用するサイズのCMOSへも、この進化がフィードバックされてきているというわけです。
 そして、もうひとつはCCDの進化です。従来、放送局などで使用する業務用ビデオカメラで採用していたFIT-CCD方式を、携帯電話のカメラモジュールとして使用してしまおうという試みです。前回、新しいCCDの種類を紹介しましたが、FIT-CCD方式は出てきませんでした。さて、このFIT-CCD方式って何でしょう。

 では今回は、携帯電話のカメラモジュールなどにも採用されるようになってきた、CCDのもうひとつの種類FIT-CCD方式について紹介していきましょう。

   
■スミア対策に力を注いだFIT-CCD
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●スミアはやはり「大敵」
 

 前回までに、2種類のCCDを紹介しました。ひとつは受光面積が小さくなってしまうものの、価格と画質のバランスが良く、量産に優れているインターライントランスファー(IT-CCD、インタートランスファともいう)方式、そしてもうひとつは、前回紹介した、高性能なシャッターと組み合わせて使うことで光を有効に電荷に変え、広いダイナミックレンジを確保できるフレームトランスファー(FT-CCD)方式です。また、FT-CCD方式を改良したFull FT-CCD方式も紹介しました。

 ところが、これらのCCDには、大きな欠点があります。それは冒頭でも紹介した「スミア」です。たしかに、これらのCCDは、さまざまな手法でスミアを軽減させています。Full FT-CCDを採用したE-1などが高性能なシャッターを装備しているのはそのうちのひとつですし、IT-CCD方式はスミアの発生が少ないので設計や開発がしやすく、撮影者も扱いやすいという紹介をしたほどです。しかし、実際にデジタルカメラを商品化するときに、価格や大きさの関係で高性能なシャッターが搭載できないこともあります。例えば、携帯電話に搭載されているカメラモジュール。ここには、高額なコストをかけられませんし、サイズも限られています。また、IT-CCD方式がスミアが少ないというのはFT-CCD方式と比較したときのことであって、スミアが皆無なわけではありません。IT-CCD方式では、受光領域と蓄積領域が同じ場所であるため、垂直転送用CCDに強い光が漏れ込んでしまうことが多く、どうしてもスミアが発生してしまうのです。

   
●両者の「良いとこ取り」をした構造
   そこで、IT-CCD方式とFT-CCD方式の両方の利点を生かすようなCCDが考えられました。それが、フレームインターライン・トランスファー(Frame Interline Transfer)方式で、FIT-CCDと略されます。
 FIT-CCDの構造は、FT-CCD方式と同じように撮像領域と蓄積領域が分かれています。そのため、FT-CCD方式と同じように、撮像領域で発生した電荷は蓄積領域へと即座に運ばれていきます。蓄積領域が遮光されているのも、FT-CCDと同様です。しかし、FT-CCD方式と違うところがあります。それは、電荷は撮像領域を転送していくのではなく、IT-CCD方式のように垂直転送用CCDが用意されていて、ここを転送されていくのです。もちろん、この垂直転送用CCD領域は遮光されています。つまり、電荷が発生してもすぐに遮光されている垂直転送用CCD領域を経由して、やはり遮光されている蓄積領域へ移動されますから、不要な光を受ける時間がごくごく短くて済むというわけです。不要な光を受けなければ、スミアが発生する確率も低くなります。したがって、FIT-CCD方式は、CCDの種類の中ではもっともスミアが発生しにくい方式なのです。


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【FIT-CCDのしくみ】
撮像領域と蓄積領域は分離されていて、発生した電荷は即座に蓄積領域に転送されます。垂直転送用CCDと蓄積領域は遮光されているので、不要な光を極力受けなくて済むのでスミアの発生が少なくて済むのが最大の特徴です。
(『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』より)
   
●ハイビジョンカメラでも使われている
 

 FIT-CCDのメリットは、スミアの発生が少ないという点だけはありません。FIT-CCDの撮像領域は、IT-CCDと同じような構造を持っています。つまり、電荷の発生と転送の役割を異なったパーツとして分担できるというわけです。したがって、電荷の発生を効率よく行う、といった特性を飛躍的に向上させたりすることもやりやすいというメリットもあるのです。
 しかし、一方でデメリットもいくつかあります。撮像領域とは別に蓄積領域を設ける必要があるため、CCDのサイズがどうしても大きめになってしまうということです。撮像領域を基準として比較すると、全体のサイズはその1.5倍から2倍は必要になってしまうのです。また、撮像領域と蓄積領域の両方に電子回路が必要になってしまうため、消費電力が大きくなってしまうというデメリットもあります。

 このように最高のメリットを手にしながら、小型化、省消費電力が難しいというデメリットを受けて、デジタルカメラではなかなか採用されることがありませんでした。では、どのようなところで活躍しているかというと、業務放送用のビデオカメラに採用されているのです。テレビ放送では、スミアの発生を極力避ける必要がありますが、電力が充分に供給可能ですから、まさに最適な活躍場所であるというわけです。画質の向上がしやすいというメリットを活かして、ハイビジョンを撮影するためのハンディカメラなどにもFIT-CCD方式の撮像素子は搭載されています。

【CCDの種類と特徴】

 
転送方式
スミア
構造
チップ面積
高速転送
 FT-CCD型
簡単
 IT-CCD型
複雑
 FIT-CCD型
複雑

 FIT-CCDは、他のCCDと比べるとスミアの発生が少ないというメリットがあるものの、後続が複雑でチップ面積も大きいというデメリットがあります。ちなみに、以前紹介したスーパーCCDハニカムは、IT-CCDの発展系ですので、基本的な性能はIT-CCDに準拠します。

   
■ケータイで活躍するFIT-CCD
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●最近ではケータイで使われるように
 
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【FIT-CCD採用のケータイ用カメラモジュール】
シャープがハイエンドのカメラ付き携帯電話向けに、開発した1/3インチ2メガピクセルCCDカメラモジュール。携帯電話のカタログなどでは、光学式の2倍インナーズームやオートフォーカス機能ばかりが注目されていますが、このモジュールはFIT-CCD方式が採用され、IT-CCD方式を採用したカメラモジュールに比べてスミア発生が低く抑えられています。
 
 デジタルカメラでの採用はありませんでしたが、最近では携帯電話のカメラモジュールに採用されるケースが出てきました。携帯電話のデジタルカメラ機能は、こういってはなんですが、画質にトコトンこだわるようなことはまだまだありません。それよりも、スミアの発生を抑えるほうが重要度では上であるといえます。また、携帯電話のカメラモジュールであれば全体のサイズがとても小さく、撮像領域と蓄積領域を足してもたいした消費電力にはなりません。また、CCDのサイズが大きくなってしまいますが、これは面積の話で、厚さにはあまり関係ありません。高性能なシャッターを搭載するのに比べると、設計で苦労することは少ないといえるのです。

 すなわち、携帯電話のカメラモジュールにおいては、FIT-CCD方式のデメリットが少なくて済んでしまうのです。そのため、携帯電話に搭載されるようになってきているのです。現在では、シャープがFIT-CCD方式の携帯電話用のカメラモジュールを開発しており、同社のハイエンドタイプの携帯電話や、同社からカメラモジュールの供給を受けているメーカからFIT-CCD方式カメラを搭載した製品が販売されています。

 CMOSだけでなく、CCDも地道にではありますが、進化を続けています。メリットやデメリットをよく把握しておくと、自分の撮影シチュエーションに最適な製品を購入することができますよ。


Text by 西井美鷹(デジカメWEB)

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