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ブツ撮りカメラマン高崎勉のつぶやき vol.4
中古ギターのキズや汚れを正確に撮影するには


takasaki04

Photo : Tsutomu Takasaki

TOPIX

今回の”ブツ撮りカメラマン高崎勉のつぶやき”は読者からの「中古ギターのキズや汚れを正確に撮影するには?」に関して氏より詳細な解説をいただいたため回答編を1回分としてお届けします。身近になったオークション出品で活用できる内容ですので、ぜひご覧ください。 by 編集部

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■ サブコラム:ブツ撮り質問箱

● ご質問内容 ●

使っていたギターをネットオークションに出したいのですが上手く撮れません。写真を見た方がなるべくわかりやすくなるよう、説明的に撮るコツを教えてください。(プロが使うような機材を買うことはできません。)

愛媛県にお住いの K・K さんからご質問をいただきました。

< 高崎勉 回答編 >

今回は使用感のあるギターをネットで販売したいとのこと。
僕は以前、大手質店の撮影コンサルをしていたことがあるのですが、今回のご質問はその時の案件に似ていますね。
新品の商品を撮影するときは、その商品を綺麗に撮ることが大事です。ですが、セカンドハンズ( 中古品 )の取引の場合、後でクレームの対象にならないように、キズや汚れを正確に写真で伝えることが必要です。

僕がお手伝いしたその質店は写真の重要性に気づき、撮り方を変えた後、ネットで商品をご覧になった方の来客が増えたと報告をいただきました。つまり商品をわかりやすく伝えることが「 商品の特徴がわかりやすく購入する時に不安がない。」
「 この店(売り手)を信用できる。」という高評価に繋がるのですね。

今回の被写体(ギター)に限った話ではありませんが、撮影に際してまず行うこと。。なんだと思われますか?
それはまず、商品をよく観察して、どんな流れで撮影を行うか考えることです。そして商品撮影のセオリーとして大きなものから進行するということがあります。つまり1本のギターを撮るとするなら、ギター全体が写る「 引きのカット 」から進めて、次第にアップのカットに移って行くといいでしょう。
ただしズームレンズの利点を活かすとするならば、寄り引きがあっても同じセットで撮れそうなものから進めるということもアリです。

今回は僕が知人に借りてきたギターを使って解説します。持ち主から、「 汚いからといって磨いたりしないように 」と、言われています。ですので経年変化などお伝えするにはちょうど良い被写体かと思われます。

1)まずは全体から

これが意外に難しいのですが、ここでは完成度の高い写真を目指すことはやめます。照明機材などをお持ちでない方がなるべく商品がわかりやすいように取れる方法を優先して考えていきます。
まずは、ギターを保定させることを考えなければなりませんが、ギター好きな方でしたらギタースタンドくらいはお持ちかと思います。無い方は慎重に壁に立てかけてもいいでしょう。僕はスタンドを持っていないので壁に立てかけることにしました。不安定なのでイージークリーナーという画材屋さんで売っている白い粘土状の消しゴム( 通称:練り消しゴム )を使って、滑っ
て楽器を倒さないようにしています。

Nikon D800 Lens : Nikkor 24-70mm(70mm)露出モード : A (±0)ISO800 1/15 sec.f : 8 WB はグレーチャートで設定

Nikon D800 Lens : Nikkor 24-70mm(70mm)露出モード : A (±0)ISO800 1/15 sec.f : 8 WB はグレーチャートで設定

ギターの裏側の下部

ギターの裏側の下部

イージークリーナー

イージークリーナー

さて、ここで「床や巾木が写るのが嫌だ。」、、と欲深な貴方。向上心が素晴らしいです。というわけで、背景にシーツを張ってみました。

でもちょっと待ってください。ここで肝心なのは「 良い写真を撮ること 」以上に「 伝わりやすい写真 」を撮ることだと思います。

Nikon D800 Lens : Nikkor 24-70mm(70mm)露出モード : A (±0)ISO8001/15 sec.f : 8 WB はグレーチャートで設定

Nikon D800 Lens : Nikkor 24-70mm(70mm)露出モード : A (±0)ISO8001/15 sec.f : 8 WB はグレーチャートで設定

このようにシーツを張って撮影することは、非常に労力が伴うと同時に、シーツを踏んで滑ってギターを倒してしまう恐れがあります。しかもこのシーツ、シワが気になるからアイロンをかけたくなりますよね。そんな労力をかけたいですか?(笑)
大切な被写体を傷つけないように、壊さないように撮影を進めることを優先させるべきです。ただし、貴方が定期的にギターを10 本、20 本と大量に撮影するならその労力をかけるべきです。( 例えば楽器屋さん )

では、ケースに入れた状態やむき出しの状態で床に寝せたギターを上から撮ってはどうか?それもあまりオススメしません。
上のギターの画像2点は70mmのレンズで撮影しました。実はギターが寄りかかった壁からカメラまで約3メートルも離れているのです。
「そんなに広いスペースがない。。」という方が大半だと思います。では、狭い空間で撮ることを想定してギターに近づいてみます。すると、、、

下から見上げたカット上

下から見上げたカット上

上から見下ろしたカット

上から見下ろしたカット

設定は共に「 Nikon D800 Lens : Nikkor 24~70mm(24mm)露出モード : A (±0)ISO 800 1/15 sec.f : 8 WB はグレーチャートで設定 」

いかがですか?
レンズが 24 mm になってギターまで70 cm の距離まで近づいた結果です。これでは歪みがひどくて正しい形がわかりません。
( スマホで撮ろうとする方がよく陥るのがこのケースなのですが、スマホカメラのデフォルトのままではワイドすぎて歪んでしまうのですね。)
実は、これはレンズの焦点距離のせいではなく、カメラと被写体の距離が重要なんです。物が歪まないようにするためには、離れた方がいいのです。つまり、ギターを床に置いて撮ろうとすると自分の身長までしか離れられません。
できれば椅子に乗って離れた方がいいです。でも、大切な被写体の真上からカメラを構えるって、とても危険なことです。僕たちプロでも俯瞰( 真下を見下ろすこと )は神経を使います。
ですのでできればギターを立てた状態で離れて撮る。離れられない場合はなるべく被写体の背の高さの中央あたりからの目線で撮ってあげるといいでしょう。

レンズ 24 mm 近く( 70センチメートル )から

レンズ 24 mm 近く( 70センチメートル )から

レンズ 70 mm 遠(3メートル)から

レンズ 70 mm 遠(3メートル)から

先ほどの3メートル離れた画像と並べて見ました。右の離れて撮った方がスッキリと歪まずに写っていることがお分かりいただけると思います。これはギターの高さの中央付近から撮っているので、歪みはまだマシで許容範囲と言えると思います。有名メーカーのスタンダードなタイプの楽器でしたら、歪んでいてもオリジナルのスタイルが想像つくかもしれません。
ですが、特殊なギターに関してはそのシェイプを、ある程度正確に伝える必要があります。このように「 離れた場所で撮るべき 」、、となると、光の具合を選ぶことは困難になります。部屋に置いてあるものが写り込んだり、窓の光が反射したり影響を及ぼすものは沢山あります。
でも、このカットではフォルムを正しく伝えるのだ。と明確な目的がはっきりして入れば、色や細かい傷などを伝えることは別のカットで捕捉すればいいのです。

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2)適正な露出にすること

写真をやっている者からすると当たり前の話なんですが、これができていない失敗例が本当に多い。それは適正露出に調整すること。機材がどうのという前に、撮った写真の明るさを見直すだけでほとんどの写真は見違えるようになります。

08_R

これは別のギターの背面にある傷をボリュームノブと一緒に見せることでその位置と傷の大きさを見せるためのカットです。窓から1メートルくらい離れたテーブルで撮りました。ギターの立体感も出ていると思います。

明るすぎ

明るすぎ

上の写真は明るすぎます。ボディの色がグレーになってしまって、正しい色が出ていません。どんなカメラもオートで撮ると、黒いものは明るく、白いものは暗く、しようと働きます。そこは撮り手が被写体の正しい色、濃度が出るように明るさを補正しなけらばならないのです。

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3)窓からの光とレフさえあれば大丈夫!

難しいことを要求されてしまうと、照明機材やスタンドなどの機材が必要になってしまいますが、ネットオークションというステージであれば、窓からの光と銀レフがあれば対処できると思います。カメラの三脚はあった方がいいでしょう。商品撮影( ブツ撮り )は被写体とカメラの位置関係が少し変わっただけで違う表情になりますから、カメラも被写体もしっかり保定できることが望ましいです。ここからは銀レフを使った例をご覧いただきます。

■金属パーツの傷を見せる

レフなし

レフなし

レフあり

レフあり

上の2枚、「 どちらが良い写真か?」を判断するのは難しいと思います。ですが、「 どちらが傷の様子が伝わるか?」とするなら、答えは明瞭ですね。下の画像の方が傷が目立ちます。窓からの光を受けるようにギターの上から銀レフを当てています。

■黒いギターはいろいろなものが映り込みやすい

レフなし

レフなし

上の写真、サウンドホールの上の方に何やらヒダのようなものが映り込んでいます。これ、実は天井の蛍光灯なんです。これもカメラの反射角側にレフを入れると、、、

レフあり

レフあり

はい、すっきりと仕上がりました。ただし、この時にレフが小さいと、下の写真のようにレフ板の境目が写ってしまいます。

レフが小さすぎる

レフが小さすぎる

一見、綺麗に光が入っているように見えますが、余計な線が入ってしまうことで正しい情報を伝えられません。レフを近づけばカバーするというものでもなく、レフ板に光が照射される空間が必要です。ですから、ギターのように大きなものを撮る時には直径1メートル程度の丸型かB1サイズ程度の大きなレフ板が欲しいところです。

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4)まとめ

さて、今回は「機材がない。」という条件が明確でしたので、お伝えし甲斐がありました。
ギター雑誌や広告にはいい写真がたくさん載っています。ですが、それは立派なスタジオを構えたプロが撮っているものですから、そこを目指すことはありません。
1枚の写真で色も形も質感も、全て表現しようとするのは無理です。(プロの方はそれを目指しましょう。笑)
紙媒体と異なり、WEB では写真点数が多くてもOKなケースが多いです。ですから1つのカットであれこれ伝えようとせず、伝えたい事柄の数だけカット数があっていいでしょう。そして、今回はズームレンズを使いました。マクロレンズなどは一切使用していません。これ以上近づけない、、という時にマクロレンズの出番になるわけですが、寄れなければ引いた写真をトリミングすることでも見せたい箇所を大きくクローズアップできます。(紙媒体の場合にはトリミングしすぎると画像が荒れて印刷に適さなくなります。)
今、新型コロナウィルスの影響で自宅から出られない状況ですが、こんな時こそ、じっくり室内でブツ撮りにチャレンジしてみるのもいいかもしれませんね。

いかがでしたか?
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