ベルボン新三脚・レビュー<後編>
ギヤ式エレベータ&新システムVロック
Pro Geo V640 三脚の選び方・使い方・マナー
Photo & Text:薮田織也
TOPIX
革新的で使いやすい三脚関連製品を提供するベルボン社のプロ用三脚「 Pro Geo V640」。重量のあるカメラを乗せたまま楽々稼働できるギヤ式エレベータと、脚の伸縮に新しい使い勝手の「 Vロック 」システムを採用した最新カーボン&マグネシウム製三脚のレビュー記事2回目は、前回と少し変わって「 三脚の選び方・使い方・そしてマナー 」をお届けします。三脚の選択と使い方といった全般の話題の中で、Pro Geo V640 がどう優れているのか、本誌写真家・薮田織也がご紹介します。 by 編集部 |
Index
■ はじめに
ベルボン製プロフェッショナル向け三脚 Pro Geo V640 の2回目のレビューではあるが、少し考えるところがあって「 三脚の選び方・使い方・そしてマナー 」をお届けしたいと思う。考えるところとは、デジタルカメラが普及して、三脚を使うユーザーも増えたのは喜ばしいことなのだけれど、同時に撮影マナーの悪さが目立つようにもなってきたことだ。撮影マナーにおいて三脚が原因になることが多いのもあり、これは一度きちんと三脚の使い方とマナーを記事にしたいと考え、ついでに三脚の用途に合わせた選び方も載せちゃえ!……と考えた次第。本文は三脚全体の記事になっているが、写真およびキャプションは V640 に特化した形で書いているので、本文と合せてキャプションを読んでもらえれば、通常の V640 レビュー記事ではわかりにくいことも理解できると思う。それでは本題に入ろう。
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■ 高画質時代だからこその三脚
カメラ関連の機材は数あれど、誰もが知りながらも手に入れるのは後回しになってしまいがちなのが「 三脚 」ではないだろうか。夜景やブツ撮りを楽しむ人でさえも、レンズや照明機材よりも三脚をおざなりにしがちだ。三脚が画の仕上がりに直接的に関与していると思われにくい機材だけに、購入予算の余剰があれば買おうと考える気持ちもわからなくはない。だがしかし、高画素化が著しい今のデジタルカメラでの撮影では、用途に合った高品質な三脚の利用が望まれるのだ。その理由とは……。
5,000 万画素を越える受光センサーを使ったデジタルカメラが登場している現在、手持ちで撮影した画像が手ブレしている可能性がとても高まっている。従来の低画素センサーでは当たり前にピントが合っている( と思えた )はずのシーンでも、高画素センサーで撮った画をコンピュータ画面で等倍表示するとわずかに手ブレしていることがある。それもあってか、最近ではカメラ本体やレンズに手ブレ補正機能を搭載する製品が当たり前になりつつある。しかし手ブレ補正機能は画質のわずかな劣化を招くことがあるので、画質優先派は手ブレ補正機能をオフにして撮影することが多い。結果、以前なら手持ちで楽々撮影していた現場でも「 三脚 」を使って撮影する人が増えてきているのだ。
薮田の専門は人物撮影だが、その撮影においても「 三脚 」を頻繁に使う。人物撮影で三脚? と訝しがる向きもあるだろうが、同じ場所( スタジオなど )で何カットも衣装を換えて撮るとき、または同じライティングで何人もの宣材写真を撮るときなど、画角を固定するためにも三脚は必須の機材だ。また、カメラ用ではなく、クリップオン・ストロボやレフ板などのアクセサリを装着するためにも三脚をよく使う。メインのストロボはライトスタンドを使うが、キャッチライトなど、後からアクセントライトを足したいときのために、小さめの三脚を撮影用の車に放り込んでいる。写真4でも、カメラ用に Pro Geo V640、床に転がしたキャッチライト用クリップオン・ストロボのために ULTRA 553mini という小型三脚を使っている。後述するが、本格的に撮影を楽しんでいくためには、実は三脚は1本だけではとても足りない。薮田は撮影に行くときは3本のライトスタンドの他に、メインの三脚と予備の三脚を大小合せて4本ほど持って行く。さすがにトップライト用の大型ブームスタンドは仕事場に置き去りではあるが……。
■ 用途に合わせて三脚と雲台を選ぼう
三脚は廉価なものを除いて、「 脚部 」と機材を載せる「 雲台 」と呼ばれるパーツを個別に選べる。ただ、「 脚部 」や「 雲台 」だけで販売されている製品は少なく、多くが「 雲台 」と一緒に購入することになる。それでも「 脚部 」と「 雲台 」が取り外せることで使い勝手は大きく変わるはずだ。このことを踏まえて、三脚は以下のことに留意して選ぶと良いだろう。
● 搭載する機材の重量は?
● ロケーションはどこか
● 被写体は何か
● 撮影スタイルは?
では上記の項目をひとつひとつ紹介していこう。
もっとも基本なのが、三脚に搭載する機材の重量だ。「 脚部 」と「 雲台 」のカタログには、必ず「 搭載可能重量 」( 表記方法はメーカーで異なる )が記載されているはずだが、この重量を超える機材を搭載すると撮影中に三脚が倒れるなどの事故につながるので要注意だ。また、脚部だけのカタログにある「 搭載可能重量 」は「 雲台 」の重さを除いてあるので、脚部と雲台を別々に購入するときはその点も考慮しよう。
……と、厳格に書いたが、実はこの「 搭載可能重量 」の表記には、厳密な規格があるわけではない。メーカーによっては、同じ素材で同じような大きさ、形で三脚が作られていても「 搭載可能重量 」の表記は同じにならない。メーカーによっては実際の限度ギリギリで表記している場合もあるかもしれないのだ。つまり「 搭載可能重量 」の数値をメーカー間の比較に使うことはできないと言える。「 搭載可能重量 」は、あくまでも同じメーカーの三脚で製品を選ぶときの目安にするものだ。実は薮田が Pro Geo V640 を使うときは、脚部の「 搭載可能重量 」を越えていることが頻繁にある(笑)。もちろんその場合は自己責任の範疇で使っているわけだが、これまで問題はなかったので、ベルボンのカタログ表記はかなり控えめだということが言える。
次に、撮影するロケーションを意識して、脚部と雲台そのものの重さを確認しておこう。搭載重量が大きく堅牢な三脚を選べば、当然だが三脚そのものが重くなる。野鳥や高山植物などの撮影をするために登山する場合など、三脚の重さや脚部を収納したときの大きさが負担になることも考えられる。最近のベルボン社製の脚部は軽くて丈夫なカーボンファイバー+マグネシウムで作られていることが多いが、フルサイズ一眼レフカメラと超望遠レンズを搭載できる脚部と雲台( 約4kg )だと三脚そのものが 2kg を超える場合があるし、搭載重量が 10kg になれば、三脚は 5kg を超えることもあるのだ。( 2016 年現在 ) 撮影のロケーションと、そこへ行くまでの道程と自身の体力。そして、どこまで本格的に撮影したいのかのバランスを考えよう。
みっつめがどんな被写体を撮るのかだ。野鳥などの素早く動く被写体か、花や昆虫などの小さな被写体か、遠景の風景なのか。被写体によっては脚部と雲台の機能性と操作性を考慮する必要がある。確実にカメラを固定して、撮影時にカメラの向きや角度の調整が必要ないのか、被写体が予測できない動きをするのでカメラの向きや角度を自由に調節できる方がいいのか、それによって脚部も雲台も選んだ方が良い。
以上のことを考えた上で、最後が撮影者自身の撮影スタイルに合うかどうかでバランスをとろう。薮田がカメラ関連機材を選ぶときにもっとも大切にしていることは「 バランス 」だ。ロケーション撮影の場合に限っては「 機材は大は小を兼ねない 」と考えているため、カメラ、レンズ、照明機材、アクセサリ、そして三脚と、撮影目的のためにすべての機材のバランスを第一に考える。撮影した画の最終出力サイズが Web 用だとすればフルサイズ一眼レフに拘らないし、レンズも最小限のものしか持っていかない。そして三脚にいたっては前述した重量バランスと収納サイズを優先する。逆にスタジオ撮影であれば重くて嵩張っても最大スペックの機材を用意するようにしている。
こうしたことから、三脚関連機材は何種類かの「 脚部 」と「 雲台 」を薮田は準備してある。カメラを購入するときなどにおまけでもらった小さくて軽い三脚もちゃんと撮影で使う。おまけの三脚でも、クリップオン・ストロボやレフ板などを搭載するときに役立つからだ。最近のお気に入りの「 脚部 」と「 雲台 」は、ベルボン製のギヤ式エレベータ脚部の「 Pro Geo V640 」とリボルビング式雲台の「 PHD-66Q 」だ。山や川などで撮影するときは、これに自由雲台の「 QHD-G6Q 」を予備で持って行く。また「 Pro Geo V640 」はギヤ式エレベータのため、最低高が 333mm に限定されてるので、もっと低く構えたいときのために最低高が 200mm を下回る「 ULTRA mini シリーズ 」も車に常時乗せている。仕事の撮影ではなく、ドライブついでに遊歩道を散策するときなどは、コンパクトに折りたたんで収納できる「 Ultrek UT-63 」をカメラバッグに忍ばせておく。「 機材は大は小を兼ねない 」と前述したが、三脚には特にこれが当てはまるのだ。それでも撮影現場で何が必要になるかわからないという場合は、トータルバランスで「 Pro Geo V640 」と「 PHD-66Q 」を持って行くようにしている。
■ 三脚の正しい使い方
夜景撮影のセミナーに来られる受講者の方を観察していると、意外にも三脚を正しく使っている人はそう多くない。「 え? 三脚の使い方に正しいも間違いもあるの?」と驚く方もいるので、ここでは初心に戻って三脚の正しい使い方を紹介しておこう。
三脚の収納式脚部は、先端に行くほど脚が細くなる。太い脚に比べて細い脚の耐荷重が弱いのは当たり前なので、脚部を全段引き出さずに使うときは、基本的に太い脚を使うようにする。これ、わかっていても面倒なのか、NG の使い方をする人が意外に多い。
次に脚部の向き。あくまでも基本だが、エレベータ部の上下レバーや止めネジが右側にくるようにして、脚を1本だけ前に出す。残り2本は撮影者側になる。撮影者が左利きの場合は上下レバーや止めネジを左に持ってきても構わないが、前に出す脚は基本は1本だ。その理由は大きく開いた後ろ2本の脚の間に撮影者が楽に立てるからだ。これは三脚を使った長時間の撮影を経験したことがあればわかるだろう。ただし、三脚を設置する場所によっては脚を前に2本出した方が安定することもあるので、この方法はあくまでも基本だと覚えておこう。
みっつめがエレベーター部の使いかた。脚部を全段引き出していないときは基本的にエレベーターは使わない方が良い。おおよその見当を付けて撮影の高さに脚部を伸ばし、最終的に高さを微調整するときにエレベーターを使うようにしよう。理由は、脚部を大きく開いた方が安定するからだ。しかし、撮影中に高さを頻繁に変更する必要があったり、設置場所を少しでも変えたくないときなどはエレベータが便利だ。それでも三脚はカメラを安定させることがもっとも大切なので、基本だけは覚えておこう。
最後が斜面や段差がある場所で三脚を使うときの方法だ。三脚はカメラを安定させて撮影できるようにするのが大きな役目なので、3本の脚にかかる荷重を均等にして設置するのが基本だ。3本の脚をすべて同じ長さにしたまま斜面や段差がある場所に設置すると極めて不安定になってしまう。こうした場所では、雲台部が水平になるように脚を個別に長さ調整しよう。このとき、設置場所が急な斜面や段差であれば、写真13 の左側のように2本の脚を下側にして、より安定させるようにしよう。雲台部を水平する方法は、次を参照してもらいたい。
廉価なものを除いた多くの三脚には「 水準器 」という雲台の水平をとる機能が搭載されている。「 水準器 」は雲台に搭載した撮影機器の水平をとるのが本来の目的だが、前述した斜面や段差に三脚を設置するときに使うと良い。雲台部をまっすぐにした状態で斜面や段差に設置し、水準器を確認しながら雲台部が水平になるように脚を調節する。これらの行程をカメラを載せる前にすれば、万が一の三脚転倒事故からカメラを守ることができる。
■ 三脚を使うときのマナー
最近、撮影のマナー違反が目に余るとメディアで取り沙汰されている。悲しいことだが、これはアマチュアに限らずプロの写真家にもあることだ。中には針小棒大だと思われる記事もあるが、いずれにせよマナー違反がこれ以上に増えれば、撮影禁止の場所が増えることになる。それは写真愛好家にとって望ましくないことだ。今後はより一層、細心の注意を払って撮影する必要があるだろう。注意を払うとは、その場にいる( またはいない場合でも )撮影していない人の立場になって考えればいいのだ。撮影者という存在は、スタジオ以外の場所では「 異端者 」だということを忘れてはならない。もちろん、撮影者同士の間でも人としてのマナーも忘れてはならない。
撮影のマナーにおいてもっともやり玉に挙げられるのが「 三脚 」だろう。それは比較的に場所をとるからに他ならない。人であふれかえる場所で三脚を開いて他の通行人の邪魔をするばかりか、三脚に通行人の脚が当たって撮影を邪魔されたと怒りトラブルになるケースもある。同じ撮影者として気持ちはわかるが、どんな場合でも撮影者はやはり「 異端者 」なのだということを忘れてはならない。そうしたトラブルが増えた結果、観光地などで「 三脚禁止 」の立て札がさらに目立つようになった。撮影する立場からすれば悲しいことだが、これは我々撮影者の方に責任がある。これからも身を律して他の観光客の気持ちを優先し、写真に携わるものすべてで撮影者の品位を向上させていく他はない。そこで、代表的な三脚利用時のマナーを紹介しておこう。
三脚の脚の先端には「 石突( いしつき )」と呼ばれる部分があり、ゴムでできている石突とスパイクになっている石突がある。ゴム石突とスパイク石突にはそれぞれ特徴があり、三脚を設置する面によって交換する必要がある。未舗装の不安定な場所ではスパイク石突を使うと三脚がより安定するが、屋内や舗装路などで床面を傷つけたくないときはゴム石突を使うと良い。ゴム石突はオールマイティなので、初めて三脚を購入する人や、急峻な岩場などで三脚を使う頻度が少ない人ならばゴム石突を選んでおけばいいだろう。Pro Geo V640 などの高価格帯ベルボン製三脚ならば石突が交換できる。三脚を使う上でのマナーとしてはゴム石突を優先する方が良いだろう。ただし、畳など床面が柔らかくて脚の跡がつきやすい場所では、石突部に切り込みを入れたテニスボールなどを履かせて床への接地面積を増やし、床を保護するように心がけたい。
観光地で三脚利用禁止の原因になるのが、狭い道で三脚を使い他の観光客の歩行を邪魔する行為だ。日中に三脚を使う撮影と言えば、ND フィルターを使った長秒露光や、花や昆虫のマクロ撮影など、撮影時間そのものが長かったり、ベストショットのための待機時間が長い場合が考えられる。そんな撮影を狭い遊歩道などでされれば、他の観光客の迷惑になることは避けられない。仕方ないが観光客の少ない時期や時間帯を狙うしかない。それでも他の通行人がいたら、すぐさま撮影を中止するようにしよう。他人の邪魔にならないためだといって、立ち入り禁止の柵を越えての撮影は絶対にやめよう。万が一事故が起これば、三脚禁止どころか撮影禁止にされてしまうこともあるからだ。自分の身が守れない撮影者は他の撮影者にとって迷惑な存在なのだ。
花や昆虫マクロ撮影では、花畑や花壇の周辺で三脚を使った撮影をすることも多いだろう。その場合は、畑や花壇の中に自分の脚はもちろんのこと、三脚の脚も入れてはいけない。花を踏みつけてはいないから OK ということは決してない。撮影者には踏んでいる土の下に何があるかわからないわけだし、踏みつけたことで土が硬くなり、植物が元気に育たない原因を作ることにもなる。花畑なら柵の外側で、花壇なら囲みの石の上までと考えよう。
観光地などでよく見かけるのが、写真20 のように三脚の脚を全段伸ばしたまま担いで移動する撮影者だ。これはとても危険な行為だということを忘れないでもらいたい。コメディでよくある長い棒を担いだ役者が振り向きざまに他の役者を倒してしまうあれがリアルで起きるのだ。三脚の脚はかなり丈夫にできているので、他人に当たれば大きな怪我をさせてしまうことになる。撮影禁止場所が増えたり三脚禁止場所が増える一番の原因は、第三者を事故に巻き込んでしまうことだ。こうしたことが起きないようにみんなで細心の注意を払おう。
■ まとめ・オールラウンダーな Pro Geo V640
本文では三脚全体としての選び方・使い方・マナーを紹介した。その内容を踏まえた上で、各写真のキャプションを読んでもらえれば、Pro Geo V640 が最初の1本にふさわしく、そして長く使える1本でもあることがわかっていただけると思う。それだけ Pro Geo V640 はオールラウンドに使える三脚だということだ。全高 1440mm( エレベーター有り )もありながら 485mm という持ち運びに不便を感じない縮長を実現できているのも4段の収納式だからだ。もう少し全高が欲しい向きには、縮長は 600mm になるが3段収納式の V630( 1590mm エレベータ有り )がある。
この先も、魅力的な写真を「 確実に楽しく 」撮っていけるように、自分に合った三脚を選び、マナーを守りながら正しく使い続けていただきたい。
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■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
薮田織也事務所
■ 協力 ■
フォトグラファー・久恵有里子
モデル・白波瀬ミキ