薮田織也のアクセサリレビュー
カメラ機材も収納できる 山岳用 40L バックパック ハクバ GW-ADVANCE ALPINE 40
Photo & Text:薮田織也 写真撮影協力:Taku Nakajima
TOPIX
今年の CP+ 2016 で、カメラバッグのリーディングメーカーであるハクバ写真産業から発表された登山撮影用 40L リュック 、GW-ADVANCE ALPINE 40 が発売になりました。同社がこれまでに発売したカメラ用バックパックとの違いはどこにあるのか。昨年本格派のカメラ用バックパック、ハクバ GW-PRO バックパック M G2 (こちらを参照) をレビューした登山ド素人の写真家・薮田織也が、実際に ALPINE 40 を背負って山に登り、撮影をしながらのレポートをお届けします。 by 編集部 |
■ 山登りに最適なカメラバッグって?
数年前から光景写真撮影と称して山や谷に入って撮影するようになった薮田は、本格的に山登りできるようにとトレッキングシューズやストック、その他の登山グッズを少しずつ買い集めていた。だが実際のところ本格的登山など ── たとえば 3000 メートル級の山とか ── 根性無しの薮田ができるわけもなく、ひたすら近場の 1000 メートルにも満たない山で、可能な限り車で登って日帰り撮影していた。そんな風なので、カメラ用バッグは一年前にレビューした ハクバ GW-PRO バックパック M G2 で十分に事足りていた。だが、ネイチャーフォトには極限られた時間帯でのみ出会える光景があり、その時間帯を待つためには山中に一泊するくらいの覚悟がないと狙った画など撮れないものだ。そうなるとカメラ以外の用品も詰められるバックパックがどうしても必要になる。たとえば、雨具、着替え、水筒、ライト、お弁当などなど、ややもするとカメラ用品よりも収納スペースが必要になる用品がそれこそ「 山 」ほどにある。
薮田は現在、陣馬山の麓に居を構えていて、ときどき陣馬山のすぐ脇にある和田峠まで車で登って撮影を楽しんでいる。だが車で移動できる範囲は限られてしまうので、より素敵なロケーションを探すには登山道に徒歩で入って行くしかないと考え、過去に一度だけ、ロケハンのつもりでカメラ一台を首からぶら下げ和田峠から陣馬高原山頂( 標高差約 200m )に登ったことがある。そのときはさすがに陣馬山をなめていた。いや、なめきっていた(笑) たとえ標高 900m 程度とはいえ、れっきとした山。なめてかかると思わぬ事故につながるのだ。当時は幸い無事に下山できたが、次にのぞむときはちゃんとした装備で行こうと決めていた。
そんな薮田にスタグラ編集部からカメラバッグで有名なハクバ写真産業の山岳用カメラバックパック、GW-ADVANCE ALPINE 40 のレビューをしないかとのオファーがあった。渡りに船とはこういうことなのかもしれない。近い将来に向けて、山岳用バックパックや登山に関する基礎知識を身に付ける絶好のチャンスだと、喜んでレビューを引き受けさせてもらった。まずは「 陣馬山 」への再登山で練習だ!
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■ カメラを安全に収納できる山岳用バックパック
詳しいレビューをする前に、まず念頭においてもらいたいことがある。それは、GW-ADVANCE ALPINE 40( 以下 ALPINE 40 )をカメラ用バックパックだとは思わないことだ。誤解を恐れず言い切れば、「 ALPINE 40 は、本格派の山岳用バックパックにカメラを安心して収納・取り出しできるようにした製品 」なのだ。その理由は後々説明する。では ALPINE 40 の外観から紹介していこう。
ALPINE 40 の全収容量は 40 リッター。内部は取り外しできる仕切りで上中下の3つの気室に分かれている。カメラやレンズは中央気室に収納することを想定していて、ここには取り外しできるカメラ機材用のインナーボックスが納められている。
本来 40L の容量があれば山小屋一泊以上の荷物が収納できるが、24-70mm 程度のズームレンズを装着したフルサイズ一眼レフカメラ1台と、交換レンズ1本、その他の比較的小さな機材を中央気室に収納できるように設計されているので、カメラ機材以外の荷物は上下部の気室に収納する。この上下気室には小屋一泊程度の荷物なら十分に収納できる空間が確保されている。
ALPINE 40 の全体はパラシュート生地構造の 210D ハニカムリップストップナイロンで構成されている。この生地は軽いけれど引き裂きに強いのが特徴だ。また日本人の背中にフィットすることを考慮して設計された曲面構造のアルミニウムフレーム内蔵背面パネルを骨格としているため、頑健な作りでいて背負いやすいのが特長でもある。
カメラ機材を中央気室に配置したのは、全体の重量バランスと機材の取り出しやすさを考慮したためだ。一般的な登山用の荷物の中でみればカメラ機材が最も重いはずだ。本来なら重いモノはバックパック上部に収納する方が体への負担にならないが、上部気室にカメラを収納すると、カメラを取り出すためにバックパックを都度地面に下ろさなければならない。そして、カメラ機材を出し入れするたびにバックパックの重心が大きく変化してしまうというデメリットがある。楽に登山+素早く撮影という両面から考えて、ALPINE 40 は、カメラ機材を中央寄りに収納し、バックパックを地面に下ろさずに機材を取り出せる、サイドアクセス設計にしているわけだ。
バックパックサイドに用意された開閉蓋を開けると、カメラ機材を保護する取り外し可能な肉厚のインナーボックスが納められている。24-70mm 程度のズームレンズを装着したフルサイズ一眼レフカメラ1台と、交換レンズ1本、その他の比較的小さな機材を収納できるように設計されているが、欲を言えば後もう1本、300mm 程度のズームレンズと外部ストロボを1本入れたいと感じるかもしれない。そういうときは別売りの便利グッズを使うことを推奨する。そのグッズは、筆者のチョーお気に入り製品なので、後ほどきちんと紹介しよう。
■ バックパックとしての細かな配慮
ALPINE 40 の背当面およびハーネスとショルダーパッドは、身体に当たる部分がすべてメッシュ構造になっている。これだけでも汗を蒸発させて逃がせるようになっているが、背当面の中心部を中空の二重構造にすることでクーリング効果を上げている。バックパックを背負って歩く度に、二重構造の背当面が背中と当たって振動する力を利用し、中に溜まった空気を強制的に外に逃がすという優れたアイディアが採用されているのだ。こうした構造により、バックパック背面部の背中への接触面積を極力少なくできるため、蒸れないだけでなく登山の疲労も軽減する効果につながっているのではないかと考えられる。ハクバ GW-PRO バックパック G2 シリーズも背当面はメッシュ構造になっているが、ALPINE 40 のそれはさらに進んだものだ。
ウエスト部のハーネスやショルダーパッドも、日本人の骨格に合わせて設計されているため、肩や腰に違和感なくフィットする。
ハクバ GW-PRO バックパック G2 シリーズのハーネスもしっかりとしたものだが、ALPINE 40 ではさらに幅広で中空構造になっている。また、両サイドに引き出し式のポケットがある。これは登山に欠かせないドリンクボトルを収納するためのポケットで、大画面のスマートフォンも収納できる。使っているシーンは後ほど。
本格的な撮影でカメラ機材はフル装備で別のバッグに入れて登山しなければならないこともあるだろう。また、本サイトの読者にはいないと思うが、「 カメラなんかいらない、40L 全部を登山用品で使い切りたい!」という人も。そういうときは、ALPINE 40 の内部の気室を仕切っているファスナーを外せば、3気室から2気室、またはフルに1気室に仕切り直せるのだ。ちなみに、ALPINE 40 で使われているファスナーはすべて品質と性能に定評のある YKK 社製だ。
■ 付属品とあると大変便利なオプション品
ALPINE 40 には以下のような付属品がある。いずれも無駄なモノはひとつもない。よく考えられた付属品ばかりだ。
アクセサリポーチは、インナーボックスの間口と同サイズなので、サイド部の開閉蓋の裏にすっぽりと収まるようにできている。カメラを出し入れする開閉蓋とは反対サイドに納めれば使いよいだろう。アクセサリポーチの中にはクリップオン・ストロボが2台入る程度の容量がある。インナーボックスには入れられない用品を入れるとよいだろう。カメラ用品以外で使うなら、上部または下部気室に収納するのもよい。
付属品の中で薮田がもっとも気にいっているのがこの雲台保護カバー。ALPINE 40 は、本体の前面に三脚をくくりつけられる。従来のハクバ製バックパックにも三脚固定ベルトが装備されている製品はあるのだが、三脚を装着したバックパックを背負ったときに、むき出しの雲台部分が他者に対して危険だと感じていた。それを解決するのがこの雲台保護カバーだ。保護カバーを雲台部分に被せ、ALPINE 40 とフックで固定できるので、三脚を装着したときの安定度も増す。
ALPINE 40 には耐水圧 1500mm のレインカバーが付属する。色は派手なオレンジ。これは雨天の薄暗い山中で他者から目立つようにするために他ならない。その点で ALPINE 40 の本体色を観ると、選べるのはブラックとダークグレー( レビューではダークグレーを試用 )と、2種類とも渋めの色だが、素材生地のハニカムリップストップナイロンは光の反射率も高い。また、ストラップ部分にはオレンジ( ダークグレー )とブルー( ブラック )の目立つ色が使われている。
本セクションの最後は別売のオプション品、「 GW-ADVANCE カメラホルスターライト 」を紹介しておこう。これがなんなのか、そして具体的な使いかたは次のセクションに譲るが、撮影登山を十二分に楽しみたいのであれば、このカメラホルスターは必需品だ。今回のレビューで使っているが、山への往復で大変役に立った。実は、このカメラホルスターがあったおかげで、標準ズームレンズを装着したフルサイズ一眼レフを ALPINE 40 に一度も収納することなく山頂まで往復できたのだ。その分、ALPINE 40 には他のレンズや機材を余計に収納できることになった。
■ ALPINE 40 を背負って撮影登山してみた!
ここからは実際に ALPINE 40 を使った登山レポートをお届けしよう。
撮影日前夜までの雨が止み、当日朝は曇り空。午後には晴れ間が期待できるという天気予報をあてにして、撮影スタッフは陣馬山の脇にある和田峠へと車を進める。本来であれば陣馬高原下のバス停から歩を進めるのが「 陣馬の The 登山 」なのだろうが、薮田は登山初心者だし、なにより日頃からの運動不足が心配(笑)だったので、かなりズルをして和田峠の駐車場から登山を始めることにした。スタッフには、撮影協力で若手(?)写真家の Taku Nakajima くんと、薮田織也事務所から藤井代表。そして、アドバイザーとしてハクバ写真産業さんから、登山経験も豊富な K 氏にお越しいただいた。
■ 正しいバックパックの背負い方
まずは ALPINE 40 の性能を活かせる背負い方を紹介しよう。どんなに高性能なバックパックでも、正しく背負わないとその能力を活かしきれないのだ。
バックパックを背負うときは、バックパックの背当面を背中に適度に密着させることが大切だ。そして最も大切なのが、バックパックの重心をなるべく高い位置にすること。だらしなく背負うのがダメなのはもちろん、重心が低いまま背負っていると、体にかかる負担が大きくなるので要注意だ。
余談だが、薮田は写真 22 のショルダーハーネスを結ぶチェストストラップを強く締めすぎてしまった。アドバイザー K さん曰く、このチェストストラップを強く締めすぎると上半身の動きを拘束してしまい、疲れが溜まりやすくなるのだそうだ。チェストストラップはショルダーハーネスが肩から外れないようにするだけのものなので、強く締めないこと。
写真9で紹介したヒップハーネスにある引き出し式ポケットは予想以上に大きく、550ml のペットボトルが楽に収納できる。開口部にはペットボトル固定用のゴムが装備されているので、これを使えばボトルの落下が防げる。引き出し式ポケットは左右両方のヒップハーネスに装備されているので、ペットボトルと5インチクラスの大型液晶を搭載したスマートフォンも収納できる。
最近のハクバ製バックパックには、「 くびの負担がゼロフック 」というユニークな名前の機能がある。両方のショルダーハーネスの付け根にあるフックがそれだ。バックパックを背負ってから、このフックにカメラのネックストラップをかけると、首や肩へのカメラの重さによる負担をまったく感じずにカメラをぶら下げておけるのだ。この「 くびの負担がゼロフック 」を使ったことがない人は鼻で笑うかも知れない。筆者もハクバ GW-PRO バックパック M G2 のレビューをする以前には、その効果をまったく期待していなかった。だが実際に使ってみると驚くほどに効果があるのだ。名前のとおり、首や肩がまったく疲れないのだ。
くびの負担がゼロフックがあろうがなかろうが、登山中にネックストラップを使うのを嫌がる人は少なからずいることだろう。体の揺れに合せてカメラも揺れて、岩や木でレンズを傷つけたりしたくないからだ。筆者もその一人だ。そんなときに写真 15 で紹介した GW-ADVANCE カメラホルスターライトを使ってみよう。使い方は写真 25 の通り。ホルダー部は大きさを簡単に調節でき、バックルをつまめばリング部を開放することもできる。装着時に体が揺れても、カメラはしっかりとホールドされたままだ。くびの負担がゼロフックと併せて使うのがオススメだ。
前述したが、くびの負担がゼロフックと GW-ADVANCE カメラホルスターライトが予想以上に便利で使いやすかったので、今回の撮影で薮田は標準ズームレンズを装着したカメラをネックストラップで首にかけたまま登下山した。そうなると、ALPINE 40 の中央気室はカメラ本体とズームレンズ1本の空間が空いたままになるので、そこに他のレンズや撮影機材を収納できることになる。ALPINE 40 にもっと機材を収納したいという人は、こうした使い方があることを覚えておいて欲しい。
■ それでは撮影登山にいざ出発
撮影日の前夜まで降り続いた雨のために、霧が深く立ちこめていた和田峠。陣馬山頂上への行程は、できれば晴れた状態でスタートさせたかったのだが、一向に霧が晴れる様子がないので、仕方なく午前 11 時半に登山をスタートさせることになった。
和田峠から陣馬山頂へのルートは2つある。ひとつは段差のない緩やかな回り道ルート。以前登ったときは、この緩やかなルートを使った。もうひとつは近道だが段差の続く急峻なルート。今回は新しい景色を期待して急峻なルートを使った。アドバイザーの K さんから「 ゆっくり小さな歩幅で歩け 」と何度も言われていたのに、むかーし陸上選手だった頃のクセでどうしても大股で登ってしまい、はや 15 分ほどで既に青息吐息……。予想以上に厳しいじゃないか陣馬山! ALPINE 40 のレビュー記事を書くために登っていたはずなのに、頭の中はそれどころじゃない。あーもう帰りてー……と音を上げそうになった次の瞬間……突然頭上から降りてくる無数の天使の梯子。
いやぁ、登山っていいですねぇ。登ってみるもんですねぇ。こんな瞬間に出会えるなら雨が降ろうが槍が降ろうが何度でも登ってやるってなもんですよ。気付けば息が上がっていたのも嘘みたいにシャッターを切り続けていましたよ。現金なもんです。
ALPINE 40 は、写真 28 のような姿勢での撮影でも、 バックパックを背負っている煩わしさを感じさせなかった。もしかしてこれはとても凄いことじゃないだろうか。シャッターチャンスを見つけたとき、すぐにカメラを構えることができる GW-ADVANCE カメラホルスターライトの便利さも実感できた。
この時点で汗をかいてはいたが、背中に汗が集中していないことにも驚いた。普通のバックパックなら背中が大洪水になっていたことだろう。これは写真8の中空メッシュ構造の恩恵のはずだ。
■ 総評
ハクバ GW-PRO バックパック M G2 のレビュー前がそうだったように、今回の GW-ADVANCE ALPINE 40 のレビュー前にも少し不安があった。どれだけのネタを記事に盛り込めるのかという不安である。しかしどちらの製品レビューでも、それは見事に杞憂に終わってくれた。今回も書きたいことはもっとあったのだが、長くなりすぎるので泣く泣く削ったのだ。たとえば純粋な山岳用バックパックとしての使い勝手に関しては、薮田は登山素人なので説得力に欠けると思い割愛した。それでもカメラバッグであることと、山岳用バックパックであることのバランスの良さは写真家として高く評価したい。その理由は撮影と登山の両方を同時に存分に楽しめるバックパックだと思うからだ。従来のバックパックだと、山岳用バックパックとして優れていても、カメラ機材の取り出しが不便だったり、逆にカメラ機材専用のバックパックだと本格的な登山には少し不向きであったりと、どちらかに偏っていたはずだ。そのためせっかくの撮影機会を逃してしまうか、楽に登山ができないなどの不満を感じることになっただろう。GW-ADVANCE ALPINE 40 は、そうした不満をほどよく解消してくれる製品だ。登山と撮影の両方が趣味な人なら買っても絶対に損はしない。筆者もこの秋には夜間の山岳写真にチャレンジしてみようと考えているので、GW-ADVANCE ALPINE 40 をどうにか手に入れようと思っている。
■ GW-ADVANCE ALPINE 40 を amazon でチェック■ | |
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■ メーカーサイト ■ GW-ADVANCE ALPINE 40 |
■ メーカーサイト ■ GW-ADVANCE カメラホルスターライト |
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
薮田織也事務所
■ 製品協力 ■
ハクバ写真産業株式会社
■ 写真撮影協力 ■
Taku Nakajima