伊達淳一のレンズレビュー
Tokina AT-X 14-20 F2 PRO DX
TOPIX
スタグラに5年ぶりに登場いただいた伊達淳一氏。氏のレンズレビューは多くの方のレンズ購入時の指標とされています。今回、伊達氏にレビューいただくのは ” Tokina AT-X 14-20 F2 PRO DX ”。伊達氏独特の切り口で迫るレンズレビューをお楽しみください。 by 編集部 |
■ 撮影する被写体によって、カメラのフォーマットは使い分ける時代に
本文中の 実画像 の文字をクリックするとカメラで撮影した実際の画像が別ウインドウで表示されます。容量が大きいのでモバイル端末での表示に注意してください。
広角~超広角レンズは、バックフォーカス( 撮像素子面からレンズ最後端までの距離 )が短いほうがレンズ設計的に有利だ。そのため、一眼レフよりもミラーレスカメラのほうが、フランジバック( 撮像素子からマウント面までの距離 )が短く、バックフォーカスの短縮化の制約となるミラー機構もないので、同じ性能ならよりコンパクトに、同じ大きさならより高性能なレンズを作りやすい。ところが、APS-C 一眼レフは、フルサイズ一眼レフとフランジバックは同じなので、フルサイズよりもレンズの焦点距離を短くしなければならないのに、バックフォーカスはフルサイズと同じだけ確保する必要があり、それだけ性能のいい超広角ズームを設計するのは難易度が高くなる。
かつては、AF カバーエリアの広さと連写スピードの速さ、よりコンパクトなシステムで超望遠撮影ができる、という利点で APS-C 一眼レフを支持していたボクではあるが、ソニー α7 シリーズの登場で状況が変わってきた。フルサイズでも周辺までピントを合わせられるようになり、画質を重視した撮影はソニー α7 系、機動力を活かした撮影にはマイクロフォーサーズ機、そして、APS-C 一眼レフは超望遠レンズによる動体撮影、超高感度が求められる動体撮影にはフルサイズ一眼レフ、というように、撮影する被写体やシチュエーションによって、フォーマットやカメラタイプを明確に使い分けるようになってきた。正直、1種類のカメラですべてをカバーできるのが財力的にも体力的にも理想ではあるが、少なくとも現時点では、すべてのニーズを1種類のカメラでカバーするのは不可能なので、お金は掛かるが、それぞれの撮影シーンで高い満足度を得るには、機材を使い分けるのが一番だ。
とはいうものの、体力には限界がある。複数のマウントで、超広角から望遠、超望遠、マクロまですべての画角をカバーするレンズを持って歩くのは、ボクの体力では絶望的だ。なので、基本的には、撮影内容によって、使用するボディに合わせ、自ずと持って出かけるレンズも絞られてくる。
特に、APS-C 一眼レフを選択するのは、超望遠で野鳥やヒコーキを撮影したいときなので、持って出かけるレンズは大口径望遠レンズや超望遠ズームだけ、というケースも珍しくない。広角から中望遠で何か撮りたいものに出会ったら、その時はコンパクトカメラで撮影する、という割り切りだ。
ただ、ポケットに入るサイズのコンパクトカメラだと、超広角の画角まではカバーしていないことが多く、フォトジェニックな雲やキレイな夕景に出会ったときなど、もう少し広角で写せれば、と思うこともある。また、航空祭に行ったときも、ブルーインパルスがスモークで描く巨大なハート(キューピッド)や星(スター&クロス)、サクラなどを一画面に収めるには、それなりの超広角が必要となる。広角から中望遠の平凡な画角はコンパクトカメラでカバーできるが、超広角となるとキビシイものがある。
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Tokina AT-X 14-20 F2 PRO DX ■ メーカーサイト ■ AT-X 14-20 F2 PRO DX |
■ AT-X 14-20 F2 PRO DX を手にしたキッカケはニコン D500
前述したように、APS-C 一眼レフにとって超広角ズームはウィークポイントだ。最新のフルサイズ対応超広角ズームやミラーレスカメラの超広角ズームのほうが周辺まで安定した画質で撮れる。( 現在のボクにとって )APS-C 一眼レフは超望遠による動体撮影だけのワンポイントリリーフ的存在なので、手持ちの APS-C 一眼レフ用超広角ズームにはサッサと見切りをつけ、数年前に売り払ってしまった。
とりわけニコンの DX フォーマット( APS-C )モデルは、D300S を最後に高速連写モデルが発売されず、一応後継機として位置付けられていた D7000 シリーズも、MB-D12 を装着した D810 で DX クロップするよりもコマ速が遅いので、DX フォーマット機はすべて処分し、ニコン D810 を FX( フルサイズ )と DX( APS-C )兼用機として使っていた。そのため、自ずとレンズの更新も FX フォーマット対応レンズのみとなり、DX 専用レンズは AF-S DX NIKKOR 16-85mm f/3.5-5.6G ED VR と、トキナー AT-X 107 DX Fisheye 10-17mm F3.5-4.5 の2本を残すのみとなっていた。
ところがである。もはや出ないと思っていた D300Sの 真の後継機、D500 が発売されてしまったのだ(汗)。APS-C 高速連写一眼レフとしてはまさに夢のようなスペックで、その発売を楽しみにしていたのだが、D500 と組み合わせる望遠、超望遠レンズはしっかりあるのだが、標準ズームは D300 時代の 16-85mm ズームだし、超広角ズームはなんとフィッシュアイズームだ(笑)。さすがに、超望遠での動体撮影に特化したワンポイントリリーフ的存在といっても、せっかくいいカメラを買うのだから、望遠以外のレンズにもこだわりたいところだ。
といって、AF-S DX NIKKOR 16-80mm f/2.8-4E ED VR にリプレースしても、標準域にあまりこだわりのないボクにとって、投資に対して得るものはあまりなさそうだ。できれば、周辺画質のいい超広角ズームがあれば、とは思うものの、冒頭で述べたように、センサーサイズに対してムダにフランジバックが長い APS-C 一眼レフは、超広角ズームの設計には不利だ。
そんな堂々巡りをしていたとき、もしかしてこれはいけるかも!? と注目したのが、「 トキナー AT-X 14-20 F2 PRO DX 」だ。なにしろ、14-20mm F2 という他にはない孤高のスペックで、開放F値が F2 と明るいこともさることながら、ワイド端の画角は 14mm( 換算 21mm )と控えめで、ズーム倍率はわずか 1.5 倍弱という割り切った仕様。しかも、トキナーの製品紹介ページを見ても「 大口径ズームであっても、絞り開放から性能を発揮できる新設計を採用 」とあり、サンプル画像も、F2 開放で撮影されたカットばかり。確かに、絞り開放のキレの良さとボケ味はしっかり感じ取れるが、絞ったときの描写も見せて欲しいぞ! と思わずツッコミを入れたくなってしまうほどだ(笑)。そんなわけで、D500 と組み合わせる超広角、いや広角ズームとして、トキナー AT-X 14-20 F2 PRO DX を選ぶことにした。標準域はとりあえず 16-85mm ズームでカバーできるし、画質を重視する撮影はちょっと重いけどフルサイズの 24-70mm ズームを持ち出せばいいし……。20mm( 換算 30mm )から 24mm( 換算36mm )が焦点距離の空白域になってしまうが、ボクの場合そこまでしてシームレスに焦点距離をカバーする必要はないし、あくまで APS-C 一眼レフは超望遠撮影が主だ。AT-X 14-20 F2 PRO DX で狙うのは、ブルーインパルスがスモークで描く巨大なフィギュアや、フォトジェニックな雲や空の表情。残りの標準域はそれこそコンパクトカメラに任せてしまえ……というのは極論だろうか?
■ フルサイズはパンフォーカス撮影がむずかしい
というわけで、ニコン D500 の広角域をトキナー AT-X 14-20 F2 PRO DX に任せることにしたわけだが、実際に AT-X 14-20 F2 PRO DX を使ってみた感想は、これまで APS-C で見たこともないほど周辺画質が高く、周辺でボケが引っぱられたり流れたりするような描写も極めて少ないこと。また、夜景撮影においては、絞り開放では周辺の点光源がコマフレアで少しだけ羽根を広げるものの、F2.8 まで絞れば完全な点像とまではいかないが、実用上問題ないレベルまで収まってくれる。諸収差がよく抑えられているので、ピント位置を外れた部分でも周辺像の乱れが少なく、そのため、前後のボケ味もそれほどうるささを感じないのだろう。
ただ、ズーム倍率が 1.5 倍弱しかないので、とりあえず、適当なところでカメラを構え、ズームして構図を考える、といった撮り方には向いていない。21mm、24mm、28mm の3本の単焦点レンズを使っている感覚で、被写体と向き合い、最初の立ち位置を決め、最終的なフレーミングをズームで微調節する、という使い方をしないと、これだけしかズームできないのかよ、という不便さが気になってしまう。あくまでレンズはズームではなく、トリミングできる単焦点の広角レンズとして付き合うのが吉だ。
もうひとつ、AT-X 14-20 F2 PRO DX を使ってみて感じたのは、風景のパンフォーカス撮影がやりやすいという点。高画素のフルサイズ機でパンフォーカス撮影をしようとしても、例え、24mm の広角撮影であっても F11 程度ではとても手前から奥までピントが合わせることはできない( 厳密には、ピントが合っているように写すことができない )。F16 でも手前重視だと遠景は甘くなるし、F22 まで絞ると光の回折の影響がかなり大きくなり、解像だけでなくコントラストも低下するので、高画素本来の高精細描写は得られない。しかも、思いっきり絞り込むので、朝夕の光量が少ないシーンや、PL フィルターを併用していると、シャッタースピードもかなり遅くなってしまう。
その点、APS-C なら同じ画角でもレンズの焦点距離が短い分、同じF値でもボケにくい。しかも、D500 の画素数は 2,000 万画素と控えめなので、24mm 相当の画角でもうまくピント位置を調節すれば、F11 程度まで絞れば手前から奥までパンフォーカスで写すことができる。要は APS-C はボケない、D500 は画素数が少ないので微小なボケまでわからない、ということだが、撮影した写真をピクセル等倍鑑賞したときに、このちゃんとピントが合っているという気持ちよさは格別だ。もちろん、高画素のフルサイズ一眼レフで撮影した写真を 2,000 万画素まで縮小し、適切なシャープネス処理を施せば、同等以上のパンフォーカス感が得られるのかもしれないが、ピクセル等倍で見てピントが甘かったりレンズの収差が目に付いてしまうと、自己嫌悪に陥ったり機材に対する不満でモチベーションがダダ下がりになってしまう。一方、撮って出しでピクセル等倍鑑賞に耐えるキレキレの描写が得られると、自分の腕が上がったように感じるし、撮影の満足度は高くなる。仕事ならともかく、趣味の撮影なら、撮影結果に自己満足できるか否かは撮影に対する報酬として重要な要素。AT-X 14-20 F2 PRO DX は、そんな自己満足度が間違いなくアップするレンズだ。
■ レンズ性能チェック - 被写界深度・回折
これからこのレンズを購入したいと考えている人の参考になればと思い、ワイド端の 14mm、ズーム中域の 16mm、テレ端の 20mm の各焦点距離で、F2 開放から最小絞りの F22 まで1絞りずつ変えて撮影してみた。ピント位置は前から2列目中央のひまわり。絞り開放の画質( とりわけピント面の周辺画質 )や絞っていくにつれ、被写界深度がどの程度深くなり、どこから光の回折の影響で解像が低下しているかも見て欲しい。
※撮影地 山梨県北杜市明野サンフラワーフェス 浅尾新田会場
■ 焦点距離 14mm
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■ 焦点距離 16mm
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■ 焦点距離 20mm
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■ レンズ性能チェック - パンフォーカスの性能
パンフォーカス撮影で悩むのが、被写界深度の深さと光の回折による小絞りボケの影響。前景が近いほど遠景までピントを合わせるのがむずかしくなり、ピントを手前の被写体に合わせたのでは、とても遠景まではカバーしきれない。解像を重視して F9 ~ 11 程度では遠景まではピントが合わないので、奥までピントが合わないのを承知で手前重視でピントを合わせることになる。F13 まで絞ればピント位置を2列目にひまわりにしても大丈夫かと思ったが、ピクセル等倍鑑賞では微妙に甘さが残る結果となった。前景が近いと、APS-C でもパンフォーカス撮影はむずかしい。ましてや、フルサイズで同じシーンをパンフォーカス撮影しようとしても、フォーカスブラケットで合成しないと無理だ。そういう意味では、D500 と AT-X 14-20 F2 PRO DX の組み合わせは、比較的容易にパンフォーカス撮影ができるのが魅力だ。
■ 焦点距離 14mm
f/2.0 実画像
f/2.8 実画像
f/8.0 実画像
f/16 実画像
■ 焦点距離 16mm
f/9 実画像
f/11 実画像
f/16 実画像
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Tokina AT-X 14-20 F2 PRO DX ■ メーカーサイト ■ AT-X 14-20 F2 PRO DX |
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