ハウススタジオは封鎖された空間。そこに水着のモデルさんと対峙するのだから、緊張しないわけが無い。
私でも初めて撮影するモデルさんには緊張する。
そして、その緊張はモデルさんにも伝わっていると知っていて欲しい。
お互いに緊張した状態では、なかなかスムーズな撮影というわけにはいかないだろう。
そこで、ハウススタジオで撮影する時は、出来るだけシンプルなことをポイントにするといい。
そのポイントは「レンズワーク」と「光」の二つ。
私はこの二つの展開を考えながら撮影に挑むようにしている。
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Canon EOS-1Ds Mark3 +SIGMA 50mmF1.4 EX DG HSM
絞りF4.0 1/60秒 ISO100 WB:マニュアル RAW ストロボ使用 |
では、「レンズワーク」とは何か。
それは意図に合わせたレンズのチョイスをするということだ。
ご存知の通り、レンズの画角は、大きく分けて“広角”“標準”“望遠”とある。
ポートレートではとりわけ望遠よりも“中望遠”の出番が多いだろう。
それと画角ではないがマクロレンズを使うことが多い。
これらのレンズを、なぜその場面でチョイスしたのか、を考えながら撮影することだ。
それが慣れてくると、『こういう画が欲しかったから○○mm』となる。
前編の今回は、レンズワークについて、お話ししていきたい。
写りの違いをじっくりと見ていこう。分かっているつもりでも、本番になると必ず迷うもの。
ここでキチンとおさえておこう。
■広角レンズ
広角はハウススタジオの撮影では余分なものが入り込んでしまうので、十分に気をつけたい。
私が使用する場面は、背景の面白みを出したい時や、ダイナミックさを付けたい時などだ。
広角レンズには特有の歪みがある。それを十分に活かすことがカギだ。
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寄りの迫力を出すことを意識した。こちらに迫ってくる感が強調させるのが広角レンズでの撮影の効果だ。ただし、どちらもモデルを画角の隅に入れないこと。特に頭は絶対に避けること。歪んでしまい、せっかくのモデルが台無しになるからだ。
Canon EOS7D+Tokina AT-X165 PRO DX 16〜50mmF2.8(IF)
絞りF3.5 1/125秒 ISO200 WB:マニュアル RAW |
■標準レンズ
標準とよばれる画角…
ズームレンズで写真を始めた方には馴染みが無いかもしれないが、人の視角に近い50mmを以前は“標準レンズ”と呼んでおり、これよりも画角が広いレンズを広角、狭いレンズを望遠とした。
50mmは画がとても素直で大人しく、昔から扱いが難しいといわれている。
しかし、モデルとのリアルな距離感を出すことが出来るので、実は私の絶対的なエース的画角となっている。
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フレームに全身を収めながら、自然な距離感を50mmに求めた。ハウススタジオでの撮影では、全身カットには50mmが使いやすい。
Canon EOS-1Ds Mark3 +SIGMA 50mmF1.4 EX DG HSM
絞りF2.5 1/160秒 ISO200 WB:マニュアル RAW |
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見たままの空気をそのまま切り取るのが得意な50mm。なにも誇張せず、モデルの素材をそのまま作品に取込むことができる。
Canon EOS-1Ds Mark3 +SIGMA 50mmF1.4 EX DG HSM
絞りF2.0 1/400秒 ISO200 WB:マニュアル RAW |
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少しずつモデルとの距離を詰める。寄りのカットを撮る為には、50mmでは自分の足でモデルに近づかなければ、ということ。モデルとの距離は、見たままの距離。モデルとカメラマンの間がそのまま表れるレンズでもある。
Canon EOS-1Ds Mark3 +SIGMA 50mmF1.4 EX DG HSM
絞りF1.6 1/50秒 ISO100 WB:マニュアル RAW |
■中望遠レンズ
85mm前後の画角のレンズは、通称「ポートレートレンズ」と呼ばれる。
理由は、モデルと適度な距離を保てることと、見た目の大きさでファインダーに収めることができるからだ。初対面のモデルとは一定の距離が必要だし、また85mm単焦点レンズなら明るいものでF1.2、エントリーレンズでもF1.8ほどの大口径レンズが各社でラインナップされているので、屋外に比べ光が乏しいシーンが多いスタジオでは心強いなど、まさにうってつけのレンズなのだ。
ただ、やはり“中望遠”、被写界深度が浅くなるので、ピントはかなりシビアになるし、ボケも大きくなるので、使用にかなりの気遣いが必要となる。
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85mmはモデルとの距離を程よく保ちながら撮影できる。モデルとあまり離れてしまっては、会話もしづらい。適度な距離で撮影できることが85mmの魅力の一つ。
Canon EOS-1Ds Mark3 +SIGMA 85mmF1.4 EX DG HSM
絞りF1.8 1/80秒 ISO100 WB:マニュアル RAW ストロボ使用 |
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単焦点レンズなら、大口径のものがほとんど。大きなボケ味を期待できる。
Canon EOS-1Ds Mark3 +SIGMA 50mmF1.4 EX DG HSM
絞りF4.0 1/60秒 ISO200 WB:マニュアル RAW |
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見た目そのものの大きさでフレーミングできるので、撮りたいと思った状態のモデルをそのまま撮影できる。
Canon EOS-1Ds Mark3 +SIGMA 50mmF1.4 EX DG HSM
絞りF1.8 1/60秒 ISO200 WB:マニュアル RAW |
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■望遠レンズ
ハウススタジオではなかなか出番は無い望遠レンズだが、スタジオで引きがある(奥行きのある場面をそう呼ぶ)スタジオなら使用は可能。ただ、やはり大きなレンズが多いので、三脚は絶対だろう。
私は余程の意図が無い限り無理には使わない。大きなレンズは、慣れたモデル・タレントさんでも威圧感を感じさせてしまうからだ。
■マクロレンズ
マクロレンズは花や虫を撮影する為だけにあるわけではない。歪みもなく、実はポートレート向きなのだ。確実なピント合わせなど、ゆっくり落ち着いて撮影するスタイルになるが、むしろモデルとのコミュニケーションを構築するのに一役買ってくれる。マクロレンズで寄りの撮影が出来た時は、モデルとのコミュニケーションが上手くいったご褒美だ。
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マクロレンズでも焦点距離は様々。ポートレートでは100mm前後が使いやすい。ワーキングディスタンスを確保しやすいからだ。マクロレンズではピント合わせは慎重になる。瞳にピシッと合うように心掛けたい。私はライブビューを利用している。ゆっくり撮影できるその時間は、実は至福の時なのだ。
Canon EOS7D+Tokina AT-X M100 PRO D 100mmF2.8 MACRO
絞りF2.8 1/200秒 ISO200 WB:マニュアル RAW |
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焦点距離によって写り方も撮影の仕方も違う。テンポも違ってくる。それぞれのスタンスでの撮影になるので、今自分が撮影したいと考えている画に合ったレンズチョイスをしよう。先にファインダーを覗き、モデルが目の前に立つ前にレンズを決めておけば、気持ちに余裕が生まれる。あれこれ画角に迷うと、焦りも繋がるし、会話も途絶え途絶えに…。またハウススタジオという狭い空間にいるわけで、その点を考えないと、せっかくのセットや空間も活かしきれなくなる。
モデルにドキドキせずに対峙できるようにもなるためにも、焦点距離の違いを頭に入れ、撮影前にスタジオ内で“ここで座ってもらい、○○mm”と、早く決めておけるようになりたい。
上達への近道だ!
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