夜景写真家・岩崎拓哉の夜景撮影講座
第6回:工場夜景の撮り方
Photo : Takuya Iwasaki
TOPIX
今回の夜景撮影講座は人気の『 工場夜景撮影 編 』です。ホワイトバランスによる絵の変化を交えて解説しておりますので参考にしてください。また、執筆者 岩崎拓哉氏を講師に迎え『 貸切りクルーズ 工場夜景撮影ツアー 』も5月9日に当社で企画しておりますのでご興味のある方は、ぜひご参加ください。 by 編集部 |
4月も後半になって夜桜のシーズンも過ぎ、これからゴールデンウィークを迎えようとしています。今年の4月は天候が不安定で夜景撮影には少々厳しい条件となっていますが、これから気温が高くなる時期こそおすすめしたいのが工場夜景です。時間帯や天候にそれほど左右されない工場夜景撮影は1年を通じて楽しむことができ、レンズの使い分けやカメラの設定によって写真の変化が大いに楽しめます。そこで今回は工場夜景撮影テクニックを解説したいと思います。
写真1 砂山都市緑地からの工場夜景
■工場夜景の基本
近年は空前の工場夜景ブームとなっており、ブームの先駆けとなった神奈川県川崎市の産業観光が注目されるようになり、工場夜景バスやクルージングのツアーが大人気となり、今では全国各地で工場夜景が楽しめる環境が整いつつあります。全国的に有名な工場夜景エリアは「北海道室蘭市」「神奈川県川崎市」「静岡県富士市」「三重県四日市市」「兵庫県姫路市」「岡山県倉敷市」「山口県周南市」「福岡県北九州市」などが知られており、それぞれの地域で特色ある工場夜景を観賞できます。夜景撮影ジャンルの中でも工場夜景は特に人気があり、今では工場夜景撮影スポットで三脚を持った写真愛好家を頻繁に見かけるほどです。
写真2 全国の工場夜景マップ
ちなみに工場夜景撮影の特徴として、一般的な夜景撮影に比べて以下の点で撮影条件に恵まれています。ただし、場所によっては治安の面で心配があるので、グループで訪問した方が安心でしょう。
(1)時間帯を問わない
一般的な夜景撮影と同じくベストタイムはトワイライトビューになりますが、深夜になっても光量の低下が少なく、時間帯を気にせずに撮影に没頭できます。
(2)気象条件がシビアでない
もちろん冬の空気が澄んだ時期がベストですが、近景メインであれば雨さえ降らなければ綺麗な写真が撮れます。
(3)無料で撮影できる場所が多い
一部の展望ビルなどを除き、公園や公道での撮影がメインとなるため、料金が発生する場所はほとんどありません。
(4)混雑していない場所が多い
工場夜景観光がブームになっていますが、観光バスやクルーズでの観賞者が中心で、観光客とタイミングが合わなければ普段は静まりかえっている場所が多く、撮影場所も確保しやすいです。
■工場夜景スポットへのアクセス
実際に工場夜景スポットを訪問する場合、どのような手段でアクセスするか考える必要があります。一般的な夜景スポットと違って観光地化されていない場所が中心で鉄道やバスなどの公共交通機関だけではアクセスできない場所もあります。それぞれの交通手段について特徴を挙げてみました。
(1)自家用車・レンタカー
時間を気にせず工場夜景巡りを楽しむなら車での移動がベストです。撮影機材も積み込めるので、移動時の負担も軽減されます。
(2)電車・バス
電車やバスの運行が多い川崎市などは工場夜景スポットに公共の交通機関だけでもアクセスできます。ただし、終電を気にしながらの撮影になるため、時間的な余裕はありません。
(3)タクシー
車の免許を持たない場合や運転に不安がある場合はタクシーで工場夜景スポットを巡るのも1つです。観光タクシーであれば工場夜景スポットに詳しいドライバーに頼れる可能性もあります。ただし、料金は高額になってしまいます。
写真3 自家用車で工場夜景スポットを訪問
■工場夜景撮影の機材
ここから具体的な撮影の話に入っていきます。工場夜景の撮影に必要な機材ですが、一般的な夜景撮影と大きな違いはありません。ただ、工場夜景スポットは周囲が真っ暗な場所、安全面に不安のある場所もあるので、懐中電灯は必須です。また、多くの工場は臨海部に位置するため、風が強い場所が多いので、防寒対策をしっかりすることやなるべく安定感のある三脚を持参するのが望ましいでしょう。
工場夜景撮影に必要な機材
・カメラ本体、レンズ
・予備バッテリ-、メディア
・三脚などの固定機材
・懐中電灯、ブロワー、レリーズ、水準器など
工場夜景の撮影風景
ちなみに工場夜景撮影時に持参する交換レンズですが、被写体となる工場は間近で眺められる場所もあれば、遠くの工場を撮影する場合もあります。工場夜景は同じ場所での撮影でもレンズの画角によって作品イメージが全く変わってしまいます。そのため、広角・標準・望遠の3本以上のレンズを持参するのが理想です。無ければ標準ズーム1本でも大丈夫です。
写真4 広角レンズ(約16mm)
写真5 標準レンズ(約50mm)
写真6 望遠レンズ(約200mm)
■工場夜景撮影テクニック
ここから工場夜景撮影のテクニックや事例を4つに分けて紹介したいと思います。基本的なカメラの設定ですが、撮影モードは「マニュアル露出(M)」か「絞り優先(Av)」、ISO感度は三脚を使う場合は200~800程度、ストロボは発光禁止にしておきます。
(1)最適なホワイトバランス設定
夜景撮影で決められたホワイトバランスはなく、基本的には好みの設定となりますが、工場夜景の場合は全体的に色温度が低い方が好まれるようです。色温度をマニュアル設定できる場合は2500~3000K程度に設定すると青みが強くなり、SFや近未来を感じさせるような写真が撮れることも。いずれにせよ画像データの保存はRAW形式にしておき、自宅のパソコンでRAW現像時にホワイトバランスを調整するのも1つです。
写真7 ホワイトバランス:太陽光
写真8 ホワイトバランス:白色蛍光灯
写真9 ホワイトバランス:白熱電球
写真10 ホワイトバランス:色温度(2500K)
(2)あえて高感度を活かした撮影
夜景撮影の基本は三脚などにカメラを固定し、ISO感度をなるべく低感度(100~400が理想)に設定。最近のカメラは高感度にしてもノイズが目立ちにくく、手持ちで夜景撮影をするケースが増えてますが、工場夜景はISO感度を高め、あえて作品撮りに活かす場合も。
写真11 ISO感度:400
写真12 ISO感度:102400
(3)水面を綺麗に写す
工場夜景スポットは水辺が多く、水面に反射した光も美しい。反射した光も美しく取り込むなら、できるだけシャッター速度を長く開けたいところ。目安としては8~30秒ぐらい。
写真13 シャッター速度:0.5秒
写真14 シャッター速度:20秒
(4)光跡をアクセントに入れる
夜景撮影で光跡を入れることで、動きの感じられる写真を撮ることができ、意図的に車や船などのライトを構図に入れると面白い写真が撮れます。工場夜景スポットは交通量の少ない場所も多いので、光跡を入れるにはじっくりと車や船が来るのを待つ必要があります。
写真15 光跡無し
写真16 光跡有り
■今月のお勧め夜景スポット「川崎市・浮島町」
千鳥町と並ぶ川崎の工場夜景スポットで特に人気のあるエリア。東燃ゼネラル石油のプラント工場を間近で撮影できる。フルサイズ換算で16mmまたは17mm~の超広角レンズがあると工場全体を撮ることができる。周囲は立ち入り禁止エリアが多いため、誤って入らないように注意したい。民間のバスでもアクセスできるが自家用車の訪問がスムーズだろう。
写真17 東燃ゼネラル石油のプラント工場