イベントレポ「SG on the ROAD ポートレート撮影セミナー ハウススタジオ編
講師:大村祐里子 supported by カールツァイス」
TOPIX
去る2019年8月24日(土)に行われた「SG on the ROAD ポートレートセミナー <ハウススタジオ編> 講師:大村祐里子」。当サイトでもお馴染みの大村祐里子氏を講師に招き、ハウススタジオを貸し切ってのロケーションでテーマ別に3部開催となった自然光ポートレート(一部ライティングあり) セミナーの様子をダイジェストでお伝えします。当日のモデルは川口紗弥加さんです。 by 編集部 |
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本セミナーのロケーションには、雑誌やCMの撮影でも頻繁に使われる一軒家ハウススタジオ「ミモザハウス/カントリー」が選ばれた。
当日はカールツァイスの協賛により、SONY Eマウント用のZEISS Batisレンズ、高画質カメラの性能を最大限に引き出すZEISS Milvusレンズ、そしてフルサイズカメラで中判カメラにも匹敵する圧倒的な描写力を誇るZEISS Otusレンズの貸出が行われた。憧れのツァイスレンズが存分に試せるとあって、大勢の参加者がツァイスレンズを使っての撮影となった。
■ 第1部:シチュエーションを作る
第1部は、当日の天候を見ながら被写体の魅力を引き出すロケーションを探し、撮影者が演出したい光を作る手順にフォーカスしたセミナーだ。当日の天候は晴天、時刻は午前10時過ぎ。太陽光が差し込むスタジオ2階のベッドルームからセミナーが開始された。
まず、被写体とシーン(ベッドルーム)の光の状況を確認するために大村氏が取り出したのは露出計。自然光が相手の撮影であるため、シーン内の露出を知り、露出の違いがどのように表現に関わってくるのかと、また、屋外には緑が眩しい樹木があるため外光が影響する色被りについて、テザー撮影を行いながら解説が行われた。
大村氏が選んだレンズはZEISS Batis 2/25(開放F値2/焦点距離25mm)、ZEISS Batis 2/40 CF(開放F値2/焦点距離40mm)、ZEISS Batis 1.8/85(開放F値1.8/焦点距離85mm)の3本。引きから寄りまで対応可能な3本のレンズを使い分けながら、被写体との距離とコミュニケーションの取り方について解説が行われた。
その後は参加者による撮影実習。カーテンを開けて光を大きく取り入れたり、あるいはカーテンを閉めて光量を落としたり、スタジオに備え付けの椅子を使うなど、各々が思い思いに光を使った表現を試みた。大村氏から「モデルの肌が綺麗なので順光での撮影も積極的に試して欲しい。ツァイスレンズの描写の良さも実感できる」と、ツァイスレンズを愛用する大村氏からのアドバイスがあった。
続いて撮影する部屋を変えて、ベッドルームとは異なるアプローチでの撮影が行われた。「自然光を使い、ライティングを行ったかの様な表現を試す」との説明があり、窓から入る自然光に紗幕を被せて光を狭める事で、スプリットライトの様な効果が狙える表現を試す事に。光を狭めた事で明暗差が大きく生じており、かつベッドルームよりも更に外光による色被りが大きいシーンであったが、大村氏から「明暗差を活かす事で、例えば知的でクールな雰囲気が狙える。光を調整しつつ同時にホワイトバランスも調整する事で色被りを抑えつつ、仕上がりの違いを試すのも良い」とのアドバイスを受け、参加者による撮影実習が行われた。
最後に大村氏から「紗幕1枚でも自然光をコントロールして様々な表現ができる。特別な撮影機材を用意しなくとも、今回試した様に紗幕1枚を窓枠やカーテンレールにクリップで止めるだけの簡単なセットアップでも十分なので、難しく考えずに自身の作品撮りでも積極的に試して欲しい」と説明があった。
■ 第2部:「表情」を撮る
第2部は、モデルの「表情」にフォーカスしたセミナーだ。被写体となる人物が持つ魅力を分析し、撮影者の意図する表情を引き出すためのレンズワーク、シーンの選択、距離感とコミュニケーションを学んだ。
時刻は13時過ぎ、天候は変わらず晴天。リビングの窓ガラスを開けて大きく光を取り込み、開放的なシーンでモデルと正面から対峙して撮影を開始。まずは大村氏がモデルとの距離を変えつつ数パターン撮影し、レンズの焦点距離による仕上がりと印象の違いを解説。その後に参加者による撮影実習を開始。各自使用するレンズに応じたモデルとの距離感を測りつつもコミュニケーションを交え、意図する表情を引き出す実践的な内容だ。実習の途中からはディフューザーを使い、さらにはブロワーでモデルの髪の毛をなびかせる演出も取り入れられた。
大村氏から「ツァイスレンズは解像感が高いので、髪の毛の様な細かな描写が得意。光の中でなびく髪の毛を狙ってみて欲しい」と、このシーンとツァイスレンズの組み合わせで得られる表現方法についてのアドバイスがあり、誰もが熱心にディフューザー越しにシャッターを切った。
大村氏から「レンズを交換して焦点距離を変え、さらにホワイトバランスも変更し、一度目とは異なる仕上がり」を試す事が提案され、続けて二度目の撮影実習が行われた。同じ被写体、同じ条件下であっても、レンズが変われば焦点距離も変わるため、撮り手の対応力が問われる内容だ。
続いて俯瞰図での撮影実習が行われた。レンズの焦点距離と周囲の景色、そして光の入り方に注意しつつも、同時に「例えば『残暑』とか『夏の終わり』とか、自分なりのテーマを決めて、それに沿った雰囲気を作ってみる事が大切」と、作品撮りを行う上で表現したいイメージを持つ事の重要性が説かれた。
■ 第3部:モノクロポートレートを撮る
第3部は「光」にフォーカスしたセミナーだ。モノクロポートレートは白黒であるがゆえに光の見え方・使い方が重要になる。モノクロの持つ陰翳の魅力を引き出すためのレンズワーク、ライティングテクニックを学んだ。
時刻は15時30分過ぎ、陽が傾くには未だ時間が残された中でセミナーが開始。まず、大村氏から「光を描くにはモノクロが良く、明暗による表現を楽しんで欲しい」と説明があり、続いて「ツァイスレンズはコントラストが良く、かつ解像感も素晴らしいのでモノクロの撮影に向いている。PCに写真を取り込んで等倍で鑑賞したら、素晴らしい描写に驚くハズだ。ツァイスレンズを使えるボディを持っている方は、ぜひツァイスレンズを付けて撮影を!」との説明があり、実際にOtusレンズを試した参加者からは「光学ファインダー越しでもレンズの描写の良さが十分に伝わってくる」と感嘆する意見が聞かれた。
レンズ交換とカメラのセッティングを終えたら撮影を開始。大村氏から未だ陽の光が残るリビングのフロアを活かした撮影が提案された。大村氏によるテザー撮影と解説の後に、参加者はフロアに落ちる光の様子を見て撮影スポットを決め、モデルを配置して撮影を行った。
続いて、より明暗差がある窓際での撮影が提案された。モデルを窓際に立たせて、あえて陰翳を作り出す事でハイ・コントラストな表現を狙った。陰翳が作り出す効果は想像以上に大きく、モデルの表情や仕草と相まって「優しい雰囲気から怖い雰囲気まで」多様な表現ができる事を、実習を通じて理解することができた。
時刻は16時30分過ぎ、陽が傾き始めた。この日、大村氏は太陽光に近い光源として、映画撮影等で用いられる大光量のHMI(メタルハライド・ランプ)を持ち込んでおり、傾いた陽をカバーするためにHMIを使ったライティングが施された。
時刻は17時過ぎ。日の入りまで後1時間はあるとは言え周囲は夜の気配に包まれ始めた。最後にHMIを落として暗くなったスタジオ内で、トップからのライティング1灯だけで陰翳を付けた撮影実習が行われた。
こうして3部に渡るセミナーが終了した。第1部で大村氏が述べた様に、特別な機材がなくとも紗幕1枚を用いて工夫すれば多様な表現が楽しめる様に「光をコントロールする = 写真表現をコントロールする」事が、実践を通じて会得できたセミナーだったのではないだろうか。同時に、レンズワークが被写体(モデル)との距離感と、コミュニケーション方法にも密接に関わってくる事も、改めて認識する事ができた内容だったと思う。
最後にセミナー参加者作例ギャラリーをお楽しみください。
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