髭達磨のフォト日記
自分だけの夜桜ストロボ撮影のススメ
Photo & Text:薮田 織也
TOPIX
誰にも気兼ねせずに三脚を設置して、好きなようにライティングして、思う存分に夜桜の撮影に集中する……。名勝、景勝地ではとてもできない、自分だけの魅力的な夜桜ストロボ写真を撮る方法をご紹介しよう! by 薮田 |
Index
■ ロケーション探しからはじめよう! ■ ストロボ多灯撮影のいろいろ ■ 今回の撮影で使った機材 ■ 複数台のストロボを使った多灯撮影 ■ 1台のストロボを何度も発光させる長秒撮影 ■ 多灯+長秒のオープンフラッシュ撮影 ■ 今回のメイキングムービー ■ 夜桜ストロボ撮影における注意 ■ おわりに |
昨今の桜の名勝、景勝地では、スチル撮影に適した演色性の高い照明でライトアップされた場所も少なくないため、夜桜撮影を楽しむファンも増えてきた。しかし、そうした人気のスポットは人でごった返しているために長時間の撮影はできないし、長秒露光のための三脚利用は御法度だろう。また、撮影場所も限られてしまうために構図も固定されがちだし、長秒露光する人のためにもストロボ禁止で撮影となれば、結果は他の人と同じような画になってしまいがち……。根っからの写真好きであれば、誰もが自分だけの画を撮ってみたいと思うことだろう。そこで、ここでは「 自分だけの夜桜ストロボ撮影のススメ 」と題して、ロケーション選びから、ストロボを使ったライティングとその撮影方法までをご紹介しよう。今年はもう桜のシーズンはとっくに終わってしまったが、来年の夜桜撮影のためにと思ってご一読いただきたい。
本文中の 実画像 の文字をクリックするとカメラで撮影した実際の画像が別ウインドウで表示されます。容量が大きいのでモバイル端末での表示に注意してください。サムネイル画像をクリックするとリサイズした画像がポップアップ表示されます。
■ ロケーション探しからはじめよう!
● 誰も来ない光害のない場所を探す
まずロケーション選びだ。誰にも気兼ねしないで夜桜撮影するためには、桜はあるが夜間には誰もいない( 来ない )、そして街灯などの光害が少ない場所を探すことになる。撮影そのものより、このロケハン( ロケーションハンティング )が一番大変な作業だが、来年の桜のシーズンまで十分な時間があるのだから、これからじっくりとロケハンしてみたらどうだろうか。今回、薮田が撮った作例の場所は、夜桜ポートレートで使えるロケーションをと、数年前にロケハンして探した写真2の場所だ。自然公園になっている山の入り口で、鳥居の左右には畑があり、少し離れて民家がまばらにある場所だ。
この場所を見つけた数年前から、毎年桜の季節になると様子を観に行って、桜の咲き具合から周囲の環境( 民家や街灯など )の変化を観察した。いつ頃が開花時期なのか、見頃の時期はなど、例年の記録があれば撮影日の目安になる。また、民家や街灯が増えれば光害対策が必要になるし、場合によっては撮影そのものを断念することにもなる。さらに撮影したい方角のチェックも重要だ。月はどこから昇りどこに落ちるのか。新月の夜であれば漆黒の闇になるだろうし、満月の夜だとすれば月光が桜をどう照らすのかなどを調べておくと良いだろう。
■ ストロボ多灯撮影のいろいろ
今回の夜桜撮影に選んだロケーションが写真2だ。撮影日の空は快晴で満月の夜だった。お月様はカメラの背後に上がっていて、ストロボを使わずに長秒露光して撮ると写真3のようになる。こうしたロケーションでのストロボ撮影には、大きく分けて以下のような撮影方法がある。
1.複数台のストロボを使った多灯撮影
2.1台のストロボを何度も発光させる長秒撮影
3.1と2を組み合わせた撮影
もっとも簡単に夜桜撮影できるのが1の多灯撮影だが、ストロボを複数台所有しなければならないので懐が痛い(笑)。それでもサードベンダーから発売されているストロボなら、メーカー純正に負けず劣らず高機能、高性能でありながら安価なのでオススメだ。サードベンダー製のストロボを選ぶときは、ストロボを遠隔制御できる電波式コマンダーとセットで購入できることが重要だ。なぜなら、設置した複数台のストロボの調光が必須となる夜桜撮影において、手元で各々のストロボを調光できるのは大きなメリットとなる。電波式コマンダーを使わなくても多灯撮影はできるが、調光の度にストロボを設置した場所まで行くとなると、大きなタイムロスになる。今回の撮影では、ニッシンジャパン製のストロボ Nissin i60A を4台と、それらをまとめてコントロールできる電波式コマンダー Nissin Air 10s を使った。
■amazon で価格チェック■ | |
---|---|
Nissin i60A Nikon Canon Sony Olympus Fujifilm ■ メーカーサイト ■ Nissin i60A |
Nissin Air 10s Nikon Canon ■ メーカーサイト ■ Nissin Air 10s |
これに対して2の方法は、1台のストロボを手に持って移動しながら手動で何度も発光させるオープンフラッシュという撮影方法だ。もちろんカメラのシャッタースピードは長秒に設定する必要がある。手持ちの機材だけで撮れるもっともリーズナブルな撮りかたではあるが、制限やデメリットもある。長秒露光での夜桜撮影は、風があると枝だが揺れ動いてしまうので、無風の日を選ばなくてはならないし、イメージ通りに仕上げるのには何度も撮り直す必要がある。このオープンフラッシュという撮影方法は、薮田がもっとも好んでする方法で、一人写真同会を作った中学生の頃からよくやっている。今回のロケーションでは1台のストロボでのオープンフラッシュはやらなかったので、4年前に撮った作例を元に解説しよう。
最後の3の撮影方法は、1と2の合わせ技で、今回もっともオススメする夜桜撮影の撮りかただ。2台以上のストロボを使うが、長秒露光でのオープンフラッシュも同時にやるという撮影方法。なぜ合わせ技をするのかは後述するのでお楽しみに。
■ 今回の撮影で使った機材
実際の撮影方法の紹介に入る前に、今回の夜桜撮影で使った機材を紹介しておこう。
写真4 カメラとレンズ
写真5 ストロボと電波式コマンダー
写真6 外部バッテリーとライトスタンド
写真7 ライトスタンド用のウェイト
ここで紹介している撮影機材の他に、暗闇での作業用ハンドライトやランタンなどがある。また、今回はカメラの手持ち撮影を先にしているので敢えて取り上げていないが、スローシャッターでの長秒露光撮影をするのであれば、カメラを安定させる三脚も必需品だ。なお、三脚やライトスタンドを立てる場所には注意が必要だ。畑や花壇など、足を踏み入れてはならない場所にはくれぐれも立てないようにしよう。
■ 複数台のストロボを使った多灯撮影
この日の撮影は当初、人工物である赤い鳥居と桜を絡ませる写真9のような画をイメージして臨んだ。鳥居の色が強烈なので、桜の枝で鳥居の一部を隠すようにと考えていたのだが、そうなると撮影位置の高さが足りないことに気付き、急遽アシスタントに2mの脚立を買ってきてもらった。( 不整地で脚立に乗っての撮影は足場が不安定になるので、必ず誰かに脚立を支えてもらうようにしよう )
仕込んだストロボはライトスタンドに装着した4台の Nissin i60A。それぞれを写真10の位置に設置した。ストロボaはヤマツツジを裏から浮かび上がらせるため、ストロボbは鳥居の後ろにある石段を照らすため、ストロボcは鳥居の右下に設置して、主題であるソメイヨシノを照らすメインライトだ。ストロボdは鳥居を弱く照らすため、正面に設置した。このうち、ヤマツツジの裏に設置したストロボaはワイドパネルを引き出して使っている。これはより広い範囲にストロボ光を照射したいからだ。電波式コマンダーの Air 10s で照射角を 24mm に設定して発光させるつもりだが、ワイドパネルを使うことで 16mm 相当になる。これはストロボの設置位置からヤマツツジまでの距離が短いこともあり、このようにした。
少し脱線するが、一般的にストロボの照射角を 24mm や 16mm といった長さの単位で表記するのを不思議に思う読者もいることだろう。実はこの長さはレンズの焦点距離のことで、その焦点距離の画角をカバーできる照射角でストロボを発光させられると考えて欲しい。照射角といいながら角度で表記しないのは、使っているレンズの焦点距離なら直感的に理解できるからである。カメラのホットシューにストロボを乗せて使うときのストロボの照射角は、普段は自動でレンズの焦点距離に見合った画角をカバーできるように調整される。ストロボによっては、自動と手動を切り替えることもできる。今回使った Nissin i60A はストロボ側でも自動・手動を切り替えられるし、Air 10s 側でも切り替えて発光させられる。今回はストロボを遠隔でコントロールするので、Air 10s 側で切り替えている。
さて、テスト撮影した結果が写真9だ。ストロボaとbの光が見切れてしまっているし、ストロボcの光がレンズ真横から入ってゴーストを発生させているのがわかるだろう。ストロボの光芒もゴースト自体も画の味付けだと薮田は考えるし、これはこれで悪くない画だと思う。ただストロボ自体が主題の桜よりも目立つのは考えものなので、ストロボの位置をずらして光芒を避け、ゴーストも少し目立たないようにして撮影したのが写真12だ。さらに脚立から下りて桜の下に入り、ストロボcのゴーストを排除して撮ったのが写真13。
ストロボを使うと真っ暗闇でも手持ちで撮れるのがメリットのひとつ。さらにストロボ光が当たっているところだけを映し、それ以外は暗く落とし込めるので、背景が雑然としている場所でも主題だけを浮き立たせて撮影できる。つまり、風景全体が整っている夜桜の景勝地ではなくとも、ストロボを工夫して使えば、他の人が見落とすような身近な場所でも景勝地のような撮影ができる、というわけだ。
■ 1台のストロボを何度も発光させる長秒撮影
今度はストロボ1灯での夜桜撮影の作例( 写真14 )を観ていただこう。この作品は以前にも本連載で掲載したものなのでご記憶にある方もいるだろう。( 旧システムでの掲載なので記事が埋もれてしまっているため、今回再度の掲載とした ) この作例を撮った場所も外灯が遠く、夜間はほぼ暗闇の場所( 写真15 )なので、作例のように撮るにはストロボの多灯撮影に頼るしかないのが普通だが、敢えてこのときはストロボ1灯による「 オープンフラッシュ 」撮影にチャレンジした。というか、実は薮田は多灯撮影よりも子供時代から遊んできたオープンフラッシュ撮影が好きなのだ。
オープンフラッシュとは、カメラの長秒露光中にストロボを手動で何度も発光させて撮影することだ。この手法はフラッシュバルブ時代以前からある古い手法で、もともとは発光時間やタイミングが不安定な昔のフラッシュで撮影する際に、シャッターをバルブ( 開けっ放しにすること )にして、フラッシュをゆっくりと焚くというものだった。最近のストロボは光量もタイミングも安定しているので、通常はオープンフラッシュを使う必要はない。それでも使いかた次第では写真14のような大きな被写体をストロボ1灯だけでライティングできるし、光量の少ないストロボでも何度もフル発光させることで大光量ストロボに匹敵するライティングができることになる。
写真16 撮影に使った機材
写真17 ストロボの使いかた
写真14の撮影方法自体は至って簡単。三脚に乗せたカメラのシャッタースピードを十数秒程度( このときは 15 秒 )の長秒に設定して、フル発光に設定したストロボとワイヤレスリモコンを手に持って準備。リモコンでシャッターを切ったら、桜の下をかけずり回りながらストロボのパイロットランプを押して、照らしたい桜の枝を狙って 10 発ほど発光させる。もちろん一度でイメージ通りの画は撮れないだろう。結果を確認しながら、何度もトライすることが大切だ。写真14の作例を撮ったときは、イメージ通りに撮れるまで3時間はかかった。大変な作業だと思われるだろうが、これこそ自分だけのオリジナル作品が作れる方法だと薮田は考えている。
■ 多灯+長秒のオープンフラッシュ撮影
写真18 ストロボcとdの位置
写真19 Air 10s の設定
最後に紹介する夜桜ストロボ撮影の方法は、冒頭に掲載した作品の撮りかただ。簡単に書くと、これまでに紹介した多灯撮影とオープンフラッシュを組み合わせただけだ。ストロボの位置は写真10におけるストロボaとbをそのままにして、ストロボcとdを写真18の位置に移動した。カメラの位置はずっと後ろに引いて、空を少しフレームインさせて撮影した。ストロボの設定は写真19( ストロボcとdはグループCに設定 )の通りだ。写真9、12、13は電波式コマンダーの Air 10s をカメラのホットシューに乗せて撮影したが、今度はオープンフラッシュをするためにカメラから外して手で持って操作する。今回は 20 秒の露光中に、Air 10s のパイロットランプを押して2回発光させた。
なぜこうした撮影方法を採ったのかを説明しておこう。それは、前述したように本作品の撮影日は快晴で満月だった。ストロボを使わずに長秒露光だけで撮ると写真3のように撮れるので、このイメージにストロボによるライティングを加えると幻想的な画が撮れるのではないかと考えたわけだ。完全な暗闇でのストロボ光だけの撮影は、別の日に撮影しても再現性が高いというメリットがあるが、自然の地灯りにストロボを加えた撮影は、その日だけの、その瞬間だけの、二度と撮れない自分だけの作品になる可能性があるのだ。これを逃す手はないと感じてこの方法を採った。その結果が写真1だ。
■ 今回のメイキングムービー
テキストだとわかりにくい面もあるかと思ったので、今回は動画での解説を加えてみた。実際の撮影は真っ暗な夜間だったので、わかりやすくするために別日に動画撮影をしている。筆者の顔がお見苦しいかとは思うが(笑)、読者の皆様の参考になれば幸いである。
1カット目、写真12、写真13と、最終カット写真1のストロボセッティングを解説しています。
■ 夜桜ストロボ撮影における注意
最後になったが、夜桜ストロボ撮影をするときに、守って欲しいルールとマナーについて触れておこう。本サイトの読者にとっては当たり前のこととは思うが、撮影マナーが悪くルール無用の撮影者のことがメディアや SNS で取り上げられている現状があるので、復習だと思って読んでいただきたい。
● 土地の管理者に撮影許可を取る
ロケハンでめぼしい場所を見つけたら、その場所の管理者を探して撮影許可を取ろう。夜になると誰も来ないような場所であったとしても、今の日本に所有者のない土地はない。個人所有でないとしたら、そこは行政が管理しているはずだ。ほんの一瞬、スナップとして撮るだけというのなら、許可を取らずとも所有者側は片目をつぶってくれるとは思うが、夜間の長時間にわたるストロボ撮影ともなると、そうはいかなくなるものだ。万が一の事故などが起きれば、いろいろと面倒なことになるので、まずは撮影許可を取るようにしよう。
公園などであれば行政が管理していることが多いので、まずは役所に行って問い合わせてみよう。さらに、夜間の撮影でストロボを使うことになるので、周囲に民家などの建物があって居住者がいるとしたら、必ず近隣の住民からも撮影許可を取ろう。今回の撮影場所も、管理している市役所のフィルムコミッション担当者と地域の自治会、そして近隣の方々にご承諾いただいてから撮影に望んだ。
● マナーを守って撮影しよう
最近は、ロケーション撮影でのルールやマナーが守れない撮影者が増えてしまい、三脚禁止やストロボ禁止はおろか、撮影そのものが禁止になった場所もある。本サイトの読者には非常識な方はいないと思うが、マナーは厳守して撮影しよう。撮影の邪魔になるからと植物を抜いたり、樹木の枝を折るのはもちろん御法度だし、立ち入り禁止の場所には絶対に入らないこと。少しでも人と違った画を撮りたいという気持ちは痛いほどわかるが、何よりも自身の安全を確保することが大切だ。怪我などすればつまらないし、万が一に命を落としてしまうようなことがあれば、間違いなくその場所は撮影禁止になるだろう。撮影のルールとマナーを守るということは、自身を守ることと同時に、他人の撮影の自由も守ることなのだ。
■ おわりに
今回は自分だけのオリジナルな夜桜ストロボ撮影の方法を紹介した。大切なのは、誰もが見落としがちな光害のないロケーションを探すことと、ストロボによるオリジナルなライティングをすること。これだけでも景勝地での撮影とは違ったあなただけのオリジナル作品になるはずだ。さらに撮影日の天候も大いに利用することが大切だ。夜の屋外での地灯りを利用したストロボ撮影は、そのときの天候や環境によって撮れるイメージが大きく変わる。なかなか狙って撮れるものではないが、何度もチャレンジしていれば、写真の神様が味方してくれる瞬間が必ず訪れる。そうしてイメージ以上のものが撮れたときに、写真の本当の楽しさを実感できるのだ。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
薮田織也事務所
■ 制作協力 ■
ニッシンジャパン株式会社