ポートレイトのネタ帳 第3回
高桑正義のネタ< フィルターワーク >
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ポートレイトのネタ帳 第3回は、以前「 大村祐里子のプロ写真家に聞くライティング術2第8回 シンプルこそ正義!高桑正義氏に聞くストロボライティング 」で取材させていただいた高桑正義氏のネタをスタグラ編集部で取材した。今回は、NISIフィルターの協力の元、角型フィルターを応用したポートレートテクニックに絞りネタを高桑氏に披露していただいた。屋内外・昼夜問わず応用可能なネタをぜひご覧ください。 by 編集部
● ネタをご披露いただく写真家
高桑正義氏
大学卒業後、印刷会社入社。アシスタントを経て、フリーフォトグラファーとして独立。現在はBeauty、Fashion 広告、雑誌、カタログなどを中心に活動している。撮影からリタッチまでの全てを自身がてがけるクオリティには定評があり、特にBeautyの分野ではその才能が如実に表れている。
● 2枚の違いはなんだろう?
まずは、上の2枚をご覧いただきたい。どちらの作品も成立はしているが、右側のほうが、モデルや壁の質感がしっかりと伝わってこないだろうか?
2枚は何が違うかと言うと……「 角型のGNDフィルター 」を使用しているか否かだ。左側は未使用、右側が使用したものだ。
「 角型のGNDフィルターって、風景を撮影する人がよく使うアレか…… 」と思われた方も多いと思う。だが実は、角型の ND フィルターは風景撮影だけではなく、このようにポートレート撮影でもばっちり使用できるのだ!
今回は、ポートレート撮影に角型のGNDフィルターを使うことで、作品の質と印象をさりげなくアップする方法をご紹介する。
■ 角型のGNDフィルターってなに?
「 ND フィルターってなに? 」という方に、簡単に説明させていただく。ND フィルターは、レンズから入ってくる光の量を減らすために使う、黒っぽい色をしたフィルターだ。
基本的には、シャッタースピードを遅くして被写体をぶらしたいときや、光量が多いシーンで絞りを開けたいときに使う。結果として、不必要に絞らなくて良くなるので、回折現象を防止する効果もある。
ND フィルターにはさまざまなタイプがあり、色が濃いものほど遮光性が高くなる。ND フィルターには ND4、ND8 などと数字が記載されている。この数字が大きいほど色が濃くなり、レンズから入ってくる光の量が減る。また、この数字は、光量を何分の1に減らすかを表す。たとえば、ND4は光量を 1/4 にする、という意味だ。
ただ、レンズに直接はめる円形フィルターは、レンズのガラス面が出っ張っているもの(例:一部の超広角レンズ)には装着できない。
NiSiでは、そういったレンズにもフィルターを装着できるように「 ホルダー 」を介してのフィルター装着システムを提供している。ホルダーにつけるフィルターは円形だけではなく、角型をしたものもあり、それらは「 角型フィルター 」と呼ばれる。
角型フィルターには、色がついているところと透明なところがグラデーションになっている GND( Gradation ND )フィルターもある。当記事で使用しているのはこの GND フィルターだ。
ホルダーに角型の GND フィルターを装着すると、フィルターを 360 度回転させたり、位置も変えたりすることができるので、自分の好きな場所だけに ND フィルターを適用させられる。また、2枚同時に使用することも可能。今回は、このシステムを利用して作品づくりをしていく。
■ 実際の使用例を見てみよう
▼ シーン1 木の陰
こちらは、フィルターなしで撮影した一枚。使用カメラは FUJIFILM GFX 100 だ。壁も人物もやや白飛びしてしまっているように見える。
< 高桑正義のポイント解説 >
- 背景と人物が一体となったシーンを見せたいので、もっと背景と人物をなじませたい。
- ただし、絞り込むと肌の質感や色味が出なくなり、回折現象も発生してしまう。
- 絞りやシャッタースピードを変えず、背景と人物をなじませたい。
具体的には、ソフトグラデーションの GND8を2枚使用して、このように左右からモデルを挟み込むようにしてグラデーションを適用させる。
こうして完成したのがこちら。女性モデルや壁の質感がしっかりと伝わる一枚に変化した。
< ND フィルター適用後のポイント >
- カメラの露出設定を変えずに、背景と人物をなじませることができた。結果として両者が一体となったシーンに仕上げられる。
- GND 2枚をそれぞれ回転・移動させられるので、ポートレート撮影の場合は、人物の位置に合わせてグラデーションを適用できる。
- GND を2枚重ねると、仕上がりの色がややオレンジっぽくなる。これは好き好きだが、個人的にはモデルの肌感が出やすくなるように思う。
- EVF はフィルターのかかり具合が若干わかりづらい。光学ファインダーのほうがよりフィルターのかかり具合がわかりやすい。
▼ シーン2 奥行きのある場所
次は、奥行きのある場所での一枚。
まずは、フィルターなしで撮影したものを見て欲しい。これはこれで良いように思うが……。
< 高桑正義のポイント解説 >
- 奥行きがある場所なので、背景の先のほうに視線がいってしまう。できれば、人物に視線を誘導したい。
- 背景だけを暗くして、人物に最初に目がいく作品に仕上げたい。そこで、背景を落とすために GND を使う。
具体的には、1作目( 壁の前に立った写真 )よりも背景を暗くしたいと考えたので、ミディアムグラデーションの GND16 を2枚使用して、左右からモデルを挟み込むようにしてグラデーションを適用させた。
こうして完成したのがこちらの一枚。背景の抜けが暗く落ち、モデルに視線が行くようになった。また、人物や建造物の質感もしっとりしたように感じられる。
< ND フィルター適用後のポイント >
- 背景を暗く落とし、モデルに目線がいく一枚に仕上げられている。
- 現場でフィルターを使用すると、その場で現場の光を生かした仕上がりイメージを考えるようになるので、結果として想像力・技術力が向上する。
- NiSi の GND フィルターは、グラデーションの硬さもソフトからハードまで揃っているので、状況に合わせて微調整しやすい。
▼ シーン3 日中シンクロ撮影
次は、屋外でストロボを使用した作品を紹介する。
まずは、フィルターなしで撮影。クリップオンストロボを使い、モデルを前面からライティングしている。いわゆる「 日中シンクロ 」である。
逆光状態だが、日中シンクロゆえに空の色はだいぶ出ている。しかし、モデルの左右にあるビルは白っぽくなってしまい、画面が少し散漫な印象を受ける。
< 高桑正義のポイント解説 >
- もっと人物に視線を誘導したい。
- 人間の目は明るいところに目が行くので、左右のビルを暗くすることにより、人物に最初に目がいく作品に仕上げたい。
そこでミディアムグラデーションの GND 16 を2枚使用して、左右からモデルを挟み込むようにしてグラデーションを適用させる。グラデーションはモデルに少し被る程度にする。
また、被写体の色をしっかりと出すために、角型ホルダーには、PRO CPL フィルター( 反射光を抑え、被写体が本来持っている自然な色を取り戻すのに効果的なフィルター )も装着している。
こうして完成したのがこれだ。左右のビルが暗く落ち、モデルに視線がいくようになった。また、人物や建造物の質感もしっかりと落ち着いた感じにすることができた。
< ND フィルター適用後のポイント >
- 左右のビルを暗く落とし、モデルに目線がいく一枚に仕上げることができた。
- 左右のビルが暗く落ちたことで、ビルの形が明確になり、画面に立体感が生まれた。
▼ シーン4 室内でのストロボ撮影
最後に、屋内でストロボを使用した作品について解説する。
まずは、フィルターなしで撮影。クリップオンストロボをモデルの正面から直接照射した。絞りはF8。このくらいの絞りが理想的だが、ちょっと白飛びしている。
次に絞りを F16 にしてみた。全体的に落ち着いたが、絞りすぎているので、肌や服の質感があまり綺麗に出ていないように感じる。
< 高桑正義のポイント解説 >
- 理想の設定のまま、モデルの肌や服の質感をもっと出したい。
- モデルに目線がいくように、周辺をもっと落としたい。そこで、周辺をガッツリ落とし、モデルの肌や服の質感を出したい。
左右を大胆に落とすため、ハードグラデーションの GND8 を2枚使用して、左右からモデルを挟み込むようにしてグラデーションを適用させる。モデルが隙間から少し見える適度だ。
また、被写体の色をしっかりと出すために、角型ホルダーには、PRO CPL フィルター( 反射光を抑え、被写体が本来持っている自然な色を取り戻すのに効果的なフィルター )も装着している。
こうして完成したのがこちら。理想の設定のまま、モデルの肌や服の質感がしっとりと良い感じに写せた。また、周辺の光量がガッツリと落ちることで、最初にモデルへ目線がいくようになった。
< ND フィルター適用後のポイント >
- 理想の設定のまま、モデルの肌や服の質感を出せるようになった。
- 周辺光量をガッツリ落としたことで、モデルに目線がいくようになった。
■ 総評
角型の GND フィルターは、風景撮影だけのものではない。ポートレート撮影の現場でも、作品の質と印象をさりげなくアップするのに一役買ってくれる。ド派手な効果はないが「 比べてみると明らかに質が良い 」という作品を作れるように思う。
自分のポートレート作品の質をさらに向上したい方は、ぜひ角型の GND フィルターを使ってみてほしい。
また、現場でフィルターを使うと、写真上でどこに視線を誘導するかを考える良いきっかけになる。現場で写真を作っていく面白さを実感でき、画面構成力も格段にアップする。
「 フォトショップで加工する 」という手もないわけではない。ただし、ポートレートは必ず相手がいるものなので、相手には現場できちんとした絵を見せたい。そして、現場である程度絵が完成していれば、そのあとはさらなるブラッシュアップに時間を費やせる。
フィルターを使うことで、最初は撮影テンポが落ちてしまうこともあるかもしれないが、フィルターの活用をきっかけにして、自分の作品にじっくり向き合ってみるのはいかがだろうか。