大村祐里子の
プロ写真家に聞くライティング術2
第7回 好きはブレない哲学的オタグラファー
清田大介氏に聞くストロボライティング
TOPIX
本連載「大村祐里子のプロ写真家に聞くライティング術2」は、クリップオンストロボを使って魅力的な作品をつくりだしているプロ写真家に、私こと大村祐里子がインタビューをして、ライティング上達の極意とその写真家さんの人生に切り込んでいく企画です。今回は、一度目にしたら忘れられない、繊細な世界観をお持ちの清田大介さんにお話をお伺いいたしました。( 大村 ) |
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■ 写真家 清田 大介 さん
清田 大介
Portrait & Fineart Photographer。「 清田写真スタジオ 」経営。TIFA、IPA など国際的なコンテストや東京カメラ部・JPS・JPA など国内のコンテストなどに多数入賞・入選。商業撮影、雑誌、書籍への執筆、セミナー開催、展示会も多数開催。SKYLUM Ambassador。http://blog.dream-pixels.com/
清田さんのお写真は、以前から Web で拝見しており、とても気になっておりました。誰もが魅了される、繊細な衣装に身を包んだ儚い女性の写真。もはやこの世のものとは思えぬ細部まできっちりと描きこまれた世界観は、ファンタジックで、一度見たら脳裏に強くインプットされてしまいます。なんと! 今回は、その清田さんにインタビューをさせていただけることになりました。なんだか、禁断の場所に足を踏み入れてしまうような気分です……。
ということで、府中駅の近くにある「 清田スタジオ 」へお邪魔しております。こちらは、今回インタビューを受けてくださる清田大介さんが運営されているスタジオです。ここで、数々の名作が生み出されていると思うと胸が熱くなりますね! どんな壮大なセットがあるのだろうか……と思いきや、非常にシンプルなスタジオです。こんにちは、今日はよろしくお願いいたします。
清田です。よろしくお願いいたします。
はじめましてと思いきや! 実は、過去に何度かお話させていただいたことがあるのですよ。
そうなのですよね。初対面ではないという(笑)
SNS でもときどき絡ませていただいています。このあいだわたしが「 作業用 BGM はロマサガのバトル2 」って(笑)ツイッターに書いたとき、反応してくださいましたよね。
僕は「 熱情の律動 」をよく聴きますね。
それ! 私もスマホ に入っています(笑) 清田さんからは同じオタク( しかも同世代 )臭……あ、香りがプンプンします……。今日はよろしくお願いいたします。
■ 水滴を効果的に使った人物撮影
本日は2つ作品を撮影したいと思います。早速ですが、1つ目のセッティングに取り掛かりますね。
おお……アクリル板の登場ですね。1つ目は、どんな作品になるのでしょうか?
喪服のような衣装を着たモデルさんを撮影しようと思います。僕、喪服の女性が好きなのです。儚くて美しくて……。そのイメージの演出のために、水滴を使ってみたいと思います。
わー! 早速、清田さんらしさ全開ですね! 清田さんのお写真は作品1のような水滴が登場するものが多いように思います。
空から降ってくるものが好きなもので。こいつおかしいなと思われるかもしれませんが……僕、生まれる前の記憶があるのです。
えっ!?
具体的には、生まれる前に「 雪景色を見た 」という記憶があるのです。だから、僕は雪とか、水滴や薄曇りに対して「 温かい 」イメージを抱いています。暗いとか、マイナスのイメージはあまりないのです。
清田さんの写真は水っぽいのですが、たしかに陰気な雰囲気はないと思っていました。そういう理由があったのですね。しかし、霧吹き職人ですね! 霧吹きも2つ使い分けていらっしゃいますが、これはどういう……。
アクリル板に水滴をつけるときは、100 均で買った霧吹きと、美容師さんが使う高い霧吹きを使い分けます。まずは、100 均霧吹きを使います。このように、正面から当てると水滴が垂れてきます。したがって、雨だれみたいなのを作りたいときは正面から当てます。横からフェザリング(笑)すると、大きめの水滴が張り付きます。
フェザリング!(笑) 羽で撫でるように吹きかけるイメージですねっ!
次に、美容師さんが使う高い霧吹きを使います。こちらは、細かい霧をつくることができます。アクリル板の周辺に吹き付けると、まわりがぼんやりとした絵に仕上げられます。
匠の技!(笑) 清田さんの絵画調の作風は、2種類の霧吹きから生まれていたものだったのですね。立体感のある水滴はどうやってつくっているのだろう?と思っていたので、謎が解けました。
霧吹きは、モデルさん側から噴射すると、モデルさんが水滴をなぞるような絵を撮ることができます。そうそう、エアコンがついていると圧倒的に早く乾いてしまうので、様子をみながら、途中で水滴を追加していくのが大切です(笑)
さて! ライティングについて教えてください。かなりシンプルなセッティングで驚いております。
向かって左側にカポックを置き、カポックへ光が当たるような向きにマシンガンストロボの MG10 をセットしました。こちらがメインライトです。バウンス光でモデルさんをライティングする、というわけです。光量は 1/8 ですね。
ソフトボックスなどのアクセサリは使わずに、カポックにバウンスさせているのはなぜでしょうか?
面倒くさがりなのでアクセサリは使いたくないから(笑)、という理由もあるのですが、ソフトボックスを使うとアクリルに一部映り込んでしまうことがあるからです。
横から光を当てているのは、アクリル板を光らせないためでしょうか?
もちろんそれが一番の理由です。また、モデルさんの顔に陰影感を出すために横から光を当てています。完全にサイド光にしてしまうよりは、顔がある程度照らされる方が、全体的にハイライトの面積のバランスが良いかなと思いました。
清田さんの作品は「 陰影感 」のあるイメージが強いです。
おっしゃる通り、明るいものより陰影感のあるものが好きです。でも、グロとか闇が好きなわけではないのです。ときどき勘違いされるのですけど(笑)
わかります。清田さんのお写真は闇ではないですね。美しさのなかにある影、という感じ。
ライティングに関していうと、メインライトに加えて、右斜めうしろから、グリッドつきのオパライトで弱く当てています。すみません、こちらは別メーカーのものなのですが……。モデルさんの後頭部と、花飾りを少しだけ明るくしています。正直、なくても絵的にはほとんど変わりません。
オパライト、いわゆるビューティーディッシュですね。
衣装も背景も黒いので、手元まで暗いと全体的に真っ黒になってしまい、ちょっとバランスが悪い感じがします。モデルさんに、白いお花を持ってもらいましょうか。
さきほどもハイライト面積のバランス、とおっしゃっていましたが、いつもこうやって絵のバランスを見ながら撮影をしていらっしゃるのでしょうか?
はい。基本的には撮りたいイメージをしっかり決めてから撮影に臨みますが、現場で「 こちらのほうがバランス良い 」と思ったら、あれこれ変えることも多いです。僕は元々デザイナーなので、デザイン的な視点でいつも見ています。
背後から拝見していて驚いたのですが、露出はかなり絞っていらっしゃるのですね!
F10 まで絞っています。僕はふんわりとぼけた絵より、モデルさんも水滴もキリっと写っているものが好きです。だから、絞り込んで撮ることが多いです。F8 以上に絞り込むことがほとんどですね。とはいえ、今回の場合は、アクリル板とモデルさんが離れてしまうと両方をキリっと写せないので、モデルさんには極力アクリル板に近づいてもらっています。
清田さんの作品の「 くっきり 」した感じは、絞りも関係あったのですね!
■ 人物写真をチュールでデザイン
次は、ウェディングドレスを着たモデルさんをチュールで囲み、それを俯瞰で撮りたいと思います。
これもザ・清田さん、という感じがしますね! 期待を裏切らなさがすごい(笑)
今回、ウェディングドレスを新しく買ったのでそれで作品を撮りたいと思いました。さっき喪服が好きと言いましたが、僕はドレスやチュールも大好きなのです。もっと言うと、デザインテクスチャが好きなのです。ドレスのデザインや布の質感だけを眺めているだけで呑めますね(笑) もともと Web デザインの出身なので写真の中でデザインを求めがちです。
いまわたしは急速な勢いで清田さんを理解し始めています(笑) こちらは、好きなものが詰まった一枚、ということですね。
はい。チュールと何かを組み合わせて撮るのはもはやライフワークと化しています。俯瞰で撮影するのは、好きなものの全体を写したいからです(笑)
ライティングについて教えてください。またも、シンプルなライティングなのでびっくりです。
ライトは MG10 を1灯です。白い板にバウンスさせて、モデルさんの頭の上あたりから照らしています。
このセッティングにしたのはなぜですか?
まず、モデルさんの顔は綺麗に写したかったので、顔側から光を当てました。また、1灯で撮影したほうが、周辺が自然と落ちて、ナチュラルな雰囲気に仕上がるので良いと思いました。さらに、白いドレスなので、白飛びを防ぐため光を回しすぎない、という意図もありこのセッティングにしています。
チュールの配置に1番気を配っていらっしゃるように見えました(笑)
そこを1番細かく指示しますね(笑)チュールの色の混ざり具合が大切です。
こういう撮影、やったことがないです!
うちのスタジオに来ていただければいつでもできます。チュールも無料でお貸出ししていますので是非(笑)
■ 根底に流れるのは宗教哲学
さて、撮影もひと段落したところで、清田さんの人生についてお聞きしたいと思います。写真を始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
僕はもともと Web デザイナーです。Web の仕事では、人の写真をレタッチしたり組み合わせたりしていました。5年くらいデザイン会社に勤めたあと、独立しました。そのとき「 写真を自分で撮ったら 」と言われてはじめたのがきっかけですね。初めのころは、経営者のプロフィールやセミナー写真を撮っていました。
何が楽しくて写真にハマってしまったのでしょうか?
浅岡省一さんとイルコさんの写真が良かったからです(笑) 僕もああいう写真を撮りたい! と思ったのがすべてのスタートかもしれません。そうしているうちに、これを仕事にしたいなと思うようになりました。
どうやって勉強されたのですか?
人を撮るのが好きだったので、撮影会に行って勉強していました。撮影会には結構、通っていましたね。次第に、自分が撮りたいものは撮影会では撮れないことに気がつき、1年半くらい前にスタジオをつくりました。そこからはずっと引きこもりです(笑)
絶対にお聞きしたいと思っていたことなのですが……清田さんの独特の世界観はどこで培われたのでしょう?
僕、西洋史学科の出身なのです。そして、キリスト教が専門でした。旧約・新約聖書もぜんぶ読みました。だから宗教画が好きです。キリスト教からみた人間観にとても興味があります。そのあたりが深く関係あるように思いますね。
なるほど! 清田さんのお写真の感じは、どことなく宗教画っぽいところがあります。しかし、どうして西洋史学科を?
もともと、世界とは何か、幸せとは何か、みたいなことに興味があったので、哲学を学びたいと思っていました。……中二病(笑)でも、大学のとき麻雀をやりすぎて成績が悪くて哲学科には行かれなかったのです。そこで、近いジャンルは何だろうと考えていたときに、西洋史のキリスト教があると知りました。
ドレスやチュールがお好きなのも、そこからでしょうか?
いや……僕、CLAMP の作品が大好きで……。「 魔法騎士レイアース 」とか、わかります?
あーーーーーーーーーーーー!!!!! わたし、もう、一瞬で清田さんのこと、理解しましたね。羽根とかタイルとか。衣装の広がり方とか。もうわかった、全部(笑)
同世代ですものね(笑) 線が細くてテクスチャを描き込んでいくスタイル。あのうつくしさが当時は大変な衝撃でした。漫画なのですけど、デザインとして完成されていますよね。イラスト集も持っていましたし、ポスターも部屋に飾っていました。僕の部屋、完全に女の子テイストでしたね。
学生のころ「 X 」なんかめちゃ読みましたね。あと、原画展でマジ泣きしましたね。
同じく(笑) 最近だと「 まどかマギカ 」とか「 デスノート 」も好きです。デザイン的で、線がきれいですね。あとは天野喜孝さんも好きですね。
昔、天野さんの真似をして鉛筆であやしいモンスターみたいなものを描いていました……(笑) 通った道が同じすぎて禿げそうです。ホント、清田さんの「 好き 」には感動を覚えるくらい一貫性がありますし、それに忠実に生きていらっしゃいますね。
それが僕の人生哲学ですね。あ、でも1回ぶれたことがあるのですよ。それは「 オールドレンズ 」ですね。ふんわりした写真を撮ったら、スランプになりましたね(笑)
なんでもやってみよう、というのも清田さんらしい気がします(笑)
■ 絞った撮影に嬉しい大光量の MG10
クリップオンストロボはいつ頃から使われているのでしょうか?
写真を始めたころに3灯買って、それ以来ずっと使っています。そういえば、ニッシンジャパンさんのクリップオンストロボセミナーにも何回か参加したことがあります。浅岡省一さんや関一也さん、イルコさんのセミナーですね。
ええー! そうだったのですね! 参加者の方がいまこのように活躍されているとは、嬉しいことですね!
ニッシンジャパンさんのクリップオンストロボは手に入れやすい価格なのが助かりますよね。あとは、セッティングも早くできますし。電源のない場所でも使えますので、お仕事でもよく使っています。
本日使った、MG10 はいかがでしたか?
僕はさきほどご説明した通り、絞って撮影することが多いので、MG10 のように光量が大きいものは本当にありがたいですね。外ロケでもよく使っています。また、安定性が高いので、仕事でも安心して使えます。色もバラつかないですし。また、Air10s で、手元で光量の操作ができるのが大変ありがたいです。もし、ひとりで今日のような俯瞰の撮影をするとしたら、手元で光量操作ができないと絶対に無理ですよね……。
さきほど少し出ましたが、アクセサリはあまり使わないというお話が意外でした。
「 これがないと撮れない 」という状態になりたくないのです。いつも臨機応変にできるようにしたいと思っています。何かに頼りすぎると、選択肢が狭まってしまう気がして。
撮影で気をつけていることはありますか?
モデルさんが「 快 」か「 不快 」か常に気にしています。モデルファーストです。あと、絵として気をつけていることは四隅まで見ることです。ドレスの裾の流れなどは注意します。僕はレタッチ前提で撮影をしていますが、レタッチで直せないものは現場で必ずやるようにしています。ドレスのシルエットなどはそのひとつですね。そして、色被りも少なく、レタッチのしやすい、正常なデータが得られるように気をつけています。シャドウをつけるとでこぼこがレタッチしづらいので……。
清田さんの作品とレタッチは切り離せないですね。レタッチはどこで学ばれたのでしょうか?
デザイナー時代に、本や海外の Web のチュートリアルを見て勉強しました。
■ ストロボ上達への道
クリップオンストロボユーザーのみなさまに、ライティング上達のアドバイスをお願いいたします。
やはり、ストロボのライティングは数をこなすことが重要です。僕、撮影会に行っていたのでよくわかるのですが……。撮影会で、ストロボを使って撮ったとき、イマイチだとやめちゃう人が多いのです。自分も最初そうでしたけど(笑) モデルさんの顔色を見ちゃって、続けられない空気感に耐えられなくて、やめちゃうのです。でも、最初なんてヘタに決まっているし。心が折れそうでも、がんばってそれに耐えましょう! 上達のためには、かっこ悪さも見せましょう。
経験に基づくアドバイス、とっても説得力があります……。
あとは、何もないシンプルな場所で練習することが大切ですね。宣伝になっちゃいますけど、うちのスタジオもぜひ利用してみてください。
清田さんの今後について教えてください。
もっとストーリー性のある作品をつくりたいと思っています。具体的には、ヒューマン部分をテーマにしたつくりこみをしたいです。「 嫉妬 」とか。そのために必要な、つくりこみのあるスタジオをいま構想中です!
「 嫉妬 」をテーマにした部屋!? (笑)行ってみたいです……。
新しいスタジオは、清田写真スタジオの近くに、今年の秋くらいにはオープン予定です。撮影だけではなく、イベントなどにも貸出ししたいと思っています。また、スタジオというコミュニティができることで、周りの方、チームのみんな、仲間も幸せ・豊かになって欲しいと思っています。
おたくの香りをさせつつも、常に前を向いて積極的に行動し続ける清田さん、本当にスゴイ! これぞニュータイプ。自分の好きを仕事にするってこういうことなのかな、と思いました。また「 好き 」に一貫性があり、作品の根底に流れるものも、きっちりと理解できました。いままでモヤっとしていた清田さん像がクリアになり、大変すがすがしい気持ちです(笑) やはり人物を知ると、その方の写真も深く理解できるようになりますね。清田さん、ありがとうございました。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
大村祐里子
■ モデル ■
大川 由貴
■ スタジオ ■
清田写真スタジオ