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ソニーに聞く
インタビューに応えてくれた、ソニー株式会社 半導体事業本部 イメージセンサ事業部 事業推進部 事業戦略担当部長 野村秀雄氏。 |
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ソニーのコンパクトデジカメ
スリムボディが目を引く『DSC-T700』。イメージセンサーにはソニー独自開発の有効1010万画素、1/2.3型の「Super HAD CCD」を搭載している。ソニーはコンパクトデジカメでは多くの製品にCCDを選択している。
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解説
2008年6月、ソニーは「裏面照射型CMOSイメージセンサー」を開発していることを発表しました。同社では「従来比約2倍(*1)の感度、および低ノイズで高画質を実現できる」としています。
「裏面型」とはつまり「ウラ面」を使うということ…ウラ面と聞くとあんまり良いイメージは浮かばないのですが、ウラ面やオモテ面っていったいどういうことなんでしょうか。
話を聞いていくうちに、CMOSセンサーのオモテ面を使っている現在の技術が持つ、いろいろな課題も理解できました。ソニーの「裏面」照射型…もしかすると10年後には、こっちがオモテ面になっているかもしれませんよ。
(*1 同じ画素サイズ(1.75um)の同社従来型(表面照射型)と裏面照射型のCMOSイメージセンサーとの比較)
Q:
以前、デジタルカメラで使われているイメージセンサー(撮像素子)はCCDが主流でした。特に"画質を重視するならCCD"なんて言われている頃もありました。
ところが、CMOSセンサーが台頭しはじめ、デジタル一眼レフで爆発的に売れたキヤノンの『EOS Kiss Digital』あたりから大型のCMOSセンサーが注目されはじめ、今ではデジタル一眼ではCMOSセンサーが多くなっています。
御社では、コンパクトデジカメやデジタル一眼レフはもちろん、関連会社含めればカメラ付きケータイなど、豊富な機種をラインアップしていますが、CCDとCMOSではどのように利点に注目して採用しているのでしょうか。
まずはそのあたりを教えていただけますか?
現時点では、コンパクトデジカメの場合はCCDが良いでしょう。
同じ小ささのユニットセルサイズを作るとしたら、CMOSよりCCDの方が圧倒的に利点が多いからです。CMOSは信号を電圧として取り出す関係上、配線層が必須になりますが、開発メーカー各社はこの配線層を減らしたり、薄くする技術を開発しています。
一方、CCDは信号がシリコンの中を伝わっていくため、シリコンに電圧を与える電極があれば良いんです。つまり、CMOSのような配線層はほとんど不要で、しくみはとてもシンプルです。
解説
半導体用語では、よくメタル層の数で構造の複雑さを現します。基板でも×層基板などと表現します。例えば、CMOSセンサーが3層基板構造になるのに対して、CCDは1層で済む等、とてもシンプルなしくみをとっていることを解説してもらいました。
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画像C イメージセンサーの基本構造
光は (1).オンチップレンズ/カラーフィルタ → (2).配線層→ (3).フォトダイオード受光 というルートを通る。配線層(2)が多い(左図)とオンチップレンズ(1)からフォトダイオード(3)までの距離が長くなるために、光(情報)が欠損する可能性が増える。右は、配線の層数が少なく薄い場合のセンサーをイメージした図。光の欠損は少ない。(左イメージイラスト出展:ソニー株式会社。右は編集部で改変して作成) |
Q:
断面図を見ると、カラーフィルタとフォトダイオードの中間に配線層がありますが、それはCCDとCMOSのどちらも中間にあるんですか?
そうです。CCDの場合は配線層が1層で済むケースが多いですが、CMOSの場合は2層3層になり、更に絶縁層を設ける必要が出てきたりもしますので、層の数が増えるほど、フィルタからフォトダイオードまでの距離が長くなってしまいます。
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コンパクトデジカメにはCCDを選択
「CCDは配線層が薄くシンプルにできるので、光の欠損やケラレが少なく、小型機には向いている」 |
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CMOSセンサーのメリット
「CMOSは消費電力が低く、開発がしやすい」
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CMOSセンサーの課題
「配線層が厚くなりがちなCMOSセンサーは例えるなら長い筒。まっすぐな光は集光できるが、斜めからの光はケラレやすく周辺光量の落ち込みも顕著」 |
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Q.
光が通り抜けなければならない筒が長くなるわけですね。
オンチップレンズとカラーフィルタを通った光は配線層を通ってフォトダイオードに集光するので、配線層が長くて光の通り道が細いということは、解りやすく表現すれば望遠鏡や顕微鏡のように長い距離を使って集光する必要があります。
まっすぐに入ってくる光は問題ありませんが、斜めに入ってくる光は集光しきれずに欠損が出てきますね。この欠損のことを「ケラレ」と呼んでいます。
Q:
なるほど、オンチップレンズからフォトダイオードまでの距離が短ければ横からの光であっても問題は少ないけれど、長くなればなるほどケラレによって届かない情報が増えるわけですね。
そうです、これは画素のサイズと相対性にあります。例えば、700〜800万画素のセンサーの場合、ピッチが2ミクロンを切っています。配線層はCMOSセンサーだと画素ピッチの数倍の厚さが必要なので、かなり長い筒状の通路を如何に集光するかという技術が重要になります。
Q.
小型で高解像度のセンサーほど、CMOSでは相対的に筒が細長い形状になってしまうわけですね。
つまり、コンパクトデジカメなど比較的小さいセンサーを積む製品の場合、CCDの方がまっすぐに光を届けなければならないというレンズ設計上の制約も比較的少なくて済むし、情報のケラレ(欠損)が少ないので良いということですね。
更に、CCDの配線部は山のような形状に切れているので、斜めの光も集光しやすいという要素もあります。
まっすぐな光というのは2つの要素で決まります。ひとつは元々のレンズが持っている「画角」です。最近のコンパクトデジカメでも「広角何mm」という広告コピーを見ると思いますが、広角になればなるほど光は斜めに入ってきます。
もうひとつは「絞り」です。絞りを開くと光は斜めにも入ってきます。
Q.
最近はコンパクトデジカメでもF値が2.8など、明るいレンズの製品が増えてきました。
絞りが絞られた状態だと光は比較的まっすぐに入ってきますが、明るいレンズで広角になると光が斜めにも入りやすくなります。
レンズやセンサーなど、性能はあくまでトータルで考えなければいけませんが、小型のセンサーを使うコンパクトデジカメの場合、CCDは安定していますが、CMOSセンサーでは周辺光量の落ち込みなどを抑制する配慮をレンズ設計などでより綿密に行う必要があります。
Q.
よくわかりました。しかし、CMOSセンサーにも利点はありますよね。
CMOSセンサーの利点は消費電力が低いことです。次に、システムインテグレートがしやすいこと…弊社製のセンサーの場合はADコンバータが内蔵されているなど、作りやすい点がメリットになります。携帯電話やビデオカムコーダーでは重要な要素ですね。
Q.
各社のデジタル一眼レフに積まれる大型のセンサーにも、CMOSが多く採用されていますね。一眼レフなどの場合はCMOSのどの部分が利点となっているのでしょうか。
一眼レフなどの大型センサーの場合、オンチップレンズからセンサーまでの厚さは画素ピッチと比較すると比率的に大きくないためCCDの配線層が薄いという利点は薄れます。またセンサーは大型になるほど消費電力が大きいこと、連写などで高速な処理が必要なことなどから、CMOSの利点が活きてきます。
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