KANI フィルター で角形フィルター入門!第4回 角型フィルター de タイムラプス!
Photo & Text:薮田織也
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使ってみたい機材だけど使い方がよくわからなくて……。という読者にお送りする本短期連載「KANI フィルター で角形フィルター入門! これまでは角型フィルターの基本的な使い方をお届けしてきた本連載ですが、今回は活用術に特化してお届けします by 編集部 |
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皆さんお久しぶりです。前回の記事からかなり間が空いてしまったが、サボっていたわけではありません。いやホント。今回の記事に掲載する予定だった作例を撮るために6月から約半年に渡ってあちこちとロケに行っていたのだが、天候に左右されて目的の画がまったく撮れなかったのであるのである。目的の画とは角型フィルターを使って撮る天の川……。今年は完敗。天の川撮影は常に南西方向を向いたロケーションでないとダメという制約も撮影を難しくしたが、光害カットフィルターの作例でもあったので、ある程度の光害があるロケーションを選んだことも災いした。風景写真は狙ったものが確実に撮れるとは限らないのは十分に承知していたが、やっぱり悔しい。しかしタダでは転ばない主義の薮田なので方針転換。今回は特殊な角型フィルターホルダーと、角型フィルターを使ったタイムラプス動画の撮りかたを紹介したいと思う。
1.シャッターチャンスを逃さない秘密兵器
これまで本連載で紹介してきたように、角型フィルターは風景写真の画作りにおいて欠かせない機材となりつつある。しかし! その形状ゆえに取り回しが少々不便なことは否めない。レンズにアダプターリングとフィルターホルダーを装着した後でフィルター板を挿入し……と、準備に時間がかかるのは最高の画作りをするための儀式のようなものだと思えば思えるが、ものぐさな薮田は正直な話しちょっと面倒だとも感じている( おいっ )。だって、150mm 幅のフィルターシステムをレンズ先頭につけたままだと移動が大変じゃないですかぁ~( いや外して移動しろよ )。
どっしりと腰を据え、三脚を使った風景撮影なら角型フィルターシステムの装着に不便を感じることはないが、スナップ撮影となると準備している間にシャッターチャンスを逃しかねない。角型フィルターシステムを準備している暇がない! と感じたときは、フィルター板単体を手持ちでレンズ前にあてがって撮影したりもした。手が滑ってフィルター板を落としてしまったら……と不安を感じることもしばしばだったので、1年ほど前に 3D プリンターでの工作が得意な知人の写真家Tさんに頼んでハンディータイプの 100mm 幅角型フィルターホルダーを作ってもらった。それはそれは大変に重宝していたのだが、なんと、KANI 社から同様のハンドホルダー( 写真2 )がこの秋に登場したのだ!
こういったグッズがフィルターメーカーから発売されないのならTさんに作ってもらったものを記事で紹介するからねーなんて言っていたのだが……出ちゃった。ごめんなさいTさん……。今度ご飯奢るから許して。と、いうわけで、ものぐさな薮田にとって大変に嬉しいハンドホルダーが公式で登場したわけだが、これが本当に便利。
写真1は天の川撮影で訪れた城ヶ島で、日没前に撮影準備をしていたときのもの。まだカメラを三脚に据えたばかりでフィルターシステムは準備していなかったのだが、沖を走る船に夕陽とカップルの組み合わせがシャッターチャンスだと思い、即座に KANI リバース GND 0.9 とハンドホルダーを引っ張り出して撮ったものだ。
KANI 製ハンドホルダーは、150mm 幅と 100mm 幅が用意されていて、フィルタースロットは標準で3スロットが装着されている。フィルタースロット部は六角ネジで固定されているが、ネジを緩めてはずせば他のスロットと交換できる。また把手部の下部には 1/4 メスネジが切ってあるので、三脚や他のアクセサリーに装着できる。薮田の場合はミニ三脚を取り付けて 600mm の超望遠レンズで使った。
メーカーサイトで「 リバース GND 0.9 」をみる
メーカーサイトで「 ハンドホルダー 」をみる
写真4はハンドホルダーを使って撮ったもうひとつの作例。山梨は北杜市での撮影を終えて一般道を車で帰宅途中に撮った夕景。雲の形が変わってしまう前に撮影したかったので、ハンドホルダーが大変に重宝した。
2.タイムラプス撮影に挑戦!
本来予定していた撮影は「 街の夜景と天の川 」。ただ撮るだけじゃなく、タイムラプス動画で天の川を撮る予定だった。残念ながら天の川は撮れなかったが、夕陽と夜景、そして星空のタイムラプスは撮れたので、その撮りかたと角型フィルターの活用術をここで紹介しようと思う。
ところでタイムラプス撮影とは、一定間隔で撮影した画像をつなぎ合わせて動画にする撮影のことだが、百聞は一見にしかずなのでまずは今回撮ったタイムラプス動画( 動画1 )をご覧いただきたい。( 音楽が流れるので音量に注意 )なお動画の品質は WQHD フルサイズ( 2560×1440px )でも高画質で表示されるように設定してあるが、もし文字にジャギーが出るようなら Youtube 画面で 1440p 設定に変更して閲覧して欲しい。
長野は松本市にある思い出の丘からのタイムラプス
Camera : Olympus OM-D E-M1 mark III
Lenz : M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
Filter Holder : KANI HT II 100mm Holder
Filter : HT Pro+ MC Hard GND 0.9
Video created in Adobe Photoshop 2020 by Oliya T. Yabuta
Location : Omoide no Oka in Nagano
Free Music : https://dova-s.jp/
Title : おやすみ
Composer : ゆうきわたる
動画1は、美ヶ原高原から下がった場所にある丘で、武石峰や美ヶ原高原、北アルプス、そして松本市街地が展望できる場所。日没前からここに陣取り、夕景と夜景の両方をタイムラプスで撮ることにした。撮影のインターバルタイムは 30 秒で撮影時間は1時間。よって 120 カットで構成したタイムラプス動画だ。フレームレイトは尺を伸ばすために通常の 1/10 である3fps。ガクガクした動画ではあるが、夕陽が落ちて夕景に変わる街並みをお見せするには十分だろう。
最近のデジタルカメラであればインターバル撮影機能は標準で装備されていることと思う。もし機能がなければインターバル機能付きのリモコン( レリーズ )を使うとよいだろう。そうしたリモコンもなければ、時計を確認しながら手動でシャッターを切るしかない。もちろん揺れを防ぐためにリモコンは必須だ。
ちなみに今回撮影に使ったカメラ OM-D E-M1 mark III にはインターバル撮影機能はもちろん搭載されているが、同時にタイムラプス動画を自動生成する機能もある。今回は Photoshop でタイムラプス動画を作りたかったので、この機能はオフにして撮影した。
タイムラプス撮影するときは堅牢な三脚が必要だ。長秒露光するならもちろんだが、たとえ昼間のタイムラプス撮影でも、ほんの少しの揺れや三脚位置のズレでコマ間の構図がズレてしまう。スムーズにつながる綺麗なタイムラプス動画を撮りたいなら丈夫な三脚で撮影することだ。夜間のタイムラプス撮影なら、夜露をさけるためにカメラとレンズを覆うタオルを用意しておこう。冬場であれば使い捨てカイロをタオル内部に仕込んでレンズ鏡筒( 特に前玉部分 )を暖めることも重要となる。これはレンズ内部での結露を防ぐためだ。ときおりフィルター前面が結露していないかの確認も必要だ。
さて、タイムラプス撮影において角型フィルターを使うときのコツだが、基本的な使い方は風景写真を撮るときとなんら変わりはない。GND( グラデーション ND )フィルターで明るすぎる場所をアンダーにするだけだ。ただ、動画1のような夕景から夜景に変わるタイムラプスの場合だと、ひとつだけ簡単なコツが必要となる。それはもうおわかりだと思うが、夕景と夜景で明るい箇所が逆転するからである。
当たり前だが夕景では画面上部の露出を抑える必要があるので、GND フィルターの ND がかかった部分を上にして空を暗く撮影する。今回使った GND フィルターは KANI HT Pro+ MC Hard GND 0.9 だ。そして夕陽が落ちて街の夜景が灯りはじめたら GND フィルターを 180 °回転させて撮影するわけだ。KANI のフィルターホルダーはロックを緩めればホルダー部分だけを静かに回転させられる。カメラの位置に影響がでないようにそおっと回転させよう。動画1はそうやって撮影したものだ。
タイムラプス撮影する上でこうした時間によって大きく露出が変わるシーンでの露出設定が悩みの種になる。夕暮れから夜景までを撮影する場合、プログラムオートで撮ると1枚観る限りでは適正な露出で撮れているように見えても、全コマを繋いで動画にすると画の明るさがバラバラで連続性がなくなってしまう。そのため、基本的にはマニュアル露出モードに設定し、絞り、シャッタースピードともに固定して、露出の変化は ISO オートで対応する。それでも実際に撮影すると構図内の光の変化でわずかだが露出にバラツキが出てしまうことがある。動画1では、この微妙なバラツキを Raw 現像の時点で補正してから動画にした。
メーカーサイトで「 KANI HT Pro+ MC Hard GND 0.9 」をみる
少し蛇足になるが、こうしたタイムラプスで太陽を入れた風景を撮る場合は、ミラーレスカメラよりも一眼レフカメラの方が安全だ。長秒撮影は論外だが、速いシャッタースピードのタイムラプスであっても、ミラーレスを長時間太陽に向けて撮影していると撮像素子に太陽が焼き付いてしまうことがあるのだ。その点で一眼レフであればライブビューを使わない限りミラーが降りて撮像素子は守られる。今回は雲がかかった夕陽だったので、構わずにミラーレスである OM-D で撮影した。GND フィルターも使っていたし。
3.星景のタイムラプス
今回最後のネタはインターバル撮影した星景写真を元にしたタイムラプス動画の作り方。まずは動画( 音楽が流れるので音量に注意 )を観ていただこう。
山中湖で撮影した富士山と星空のタイムラプス動画。富士山の左肩にうっすらと天の川の尻尾が映っているのがおわかりいただけるだろうか
Camera : Nikon D850
Lenz : TAMRON SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD G2
Filter Holder : KANI 150mm Holder
Filter : Premium Center GND 0.9 & Light Pollution Reduction Filter
Location : Yamanaka-ko
Video created in Adobe Photoshop 2020 by Oliya T. Yabuta
Free Music : https://dova-s.jp/
Title : 星降る砂浜で
Composer : クラウンジ
動画1は 30 秒で1コマのタイムラプスだったが、動画2は 15 秒で1コマ。約 25 分間の撮影で計 100 カット。30fps の動画にするとたった 3.3 秒の動画だが、Photoshop のタイムラインで 13 回繋いで全体で約1分の動画に構成した。少しは北極星を中心とした星の回転がおわかりいただけるだろう。また西に飛んで行く飛行機の灯りも演出に一役買ってくれている。
動画1のセクションでも書いたが、夕景→ブルーアワー→夜景といった露出が大きく変化する時間帯でのタイムラプス撮影では、露出設定をどうするかの問題が必ず出てくる。OM-D E-M1 mark III では Raw 現像時に手動で調整をしたが、今度はカメラを Nikon D850 に変えて、「 露出平滑化 」機能で撮影してみた。この「 露出平滑化 」とは、Nikon の D810 で初めて搭載された機能で、インターバル撮影時で複数枚撮影するとき、ファーストカットの露出とそれ以降のカットで明るさが変化しないようにカメラが自動で露出を調整してくれるものだ。すべての露出モードで使えるが、マニュアル露出モードを選んでいるときには ISO 感度設定の自動制御がオフになっていると無効になってしまうので要注意。動画2ではこの「 露出平滑化 」機能を使い、マニュアル露出+ISO オートで撮影してみた。
( OM-D E-M1 mark III には残念ながらこの手の機能がない )
本来は天の川を撮る予定だったが、この撮影は 11 月中旬。季節的に天の川の中心が地平線の下になってしまいはっきりとした天の川は撮れない季節であり、しかも静岡県側の光害が強すぎて、LPRF という光害カットフィルターを使っても天の川の姿を映し込むことはできなかった。ただ、目を凝らして動画をみていただくと、富士山の左肩あたりにうっすらと天の川の尻尾が観てとれると思う。
動画2で役立ってくれた角型フィルターは、Premium Center GND 0.9 と LPRF( Light Pollution Reduction Filter )だ。Center GND フィルターは、フィルター板中央部だけに ND がかかったフィルターで、富士山と湖面の境目にある夜景を押さえるために使った。もうひとつのフィルター、LPRF とは光害カットフィルターのことで、星景写真を撮るときに光害、すなわち街の灯りに色かぶりやハイライトの滲みをカットしてくれるフィルターだ。
今回の動画1、2は両方共に Adobe Photoshop CC 2020 だけで作成した。Adobe Premiere Pro を使えばもっといろいろな演出を加えた動画が作れるが、純粋なタイムラプス動画であれば Photoshop だけで十二分なものが作れる。
メーカーサイトで「 Premium Center GND 0.9 」をみる
メーカーサイトで「 LPRF( Light Pollution Reduction Filter ) 」をみる
流行のタイムラプス動画だが、タイムラプス自体の考え方や実際にタイムラプス撮影してからの動画作成はかなり以前からある。薮田の経験から言うと 1980 年代にはその手の映画を観た覚えがある。コンピュータが普及してからは、自分でも静止画をつなぎ合わせて数分の動画を作成したりした。1990 年前後のことだ。今ではタイムラプス動画を撮影したその場で生成してくれる OM-D E-M1 mark III のようなカメラもあるし、タイムラプス撮影&動画生成のスマホアプリもある。ただ薮田の場合は Raw で撮影し、きちんと現像してから動画化したいと考えるたちなので、Photoshop でフィックスさせたかった。
4.まとめ
タイムラプス撮影というと、カメラ本体やレンズ、そして撮影時の露出設定や後処理に話題が集中しがちだが、実際の現場ではフィルターの有無がかなり重要だ。特に光害についてはカメラ本体やレンズではいかんともしがたく、Raw 現像でも対処しきれない。やはり LPRF などの光害カットフィルターは欠かせないだろう。またタイムラプス撮影では太陽光や夜景などの光の変化を映し込むことが多く、そのために構図において明暗差をコントロールする必要がどうしても出てくる。よって GND フィルターが欠かせないことも書くまでもないだろう。薮田自身もタイムラプス撮影は今回が初めてだったので、角型フィルターをもっと駆使して追い込んだ撮影をしてみようと思った次第だ。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
薮田織也事務所
■ 協力 ■
KANI Filter