大村祐里子の
プロ写真家に聞く ライティング術 第2回
星景ポートレート・関一也氏に聞く
ロケーション撮影のライティング術
TOPIX
こんにちは大村祐里子です。前回から4ヶ月も空いちゃいましたが、「 大村祐里子のプロ写真家に聞く ライティング術 」の2回目は、とっても魅力的なポートレイトを撮られている若手写真家! アグレッシブ王子こと「 関一也 」さんに登場していただきます。勝手にわたしがアグレッシブ王子なんてニックネームを関さんに付けちゃいましたが、なんじゃそれ? ですよね。まぁまぁ、その理由はこの記事を読み進めていただければ自然と理解してもらえると思います(笑) ( 大村 ) |
■ 未知との遭遇!
写真家 : 関一也Plus ONE Film Works 代表、株式会社白雪姫 Beautician & Photographer。 |
関さんとのお話しの前に、ちょっとだけ自分語りしちゃいますが、実は私もポートレートを撮る人なんです。だから他の人物写真家さんたちのお話しを伺うのはとっても興味があって、今回の関さんの取材も1ヶ月以上前からワクワクものでした。関さんが撮る写真は以前から拝見していて、こんな素敵な写真をどうやって撮るんだろうとか、ロケーション選びはどうしてるんだろう、撮ってるときは何を考えてるんだろう、なんて、いろんなことがずーっと疑問だったんです。この取材でそんな疑問がやっと解消できるっていうんで、喜び勇んで関さんが住む長野までモデルさんと一緒に突撃しちゃいました!
■ ロケーションの選び方
以前から関さんの写真は拝見しているんですけど、山の上での星空をバックにした写真が代表的ですよね。とっても素敵な写真だと思います。わたしは普段スタジオ撮影ばかりで、こういった自然のロケーション撮影をまったくしないので、私には撮れない写真だなーって思ってるんです。そんなわけで、どうやって撮影してるんだろうってとっても興味があるんです。
褒めていただきありがとうございます。僕は大村さんと逆で自然のロケーション撮影ばかりで、スタジオ撮影はほとんどやったことがないんです。今後やってみたいもののひとつですね。
今日は、関さんが一番こだわっていらっしゃるという星空をバックにした「 星景ポートレート 」の撮影を見せていただく予定でしたが……そのためにモデルさんにも来ていただいて……すごい楽しみにしてたんですけど……生憎の曇り空です( がーん )……。どうしましょ……。
全然大丈夫ですよ(笑)。そんなに落ち込まないで(笑)。星空は無理かもしれませんが、どうにかなるものです。「 曇り空 」+「 ナイトロケーション 」の条件でも絵になる場所が必ず見つかりますよ。まだ明るいですから、今のうちにロケハンに行きましょうか。さぁ行きましょう。
あ、は、はい。( 楽観的っていうか、アグレッシブ? )
長野県は中野市にある、関さんのお母様が経営されている美容室「 白雪姫 」で取材を始めたのもつかの間、関さんが運転するエクストレイルに同乗させてもらい、いざロケハンに出発! 普段の撮影で使うロケーションが数多くあるんだろうから、すぐにロケ地は見つかるのかも、なーんて考えていたら、走る走る! 山道、未舗装路、いけいけどんどん。途中、山の上のスキー場のリフト乗り場で降りて、ここにするのかな? って思った途端、「 次いきましょ 」でさらに走り、結局着いたのは新潟県中魚沼郡津南町にある「 津南ひまわり広場 」。
さぁ、ここです。ここで撮りましょう。
……??。あのー、ここ、ひまわり畑ですよね? なんでまたひまわり畑っすか??
今日のモデルさんが着ているドレスが「 青 」、空は曇り空、そしてナイトロケーション。この3つの条件でいい画になるって言えば、ひまわり畑かなーって。
!! 確かに! 私でもなんとなく配色の良さがわかってきました! ちょっと聞いていいですか? 関さんの facebook を見てると、驚くほどいろんなロケーションで撮影されてますよね? わたしは行ったことのない場所ばかりで、このひまわり畑もそうなんですけど、普段どうやってロケ場所を探してるんですか?
ウエディングフォトの前撮りはロケーション撮影が普通なので、普段から週2回はロケハンしてるんですよ。だからこの辺りはほとんどまわってますね。
( この辺りって、ここ新潟っすよ )週2でロケハンって、仕事だとしてもすごい頻度ですよ。事前にネットで調べたりしてるんですか?
いや、あまり詳細に調べてもつまらないじゃないですか(笑) 朝日をバックに撮りたいと思ったら、朝日が見えそうな場所はあの辺りかな~と、なんとなくあたりをつけてとにかく行ってみるんですよ。具体的な良いポイントは現地についてからとことん探します。まずはフットワークは軽く! が信条っすね。そうやって、自分だけのポイントを見つけていきます。
ここへ来る途中でも、星空が綺麗に見えそうな山道で、車からおりて貪欲にロケハンされていましたよね(笑) わたしはさきほども言いましたがスタジオ撮影がほとんどなので、関さんのように「 自分だけのポイント 」を持っていらっしゃる方がうらやましいです……。写真に個性が出ますよねえ。お話をお伺いすると、ロケハンがとても重要なのだなと思います。ロケハンのとき、注意することがあれば教えてください。
実際に撮影する時期・時間帯に行くことが大事です。春先だと天の川が東側に出るので、西の山に登って撮影するべきですし。あと、ウエディングの場合はプロのモデルさんを撮るわけではないので、モデルさんのテンションが緩まないような場所を探しておくことが大事です。
■ ロケーション撮影のマナー
モデルさんのテンションは大事ですよねー。わたしも撮影中ほとんどの力をそこに注いでいますね。面白い話をして楽しい気持ちになってもらおうとか、撮影時間が長くなりすぎないようにしようとか。当たり前ですけど、モデルさんは人間で、いろんな感情をお持ちですからね。具体的にはどういうことを気をつけるのですか?
できるだけ人気のない場所を選びます。「 ええ~こんな人が多いところで撮るの~ 」って思われちゃうと、ロケーションがいくら良くてもモデルさんが集中できないからいい写真にならないんですよ。
なるほど! 今日のこのひまわり畑も、この薄暗い時刻なら誰もいませんものね! わたしもたまに写真を撮っていただく機会があるんですけど、人の多い場所だとかなり恥ずかしくて「 早く終わってくれ~ 」って思ってソワソワしますわ(笑) やっぱりモデルさんの気持ちを考えないといけませんね。どんなポートレートであれ、それは鉄則ですね。意外と撮られてみないとわからないかも、そういうこと。
そうそう、あと、風景カメラマンの多いところも避けましょう。フラッシュを焚くとその方々へ迷惑になっちゃったりしますから。モデルさんだけじゃなく、他の人にも気遣いを忘れないようにしましょう。
関さんが話したいろいろな気遣いは、ロケーション撮影ならではの注意点ですね。最近、ロケーション撮影中のマナーの問題をよく耳にしますが、公園のお花がカメラマンに踏み荒らされているニュースなんかを聞くと悲しくなります。撮影中はついつい自分のことしか見えなくなってしまいますが、やっぱり周囲に迷惑をかけなようにしなければなりませんね。入っちゃいけないところには入らないように、とか。入りたくなっちゃうのはホントわかるんですけど……。結局わたしたち写真が好きな人全部の首をしめることになることですから。
さて、こうやって実際に現場に到着しました! これから撮影始めるぞーってとき、関さんが最初に考えることを知りたいです。
まず考えるのは、良いアングルを探すことです。モデルさんは一切抜きにして、背景だけを見ます。僕は最終的に「 1枚の絵 」として飾ってもらえるような写真を撮りたいんです。そういった完成度の高い写真を撮るためには、ロケーション選びは「 命 」です。モデルさんに入ってもらうのはそのあとです。
ここがわたしと関さんとの決定的な違いなんです。わたしはモデルさんを抜きにして背景だけを見ることができません。モデルさんに動いてもらって、そのモデルさんの表情に合う場所を探さないとシャッターが切れないんですよねぇ……。関さんのやり方なら、モデルさんを無意味に疲れさせることがないわけですよ! 精進精進!
さて、駐車場に車を止め、ひまわり畑の中をぐるりとまわって、関さんが撮影に選んだ場所は、他とはいろいろなポイントが異なる絶妙な場所でした。
へ~、なんかここちょっと他とは違いますねぇ。関さん、なんでここを選んだんですか?
まずは今日のロケーション撮影のキモ、ひまわりが綺麗に見える場所はここが一番かなと。それと、これからどんどん空が青くなるブルーアワーにかけて、空をうまくフレームにおさめられる場所だなと思ったからです。最後のポイントは、ここに木の板があるでしょ? これがモデルさんの足場として使えそうだったので、ちょうどいいなと。
なーるほど! 足場の悪い畑ですしね、足場はとっても重要ですね。モデルさんへの気遣いが素敵! やっぱり王子だわ~~。
■ 関ライティング!
最良の撮影場所を選んだら、いよいよライティングのことを考えるわけですね。わたしはこういうナイトロケーション撮影をほとんどしたことがないので、わからないことだらけです! ライティングの手順など詳しく知りたいです。ぜひ教えてください。
ライティングの段階でまずやるべきことは、レタッチの許容範囲内で背景の明るさを決めることです。今日のような広大なひまわり畑では、背景全体をクリップオン・ストロボで照らすことができません。当たり前ですけど(笑) だから背景はストロボではなく長時間露光で明るくする必要があります。今テストしてみたところ、シャッタースピードが 10 秒くらいで、背景のひまわりと空の明るさがちょうど良い感じになるようでした。そうやって背景の明るさを決めてから、今度はモデルさんを照らすにはどのようなライティングをすれば良いのか考えます。
関さんが使ったのは、Nissin ストロボの Di700A というクリップオン・ストロボ3台ですが、この配置( 図1 )の説明をしてもらえますか?
ひまわり畑と広い空に負けないくらい、モデルさんの存在感も強調しようと思ったので、モデルさんを左右( A、B )から挟み込むようにライティングしました。こうするとモデルさんに立体感が出て、印象を強めることができます。
左右のストロボで光量が違うのはなぜですか?
テスト撮影しつつ、よりイメージに近い光量を選んだらこうなったんです。Di700A は、カメラに装着したコマンダーの Air1 で手元で調光できるから、わざわざ遠くに設置したストロボまで行って調光しなくても済むので便利ですよね。こうした環境での撮影では、背景に比べてモデルへの光が「 ちょっと明るいかな 」くらいに調光するといいですよ。TTL 調光で適正になる明るさで撮影すると、モデルさんが背景に埋もれた印象になってしまいます。だから TTL を使うなら、プラス方向へ補正してあげましょう。逆に、明るく撮りすぎると、レタッチで全体を暗く調整したとき、背景が暗くなりすぎるので注意です。
なるほど! レタッチで、モデルさんをちょうどよい明るさに調整したとき、背景が暗くなりすぎることがあります! 撮影時にそこまで気にしないといけない、ということなのですね。追加でお聞きしたいのですが、左右のストロボにはいずれもグリッドを着けて、さらにオレンジ色のカラーフィルターをつけてますよね?
ストロボを裸のまま発光させるとひまわりの方まで照らされてしまって、ひまわり畑の一部だけが明るい不自然な写真になってしまうので、発光部にグリッドをつけて照らす範囲を狭めて、モデルさんにだけ光が当たるようにしました。また、カラーフィルターなしでライティングするとモデルさんが青白くなってしまうので、オレンジ色のカラーフィルターをつけて、肌になじむ自然な色の光で照らされるように調節しました。
もうひとつのストロボをモデルさんの背後( C )に置きましたね。これは?
人物の背後からライティングすると、光で肩や脚、衣装などのエッジが強調されて、その人の存在感が増します。今回はモデルさんの存在感を強調したかったので、このような配置にしました。
アクセサリを装着した3灯のストロボを使った贅沢なライティングで何回かのテスト撮影をした後、関さんはおもむろに LED のハンドライトをとりだします。なにをするんだろうと見ていたら、シャッターを切ってからの数十秒の長秒露光の間、LED ライトをくるくる回してひまわりを照らしながら走りだすではありませんか!
な、な、なにをされてるわけでありますか!(笑)
えっ? はぁはぁ、これね。モニタで写真を確認したら、空とモデルさんの明るさはちょうど良かったんだけど、ひまわり畑がちょっと暗いなと感じたんですよ。だから手持ちの LED ライトでひまわりだけを照らしたんです。はぁ。こういう現場での思いつき行動はよくあんですよ(笑) 普通の LED のハンドライトですけど、意外と綺麗に明るくできるものですよ。
あー、銀塩プリントの覆い焼きみたいですねー。なるほどー、ひまわりだけ見事に明るくなってますね。これならわたしにもできる気がします。覚えておきます(笑)
■ 水が足りなきゃオ○ッコで!?
撮影も終盤にさしかかった頃、LED ライトによるひまわりライトアップでもさらに何か足りないと感じ始めたようなアグレッシブ王子。今度は車からポリタンクを降ろしてきて、モデルさんの足元になにやら撒き始めるではありませんか! えっ!? もしかしてそれ、が、が、ガソ……
言っておきますけど、これは単なる水ですからね(笑) 何、ホッとしてるんですか、まさかモデルさんを焼くなんてことしませんよ(笑)
いやー、あー、そ、そうですよね。だけど、なんでまた水を撒き始めたんですか?
ふとね、道に水を撒いたら、そこへ光が反射していい感じに撮れるんじゃないかって思って。海に行ったときに足を洗う水タンクが積んであることを思い出したから、その水を撒いてみたんですよ。……んー、でもまだ足りないかなぁ。しょうがない、オシッコで代用するか。
えっ!? まじですかっ!
(笑)やるわけないでしょ。
アグレッシブ王子がオシッコ王子になるとこでしたよ。でもあれですね、ストロボで照らし出されたモデルさんのドレスが水に反射して、なんかとっても幻想的ですよね。( オシッコ発言がなければいい感じで終わってたのに…… )
オシッコ王……もとい、アグレッシブ王子、関さんの撮影を拝見していると、モデルさんへのポーズ指示を細かく出されているのだなと感じました。1カットごとに手の位置などを変えられていてびっくりです。わたしはポーズに関しては、モデルさん任せな感じで撮影をするので、あそこまで細かく指示はしないんです。やはりイメージ通りの写真を撮るために必要なことなんだと感心しきり。
関さんは写真家であると同時に美容師さんでもあるわけで、やっぱりライティングだけじゃなく、衣装やポージング、ヘアスタイル、メイクまで、いろいろと気になりますか?
そうですね。ポージングに関しては、光の入り方に合わせて、腕や脚など、モデルさんのエッジが立つように指示しますね。それと、衣装の色と背景の組み合わせには拘りますね。今回は夜の曇り空( 長秒露光では空がより青くなる )と青いドレスという同系色の組み合わせだったので、ひまわりの黄色が補色関係になってアクセントになるだろうなって。メイクやヘアスタイルにも、普通の写真家さんより気になるんでしょうね。ちょっとチークが強いよとか言っちゃうこともあるし(笑)、簡単なヘアセットでしたらその場でやってしまうこともありますよ。
ところで、今回使ったクリップオン・ストロボの Di700A とコマンダーの Air1 はいかがでしたか?
Di700A もそうですが、Air1 のつくりが大変にシンプルで、光量調整がしやすいのがとても良いなと感じました。つくりのややこしいストロボだと、こういった暗闇での操作は大変なんですよ。誤操作でもしたらリカバリしづらくなるし。Air1 は調光パネルが光りで確認できるので暗闇でも見やすかったです。Di700A も光量が十分にあるので助かります。
関さんは、カメラ本体の方もこだわりがあるみたいですよね。
僕は、カメラにはすごくこだわっているんです。キヤノン、ニコン、ソニーを、状況に応じて使い分けています。肌の階調が良いことから、動画とスナップはキヤノン、風景はニコンって感じで。特に、星空撮影にはよくニコンを使います。ダイナミックレンジが広いので、現像したときシャドウ側の階調が起こしやすいんです。そんな理由で今日はニコンを使っています。あと、ソニーですが、カメラが小さく機動性があるのでロケハンでよく使います。あとアダプタをつけると、他社のレンズが使えるので、レンズの幅が広がるところも気に入っています。
■ 観てくれる人を感動させたくて
関さんが星景ポートレートをされているモチベーションを教えていただけますか。
高校生の頃から将来は写真を仕事にしたいって思ってたんです。でも実家が美容院だということもあって、大学卒業後に美容学校を出て、いったんは美容師になりました。それでも写真の夢は捨てきれずに、ずっと撮ってはいたんです。実際、美容院と写真って結構つながりあって、その延長線上にウエディングフォトがあるわけですよ。そんなとき星景写真に出会って、ウエディングフォトと星景写真を組み合わせたら面白いんじゃないかって。親を説得して、美容師の仕事と平行して写真を仕事にし始めたんです。最初は自分で撮った星空と人物の合成写真をやっていたんですけど、これはこれで上手く合成できてはいたんですけどね、どんなに上手く合成できたとしても、それってどこまでいっても嘘じゃないですか。お客様に感動してもらうには、やっぱり一発撮りでやらなければと思うようになって、今のスタイルになっていったんです。
素晴らしいですね。ライティングはどのようにして勉強されたんですか?
最初は天井バウンスくらいしか知らなかったんですけどね、青天井のロケーション撮影で天バンは使えない(笑) だから本を買って読んだり、ネットで調べたりして勉強しました。最終的には実践で試行錯誤しながら覚えていきましたよ。
最後になりますが、アマチュアのクリップオンユーザーへ、なにかライティングが上達するアドバイスをしていただけますか。
僕のように遠回りしないで、いろいろなセミナーへ参加してみるのが上達への近道なのではないかと。最近は僕もいろんなセミナーに参加してますよ。あと、気になるフォトグラファーさんに質問して教えてもらうのも良いですね。さっきも言いましたけど、大村さんの写真のようにスタジオ撮影もしてみたいので、セミナーあったら紹介してください。行きますから(笑)
あ、アグレッシブ!(笑)
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
大村祐里子
■ 撮影協力 ■
ビューティーサロン白雪姫