柴田誠のフォトレポ
アート溢れる香港の週末
TOPIX
香港芸術節/Hong Kong Art Festivalが開催された3月の香港の街は、アートに溢れていた。アートフェアや写真展、ローカルのアートイベントなど、写真に関連したさまざまなアートを堪能した香港の週末をご紹介しよう。 |
■2つのアートフェアをハシゴする
2月27日(金)〜3月29日(日)まで「第43回 香港芸術節」(Hong Kong Art Festival)が開催されていた香港。芸術節というだけあって、演劇や音楽会、ダンスなど、多彩なアートイベントが各地の劇場やホール、イベント会場で開催された。さらに3月14〜16日には「Art Central」が、15〜17日には世界規模のアートフェア「Art Basel Hong Kong」が開催され、両展が開かれた週末は、まさに街中がアートで溢れかえった。
Art Centralは、香港島のハーバーフロントに特設された会場に国内外の70を超えるギャラリーが集ったアートフェア。入場料は大人200香港ドル(約3,000円)と安くはないものの、連日多くの人で賑わい、今年初めての開催ながら約3万人の来場者を集めた。子供たちを対象にしたキッズプログラムをはじめ、主要なブースを巡るツアープログラム、トークイベントなどが開催されるなど、アートに対して親しみを持ってもらえるようなイベントが数多く用意されていた。来場者はローカルの若い女性や家族連れが多いという印象で、会場内でベビーカーを見かけることも珍しくなかった。一方で、大陸や欧米からの観光客は、それほど多くはなかったようだ。展示されている作品は現代アートがメインだが、写真のギャラリーも多く出展された。またカフェやレストラン、バーなども併設されていて、1日中楽しめる。週末をゆったりと過ごすには最適なアートフェアだ。
Art Central の会場からは、Art Basel Hong Kongが開催されている香港コンベンション&エキシビションセンターまでシャトルバスが運行されていた。ふたつの会場は、地下鉄でわずか1駅だが、どちらも沿岸部にあるため、駅から15分ほど歩かなくてはいけない。ただでさえ会場内を歩き回ることになるので、シャトルバスはありがたい存在だ。海岸沿いにできたばかりの道を抜けて5分ほどで、Art Basel Hong Kongの会場に到着することができた。
Art Basel Hong Kongは、スイスのバーゼル(6月)、アメリカのマイアミ・ビーチ(12月)、香港の3カ所で開催されている世界規模のアートフェア。香港での開催は今年で2回目だが、中国資本を背景にして、アートマーケットを牽引しているフェアのひとつでもある。香港コンベンション&エキシビションセンターの2フロアに230を超えるギャラリーが出展、規模だけを見ればCP+の倍以上のイベントだ。ちなみに、プレスセンターでは顔写真入りのプレスバッジを作成してくれて、プレスリリースは英語、中国語(簡体字、繁体字)のほか、日本語と韓国語のものもしっかり用意されていた。
会場は、広いこともあってArt Centralよりもゆったりと落ち着いた雰囲気が感じられる。来場者は6万人ほどで、その多くが欧米人と上流階級の香港人といった印象が強く、小さな子供連れの姿はあまり見かけない。もっとも、一般の入場料がウィークデイチケット250香港ドル(約3,750円)、3デイチケット650香港ドル(約9,750円)と安くはないので、ちょっと覗きに行くという感じではない。
会場の各所に巨大なオブジェが展示されているのがArt Basel Hong Kongの特徴で、テントや自動車、焼却炉などを使ったオブジェも展示されていた。Art Centralもそうだが、展示作品はすべて販売を目的にしているもので、値段が付けられている。価格表示は、香港ドル、米ドル、ユーロなどが併記されているのが多かった。また会場内は基本的に撮影が自由。カメラだけでなくスマートフォンやタブレットで、気に入った作品を撮影したり、作品と一緒に“自撮り”をする姿があちこちで見かけられた。会場がとにかく広いので、全部を見ようと思ったら、朝から気合を入れて行く必要がある。ただし、写真を扱うギャラリーはそれほど多くはない。書画や彫刻、コンテンポラリーアートが多いので、写真愛好家にとってはやや物足りないイベントかもしれない。
■ローカルイベントのほうが盛り上がってる?
Art Basel Hong Kongが開催されている香港コンベンション&エキシビションセンターでは、ウェディングフェアも開催されていた。規模は小さいとはいえ、こちらはローカル向けに年に数回開催されている人気イベントのひとつ。当然のことながら、来場者は結婚を間近に控えたような若いカップルが多く、アートフェアとはまったく違ったカジュアルな雰囲気に包まれている。入場料は20香港ドル(約300円)と手頃な値段だ。同フェアは、香港のブライダルビジネスを凝縮したような催しで、ブライダルフォト関連のブースがフロアの半分以上を占める。あとの半分は宝飾品やドレス、披露宴を扱うホテルやレストランといったブース。またチケット売り場では会場で使えるクーポン券も販売されていて、引き出物用のケーキやアクセサリーなどが安く購入することができるから、それを目当てに来ている人もいたりする。
香港のブライダルフォトは、日本では見かけないアーティステックなアルバムを作るのが定番のスタイル。最近では海外でロケをして、映画のワンシーンのようなブライダルフォトを撮るのが人気となっていて、海外旅行と撮影、アルバム制作がパッケージになっているものもある。ドレスや行き先なども選ぶことができるということもあって、どこのブースも席が埋まっているような状態だ。香港の一般的な生活を垣間見ることができるのも、こうしたローカルのイベントを訪れる楽しみのひとつ。アジアのブライダルフォトに興味がある人は一度訪れてみるといいだろう。
香港島の東岸、柴湾では香港のプロ写真家集団 Hong Kong Institute of Professional Photographers が主催するフォトイベント「柴湾日」が3月14〜15日に開催された。会場は倉庫街の一角にある古ぼけたビル。中にはスタジオや写真家のオフィスが入っていて、そうしたスペースを利用してカメラのタッチ&トライやセミナー、ワークショップなどが終日行なわれていた。入場無料というのもあってか、不便な場所ではあるものの来場者は思いのほか多く、エレベーターホールには入場待ちの列ができるほど。来場者はカメラを携えた男性が多く、質問をする姿があちこちで見られるなど、どのフロアも熱気に包まれていた。
九龍サイドでは、植田正治写真展「幻影」が觀塘のギャラリー The Salt Yardで開催されていた。こちらも自動車の修理工場などが立ち並ぶ倉庫街のビルの一角にあり、ビルの入口を探すのにもひと苦労するようなところ。しかし、ギャラリー内にはままざまな写真集も置かれており、来場者が途切れることはなかった。
また、石硤尾にあるJCCAC 藝術村の地下ギャラリー(L0 藝廊)では、香港の写真家・高志強氏の写真展「不/離」が、ギャラリー光影作坊(L2-10)では「Nancy Sheung’s Portraits of Hong Kong Women in the 1960s」が開催されていた。この藝術村は、香港競馬会(香港ジョッキークラブ)が運営しており、香港の芸術家の拠点なっている場所のひとつ。競馬会が藝術を支援するというのは、イギリス統治の名残のようで、いかにも香港らしい。
ほかにも香港アートセンターでは3月14日(土)が無料開放とされ、15日(日)からはフォトブックフェアが開催された。また、アートに関連してサザビーズのオークションもその週末に開催されるなど、様々な場所でさまざまなかたちのアートイベントが開催されていた。まさにアート溢れる週末といったところだ。こうした情報は、香港政府観光局のサイトで入手することができるほか、観光案内所やチケットセンター、劇場などには、アートスポットと展覧会をまとめたART MAPが配布されている。とても1日では廻り切れるものではないが、会期が長いイベントも多いので、香港を訪れる際の参考にするといいだろう。