GN40 の超小型ストロボ Nissin i40 ~
活用レビュー <応用編>
モデル:井上 咲良
TOPIX
ミラーレス機にもフィットするほどコンパクトでありながら、GN40 という大光量を誇る超小型ストロボ、ニッシンジャパンの「 スピードライト i40 」。2014 年4月の発売以降も対応カメラの幅と同時に人気も拡大中です。そんな i40 を、本サイトの薮田織也が2回に分けてお贈りする活用レビュー。第2弾の今回は「 応用編 」と題して、i40 他、ニッシン製ストロボを使った「 1灯ライティングによる 」撮影テクニックをお届けします。 by 編集部 |
■ i40 パッケージと付属品 + あると便利な製品
i40 活用レビュー、2回目の今回はストロボ「 1灯 」だけを効果的に使った、1灯ライティングによる撮影テクニックをお届けするが、その前に少しだけ i40 のパッケージ内容を紹介しておこう。
上の写真1が、i40 のパッケージに含まれるすべてだ。④のソフトポーチには、i40 本体に加え、②の三脚ネジ穴付きスタンドと③の専用ディフューザーを入れて持ち歩けるようになっている。また、ポーチの裏側にはベルト通しがあるので、腰に装着することもできるし、⑤のカラビナを使ってカメラバッグに装着もできるだろう。以上の付属品があれば、大概のストロボ撮影では十分に役立つだろう。
十分に役立つとは書いたが、筆者としては読者の皆さんにもうひとつお勧めしたいものがある。それは下の写真2のようなストロボに使うミニ三脚だ。このミニ三脚は「 ゴリラポッド 」と呼ばれる製品で、自在に曲げられる三本の脚を使って、いたるところにストロボを取り付けることができる優れものだ。公園での撮影や森フォトなどで役立つこと間違いなしだろう。
■ ストロボ1灯で絵が変わる!
もう少しだけ脱線して、昔話をさせていただく ─── 筆者は幼少より写真が好きで、8才の頃に母親のカメラ OLYMPUS PEN EE-2 を譲り受けてひたすら家族や友人を撮った。その頃には i40 のようなエレクトロニックフラッシュ( いわゆるストロボ )が一般的ではなかったので、1回発光させて終わりのフラッシュバルブ( 閃光電球 )を使っていたのだが、自然光だけで撮った絵よりもどちらかというとフラッシュを使った非現実的な絵の方が好きな子供だった。そんな風だったからだろうか、筆者は今でも、ストロボを単なる「 補助光 」としては捉えていない。補助光というよりも、ストロボはフィルム( 今では受光センサーか… )という「 カンバス 」に塗りつける「 絵の具 」のひとつだと考えている。こうした考えかたは、写真のプロの業界( 特に日本 )においては、あまり歓迎されていないらしく、あくまでもストロボは補助光という考えかたが根強いようだ。そのためかどうかは知らないが、一般の人へのストロボの浸透率を海外と比べると日本はかなり低いように見受けられる。
なぜこのようなことを前置きとして書いたのかというと、これから紹介するストロボの使い方の説明において、おそらくではあるが他のプロ写真家の方々とは少し視点が異なった考えを披露することになるやもしれないからである。筆者は決して、自分だけが正しいなどと烏滸がましい考えは持っていないが、これからの解説が少々唯我独尊的になる恐れがあるので、その辺をご承知おきいただいた上で読み進んでいただきたい。
写真3 自然光撮影
写真4 ストロボ使用
写真5 自然光撮影
写真6 ストロボ使用
さて、写真というものは光で絵を描くもの( だと筆者は考えている )なので、見出しに書いた通り、ストロボ1灯加えるだけで絵は劇的に変化を見せることになる。写真3は、アレンジメントフラワーの背後( 右後方 )から差し込む夕方の自然光だけで撮ったもので、写真4はそれにストロボを1灯加えて撮影したものだ。どちらも撮影時の設定は同じ。ホワイトバランスは両方とも自動にしてある。ここで比べるポイントはまず「 色味 」だ。どちらが自然に見えるかである。次に被写体のディテールが、どちらがより表現されているかだ。この写真の大きさではわかりにくいが、実写真で比べても写真4の方がディテールがはっきりしている。
写真5、写真6は夕方の屋外で雨の滴をしたためた山茶花を撮ったもの。写真5が左側面からの夕日のみで撮影。写真6はそれにストロボを右側面上方から弱く照射したものだ。こちらの写真では両方ともにホワイトバランスは固定にしてあるが、被写体の色味はどちらが自然に見えるだろうか。色味もさることながら、この写真では雨滴のハイライトに注目して欲しい。写真6では雨滴にストロボの光が映り込んでいることで、より印象的になっていると思う。
図1 写真4の撮影方法
図2 写真6の撮影方法
ちなみに、写真4を撮影したときのストロボの使いかたは図1の通りだ。こうしたストロボ光を天井に反射させて使う方法を「 天井バウンス 」と呼ぶ。天井バウンスを使うと、ストロボ光を被写体に直接当てるよりも、光が拡散されて被写体全体に回り込むために自然な印象になる。ただし、天井の色がストロボ光に着色されてしまうので白い天井が望ましい。白い天井がない場合は、白い板を代用するとよい。
写真6のストロボの使いかた( 図2 )は少し特殊で、ストロボをカメラから離して使って( オフカメラと呼ぶ )いる。ストロボをカメラから離して発光させる方法は大きく3通りあるが、その方法はここでは割愛させていただく。ここで重要なのは、ストロボを手で持って、いろいろな角度から照射し、雨滴が一番魅力的に撮影できる位置を探すことなのだ。またその際に、ストロボ光の光軸を、被写体から少しだけずらして照射する「 フェザーリング 」という照射方法が大切だ。フェザーリングを使うと、被写体に柔らかい光を照射でき、ギラギラした強いハイライトを抑制できる。
■ ストロボは日中だからこそ使う - <日中シンクロ>
我々のように写真を生業にしている者や、ポートレート撮影会などに頻繁に脚を運ばれる方にとっては、ストロボは夜間や暗い屋内よりも日中の屋外でこそ使うべきものだという認識がある。これを撮影に明るくない方に話すと一様に驚かれる。そして、このように日中にストロボを使うことを「 日中シンクロ 」と呼ぶのだと続けると、これまた一様に難しい技術なのだなと眉間に皺を寄せられる。確かになにやら大仰な呼称ではあるが、なんのことはないただストロボを光らせれば「 日中シンクロ 」なのである。「 シンクロ( 同期 )」するのはカメラとストロボの仕事なのだから、あまり難しいことは考えずに撮影者はとりあえずカメラ任せにしてストロボを光らせてみればいい。これまでとはひとつ違った絵が描けるはずだ。
モデル:井上 咲良
だからといってなりふり構わずストロボを発光させればよいというわけでもない。日中シンクロが特に奏功するのは写真7のように被写体の後ろに太陽を置く、いわゆる「 逆光 」での撮影のときだ。たとえば空をバックに逆光で人物を撮ろうとするとき、太陽の位置が人物の背後にあると人物の顔は当然だが暗くなってしまう。ではそれを補おうと露出設定を明るくすると、今度はせっかくの背景が白く飛んでしまうという経験はないだろうか。背景の色も残しながら、人物の顔を明るく写したいときにこそストロボを使ってみよう。その作例が写真8だ。
モデル:井上 咲良
写真8は、図3の方法で撮影した。ストロボはカメラに装着したままで、発光部は人物の顔から少しだけ左側に光軸をずらしてフェザーリング撮影。このとき、背景の明るさと人物の顔の明るさを微調節するために、露出設定はマニュアルにし、i40 の光量は最微少発光の 1/256 に設定している。
図3 半逆光時の日中シンクロ
次に、ほんの少しだけ高度な日中シンクロの使いかたを紹介しておこう。上の写真8はストロボ光を人物の顔めがけて直接焚いて( 直炊きと呼ぶ )いるが、こうした撮影だと人物の顔に強いハイライトが入ってしまうことがある。こうした問題を回避する方法はいくつかある( フェザーリングもそのひとつ )が、ここではレフ板を使ってみた。それが写真9だ。
モデル:三嶋 瑠璃子
写真9の左はストロボ無し、右が撮影者の背後に置いたレフ板に i40 を反射させて人物に照射( 図4 )している写真だ。ストロボの光をレフ板に反射させてから被写体に照射すると光が大きく拡散され、結果柔らかい光になる。この方法は i40 に限らず発光部の面積が小さなクリップオン・ストロボで人物を撮影するときにとても有効な方法だ。
図4 ストロボをレフ板に反射させて撮影
もう一度写真9の左右を比較してもらいたい。この写真、7月の夕方5時近くに撮影したもので、場所は建物の中庭で太陽の直接光は届かず、建物の壁面への反射光が人物の背後から当たっている。こうした場所だとホワイトバランスを自動にしておいても、ストロボ無しで撮影すると左のように少しだけ青みがかった( WB:5650K )写真になりがちだ。もちろん顔も少し暗めだ。ここにストロボを使うと人物が明るく起きるだけではなく、色味もかなり自然な発色になっているのがわかるだろう。これは、ストロボの光は真昼の太陽光に限りなく近い色温度( 5500K )だからだ。
■ i40 の LED ライトを積極的に使ってみよう
前回の<機能編>でも紹介しているが、i40 には今流行の高輝度白色 LED による広角ビデオライトをボディ前面に搭載している。最近のデジタルカメラは動画撮影機能も搭載しているので、クリップオン・ストロボに LED ライト機能が搭載されるのは喜ばしいことだが、静止画の撮影で使うとどうなるだろう。
写真10 i40 の LED ライト
写真11 i40 の LED ライトを使って撮ったタンポポ
写真11は写真12のような方法で撮影した。撮影時刻は5月の夕方、まだ明るい時間。タンポポの綿毛が球状に見えるように LED ライトが当たる位置を探した。マクロレンズのピントは手前の種を中心に球状感が出る位置に合わせる。イメージしたのはタンポポ( 鼓草 )の行灯。
写真12 撮影方法
ストロボの閃光でこうした写真を撮ろうと思うと、光源の位置や照度などを逐一調整しながら何枚もテストカットを撮らなければならないが、LED ライトは定常光( ずっと点灯しているライト )なので、ファインダーを覗きながらこうした調整ができる点が嬉しい。もちろんストロボ光よりも光量は圧倒的に弱くはなるが、アイディア次第でもっと面白い写真が撮れるはずだ。
■ ストロボで動く被写体を止めて撮影
写真13 豆まき
ストロボは閃光だ。ほんの刹那の間、強い光を放つだけの照明機材である。そうしたストロボの性質を利用すれば、高速で動く被写体の時間を止めてしまうこともできるのだ。たとえばジャンプする人。たとえば投げられたボール。写真13は、節分の日に豆まきする人と豆を静止させてみた。
写真13は、スタジオで撮ったように思えるかも知れないが、実は筆者の家の玄関先。深夜のために周囲はほとんど暗闇。この状態で図5のような透明アクリル板越しの撮影をした。アクリル板を用意したのは、レンズめがけて豆を投げてもらうため。ストロボは三脚に装着して豆まきをする人の横に立てた。このときは高速で連写したかったので、ストロボは i40 ではなく、連続発光が可能な MG8000 と外部バッテリーユニットの PS8 を使っている。i40 および MG8000 ともにハイスピードシンクロ( FP 発光 )に対応しているため、シャッタースピードは 1/320 秒だ。こうした写真は i40 でももちろん撮影できる。その場合は高速連写で撮るのではなく1枚勝負となる。というのも、i40 には PS8 のような連続発光のための外部バッテリーユニットを接続できないからだ。i40 の性能や機能を考えると、MG8000 やニッシンのハイエンド機のように、外部バッテリーユニットの接続端子が欲しくもなるが、価格やボディサイズを優先した設計コンセプトを考えれば、少し欲張りかもしれない。
■ 背景の夜景だけを動かして撮影
モデル:渋谷 真理子
写真14は、写真13と逆で、静止している被写体の内、背景のネオンだけを動かして撮るというもの。この場合、暗い場所で背景にはネオンなどの光るものがあるのが条件だ。この撮影テクニックでもストロボの「 閃光 」という性質を利用することになる。
写真14の撮影場所は暗く、ストロボ無しで撮影すれば人物はシルエットになってしまうようなロケーションだ。そんな場所でもストロボを焚くと、たとえ人物が動いていたとしても一瞬のシーンだけを写し込んでくれる。その性質を逆転の発想で使ったのが写真14。シャッタースピードを 0.8 秒というスローシャッターに設定し、シャッターを押した直後、シャッターが閉じてしまう前にカメラを縦横に揺らしてしまうのだ。こうすることで人物は静止していながら、背景のネオンだけがブレるという絵が作れる。
■ レンズの画角とストロボの照射角を意識して撮影
写真15は、暗闇の山中で、ストロボをカメラに装着した状態で手持ちのまま撮影したものだ。ポイントはストロボの照射角を最も狭くしてスポットライト効果を狙うこと。逆にレンズは 14mm( 35mm 換算 )という超広角レンズを使っている。
i40 などのクリップオン・ストロボには、ストロボ光を照射する角度( 照射角 )を変えられる機能がある。これはカメラに装着したレンズの焦点距離から得られる画角に対して、適切な照射角を適用するためだ。この照射角のズーム機能は普段はオートに設定されており、撮影者は照射角を気にせずに撮影に専念できる。クリップオン・ストロボもハイエンド機になると、このオートズーム機能に加えて、手動で照射角を変えられる機能が搭載される。前回の記事でも書いたが、i40 にもオートズームとマニュアルズーム機能が搭載されている。写真15は、このマニュアルズーム機能を使って撮ったものだ。レンズは 14mm( 35mm 換算 )という超広角レンズを使い、狙った樹木の周囲までをフレームに入れる。逆にストロボの照射角は 105mm という本来であれば望遠レンズを使っているときに利用する照射角を選ぶ。この状態で、ストロボをフル発光( 1/1 )させて撮った。こうすることで、狙った樹木だけにストロボが照射され、周囲は暗く落ち込むスポットライト効果が得られる。ただ周囲が暗くなるだけだとつまらないが、降り続く雪にストロボが照射されて幻想的な効果が得られた。と、ここまでは狙っていたイメージだったのだが、深夜の陣馬山で寒さに震えながら頑張る筆者に写真の女神様が微笑んでくれたのか、一陣の風が吹いて枝に積もったばかりの新雪を吹き上げてくれた。これがこの写真の仕上げになってくれたことは言うまでもない。ちなみに、この写真で使ったストロボは MG8000。この時点ではまだ i40 は存在していない。
■ ストロボ1灯でする夕焼けポートレート
写真16は、夕焼けに染まった空と、夕焼けを写した池をバックにしたポートレートだ。こうした撮影では長時間露光とストロボによる人物撮影の多重露光が必要となる。その際、クリップオン・ストロボ1灯によるライティングだと光量と照射範囲不足が否めない。
そこで、図8のようなオープンフラッシュ( 後述 )による撮影が必要となる。カメラを三脚に固定して、シャッタースピードを2秒間の長時間露光に設定する。ストロボはカメラから離し、光量を弱めに設定しておく。そしてシャッターを切った直後から、手持ちしたストロボをアングルを変えながら3回ほど人物に向かって照射する。こうすることで、夕焼けの空や、池に映り込んだ夕焼けをもカメラに写し込みながら、人物を明るく浮きだたせることができる。
筆者は仕事上はストロボを複数台使う多灯ライティングをよくするが、撮影セミナーなどの受講者に対しては1灯ライティングをなるべく勧めている。というのは、ストロボ1灯によるライティングのコツが掴めぬうちは、多灯ライティングは絶対にできないからだ。そしてなによりもストロボ1灯で突き詰めたライティングの美しさは、多灯ライティングでは表現できないからだとも思っている。そういった考えかたから、ここでも1灯ライティングの方法をずらっと紹介してきたが、最後にお目にかけたこのテクニックを使えば、1灯でも多灯ライティングと同じことができるのだ。それが「 オープンフラッシュ 」と呼ばれるテクニックで、長時間露光中にフラッシュを数回焚くというものだ。オープンフラッシュは冒頭でも書いたフラッシュバルブ時代からあるテクニックで、1灯しか使えなかった昔のフラッシュの光量不足、発光の時間やタイミングの不安定さを補うために使われたものだが、今の大光量で安定した発光ができるストロボで使っても面白く魅力的な絵が撮れる。そしていくら安価になってきたとはいえ、数万もするストロボを複数台持つことなく、多灯ライティングに近いことができるというのも見逃せないだろう。
■ 太陽がいっぱいな光景写真のススメ
オープンフラッシュのテクニックは、夕焼けや夜景をバックにしたポートレートでも使えるが、風景写真でも是非使っていただきたい。筆者はストロボを使った風景写真のことを「 光景写真 」と呼んでいるが、ストロボを使うことで写真15や、写真17、写真18のようなひと味違った風景写真が誰でも撮れるはずだ。
冒頭にも書いたが、筆者はストロボを単なる補助光としての道具としては捉えていない。写真を「 光画 」と呼ぶことがあるように、フォトグラフというものはもっともっとクリエイティブなものでいいのではないだろうか。光画という観点から考えれば、ストロボは光で絵を描くための筆であり絵の具でもあっていいはずだ。よく「 太陽は一つ 」だという考えかたをもってライティングの指南をする( 筆者もよく口にする )が、それはより自然なライティングをするための指標だと思っている。自然を超えてもっと自身でイメージした絵を描きたいと思ったときは、太陽がいっぱいあってもいいと筆者は思っている。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
薮田織也事務所