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大村祐里子の
プロ写真家に聞く ライティング術 第1回
アーウィン・ウォン氏に聞く
職人撮影のライティング術

プロ写真家に聞く・ライティング術 - アーウィン・ウォン氏に聞く 職人撮影のライティング術

Photo & Text:大村祐里子 撮影協力:広崎太鼓店


TOPIX

クリップオンストロボを使って魅力的な作品をつくりだしているプロ写真家に、私こと大村祐里子がインタビューをして、ライティング上達の極意を教えてもらっちゃおう!という連載企画。第1回目のプロ写真家は、アーウィン・ウォンさんです。アーウィンさんにこの企画の件をお話したところ、「 僕はいつも職人さんの写真を撮っているのだけど、その撮影現場に一緒に来る? 」とお誘いいただきました。そういうわけで、今回はずうずうしくも、アーウィンさんが太鼓職人さんを撮影する現場にお邪魔して、インタビューをさせていただいちゃいました。( 大村 )

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■ 太鼓職人さんを撮影する写真家アーウィン・ウォンさんを直撃!

写真家 : アーウィン・ウォン氏

写真家 : アーウィン・ウォン
Irwin Wong

香港生まれ、オーストラリア育ち、現在は日本を拠点に活動するフォトグラファー。日本語と英語を駆使し、ポートレート撮影を主体に海外の雑誌やメディアでも活躍中。自由な発想から生まれる変幻自在なライティングと、独特の色彩感覚が魅力。彼の作品を一言でいうと「NO BORDER」。実際はシャイで可愛らしい人。

写真1 太鼓職人の広崎さん
[使用機材] カメラ:Hasselblad H5D-40 レンズ:Distagon 40mm f/4 CF T* 絞り:f/4 シャッタースピード:1/250 ISO:100 WB:フラッシュ ストロボ:スピードライト Di700A / コマンダーAir1( ニコン用 )マニュアル発光

[使用機材] カメラ:Hasselblad H5D-40 レンズ:Distagon 40mm f/4 CF T* 絞り:f/4 シャッタースピード:1/250 ISO:100 WB:フラッシュ ストロボ:スピードライト Di700A / コマンダーAir1( ニコン用 )マニュアル発光

大村祐里子

アーウィンさんが撮影した太鼓職人さんの写真は、職人さんの威厳に満ちた存在感が表現されていて、場の雰囲気を壊さないごく自然なライティングで演出しているカッコイイ写真ですね。

Irwin Wong

ありがとう。照れるね。

大村祐里子

こうした職人さんの職場で写真を撮るとき、撮影現場をみてアーウィンさんが最初に考えることってなんですか?

アーウィン・ウォン氏に聞く 職人撮影のライティング術

Irwin Wong

職人さんの職場に限らないんだけど、撮影現場についたらまず確認することがあるんだ。それは、「 変えられない・動かせない 」ものは何かを確認すること。今回だと、部屋の窓から入ってくる自然光は遮光できないということがひとつ。それから部屋の中心にある大きな太鼓は動かせないということを確認したんだ。これがライティングを組むときに大事な情報になるんだよ。そのあとで、職人さんに立ってもらう位置は、太鼓の横にしようと決めたね。

大村祐里子

どうして太鼓の横なんですか?

Irwin Wong

職人さんだけじゃなく、アスリートやアーティストの写真を撮るときは、被写体となる人物が普段から触れているものを一緒に写すのがいいんだよ。アスリートならユニフォームを着てもらったり、ギタリストならギターを持ってもらうなどしてさ。今回は太鼓職人の広崎さんが被写体なんだから、太鼓の横がベストだと思ったわけ。逆に普段触れていないものを画面に入れると違和感が出ちゃうものなんだ。

大村祐里子

なるほど~。ところでライティングの話ですが、職人さんの頭上にある蛍光灯がついたままですよね。スタジオ撮影なんかですと、ライティングに使う機材以外の照明は消すことが多いと思いますが、この写真ではなぜ消さなかったのですか?

アーウィン・ウォン氏に聞く 職人撮影のライティング術

Irwin Wong

僕のライティングのテーマは「 さり気ないけど効果的なライティング 」なんだ。どういうことかというと、実際にはストロボなどの人工光でライティングしていても、写真を観る人に撮影者が意図的に設置したライトの存在を感じさせないようにライティングすること。それを実現するためには「 ライティングに理由をもたせること 」が大事だと思ってるんだ。たとえば、写真1のように人物の顔に光が当たっているのに、頭上の蛍光灯が消えていたとしたら、写真を観る人は「 あ~顔にライトを当てているんだな 」ってすぐ気づいちゃうでしょ? でも、被写体が明かりのついている蛍光灯の下に立っていれば、実際にはライティングをして被写体の顔を明るくしていても、写真を観る人にはなかなか気付かれないものなんだ。

大村祐里子

つまり、写真1の場合は頭上の蛍光灯が点いていることが人物の顔が明るい「 理由 」になっているわけですね。実際には頭上の蛍光灯だけでは写真1のような写真は撮れないので、どうしてもライティングする必要があるわけですが、こうした理由があるからストロボなどで人物の顔をライティングしてもわざとらしくならないと。これが「 さり気ないけど効果的なライティング 」というわけですね。

Irwin Wong

そう。地明かりだけで撮ったように見えて、効果的な演出ができているライティングが良いライティングだと思っているよ。

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■ 写真1のライティング術

図1 写真1のライティング
A … ROGUE Grid 光量:1/32 B … ROGUE Flash Bender 2S 光量:1/16 C … ROGUE Flash Bender 2L (スヌート)+ ROGUE カラーコレクション( FullCTO )光量:1/32 D … ROGUE Grid+ ROGUE カラーコレクション( FullCTO )光量:1/1

A … ROGUE Grid 光量:1/32
B … ROGUE Flash Bender 2S 光量:1/16
C … ROGUE Flash Bender 2L (スヌート)+ ROGUE カラーコレクション( FullCTO )光量:1/32
D … ROGUE Grid+ ROGUE カラーコレクション( FullCTO )光量:1/1

大村祐里子

写真1を撮ったとき、アーウィンさんは4台のクリップオン・ストロボを図1のように配置されていました。このとき、Aのクリップオン・ストロボがメインのライトだと思えますが、どうしてAをこの配置にしたのか教えてください。

Irwin Wong

さきほど言ったように、職人さんの顔が蛍光灯に照らされているような雰囲気にするために、まずAの位置にメインライトとなるクリップオン・ストロボを配置したんだ。でもAのストロボを裸のまま発光させると光が室内に回りすぎて不自然になるから、ストロボの発光部にグリッドをつけて照らす範囲を狭めているんだよ。

大村祐里子

普通、ストロボの光は放射状に広がりますが、グリッドを付けることで直進する光になります。さらにアーウィンさんが使った ROGUE Grid は照射範囲も限定されますね。では、Bの位置にストロボを置いたのはなぜですか? しかも図1の設定をみると、メインライトよりも光量が大きいですよね?

アーウィン・ウォン氏に聞く 職人撮影のライティング術

Irwin Wong

Bの位置にストロボを置いたのは、グリッドを付けたAのストロボだけだと、人物の顔の右側が暗すぎたので、暗くなった右顔を少し明るくするために補助光ライトが必要だったからなんだ。Aのストロボより補助光であるBのストロボの光量が大きくなっているけど、実際にはAよりも弱い光が人物に当たっているんだ。それは、Bのストロボにフラッシュベンダーというディフューザーを付けて光を弱め、さらにバウンスさせているからなんだ。結果、部屋の窓からさしこんでいる自然光とあいまって、被写体の顔がナチュラルな明るさになったよ。

大村祐里子

ディフューザーだけでも光は柔らかく弱くなるところへ、さらにバウンス、つまり光を反射板に反射させているから、さらに弱く柔らかい拡散光になりますね。では、CとDの2台のストロボを設置した理由を教えてください。これら2つは何枚か撮影した後に追加していましたよね?

Irwin Wong

何枚か撮ってみて、向かって右側の壁が暗くて寂しいと感じたんだよね。そこでCの位置にストロボを追加したんだけど、そのままでは壁全体が照らされて不自然な光になるから、狭い範囲だけ明るくするように、Cのストロボにスヌートをつけてみたんだ。こうすると右側から光が少しだけ漏れているみたいに見えるでしょ。また、ストロボの光色を壁の色とあわせるために、Cのストロボにはオレンジ色のカラーフィルターをつけてあるよ。

大村祐里子

スヌートは、ストロボの発光部に巻き付けて光をスポットライトのようにするアクセサリですよね。では、Dの位置に置いたストロボは?

アーウィン・ウォン氏に聞く 職人撮影のライティング術

Irwin Wong

向かって左側にある室内窓枠から見える隣の部屋が暗くてね、そのままだと写真に奥行きが感じられなかったんだ。そこで、隣の部屋を自然な雰囲気で明るくしようと思って、Dの位置にグリッドとオレンジのカラーフィルターを付けたクリップオン・ストロボを置いて部屋の中を照らしたんだ。このライトの有る無しは写真の表情に大きな違いを生むよ。

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■ アーウィンがクリップオン・ストロボを使う理由

アーウィン・ウォン氏に聞く 職人撮影のライティング術

大村祐里子

スヌートやグリッド、カラーフィルターをつけたりと、アーウィンさんのライティングは発想が自由で、撮影現場を見ていても面白くてためになります。

Irwin Wong

アーウィン流ライティングは「 自由 」が基本なんだよ。僕は、現場や被写体の雰囲気に合わせて自由にライティングを変えていくことを大切にしているし、工夫することが好きなんだ。そして「 うまくできた! 」と思うとき、ものすごい達成感が得られるんだ。

大村祐里子

アーウィンさんがクリップオン・ストロボを好んで使われる理由もそこにありますか?

Irwin Wong

そうだね。クリップオン・ストロボは僕のライティングにまさに「 自由 」を与えてくれるんだ。クリップオン・ストロボは小さくて軽くて、撮影現場でもスペースをとらないから、今日みたいな狭い現場で重宝するんだ。天井から吊るすこともできるから、いろんな角度からのライティングを可能にしてくれる。僕のようにフレキシブルにライティングを変えたい人にはぴったりだよ。

大村祐里子

今回使ったクリップオン・ストロボの Di700A はいかがでしたか?

写真2 Nissin Air System
Nissin Di700A と コマンダーの Air1

Nissin Di700A と コマンダーの Air1

Irwin Wong

Di700A とコマンダーの Air1 との組み合わせは、遠くに置いた Di700A を手元でコントロールできるのがいいよね! いちいちストロボを置いた場所まで行って光量や照射角度を調節しなくていいから、今回のように離れた部屋にストロボを置いた場合は特に便利でイイよ! 大村さんも写真家だからわかるはずだけど、現場ではできるだけ駆け回りたくないでしょ?(笑) Di700A は光量も十分だし、チャージ速度も十分に速い。プロの仕事にも使えるし、アマチュアはオフカメラライティングの練習にもなるよ。

大村祐里子

仕事といえば、アーウィンさんは普段お仕事でどんな撮影をされることが多いのですか?

Irwin Wong

外国人向けの雑誌とか、会社案内に使うポートレートの撮影が多いね。

大村祐里子

そういえばアーウィンさんはオーストラリアのご出身でした。これまたどうして、日本にいらっしゃったのですか?

Irwin Wong

大学生のとき、金沢に短期留学に来たの。そのとき、日本はいいところだなと思って。大学卒業後、あれは2005年かな、普通に「 住もう 」と思って日本にやってきたんだ。日本に住み始めてからは、英語の先生をして生活をしてたんだ

大村祐里子

写真はいつから初めて、お仕事にされたんですか?

Irwin Wong

もともと写真は趣味だったの。15 歳のときはじめて友達のカメラを触って、それで面白いと思って自分でカメラを買ったんだ。それからしばらく、趣味で撮り続けていたんだけど、どういうわけか(笑) 2008 年に「 東京でフォトグラファーとして独立しよう! 」と思って、そこから写真のお仕事をするようになったんだ。

大村祐里子

ライティングはどうやって勉強したんですか?

Irwin Wong

フォトグラファーとして独立する前の 2007 年、独学で勉強した。プロカメラマンのブログで紹介されていたライティングを、写真好きな友達と一緒にひたすらテストして覚えたね。お金がなかったから、使っていたのは安いクリップオン・ストロボと、100 円ショップのグッズで手作りしたアクセサリを使ってた。当時、オフカメラで撮影するのは大変だったよ。あのとき Di700A があったら良かったのに(笑)

大村祐里子

ド根性ですね! いまの「 自由 」なアーウィン流ライティングはその時代に確立されたんでしょうね。

Irwin Wong

そうそう。この時期を「 研究時代 」って呼んでるんだけど……研究時代にいまのスタイルが確立されたね。とにかくいろんなものをフレキシブルに撮れるようになりたい、と思ってライティング研究し続けた結果、行き着いたのがいまの自由なスタイルなんだ。

大村祐里子

現在ライフワークにされている「 職人さんの撮影 」を始めたきっかけを教えてください。

Irwin Wong

お仕事で着物の染め屋さんの撮影をしたとき、楽しくてね。職人さんのお話が聞けるのが面白いと思ったんだよ。それをきっかけに、職人さんを撮るようになった。

大村祐里子

どんな思いで職人さんの撮影をされているんですか? 職人さんには、昔から興味があったのですか?

Irwin Wong

安い中国製の商品が出回ったりして、伝統的な職人さんは生き残って行くのが大変でしょ。そんな彼らが消えてしまうのが寂しくて。僕は彼らの仕事の様を残したいと思って撮影をしてるんだ。今撮らなきゃいつ撮るんだって。職人さんに興味を持ったのは日本に来てからだね。だって、日本の職人さんのような人は海外にはいないもの。日本人ならではのモノヅクリ魂に惹かれちゃった。技術を持つ人はかっこいいよ。

大村祐里子

お話をお伺いしていると、アーウィンさんも、職人気質ですよね。

Irwin Wong

そうかもね(笑) 自分と方向性が被るから、職人さんに惹かれるのかも。

大村祐里子

最後になりますが……アマチュアのクリップオンユーザーへ、なにかライティング上達のアドバイスをしていただけますか。

Irwin Wong

撮る前に、自分の組んだライティングでどういった写真が撮れるかの仮説をたててみることだね。そして、結果が仮説とどう違った科学的に考えてみるんだ。それが大事だと思うよ。街中にあふれている広告写真をみて、どんなライティングで撮影されたものか想像してみるのも良いと思うよ。とにかく実践あるのみ!

大村祐里子

本日はお忙しい中、ありがとうございました。

Irwin Wong

ありがとうございました。

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■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
大村祐里子

■ 撮影協力 ■
広崎太鼓店

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大村 祐里子
著者について
■ 大村 祐里子 - Yuriko Omura - ■ 1983 年 東京都生まれ 写真家( 有限会社ハーベストタイム所属 )  雑誌、書籍、アーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動中。『写ガール』にて「読書感想写真」、CAMERA fanにて「SHUTTER GIRL WORLD」連載中。http://shutter-girl.jp/
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