GN40 の超小型ストロボ Nissin i40 ~
活用レビュー <機能編>
TOPIX
CP+2014 での発表で多くのカメラユーザーに驚きを与えた、ニッシンジャパンの「 スピードライト i40 」。ニッシンジャパンでは 2014 年4月にニコン、キヤノン対応機、続いて6月に M フォーサーズ対応機を発売したのもつかの間、この7月にはソニー、来る9月にはフジフイルムへ対応した製品の発売が予定されています。そんな i40 を、本サイトの薮田織也が2回に分けて徹底レビュー。i40 が気になっている読者は必読です! by 編集部 |
2014 年2月に開催された CP+ 2014 で発表されたニッシンジャパンのクリップオンストロボ「 スピードライト i40 」。同年4月からニコン用、キヤノン用、そして6月から M フォーサーズ用の発売が開始されているので、既に愛用中という読者もいることだろう。筆者も愛機の Nikon D800 と Olympus OM-D EM-1 の2つのカメラで長期( 約半年 )使用中だ。新製品レビューと銘打つには少々遅くなってしまった感があるので、今回のレビューは i40 を長期に渡って使ってきたリアルな使用感と、実際に i40 を使うとどんな写真が撮れるのかを2回に渡って紹介したいと思う。第1回目の今回は、i40 の機能・性能的な面を主に紹介し、次回には応用編を紹介する予定だ。
■ 超コンパクトで本格的なクリップオンストロボ
i40 の最大の特徴は、プロフェッショナル向けと言っても過言ではない機能と性能を、61(W)× 85(H)× 85(D)mm、重量 203g( 電池除く )という極めてコンパクトなボディに納めたことだろう。なにがプロフェッショナル向けなのかの詳細は後述するが、まずはその外観をじっくりと眺めてもらいたい。
写真1
■ MG8000 と大きさを比較
上の写真では i40 の大きさがわからないと思うので、プロ向けクリップオン・ストロボの Nissin MG8000 と並べた写真を掲載しよう。
写真6
MG8000 と比較すると、i40 は約 1/2 のサイズだ。MG8000 のサイズは比較的に大きな部類になるが、クリップオン・ストロボにプロが求めることを詰め込もうとすれば、このくらいのサイズになるのはやむを得ないし、実際に販売されている各メーカーのクリップオン・ストロボの最上位機種もこのサイズが一般的だ。
ここで重要なのは、i40 が MG8000 と同等の性能とは決して言えないが、それに近い機能と性能をこのサイズのボディに凝縮したことだ。
MG8000 はガイドナンバー( 以下 GN )60( 照射角 105mm 時 )という、クリップオン・ストロボでは大光量タイプのストロボだが、対してほぼ 1/2 のサイズの i40 は、ミドルクラスからハイエンドにかけてのクリップオン・ストロボで多く採用されている光量である GN40 ( 照射角 105mm 時 )だ。GN40 という光量は、ISO:100 で絞り値が f/2.0 のときに、20m 先の被写体を最適露出で照らせる光量だ。( ちなみに GN60 であれば同条件で 30m 先を照らせる )GN40 もあれば、一般的な撮影においては十分な光量だと言えるだろう。実際、プロの撮影現場においても常に大光量のストロボを必要としているわけではない。最近の潮流で言えば、微少発光の設定ができるストロボを求める声の方が多いくらいだ。
■ ミラーレス機に最適なボディサイズ
i40 のコンパクトさがより実感できるのは、やはりカメラ本体に装着したときだろう。下の写真は、Nikon D800 と Olympus OM-D E-M1 に、それぞれに対応する i40 を装着したところだ。
写真7
D800 のようなフルサイズ機に装着すると、i40 のコンパクトさがよくわかる。そして i40 のサイズが OM-D E-M1 のようなミラーレス機にぴったりだということも伝わるのではないだろうか。なによりも実際にカメラ本体に i40 を装着して構えてみると、ストロボがコンパクトになった分だけ重心がカメラ本体に近づくために違和感を感じることが少ないはずだ。ただ、コンパクトであるが故、一眼レフカメラの場合、ストロボ発光部の位置がカメラ本体に近づくために、長玉や大口径レンズを装着している場合に限り、鏡筒やレンズフードの影が被写体に落ちる可能性がある。( ミラーレス機ではレンズも小さくなるために問題はほぼない )こうしたトレードオフはいたしかたないことだが、その場合はストロボをカメラから離して発光させる必要がある。
■ i40 は単三電池4本で駆動
写真8
i40 のようなコンパクトなクリップオン・ストロボの場合、従来機ではほとんどが単三電池2本で動作する。MG8000 のようなハイエンド機は単三電池4本だ。搭載する電池の本数の違いは、GN の数値が同じであれば、当然のことだがストロボの作動時間に影響をする。従来の i40 サイズのクリップオン・ストロボは、多くが GN20 程度なので、単三電池2本でも十分なのだろうが、GN40 の i40 の場合はそうはいかないということで、上の写真のように単三電池4本を搭載できるようになっている。
筆者が i40 に初めて触れたときに驚いた点がこのバッテリーの部分で、なんと、i40 のボディ( 発光部を除く )容積の8割ほどが電池で占められているのだ。筆者は写真とは別に長いこと電子機器の開発に携わってきた経験があるが、部品や基板関係はもちろん、筐体のダウンサイジングも一般の人が思うほどには簡単ではない。よく作ったものだと正直頭が下がる思いだ。
ただ、こうしたダウンサイジングには必ずなにかしらのトレードオフがつきもので、i40 は他のニッシン製ストロボ製品に共通したバッテリーマガジンが使えない。また、バッテリーカバーのヒンジの部分が繊細に見受けられ、長期間の開閉にどれだけ耐久性があるのかが少し心配になる。
■ 垂直 90° 水平 360° のバウンス角
写真9
写真10
冒頭で i40 がプロフェッショナル向けだと書いた根拠のひとつに、発光部のバウンス角の自由度の高さがあげられるだろう。上の2つの写真を観てもらえばわかるが、垂直方向 90°、水平方向 360° のバウンスができる。もちろん、この2方向のバウンスは組み合わせられるので、照射方向はほぼ半球状になる。このバウンス角の自由度の高さは、筆者が i40 で気に入ったポイントの一つでもある。なぜなら、従来のこのサイズのクリップオン・ストロボには、ここまでバウンス角が自由に変えられるものがまずないからだ。プロの写真家はもちろん、クリップオン・ストロボの扱いに慣れた人であれば、当たり前のようにストロボをバウンス発光させるだろうから、こうしたバウンス角の自由度は必須の機能とも言えるはずだ。
■ 操作性の高い背面パネルと 1/256 の微少発光
写真11
ニッシン製ストロボの特徴はと聞かれれば、同社の製品を使ったことのあるユーザーなら、誰もが操作系の秀逸さをあげることだろう。MG8000 を筆頭に、ハイエンド機に採用されている直感的で操作しやすいカラー液晶パネルの評価は高い。しかし、i40 では液晶パネルの操作系は採用されず、上の写真のようなアナログダイヤルになった。向かって左側の小さなダイヤルがモード選択ダイヤル。右側の大きなダイヤルが調光ダイヤルだ。
調光ダイヤルには、「 Manual 」調光モードと「 TTL 」調光モードがあり、モードダイヤルで選択しているモードによって切り替わる。モードダイヤルで「 TTL 」が選択されていると、調光ダイヤルの向かって右側にある LED が点灯し、TTL 調光モードになり、0.5EV 刻みで±2.0 の調光ができる。モードダイヤルで「 M 」、「 SF 」、「 SD 」が選択されていると、調光ダイヤルの向かって左側にある LED が点灯し、Manual 調光モードになり、フル発光の 1/1 から微少発光の 1/256 まで 1EV 刻みで調光ができる。これら以外のモード、オートの「 A 」とワイヤレス TTL の「 A 」、「 B 」、「 C 」では調光ダイヤルは使えない。
写真11a
写真11b
i40 の TTL モードは、対応各メーカーのデジタル TTL に対応している。デジタル TTL とは、本発光前にプリ発光させることで撮影直前に測光をし、本発光を最適化するものだ。キヤノンでは E-TTL II / E-TTL、ニコンでは i-TTL / i-TTL-BL、ソニーでは、ADI / P-TTL と呼ばれている。これらのデジタル TTL はもちろん、オリンパスとパナソニックの M フォーサーズ機の TTL 調光にも対応している。
モードダイヤルの「 SD 」と「 SF 」は、スレーブモードのこと。スレーブモードとは、2台以上のストロボを使って多灯撮影するときに、メインのストロボの発光をトリガーにして、2台目以降のストロボを発光させることだ。このとき、プリ発光のあるデジタルカメラ用ストロボをメインストロボにするときは、「 SD 」を使い、プリ発光しないストロボの場合は「 SF 」を選択する。
モードダイヤルで赤枠で囲まれている部分は、ワイヤレス TTL( リモートのみ )のモードだ。これは、カメラ内蔵のストロボ、または、カメラのホットシューに直接装着したストロボで、ワイヤレス TTL( マスター )に対応しているストロボから、TTL 調光して発光させるモードだ。ワイヤレス TTL を使うと、カメラから離れた場所にあるストロボ群を、カメラまたはマスターになるストロボから完全に制御できる。ニッシン製の MG8000 などはマスターとリモートの両方に設定できるが、i40 はリモートのみで、チャンネルは選択できないが ch1~4に共通で対応する。グループは A,B,C が選べる。 ( モードダイヤルにあるアイコンは次のセクションで紹介しよう )
このアナログダイヤル方式の操作系の採用は、i40 のボディを可能な限りコンパクトにするためだったと推察されるが、実際に使ってみると極めて簡単で液晶パネル方式よりも素早く操作できるのがわかるだろう。モードダイヤルのアイコンの意味さえ理解していれば、マニュアルを読まなくてもすぐに使い始められると言っていいほど直感的でもある。また、モードダイヤルと調光ダイヤルの回転には違いがあり、調光ダイヤルに比べるとモードダイヤルは若干抵抗がかかっていて、簡単にモードが切り替わらないように工夫されている。調光ダイヤルの方は、指一本で軽く回せるようになっているが、しっかりとしたノッチ感があり、誤操作で設定が変わってしまうほどの軽さではない。
筆者と筆者の知人の写真家の間では高評価の i40 の操作系だが、2つのダイヤルにシルク印刷されたアイコンや文字が、スタジオなど暗い場所では判読できないのが残念だ。ダイヤル脇に LED ランプが設置されているのだから、ダイヤルの樹脂自体を半透明のものにするだけでも、設計変更することなく選択されているモードや調光値が判読できるようになると思うのだが、どうだろうか。
■ モデリングライトとしても使える LED ライトを搭載
写真12
i40 のユニークな新機能として注目して欲しいのが、ボディ前面に搭載された高輝度白色 LED による広角ビデオライトだ。最近のデジタルカメラの多くは動画撮影機能も搭載しているため、ストロボのような閃光ライトだけではなく、定常光ライトも必要になっている。そこで各メーカーからはさまざまな LED ライトが登場してきているが、i40 では LED ライトをストロボに内蔵したことでメリットがでてくる。暗い部屋での動画と静止画の切り替え時に、ストロボと専用 LED ライトの換装をする手間が省けるし、また、LED ライトを静止画撮影前の確認用モデリングライトとして使うこともできるだろう。もちろん LED ライトだけを使っての下の写真のような静止画撮影もできる。
写真13
■ コンパクト機では珍しいマニュアルズーム機能搭載
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筆者は i40 発売前から Nikon 用の初期型ワーキングモデルを借りて試用してきた。その当時は、ここまで紹介してきた機能はすべて搭載されていたが、ひとつだけ足りないモノがあった。それは発光部の照射角( ズーム )を手動で変えられないということだった。つまり、初期型ワーキングモデルではオートズームのみだったのだ。ストロボのオートズームとは、ストロボがカメラの TTL 機能と通信できる状態のときは、レンズの焦点距離に合せて自動で発光部がズームする。この機能により、レンズの画角に合せた照射角が保たれるわけなので、普通に考えれば大変便利な機能なのである。これは普及型ストロボでは当たり前の機能で、照射角をマニュアル設定できる機種はハイエンド機に限定されている。そういうわけだから i40 の初期型ワーキングモデルにマニュアルズーム機能がなくても別段不思議ではないのだが、筆者としては、i40 をここまでプロユースに近い製品に仕上げているのなら、照射角もマニュアルで設定できるようにして欲しいと感じたのだ。このことは試用を開始してすぐにニッシンに伝えていたのだが、世界各地のベータテスターからも同様の意見が上がってきたらしく、後期型ワーキングモデルで急遽マニュアルズーム機能が搭載されることとなった。
既に筐体の設計が終わっていただけに、照射角の切り替えのためにメカニカルなスイッチを設けることは無理だったようで、ファームウェアの改変による対応ではあるが、上の写真のように上手いこと製品版でもマニュアルズーム機能が搭載されることになった。電源スイッチの長押しという少々後付け感は否めない操作方法ではあるが、ないよりは絶対にいい。
照射角をマニュアルで設定できるとどんなことができるのかは次回に譲るが、とりあえずは下の写真のような撮影が1台のクリップオン・ストロボだけでできるとだけはお伝えしておこう。
写真14
■ 次回予告 ■
ブツ撮り、風景、夜景、ポートレート……、普段の撮影にストロボ1灯を加えるだけで、写真が大きく変わることをご存じですか? 次回のストロボ活用レビューは、今回の記事中で紹介したサンプル写真の撮影方法を紹介しながら、ストロボ1灯だけでできる魅力的な写真の撮りかたをお届けします。
■ 制作・著作 ■ スタジオグラフィックス 薮田織也事務所