礒村浩一の探せ!デジカメ・ギア 第8回
ケンコーバリアブル NDX
一枚あればとっても便利!
無段階減光できる可変 ND フィルター
TOPIX
写真家・礒村浩一の「 探せ!デジカメ・ギア 」。デジタルカメラを使いこなすための、あったら便利、使うと楽しい、そんなアイテム「 デジカメ・ギア 」を紹介していく本講座。今回は、明るい場所でもスローシャッターや開放絞りが楽々できる可変型 ND フィルターのご紹介。普通の ND フィルターだとたくさん持ち歩かなければならないことに悩んでいるあなたに、礒村浩一が可変型 ND フィルターの使いかたを指南! 人と違った撮影をしたいと考えている方は必読です。 by 編集部 |
写真撮影では、カメラの ISO 感度、絞り、シャッタースピードを組み合わせ、被写体の最適な露出を導きだし露光する必要がある。この三要素の組み合わせは露出バランスを取るためには欠かせないものだ。このバランスを保ちながら三つの要素の組み合わせを変化させることで、スローシャッターや被写界深度の変化など写真の表現を選択していくことができる。ただ、被写体を照らす光の明るさを自在に変えることができない屋外などでは、極端なスローシャッターや明るいレンズでの開放絞りなどは露出オーバーになってしまうためそのままでは撮影することができない。そのような場合にはレンズに入ってくる明るさをフィルターで制限する方法が有効だ。その為に使用するフィルターが ND フィルターだ。
■ ND フィルターとは
ND フィルターとは簡単に説明すると「 レンズに入ってくる光の量を減らしてくれるフィルター 」だ。レンズにかけるサングラスだと思ってもらえると判りやすいだろう。一般的な撮影では光の量が少ない暗い状態よりも、光量が豊富な明るい状態の方がシャッタースピードも速くなりブレも防げ、絞りを絞り込み深い被写界深度でピントの合う範囲が広がる方が失敗の少ない写真となる。ISO 感度も上げる必要がないので低ノイズな画像が得られるのも良い点だ。
では、どのような場合にわざわざ ND フィルターを使って減光させて撮影するのか。それは極端なスローシャッターで被写体をわざとブラしたり、レンズの絞りを開放絞りにして極端に浅い被写界深度で被写体の前後にボケを作り出すような撮影だ。このような撮影をすることでより印象的な作品を創り上げることができる。こうした作品を作るためには、シャッタースピードと絞り値の組み合わせが大切で、その組み合わせを活かすために変更するのが ISO 感度となるわけだが、明るい屋外などでは一番低い ISO 感度に設定してもバランスの良い明るさに設定できないことがある。また、絞り値は固定にしたいために、シャッタースピードで調整しようと最高速度まで上げても明るすぎるときもあるし、その逆もある。そうした明るすぎる撮影環境で活躍するのが ND フィルターなのである。
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■ ND フィルターは光量に合わせて選択する必要がある
ND フィルターには減光する能力に合わせて濃度を変えた数種類のフィルターが用意されている。それぞれには減光する光量の違いによって ND2、ND4、ND8 というように番号が付けられている。それらは光量に対して 1/2、1/4、1/8 と減光割合を表示したものなので、ND8 は 1/8 の光量となり絞り( シャッタースピード )に換算して3段分の減光効果となる。たとえば、F4.0 で適正露出な被写体を同じ ISO 感度、同じシャッタースピードのまま F1.4 で撮影するには、絞り3段分の減光能力のある ND8 のフィルターを使えばよいわけだ。これはシャッタースピードに対しても同じことが言える。
このように減光したい光量に合わせて適した濃度の ND フィルターを使い分けることが光量コントロールには欠かせないのだが、実際にこれらの ND フィルターを何枚も持ち歩くとフィルターだけでレンズ一本分近いスペースが必要だ。そこで便利な製品として今回紹介するのが「 ケンコーバリアブル NDX 」だ。
■ バリアブル NDX とは
ケンコーバリアブル NDX はひとつのフィルターで減光の割合を変えられる可変 ND フィルターである。複数枚の偏光膜を重ね合わせ、フィルター前枠を回転させることで偏光膜が重なる角度を変えて、光の透過率を変化させるというものだ。これにより、ケンコーバリアブル NDX は一般的な ND フィルターに換算して ND2.5 ~ 1000 相当の ND フィルターと同等となる。この減光の変化は無段階なので撮影に必要な濃さを自在にコントロールすることができる優れものだ。
動画1
ケンコーバリアブル NDX は減光割合の異なる複数の ND フィルター効果を、1枚のフィルターで賄えてしまえるとても便利な ND フィルターだ。これが1枚あれば何枚も ND フィルターを持ち歩く必要もなくなる。さらに便利な点はこれだけではない。フィルターの前枠を回す事で無段階に減光の効果を変えられるという点もとても便利だ。無段階で濃さを変えられるということは、これまで 1EV ステップごとに付け替えるしかなかった ND フィルターが、カメラに着けた状態のままでフィルター前枠を回すことで微調整することも可能となる。撮影後すぐに撮影画像を確認できるデジタルカメラだからこそ、ND の濃さによる絞り/シャッタースピードの関係がどうのように撮影画像に反映するのかをその場で確認しながら最適な設定を追い込んでいける。
■ ケンコーバリアブル NDX の掛け具合とシャッタースピードの変化による効果の違い
このようにケンコーバリアブル NDX の回転角度を変化させると効果が変化していき、それによって写真の表現も変化していく。ここではシャッタースピードの変化とそれに伴う水の流れの写り方をご覧いただくことで ND フィルターの効果を確認していただきたい。
フィルター前枠を回転させて効果を変化させることができるケンコーバリアブル NDX だが、ある一定の濃さを超えると画面に濃さのムラが出てしまう。そのため実際の撮影ではフィルター枠に記された「 MAX 」近辺は撮影には使えない。ND450 程度までが使用可能範囲となる。ムラは撮影時のファインダーやライブビューでは気付きにくいので注意しよう。
■ フィルター径は2種類-ステップアップリングを使おう
ケンコーバリアブル NDX は現在、 82mm と 77mm のレンズ口径用のフィルターが発売されている。もしも使いたいレンズがこれらよりも小さい径であれば、ねじ込み径を変換できるステップアップリングを使えば装着できる。ただし小さな径のフィルターを大きな径のレンズに取付けるステップダウンは画像周囲のケラレの原因となるので避けよう。
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■ 動画撮影でも NDX を使ってみた
ケンコーバリアブル NDX は写真撮影だけでなくムービー撮影においても効果的に使える。露出をマニュアルで固定しておき、徐々にフィルター枠を回すことで画面の明るさを無段階で変えることでフェードインやフェードアウトといった効果を得る事も可能だ。ただし枠を回転させるときにカメラをぶらさないことと、枠を回す指などが映り込まないように気をつけよう。特に広角レンズでの撮影では指が写りやすい。この動画では一瞬指が写ってしまっているのでダメな例。
動画2
写真はムービーとは異なり時間を一枚の像として捉える表現手法だ。特に目では見る事ができないスローシャッターでのブレや流れなどは写真特有の表現であり、時間の流れを感じることだができる。それらを思うように捉えるためには光をコントロールする必要がある。無段階でかつ細やかに光量を調整することができるケンコーバリアブル NDX は、表現の領域拡大をスマートかつ細やかにサポートしてくれるアイテムだ。
■ NDX を使ったスローシャッター作品例
写真6
写真7
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
礒村 浩一