薮田織也のデジカメ1・2・3
第6回 小さな花を大きく撮るには < 後編 >
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「 小さな花を大きく撮るには<後編> 」では、マニュアルでの露出設定やピント合わせの方法を紹介します。ちょっと高度な感じがするかもしれませんが、魅力的な花のマクロ写真を撮るためにもチャレンジしてみてください。
■ 質問 ? マクロ撮影のコツがわからない!
● 読者からの質問
● ボケを自分でコントロールする
花や昆虫など、小さな物を大きく撮影するために、被写体にできるだけ近づいて撮影することを「 マクロ撮影 」、または「 近接撮影 」と呼びます。こうした撮影では、第2回で紹介した「 マクロレンズ 」を主に使います。マクロレンズは普通のレンズよりもカメラを被写体に近づけて撮ることができ、加えて被写体をより大きく写せます。また、普通のレンズに比べてピントの合う範囲が前後に狭くなることを活かして、背景を大きくぼかし、被写体が浮き上がった印象的な写真にします。
背景だけがボケた写真は魅力的ではありますが、その撮影となると、少しだけ高度なテクニックが必要です。というのも、カメラ任せの全自動撮影では撮影者の思い描くイメージに近づけることは難しいため、ピントと露出設定を手動でする必要があるからです。
露出設定とは、写真の明るさに関わる3つの要素、「 絞り 」、「 シャッタースピード(*3) 」、「 ISO 感度(*4) 」を決めることです。この3つの要素の中で、ピントの合う範囲に関わるものが「 絞り 」です。
絞りやシャッタースピードなどの、露出に関わる詳細な解説は、次回( 参照:第7回 露出設定の基本を覚えよう ~ シャッタースピード?)に譲るとして、ここでは「 絞り 」を変化させるとピントの合う範囲が変化することと、それにより絵作りがどう変わってくるのかを知ってもらいます。そして、なぜ面倒なマニュアル操作をしなければならないのかも、同時に理解してもらうことにしましょう。
■ 絞り値を変えてボケ具合を楽しもう
● どこまでボカすかで絵作りが変わる
絞り値を変化させると、画像のボケがどのように変化するのかを見てみましょう。写真04?は、焦点距離(*1)が 90mm の単焦点(*2)マクロレンズを使ったサンプル例です。絞り値を小さくする( 開放に近づける )ほどピントを合わせた位置の前後が大きくボケているのがわかると思います。また、絞り値を大きくする( 絞り込む )ほどピントが合う前後の範囲が深くなっているのもわかるでしょう。
実際の撮影で露出モードがマニュアルの場合、絞り値だけを変化させると、写真05?のようになります。絞り値を大きくしていくほどレンズを通過する光の量が少なくなるので、画面は暗くなってしまうのです。そこで、設定した絞り値では暗い、または明るすぎると感じたときは、シャッタースピード(*3)を変更します。暗いときはシャッタースピードを遅く、明るいときは速く設定します。このとき、シャッタースピードが遅くて手ブレや被写体ブレをおこすようであれば、ISO 感度を高くします。一般的にシャッタースピードが 1/60 秒以下になると手ブレや被写体ブレの確率が高くなると考えられるので、カメラを手持ちで撮影するときは、シャッタースピードを 1/125 秒程度に設定できるまで ISO 感度(*4)を上げましょう。
以上のことで、露出設定をマニュアルでしなければならない理由がなんとなくおわかりいただけたのではないでしょうか。カメラの全自動( P )モードは、カメラから被写体までの距離がある程度ある場合にはそれなりに優秀な働きをしますが、マクロ撮影となると少し頓珍漢な答えを出すことがあるのです。特に色が複雑で明暗の差が激しくなることもある花のマクロ撮影では、メインの被写体が極端に明るく、または暗くなることがあるのです。こうしたことを踏まえ、自分のイメージ通りの撮影をするためにも、マクロ撮影はマニュアルモードで挑戦してみてください。
※01 | 焦点距離 複数枚のレンズで構成されるカメラのレンズにおいては、レンズのピントがあったときの、レンズからフィルムや受光センサーまでの距離のこと。このとき、レンズのどこを基準点とするかは、レンズの構造によって異なる。28mm( 広角レンズ ) や 50mm( 標準レンズ )、100mm( 望遠レンズ ) などと表記する。焦点距離が長いほど受光センサーに映る視界( 画角 )が狭くなり、短いほど広くなる。また、レンズの鏡筒が長さと焦点距離の長さは比例しない。 |
※02 | 単焦点( レンズ ) 焦点距離が変化するズームレンズに対して、焦点距離が固定されているレンズを単焦点レンズと呼ぶ。ズームレンズに比べて単焦点レンズは明るくボケがキレイに表現できるのが特徴。また、同程度の価格帯であれば、ズームレンズよりもレンズ自体の性能が高いとされる。 |
※03 | シャッタースピード シャッターが開いている時間のこと。単位は秒で、1/125 や 1/80 などと表記されるが、カメラ本体では、125、80 と分数の括線を省略して表記する。1秒以上に長い場合は、1″、5″ というように、「 ”」を使って表記される。動いている被写体を撮影する場合、シャッタースピードが速いほど被写体を静止させたように撮影でき、遅いほど被写体の残像が映り込む。 ( 参照:第7回 露出設定の基本を覚えよう ~ シャッタースピード?) |
※04 | ISO 感度 デジタルカメラでの ISO 感度は、受光センサーの光に対する感度を表わす数値。ISO 感度を上げると、受光センサーが光を電気信号に変換するときに増幅して記録する。これにより、暗いシーンを明るく写すことができる反面、画像にノイズが入りやすくなる。最近のデジタルカメラでは、ISO 感度を上げて撮影したときは、カメラ内部でノイズ除去処理をするようにしている。 |
■ マクロ撮影時のピント合わせのコツ
● 一輪の花は蕊の少し手前にピント
花のマクロ撮影の場合、ピントを合わせる場所によって、絵全体のイメージが大きく変わってきます。写真の絵作りに正解というものはありませんが、あえて花の写真における教科書的なポイントを上げるとすれば、写真06?の下のように「 蕊( しべ )」の少し手前にピントを合わせてみましょう。そうすると、花弁がボケてしまうことがありますが、蕊がボケている写真よりも全体的にまとまることがよくあります。蕊も花弁にもピントを合わせたいときは、?写真06の上のようにアングルを変えることで対応できる場合もあります。ただし花の種類によっては蕊と花弁の位置が大きく離れていて、全体にピントを合わすことが困難なこともあります。そのようなときは、絞り値を変えてピントの合う範囲を広げてみましょう。
● 複数の花は手前にピント
大小様々な花を寄せ集めたフラワーアレンジメントを撮るときには、どこにピントを合わせればいいのか迷うことでしょう。こうした複数の花をマクロ撮影するときは、基本的には手前の花にピントを合わせます。写真07?のように手前にある大きな目立つ花をぼかしてしまうと、絵全体がボケたイメージになってしまうことがあります。後ろの小さな花にピントを合わせた上で絵を引き締めたいとするなら、少しだけ位置をずらして手前の黄色く大きな花を右下の隅においやるか、手前の花をもっとぼかしてしまうとよいでしょう。こうした前にあるものをボカして、後ろの被写体を引き立てる方法を「 前ボケ 」と呼びます。
大小様々な花が混在するときは、大きな花の一部を切り取るフレーミングをしてみるのも面白いかもしれません。ピントは手前にくる大きな花に合わせ、背後に小さな花をちりばめてみましょう。こうした思い切った構図は、マクロ撮影の醍醐味とも言えます。
マクロ撮影では、ピント合わせもマニュアルの方が良いことがおわかりいただけたでしょうか。カメラから被写体までの距離が極端に近いマクロ撮影では、オートフォーカスはあまり役に立ちません。狙った位置にぴったりとピントを合わせるためにも、マニュアルフォーカスにチャレンジしてみてください。また、ピントが外れないようにするためにも、三脚の利用は必須ですよ。
■ 背景に木を配ろう
● 花の色に合わせて背景の色や明るさを選ぶ
写真09?のように、明るい花をアップにして撮るときは、背景の明るさや色に気をつけましょう。せっかく良い構図を見つけても、白い花の背景が明るすぎると花自体が目立たなくなってしまいます。花と背景が同系色の場合は、背景を花よりも少しだけ暗くなるように、背景に当たる光を遮るなどして工夫してみましょう。
■ おまけフォト
● 昆虫写真
昆虫のマクロ撮影は、被写体が動くために花よりも極めて難しくなります。はげしく動き回ることの多い日中の昆虫の場合は、シャッタースピードをなるべく速くして、連写して撮りましょう。事前に昆虫の生態や性格を把握しておき、比較的じっとしている時間帯を狙うと撮りやすいかもしれません。写真12?と写真15?はマクロレンズを使って撮っていますが、写真13?および写真14?の蛍は、400mm 相当の望遠レンズで近寄って撮っています。
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● 質問待ってます!
超初心者向けに始まった長期連載「 薮田織也のデジカメ1・2・3 」では、読者の皆様から撮影やカメラについてのご質問を募っています。いただいたご質問への回答は、本講座、またはメールマガジンに掲載する予定です。
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■次回予告
●?露出設定を詳しく解説!
次回からは、これまでの記事にも何度か出てきている「 露出 」について解説します。今回紹介した「 絞り 」をはじめ、「 シャッタースピード 」と「 ISO 感度 」の扱い方を解説しながら、絵作りの基本に迫っていきたいと思います。お楽しみに。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
薮田織也事務所