薮田織也のプロダクツレビュー
電波式スレーブ搭載・大光量小型ストロボ
Nissin i60A
Photo & Text:薮田織也
TOPIX
斬新で安定のクリップオン・ストロボを提供してくれているニッシンジャパン株式会社の大光量小型ストロボ i60A。同社の電波式ワイヤレス TTL システム「 NAS 」に対応した本製品を、本誌写真家、薮田織也がその使い心地をレポートします。 by 編集部 |
Index
■ Nissin i60A とはどんなストロボ? ■ i60A の外観 ■ i60A の操作方法 ■ 照射角・ハイスピードシンクロ・その他の設定 ■ リセット方法と LED ライト ■ 電波式コマンダー Air1 で i60A を使う ■ i60A + Air1 で花を撮ってみた ■ 総評 |
■ Nissin i60A とはどんなストロボ?
2年前に発売されて好評を博したたニッシン製コンパクトストロボ「 i40 」の上位機種に位置づけられる Nissin i60A。i40 が発光量 G/N 40 だったのに対して、i60A は、なんと G/N 60( 35mm 判換算で照射角 200mm 時 )という大光量。しかも同社の電波式ワイヤレス TTL システム「 NAS 」に対応している製品だ。
NAS とは、Nissin Air System の略称で、Wi-Fi と同じ 2.4GHz 帯の電波を利用して、同社の NAS 対応クリップオン・ストロボを遠隔操作するシステム。従来の i40 は NAS 未対応だが、筆者を含め多くのユーザーから「 i 」シリーズの NAS 対応が求められていた。それが i60A で実現したというわけだ。i60A が対応するカメラ本体は、フォーサーズ( オリンパス・ルミックス )、ソニー、富士フイルム。そして、昨年 12 月にキヤノン用が発売され、2017 年1月にニコン用が発売された。今回はこれらの中からフォーサーズ用 i60A をピックアップして、その使い心地をレポートしたいと思う。
■ i60A の外観
まずは i60A の前身でもある G/N 40 の i40 と並べて比較してみよう。すぐにはどちらが i60A か判別できないほどだろう。i60A は G/N 60 の大光量を持つクリップオン・ストロボとしては異例のコンパクトさだ。大きな違いは発光部が少し長く発光面が大きい。そして発光部の頭頂に大きなバルジ( 突起部 )がある。こうしたバルジができたのは大容量コンデンサを搭載したためだそうで、筆者はこの突起部をパワーバルジと呼んでいる(笑)。それでは外観をぐるりと眺めてみよう。
正面ニッシンロゴの上部にあるのは i40 と同じ調光できる LED ライトだ。動画の撮影用として搭載されているが、スチール撮影でも使えるし、暗闇でいざというときのライト代わりにも使える。ニッシンロゴの下部にある横長の蓋の中には、i40 にはなかった外部バッテリー( ニッシン製の PS8 など )を接続できる端子がある。外部バッテリーを接続すれば、単3電池だけでは無理な長時間発光ができるようになる。
電池収納部は i40 と同じで、ボディ側面の蓋をスライドさせて開けるとそこにある。ニッシン製の他のクリップオン・ストロボのようにバッテリマガジンはなく、単三電池を4本を直接収納するタイプだ。これも i40 と同じだ。アルカリ乾電池でも動作はするが、i60A は G/N 60 という大光量なので、エネループなどのニッケル水素電池がお奨めだ。
i60A の発光モードや調光などの操作は背面部ですべて行なう。i40 では2つのアナログダイヤルを使って操作するが、i60A では視認性の高いカラーモニターが搭載された。その下にある2つのダイヤルのうち、左は i40 と同じ発光モードを選択するモードダイヤル。右は調光と照射角度を調整とその他の設定の切り替えを兼ねているダイヤルスイッチだ。2つのダイヤルの間にあるスイッチは、上がテスト発光スイッチを兼ねたパイロットランプ、下がパワースイッチだ。カラーモニターを使った各種モードの操作については後述する。
発光部は垂直方向 90°、水平方向 360° のバウンス角で向きが自由に変えられる。水平方向はなんと 360°。バウンス角が 270°までというクリップオン・ストロボが多い中で、最近のニッシン製クリップオン・ストロボはほとんどが 360°、1回転できる。これはオンカメラ( カメラの上にストロボを付けること )撮影するときにその効果を発揮する。嬉しい配慮だ。
発光部の下部には、引き出して使うワイドパネルが格納されている。i60A の照射角はフォーサーズ用で 12 ~ 100mm ( 35mm 判換算で 24 ~ 200mm )の画角に対応しているが、ワイドパネルを使うと 8mm( 35mm 判換算で 16mm )相当に対応できる。また、発光部の上部には、これも引き出し式のキャッチライトパネルが装備されている。キャッチライトパネルは、被写体に対してストロボ光を直炊き( 直接光を当てること )したくないときに、バウンス角を調整して発光部に角度をつけ、ストロボ光をキャッチライトパネルに当てて反射光として使う。
■ i60A の操作方法
まずはパワースイッチを1回だけチョンと押して電源を入れてみよう。パイロットランプが赤く点灯し、カラーモニターも起動して瞬時に起動が完了すると、カラーモニターの下部にモードダイヤルで現在選ばれているモードが表示される。i40 にあったモードダイヤルの左端の LED ランプが i60A には搭載されなかったがが、カラーモニターに選ばれているモードが表示されるので問題はないわけだ。i40 の場合、暗いロケーションでどのモードが選ばれているかが確認しづらかったが、i60A はその点が大きく改良されている。実際、このカラーモニターは視認性がとても高い。ニッシン製のクリップオン・ストロボのユーザーインターフェイス( 以下 UI )は以前から定評があり、製品世代ごとに改良されてきたが、i60A で採用されたカラーモニターとアナログダイヤルの組み合わせは、これまでのニッシン UI ではもっとも操作性が良いと筆者は感じている。憶測ではあるが、今後のニッシン製品は、この UI で統一されていくのかもしれない。
「 TTL 」モードと「 M 」モードの操作を見てみよう。i60A をオンカメラでストロボとして使う場合は、「 A 」、「 TTL 」、「 M 」モードの3つを使うことになるわけだ。「 A 」モードは全自動 TTL モードで、被写体の明るさに合せてカメラが自動でストロボを調光してくれる。ストロボが初めての人にオススメだ。「 TTL 」モードは、「 A 」モードに ±2.0EV ( 0.33EV 刻み )の調光補正を加えたモードだ。( すべて自動の「 A 」モードでは調光補正はできない。 )「 A 」モードでストロボに馴れてきたら使ってみて欲しいモードが「 TTL 」モードだ。補正無しの TTL モードで撮ってみて、明るすぎると感じたら操作ダイヤルを回してマイナス側に調光補正、暗すぎると感じたらプラス側に調光補正して再撮影してみればいいわけだ。
3つめの「 M 」モードはマニュアルモードのこと。「 TTL 」モードに慣れて、もっと自分で光を調節したいと感じるようになったら是非とも使って欲しいモードだ。「 M 」モードなら、i60A の光を 1/256 という微弱発光からフル発光まで、1/3 段( 0.33EV )刻みで調光できる。「 TTL 」モードでは場の光にストロボの発光量が左右されるが、「 M 」モードでは発光量を任意に指定できるので、慣れてくればイメージ通りの光を作れることになる。それも、i40 では TTL モードで 1/2 段( ±0.5EV )、マニュアルモードで1段( ±1.0EV )刻みでしか調光できなかったが、i60A ではこうして微妙な調光ができるのが嬉しい。
■ 照射角・ハイスピードシンクロ・その他の設定
i60A では、ストロボの照射角、ハイスピードシンクロ( 同期速度を超えたシャッタースピードにストロボの発光を対応させること )の設定も簡単にできる。本体背面の右側にある操作ダイヤルは複合スイッチになっており、ダイヤル盤面に記載されている方向へ操作ダイヤルを長押しすれば、カラーモニターがそれぞれの設定画面になるので、表示された状態で操作ダイヤルを回して任意の設定をすればよい。照射角の設定は「 M.Zoom 」を長押しすると、カラーモニターの左上に「 A 」が表示される。ここで操作ダイヤルを回すと照射角を任意に設定できる。設定が終わったらもう一度「 M.Zoom 」を長押しするか、約5秒放置すると通常のモードに戻る。照射角マニュアル設定モードでの「 A 」は、自動ズームになっていることを表わしている。通常はレンズの焦点距離に合せて自動で照射角は変更されるので、マニュアルで照射角を変更する必要がないときは「 A 」に戻しておくことをオススメする。
ハイスピードシンクロ( 以下 HSS )モードに変更するときは、操作ダイヤルの「 H 」を長押しすると、カラーモニターに「 H 」が表示され、HSS モードになる。通常モードに戻すときは操作ダイヤルの「 H 」をもう一度長押しする。注意したいのは、HSS モードはバッテリーとストロボに大きな負担をかけるという点だ。HSS で発光させる必要がないときは必ず通常モードに戻しておこう。
右側の操作ダイヤルには、ビープ音の ON/OFF と NAS で使う電波のチャンネルを任意に選択する機能も搭載されている。音を出したくないロケーションでの撮影では、ビープ音をオフする必要があるが、その ON/OFF を即座に変えられるのは嬉しいことだ。また、NAS で使う電波のチャンネルは、通常はコマンダーの Air1 とペアリング( コマンダーとストロボを排他的に接続すること )するときに自動で選択されるが、もし電波状況が悪くて接続しにくいようなことがある場合に、1~8までの間で任意のチャンネルを選べる。
■ リセット方法と LED ライト
クリップオン・ストロボも高機能高性能化すると、それぞれの機能をどう設定していたのか、全部覚えていることがむずかしくなる。そんなときには「 リセット 」機能を使おう。i60A の電源が入っている状態で、パイロットランプを押しながらパワースイッチを長押し( 約3秒 )する。すると、工場出荷時の設定にリセットされ、TTL 補正値は ±0、マニュアル光量は最小値、変更した電波チャンネルは自動モードに戻る。このリセット機能は、何かの原因で i60A が誤動作を起こしたときなどに使うと、症状が改善されることがあるので覚えておこう。
i60A の本体前面には、デジタルカメラで動画を撮るときなどに使う LED ライトが搭載されている。これは i40 と同じだ。LED ライトを使うときは、背面のモードダイヤルでを選択し、操作ダイヤルで調光できる。この LED ライト、暗いロケーション撮影で機材を探すときなど、結構役に立つ。
■ 電波式コマンダー Air1 で i60A を使う
冒頭で書いたように、i60A はニッシンの電波式ワイヤレス TTL システム「 NAS 」に対応したクリップオン・ストロボだ。NAS の電波式コマンダー「 Air1 」とペアで使うことで、i60A をカメラから離して遠隔操作で発光できる。電波式なので、カメラと i60A の間に壁などの遮蔽物があっても、極度の電波障害や遮蔽物に鉛などが使われていない限り i60A を正しく発光させられる。Air1 と i60A との距離は、最大で 30m ほど離すことができる。
Air1 で i60A をコントロールするときは、はじめに「 ペアリング 」という接続をする必要がある。ペアリングをすると Air1 と i60A は排他的に接続されるので、同じロケーションに他の NAS 製品があっても混信することはない。
ペアリングの方法は簡単。Air1 と i60A の両方が電源オフ状態から、まず i60A のロックボタンを押したままパワースイッチを長押しする。ビープ音が断続的に流れたら両方のボタンから指を離す。続いて Air1 の「 S 」ボタンを押しながらパワースイッチを長押し( 約2秒 )する。パイロットランプが点滅したら両方のボタンから指を離す。これで数秒後にペアリングが完了する。ペアリングが済み、Air1 で i60A をコントロールするときは、i60A のモードダイヤルをA、B、Cのいずれかのモードに設定しておく必要がある。このA、B、Cは、Air1 でコントロールするときのグループに相当し、双方で同じグループが選ばれていないとコントロールできない。ペアリング自体はモードダイヤルがどの状態でもできる。
1台の Air1 にペアリングできるストロボは 21 台までで、i60A の他に同じ NAS 対応の Di700A や、AirR に装着した NAS 未対応のクリップオン・ストロボも混在させられる。複数台をペアリングするときは、ペアリングしたいすべてのストロボをペアリング待機状態にしておき、最後に Air1 の「 S 」ボタンを押しながらパワースイッチを長押しすればよい。( Air1 の使いかたは2年前に書いた Di700A + Air1 のレビュー記事を参照 )
Air1 と i60A の組み合わせは大変便利ではあるのだが、少し残念なことがある。それは Air1 の TTL 調光補正が 1/2 段刻み、マニュアル調光が1段刻みでしかできないため、i60A も Air1 で使うときのみその制限に縛られてしまう。i60A 自体は TTL でもマニュアルでも 1/3 段刻みの調光ができることを考えると、Air1 で使うのは少しもったいない。ニッシンジャパンでは、1/3 段刻みで調光コントロールできる Air1 の上位機種「 Air10s 」の発売を予定しているので、i60A を NAS で使いたい方は、先に i60A だけ購入しておき、コマンダーは Air10s の登場を待った方が良いだろう。
■ i60A + Air1 で花を撮ってみた
G/N 60 もあるクリップオン・ストロボ、i60A はどんなシチュエーションであればその能力を活かせるのか。ひとつ確かなのは高速なシャッタースピードを使う日中シンクロでの撮影だろう。日中シンクロとは、明るい日中にストロボを同期( シンクロ )させて使うことだ。太陽の陽射しが降り注ぐ日中の撮影は、レンズに映るモノすべてが明るく照らされているため、撮りかたやロケーションによっては主題が背景に埋没してしまうことがある。背景を暗くして主題だけ明るく浮き上がらせて撮影したいときは、より速いシャッタースピードにして、暗くなりがちな主題にはストロボ光を当てて撮ると良い。こうすることで日中でも背景を暗くし、主題を浮き立てて撮影できる。露出はシャッタースピードでコントロールできるので、絞りは開放付近を選んで背景をぼかすこともできる。日中シンクロでは速いシャッタースピードを使うことになるので、光量に余裕のあるストロボが重宝するわけだ。
屋外での花マクロなどの撮影では、被写体をなるべく静止させて撮りたいので、シャッタースピードは高速に設定したい。しかし、シャッタースピードを高速にすると、ハイスピードシンクロに対応していないストロボの場合、画の中にシャッター幕の影が映り込んでしまう。このため、日中シンクロで使うストロボは、ハイスピードシンクロ( HSS )に対応した製品が必要だ。もちろん、i60A は各カメラのハイスピードシンクロに対応しているので問題はない。
そこで、フォーサーズ対応の i60A をニッシンジャパンから借りて、日中屋外での花撮影をしてみた。撮影日はときどき晴れ間の見える薄曇り。花が揺れる程度の風の吹く日だ。コスモスの咲く公園の片隅で、三脚に乗せた OM-D E-M1 に Air1 を装着。もうひとつの三脚に i60A をオムニディフューザー付きで装着して撮影。撮影風景の写真は下からストロボを当てているが、実際の作品例は花の後方斜め上から当てた。シャッタースピードを速くすることで背景を少し暗くでき、花びらはストロボで明るく浮き立たせることに成功していると思う。
作品例2と3は、Nikon D800 ( Nikon 用 Air1を使用 )で撮ったもの。D800 は一脚に装着し、i60A は小さくて軽いので、左手で i60A を持って花の左斜め上方向から照射している。こうすることで背景に陽射しがあっても、ストロボの光で花のコントラストを強く出すことができる。
■ 総評
革新的で意欲的な製品を出し続けているニッシンジャパンだが、この i60A も例に漏れず意欲的なクリップオン・ストロボだ。i40 とさして変わらないサイズでありながら、G/N 60 という大光量を実現、さらに同社の電波式ワイヤレスシステム NAS に対応させている。少し詰め込みすぎじゃないかと心配になるくらいだ。今はプロ用途でもミラーレスカメラが使われる時代なので、カメラに合わせてクリップオン・ストロボもできる限りコンパクトで、しかも光量には十分な余裕が望まれるだろう。i60A はそうした時代の要求に応えられる製品だと言えそうだ。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
薮田織也事務所