大村祐里子の1万円で行く スナップ写真旅行
第3回 原宿・渋谷・三田( 後編 )
TOPIX
「 大村祐里子の1万円で行く スナップ写真旅行 」の3回目です。今回は原宿・渋谷・三田(後編)です。本企画は、撮影地の選択もすべて大村祐里子さんに委ねています。条件は東京から、「 交通費・お昼・おやつ代込みで1万円以内で行ける撮影地」です。今回は KIPON レンズをおともにしました。機材のみならず、スナップ撮影地選びの参考としていただければ幸いです。 by 編集部 |
「 予算1万円でスナップ撮影の旅に出る 」という、旅好きの私にとっては願ってもいないこの企画。
後半に入る前に再度、今回の旅の機材を再度ご紹介したいと思います。「 IBERIT 」レンズは、Eマウントの MF レンズです。開放 F2.4の単焦点で、焦点距離は24 mm、35 mm、50 mm、75 mm、90 mm の5本がラインナップされています。ドイツで開発とテストを行い、ドイツの品質基準に沿って製造されています。鏡胴はブラックとシルバーの2色。マウントは、ソニーE、富士フイルムX、ライカM、ライカSL の4種類です。重厚感のあるクラシカルな造りが魅力的です。
過去2回の記事において、すべての焦点距離をひと通り使いました。今回は、雨の日ゆえレンズ交換をしたくないと考え、思い切って1本だけ持っていくことにしました。悩みましたが、あえて、スナップであまり使わない「75mm」を使うことにしました。
Index
1.後半戦スタート!
代々木公園を出て、表参道をぶらり。公園内とは一転、雨にも関わらずなかなかの人出。距離をとって、遠巻きに人々を眺めます。
表参道を見渡せる歩道橋の上から。ここからの景色は「THE表参道」という感じがして好きで、通るたびに立ち止まってしまいます。IBERIT のオールドレンズっぽい写りが、雨にけぶる表参道の雰囲気をうまく表現してくれている気がします。
道端に停まっている黒っぽい車が濡れてきれいだなと思いました。代々木公園で見かけたカラスと同じ印象。私は黒っぽいものが濡れているのに惹かれる傾向にあるみたいです。スナップ撮影はいつも、自分の隠れた好みを教えてくれます。
排水溝に集まった小さな葉っぱがかわいらしいと思いました。MF のレンズを持っていると、撮影テンポがゆっくりになって、こういった葉っぱのような、ほんとうに些細なものにも気付けるようになります。それが好きなので、自由に撮影できる日は MF のレンズばかり持ち出してしまいます。
キャットストリートを抜けて、渋谷駅方面へ。
表参道からのんびり歩いて1時間弱。渋谷ストリームの前にある渋谷川付近に到着です。この裏路地っぽい感じが昔から好きです。IBERIT の描く、じっとり濡れたコンクリートの質感がたまりません。F8 まで絞ると、硬さも出ていいですね。
渋谷川のわきを通って、恵比寿方面へ歩いていきます。店頭のフラミンゴ。やさしいピンク色が目に飛び込んできたのでシャッターを切りました。「あーあ、雨だな」という顔をしているように見えます。
恵比寿からゆっくりペースで1時間ほど歩くと、三田エリアに到着します。すっかり、日没が近い時間になりました。この時間帯特有の青さが好きです。田町駅のほうから、三田通りを進んでいきます。路面の水たまりに、通りゆく人とまだ点灯していない東京タワーが写り込んでいました。
傘に最短撮影距離 0.6m まで寄って、背景にうつる車のテールランプを大きくぼかしてみました。日中、代々木公園で撮影した傘越しの一枚とはだいぶ違う、都会的な雰囲気に。夜の街は、明かりの「 色 」で遊ぶのが楽しいですね。
東京タワーの前の前にある芝公園。電灯にほのかに照らされるベンチに惹かれました。かなり暗かったのでシャッタースピードを遅くしました。IBERIT 自体に手ブレ補正機能はついていませんが、α のボディ内手ブレ補正を利用できるので、雨の夜のようなシャッタースピードが遅くなるシーンでも安心です。
赤羽橋交差点付近にて。行き交う車のライトや人々の影が、濡れた路面にうつりこむ瞬間が好きです。
赤羽橋交差点から、目の前にそびえ立つ東京タワーを撮りました。タワーの光が、真上の雲に映り込んでいる光景が心の底から好きです。私のなかで、これこそが東京を象徴する風景です。天気が悪いときにしか見られない、というのもまた良いのです。
2.旅の総括
今回は「1万円旅」の趣旨から外れてしまいましたが、私は雨が大好きなので、雨の日にひたすら街を歩いているだけでも楽しかったです。雨が降れば降るほど、心が洗われるようでした。
スナップは広角レンズを持ち出すほうが好きなので、実は、75mm という画角で1日撮りきれるかどうか不安でした。しかし、75mm という焦点距離は、中望遠であることを忘れるくらい、引いても寄っても使いやすかったです。大きなボケを生かして奥行きも出せますし、広角で撮るスナップとはまた別の面白さがありました。なぜいままで広角レンズにこだわっていたのだろう、と不思議に思うくらい、75mm はすんなり自分の視野や感覚になじみました。
雨の日の絵は、その雰囲気を誇張したくありません。暗かったり、地味だったりしても、それをそのまま写したいと思っています。今回は、IBERIT の派手すぎない色味、忠実な質化描写が雨の街を感じたままに写してくれたので、「 いいなあ 」と思う写真がたくさん撮れました。
雨という最高のシチュエーションの下、自分の土地勘のある場所で、好きだと思うシーンをたくさん写真におさめられたので、いまは非常に充足感があります。
■ 制作・著作 ■
新東京物産株式会社
大村祐里子
スタジオグラフィックス