コンテンツのトップページへ 髭達磨・薮田織也のプチ日記
 2007年 6月 4日 月曜日 写真の真贋判定の方法
 
刊○ストという雑誌から、ある女性 (某航空会社の客室乗務員) のヌード写真の真贋判定をしてくれ、という仕事を頼まれました。その写真は、アメリカのアングラな写真掲示板サイトに、被写体の本人に無断で掲載されたプライベート写真だそうで、その女性を酷く下品に中傷するテキストと、女性の実名が添えられていたそうです。被害者の女性は、掲載者を告訴する意思表示をしているようで、週刊ポ○トとしては、プライベート写真流出被害の実情を読者に訴えるために、この事件を取り上げたいのですが、被害者の女性が件の写真を偽物 ( 後に本物だと認める ) だと主張しているので、記事の信憑性のためにも写真の真贋を確かめてくれ、と、まぁ、依頼のきっかけはそういうことでした。

集部からメールで送られてきた写真は全部で3枚ありまして、いずれも、相当に美人な女性が、あられもない姿で写っていました。3枚とも座りポーズで、全身が写った同一人物と思われる女性。一枚はお風呂、もう一枚はベッドの上、最後はホテルの床の上での座りポーズです。下着姿の写真もありましたが、いずれも肌が極端に露出しています。で、いつもそうなんですけど、この手の依頼でテレビ局や週刊誌の編集部から送られてくる写真は、ブロックノイズが発生しまくった画質の悪い JPEG 画像で、デジタル的に真贋判定するのはほとんど不可能なものばかりです。
 
▼写真1  
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真夏の曇天下で、コンクリート壁の反射光と、白レフを使って撮影しました。

ちなみに、本文の女性と、このモデルさんは、まったくの別人ですので誤解の無いように……。(笑)

モデル:姫

     
回も例にもれず、週刊ポス○編集部から送られたきた写真は、ブロックノイズいっぱいの JPEG 画像でした。編集部で再保存や縮小などの加工を一切しないで送ってくれと頼んだので、多分、掲示板に掲載された写真の実物なのでしょう。それでもやはりデジタル判定は無理でしたので、今回も、「 合成写真を見破る方法 」 で書いた、アナログ的な判定方法を試みることにしました。ただ、今回はちょっとユニークな判定方法を採ったので、その方法と一緒に、普段、髭がする写真の真贋判定の方法を紹介してみたいと思います。

贋を判定するための最初の作業は、写真を眺めて気付いた点を、どんな些細なことでももらさずメモしていきます。このとき、2つ立場から写真を眺めます。ひとつめは、カメラマンとしての立場です。その写真はどんなロケーションで撮られたのか、メイン光は太陽なのか、室内光なのか、補助光としてストロボやレフ板は使っているのか、また、その光がどこからどの方向に射しているか、直接光か、間接光か、さらに、カメラマンと被写体との距離はどの程度離れているのか、レンズの焦点距離は、絞りやシャッタースピードは、光学フィルタは使っているのか、カメラは一眼レフかコンパクトカメラか、もちろん、デジタルカメラか銀塩フィルムカメラなのかといった点をチェックします。このとき、その写真の撮影者がどんな位置からどんな体勢で撮ったのかとか、モデルの被写体とどんな会話をして撮ったかのかなどを想像すると、メモできることが増えます。2つめは、写真合成の技術者としての立場で眺めますが、まず、写真が 「 合成である 」 ことを前提にしたチェックをします。
 
▼写真2  
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もともと、ちょっと強めのコントラストと赤味の強いイメージで撮影したのですが、RAW 現像の際、色味とコントラストを若干強めにして、印象的な写真に現像してみました。
モデル:姫


具体的には、合成写真である根拠となりそうなポイントを見つけてメモするわけですが、以前にも 「 合成写真を見破る方法 」 で書いたように、部分的に不自然なブロックノイズがあるとか、不自然な影などを探します。たとえ偶然に合成っぽくなっていると思えるような箇所であっても除外せずにメモします。写真合成の技術者としてはもうひとつ、今度は反対に、写真が 「 本物である 」 ことを前提にしてチェックします。この場合は、合成する上で難しいと思われる部分を虱潰しにチェックします。たとえば上の写真のように、背景に写り込んだ影のグラデーションが自然であるとか、画像編集ソフトで範囲選択するにはあまりにも複雑すぎる髪型であるなど、合成するには難易度が高いと思われる箇所を重点的に見ていきます。
     
の写真をチェックしたときに気付いた点は、まず、3枚とも紙焼きプリントをスキャニングしたものだということです。根拠は、画像にプリントの端が写っていることと、よく見ないとわかりませんが、プリント表面の凹凸の薄い影が写り込んでいたことからわかりました。次に、3枚とも縦位置で写した室内の写真であり、すべて座りポーズの人物写真で、全身が写っています。そして、室内照明とストロボの光だけで撮影しています。お風呂の写真の室内灯は、写真の色味から考えて、多分白熱灯で、ベッドの写真が昼光色蛍光灯。ホテルの床の写真は、ストロボ光が強すぎて室内光の判断がつきにくい写真でしたが、ホテルだと考えれば、照度の弱い白熱灯でしょう。ストロボは、3枚とも被写体の正面から照射されています。カメラのアングルは、ベッドと床の写真がほぼ同じで、お風呂の写真のみ少し俯瞰で撮影されています。また、カメラと人物の距離は3枚ともほぼ同じで、1m 〜 2m 程度。そして人物と背後の壁までの距離も大体 1m 程度。写真に若干の歪曲収差があることから、3枚ともレンズは広角よりで撮影されています。ただし、お風呂の写真のみ、歪曲収差が多少強く出ていまます。ストロボによる人物の影のでき方はベッドと床の写真が、人物の左側に、ほぼ同じ角度で、さらに同じ量できていました。影の濃度はことなりますが、ボケ具合はほぼ同じです。お風呂の写真も人物の左側にできていましたが、量と角度が完全に異なります。

れらのことから考えると、ベッドと床の写真は、もしかしたら同じカメラで、多分、ポップアップするタイプのストロボが内蔵されている一眼レフカメラ。お風呂の写真のみ、ストロボ内蔵のコンパクトカメラではないかと思います。理由は、3枚の写真ともほぼ同じ撮影距離なのに、ベッドと床の写真の被写体の影だけが大きくできていること。これは、レンズとストロボの間が、お風呂の写真のカメラより離れているということになります。この影のでき方からすると、ベッドと床の写真はコンパクトカメラではありません。お風呂の写真のみコンパクトカメラの可能性が高くなります。また、3枚の写真とも、縦位置撮影時に、シャッターボタンが付いている右側を下にカメラを構えて撮影していると断定できます。理由は、すべての写真で、被写体の影が左側に出ているからです。
 
▼写真3  
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屋外のジャグジーでの撮影。こうしたカットの場合、泡の白が飛ばないようにすることと、モデルの肌の色がくすまないように、露出設定には最新の注意を払います。適正だと思われる絞り値よりも、一段絞り込んで、泡が白く飛ばないように気をつけました。そうした場合に暗くなりがちなモデルの肌は、ハロゲンのビデオライトと白レフを使って起こしています。
モデル:姫










読者の皆さんは、縦位置写真を撮るときに、シャッターボタンのある右側を下にしますか? 髭は普通、右側を上にして構えます。もちろん、逆でないと撮り難い場合は例外です。右側を上にする理由は、絞りやシャッタースピードなどの、設定ダイヤルが右側に集中しているからで、右側を下に構えると、それらの操作がしにくくなるからですし、なによりシャッターボタンが押しにくいんです。もうひとつの理由が、髭はファインダーを覗いていない方の目(髭の場合は左目)も開けていることが多いからで、右側を下にすると左目が隠れてしまうからです。(外部ストロボを付けちゃうと、右側を上にしても左目は隠れてしまいますが…)以上、諸々の点から考察すると、この写真の撮影者は、多分、いや、確実にカメラ素人です。ストロボは正面照射。カメラは右側を下といった理由からだけではなく、素人目にもわかるほどに、写真自体がヘタクソです。この撮影者は、スタジオグラフィックスを読んでない輩なのは確かですね。(笑)
     
し、これら3枚の写真が合成写真であるとしたら、体と顔は別人物ということになりますよね。被害者を貶めたいために、別のヌード写真に被害者本人の顔を合成するわけですから、体そのものは、同じ人物の写真でなくても良いわけです。ところが、これら3枚の写真に写っている人物の体は、同一人物の体だと断定できました。同一人物かどうかを判定するためには、ホクロや傷など、体にあって比較しやすい目印があれば簡単なんですが、なにしろ画像のクオリティが低いために、これらの目印は何一つ確かめられませんでしたので、髭は別の方法を採りました。それは、顔の長さ ( 前髪の生え際から顎までの長さ ) と、首から恥骨までの長さ、そして、肩幅、上腕、前腕、手の甲、小指の長さ、臍から乳房までの長さの比率を3枚で比べてみたのです。Photoshop の [ パス ] を使って、被写体の各部位に線を引き、その [ パス ] を別の写真にコピー&ペーストしてから、 [ パス ] 全体を拡大縮小して別の写真に合わせます。その後、各部位の [ パス ] を写真の各部位に移動していくと、すべての [ パス ] がぴったり合致していったのです。腕の長さだけとか、一部分だけが合致するのなら別人でもありうるとは思いますが、前記したすべての部位が合致するのは、同一人物としか考えられません。

ぜ、体が同一人物のものかに拘ったのかといいますと、同一か、別かによって、ヌード写真合成の作業の煩雑さが違ってくるからです。 特定の人物の顔と、別人物の裸体を合成する場合、すぐに思いつくのが首を境目にして合成する方法です。他にも、顔の中だけ合成する方法や、体は本人だけど、胸や腰は別のヌード写真からもらってきて合成する方法もあります。一番簡単なのは顔の中 ( パーツ ) だけ合成する方法ですが、本人と見分けの付かない合成写真にするのなら、ヌード写真の被写体の顔の輪郭が、本人と同じ形をした写真を探すか、または別のモデルを用意して自分で撮らなければなりません。続いて、胸や腰だけを合成する方法は、上手に合成できれば、体の輪郭や顔そのものは本人なわけですから、騙せる写真が作りやすいとは思いますが、画像処理の相当のテクニックがないと難しく、作業に長時間を費やすことになるでしょう。首を境目にして合成する方法は、一見簡単そうに思えますが、合成する写真によっては極めて難しくなります。それは、写真の背景がどういう状態かによるわけです。
 
▼写真4  
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ちなみに、ここに掲載した写真は、すべてモデルの許可をもらってあります。(笑) 著作権もしかりですが、肖像権も遵守しなければいけませんよね。
モデル:姫





たとえば、2枚の白いホリゾント ( バック紙 ) を背景に撮った写真を合成するのなら比較的簡単ですが、件の3枚の写真のように、お風呂や床やベッドの上など、複雑に色や形が変る背景がある写真を使って合成する場合は、人物と背景を細かく切り抜かなければなりません。なにしろ被写体の輪郭には、使われている照明の色や、背景の色に染まった光が回り込みますから、それも意識して合成しなければなりません。画像処理のプロが合成写真を作るのであれば、最終イメージを予測して、合成に使う各パーツをそれぞれ撮影しますが、一般の人が、こうしたヌードの合成写真を作るとしたら、自分が過去に撮影した写真や、ネット上に転がっている写真を使うことになるはずです。それらの写真の中から、被害者の写真と同じようなロケーションと照明で、しかも同じようポーズをとっている写真を見つけることは、相当に至難です。ましてや、合成する裸体が同一人物のものだとすると、難しさは天文学的になるでしょう。それでもこれらの写真が合成写真であると仮定した場合、その合成テクニックはかなり、というか、スーパーな腕前で、また、根気も半端ではなくあって、そしてあきれ返るほどの暇人であるということです。
     
論は、これら3枚の写真は、本物である可能性が極めて高いということです。写真が合成であることを前提とした場合、今回の話の流れから、撮影者と合成者は同じ人物であろうという前提も生まれます。( 他人に合成を頼むことも考えられますが、目的が女性への酷い中傷なので、共犯になってしまう恐れもあるため、可能性は低くなります ) 撮影と合成が同一人物のものだとした場合、犯人は、写真の腕と知識はド素人なのに、合成写真の技術はプロも顔負けという人物になります。こういうことはありえません。誰にも見分けが付かないくらい上手な合成写真を作るには、写真の腕はともかく、幅広い写真の知識がないと作れません。

上の根拠から、この写真は本物ですよと、週刊ポス○編集部に答えたら、翌日に編集部から電話があって、「 被害者ご本人が、あの写真は私自身ですと連絡くれたので、髭達磨さんの判定結果は掲載する必要がなくなりました 」 だと………。まぁ、今回の依頼に関しては、あの写真が本物だと答えることに躊躇していたので、この結果はよかったんですがね。というのも、被害者本人が写真は偽物だと主張している以上、赤の他人がとやかく言うことじゃないと思うのですよ。被害者は犯人に裏切られたとともに、世間や知人に恥をさらしてしまっているわけですし、せめてあの写真は偽物だと主張することで、周囲の目から自分の恥をごまかすことができるわけです。被害者が無用心だったことは事実ですが、必要以上に生き恥をさらさせることはないでしょう。まぁ、そんなこんなで、髭の知人にも客室乗務員が多いので、H な写真を撮らせるなら、髭に頼んでねと言っておくことにします。
 
▼写真5  
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これ以上、女性の肖像権を侵害する馬鹿な輩が増えてくると、我々のような女性の写真が撮りたくて仕方ないだけの愛すべき同輩が苦労しますので、裁判になったら、犯人に、きっつ〜い判決をお願いしますね。裁判長殿。

モデル:姫
 
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