水咲奈々の水族館写真の撮り方
~ 基礎編
TOPIX
2015年12月20日に開催予定の「 サンシャイン水族館 Xmas貸し切り大撮影会 」。本イベントで講師をお願いしている写真家・水咲奈々さんに「 水族館写真の撮り方 」を執筆していただきました。今回の基礎編と次回の応用編の短期連載予定です。それではお楽しみください!by 編集部 |
暑い夏でも涼しく、寒い冬でも暖かく、雨でも濡れずに撮影できる水族館は最高の撮影スポット!…ですが、水族館での写真撮影というと館内が暗くて撮りにくい、ガラスに反射して余計なものが写ってしまう、思っているような色味が出ないなど苦手な方もいらっしゃるようですね。でも、ポイントさえ押さえれば誰でも簡単に素敵な写真が撮れるのが水族館の醍醐味なのです。今回は、水族館撮影を楽しむための基本の撮り方をお教えします。
■ お魚撮影のお勧め撮影パターン
それでは早速、水族館でのお魚の撮り方をお話ししましょう。大きな水槽いっぱいに泳いでいるお魚の群れを見るとレンズを広角側にして水槽全体を広く写したくなるかも知れませんが、最初はまるで水中に潜って撮ったかのような写真を目指して、水槽になるべく近付いで撮影してみましょう。そうすることで、ガラス面に写り込んだ非常口のマークや照明を構図から排除することができます。ですが、水族館の水槽はほとんどがアクリルでできているためレンズが当たると傷が入ってしまう危険性があります。そうならないためにはレンズがガラス面に並行になるようにカメラを構えましょう。レンズの角がガラスに当たりにくくなり、反射も防ぎやすくなります。また、レンズフードの先端に指を添えるようにレンズを下から支えると水槽のガラスへの接触を抑えられるのとともに、レンズが安定してブレを軽減してくれます。正しいカメラの構え方を習得しましたら、まずは基礎編ということで、筆者お勧めの3つのパターンをご紹介しましょう!
(1)クラゲは逆光で透明感を出す!
水族館撮影の初心者さんは、まずはクラゲを被写体にしてみてください。クラゲは一方方向に規則正しく泳いでいることが多いので軌道が読みやすく、それほどスピードもないのでAFが合いやすいのです。
クラゲ撮影のポイントは、光に透ける体なので水槽内のライトの方向を見て逆光になるように撮ることです。そのようにして撮るとクラゲの透明感を演出することができますし、光量不足をカバーすることもできます。ピントはクラゲのカサの縁か、カサの内側にある口腕(足のように伸びているもの)に合わせましょう。被写体にするクラゲはカサが破れてなく口腕が短くない綺麗なクラゲを見つけてくださいね。
サンシャイン水族館のクラゲトンネルの水槽内の照明は様々な色に変化します。「 ▼写真1 」はその照明が無色透明になった瞬間を狙ってクラゲの白さを引き立てるカットにしました。
「 ▼写真2 」はクラゲのカサの模様が綺麗に出るようにピントを合わせました。クラゲのカサにピントを合わせにくかったら( 合っているのがわかりにくいことがあります )カサの縁にピントを合わせてその縁がシャープに見えるように調節するときれいに写ります。
(2)欲張らずに一匹の魚を狙う!
水族館の大きな水槽を見ると全体を撮りたくなってしまう気持ちも分かりますが、まずは水槽の中の一匹の魚を狙って撮ってみましょう。泳ぎ回っている魚に狙いをつけるのはなかなか難しいですが、イソギンチャクやサンゴに集まってくる魚を狙うと撮りやすいですよ。ピントは目に合わせたいところですが被写体が小さいので難しく感じたら体の側面に合わせてもいいです。その場合、大口径のレンズを使っているときは絞りを少し絞って被写界深度をほんの少し深くするとピントずれの失敗を防げます。ただ絞り過ぎるとブレ写真を量産してしまうので、F5.6かF8位までにしておきましょう。
イソギンチャクやサンゴには魚が集まってきます。まるでベッドのようにゆったりと休む魚もいるので泳ぎ回っている魚よりも撮りやすいです。
水中に何もないと奥行き感が出にくいのですが、このようにサンゴが手前から奥まで画面内にあると簡単に奥行き感を演出できます。単調な画にならないように魚以外の背景にも気を使ってみましょう。
(3)ぐぐっと寄ってみる!
お魚の全身を撮るのもいいのですが、そこから一歩近付いて撮影してみると体の模様や表情が良く見えて、また新しい発見をすることができます。全身の写真では水槽内の管などが写ってしまいがちなので、それらの邪魔なものを排除することができるのも寄って撮影することのメリットでもあります。この時のポイントとしてはあまり絞り込まないほうがムードのある写真になります。隅々までしっかり写っている写真もいいのですが、図鑑のような写真になりますので‘自分らしい’写真を撮りたい方は、ぜひボケを活かした写真に挑戦してみてください。
水槽の下のほうでさぼっているかのようにぼーっとしている魚に目が行きました。まずは全身を捉えてから…
(現在サンシャイン水族館ではボロカサゴの展示はしておりません)
…ぐぐっと近寄ってみると青い斑点が少しだけちりばめられている、かなり面白い模様の体でした。一匹にフューチャーしたら次はその一部分にズームアップして撮ってみると新たな発見がありますよ!
■ 水族館撮影に必要な機材
それでは上記の写真を撮るために必要な撮影機材についてお話ししましょう。特殊な機材は必要ありませんので、肩の力を抜いてご覧くださいね。
(1)カメラボディ
お勧めはレンズ交換のできるデジタル一眼レフカメラかミラーレスカメラです。コンパクトデジカメやスマートフォンなどでも撮影できますが、レンズ交換できるほうがより水族館撮影をより楽しむことができます。連写性能はそれほど高くなくてもいいのでエントリークラスのボディで大丈夫です。が、高感度性能は高いほうが感度を上げて撮影しても画像の荒れが少ないので、デジタルカメラであれば高感度性能が上がっている新しい機種のほうがいいでしょう。今回の作例はニコンのD5500とオリンパスのE-PL7で撮影しています。
(2)レンズ
標準画角のズームレンズでも撮影できますが、マクロレンズをお持ちでしたらぜひ使ってみてください。35~60mm位の標準画角で明るい大口径レンズですと、暗い館内でもシャッタースピードを稼げて、マクロなのでガラスに近付いて撮影することができるので余計な写り込みを排除することができます。レンズフードは着けて撮影しましょう。
(3)メディア
連写を多用するわけではないのでそれほど高性能なものはいりませんが、撮影後にホワイトバランスを変えてみたり、色味を派手にしたりシックにしたりと遊べるRAWで撮影すると楽しいので、書き込み速度があまり遅すぎないものがいいでしょう。撮影枚数は300~700枚は撮れるように容量を空けておきましょう。
(4)プロテクトフィルター
水族館撮影では水槽のガラスに写り込んだ余計なものを構図に入れないために、ガラスにくっ付くように撮影します。水槽に傷を付ける恐れがあるのでガラスに当たらないようにぎりぎりの距離で撮影してくださいね。それでも暗い場所での撮影なので、他のお客様との不意の接触やレンズのズーミング動作時などにガラスにぶつかる可能性は捨てきれません。そんなときに備えて着けておいて頂きたいのがプロテクトフィルターです。今回はKenkoの『Zeta Quint(ゼータ クイント)』を使用しました。このプロテクトフィルターは通常の約3倍の強度のガラスを使用していて、ガラス面の反射率も低く画質にも影響がないので普段から付けっ放しにしておくことをお勧めします。それでもやっぱり、水槽のガラスにはぶつからないように気を付けましょうね!
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■ 水族館撮影での注意事項
続いて水族館で撮影する際に知っておいて欲しいマナーと、知っておくと便利なことについてお話しします。マナーを守って楽しく水族館撮影を行いましょう。
(1)フラッシュNG
水族館で水槽の中の魚を撮るときは、フラッシュは基本的に使用しません。水族館では水槽ごとに工夫を凝らした照明で演出がされていますので、それを写し取ることを楽しみましょう。また、フラッシュの光はガラスに反射して水槽の中を撮るのには適していません。中で泳いでいる魚たちのストレスにもなりますので、特にフラッシュNGと記載されている水槽の前では絶対に使用しないようにしてください( フラッシュの使用が許可されている水槽の前でお子さんなどの人物を撮る場合はフラッシュが有効なことがあります。今回は水槽の中の魚の撮影のお話なのでNGとしています)。
(2)三脚NG
暗いのでブレを軽減しようとして三脚の使用を考えるかも知れませんが、使用しなくても素敵な写真を撮ることができます。泳いでいる魚を撮るためには流し撮りのように自分も動き続ける必要があるので三脚をカメラに付けていると逆に邪魔になってしまいます。
(3)同じ場所での長時間撮影NG
水槽の中を集中して撮影していると驚くほど時間が速く過ぎてしまいます。光の当たり方のいい素敵な場所を見つけたらそこで撮り続けたくなる気持ちも分かりますが、水族館には魚を楽しみに色々な方がいらっしゃっています。撮影マナーのセオリーとしてもお馴染みですが、長時間同じ場所を占拠しての撮影は遠慮しましょう。また、暗い館内では自分の視覚外で小さなお子さんが水槽を覗いていることがあります。水槽から水槽への移動時は、大人の感覚で背中側だけに気を配るのではなく、肩から掛けたカメラがお子さんの顔などに当たらないように館内を歩くことも大切です。
(4)明るい色の服NG
撮影している水槽に一番大きく写るのは自分です。ピンク色やオレンジ色などの明るい色の服はばっちり反射してしまいます。また、ネックレスやピアスなどキラキラ光るようなアクセサリーを着ける場合は小ぶりなものにしておきましょう。腕時計の文字盤が大きい場合は写り込みやすいので撮影時は外すといいでしょう。
■ カメラの基本設定
最後にカメラの基本的な設定についてお話しします。カメラメーカーによってモードの名称が違いますが、ここではニコンのカメラを例に挙げて解説します。
(1)ISO感度
ISO感度は水槽にもよりますが800~6400くらいに設定しましょう。それでもシャッタースピードが稼げずブレが防げないようならもっと上げてもいいですが、拡張感度は使わないようにしましょう。
(2)撮影モード
絞り優先オートでも、シャッター優先オートでも、プログラムオートでも、普段自分が撮り慣れているモードで構いません。ただ、自動でフラッシュがたかれてしまうモードは使用しないでください( オートモード、一部のシーンモードなど )。
(3)フォーカスモードとAFエリアモード
フォーカスモードは動いている被写体向きのAF-C「コンティニュアスAFサーボ」で、AFエリアモードは「ダイナミックAFモード」を使用しましょう。ニコンのカメラでしたら構図の変化に伴ってフォーカスポイントを自動的に変えながらピントを合わせ続けてくれる「3D-トラッキング」もお勧めです。
■ 次回予告
いかがでしたか? 今回は水族館撮影の基本的な撮影方法と必要な機材などについてお話ししましたが、次回は応用編として一歩進んだ撮影方法についてお話ししたいと思います。