特性試験とは手相鑑定みたいなもの
● 手相を見るのに顕微鏡はいらない
僕ら一般市民がカメラ・レンズの特性を見極めるのは、それがたとえ数量化したものであっても、手相鑑定のようなものである。当たるも八卦、当たらぬも八卦ということもありえる。使用者の一人としてそのように 「 相 」 を見極めればいいのだ。 「 診断・診察 」 ではなく 「 把握・鑑定 」 であっていっこうに差し障りがない。手相鑑定以外にも、僕ら自身が健康診断的な手法で特性を見極める方法もなくはないのだが、高価な解像力試験チャートや各種の 「 検診機器 」 が必要なので、それは伝統ある雑誌の診断室にまかせておきたい。手相鑑定なら顕微鏡は不要だ。せいぜい5倍程度の天眼鏡があればいいのである。
我がカメ相鑑定室では、第一に今日の中級以上のデジタルカメラについては、そのすべての性能は合格レベルにあるというスタンスをとりたい。 たとえば、自動車免許歴十数年を超えたような立場の人に、はじめて自動車を購入する人が、「 ホンダとスズキ、どちらの軽が性能いい? 」 と聞かれても、返答に困ってしまうであろう。正直、どっちだって高速道路できびきび走るし、シートの座りごごちだって悪くはない。そりゃ、レクサスと軽、どっちが性能がよいかと尋ねられれば話しは別だが、メーカーが手間暇かけて作り出した商品なのだから、想定外の欠陥や事故品は別として、競争力のある立派な機械であって当然なのである。そこで、まずは、カメラなりレンズなりの鑑定では、こうやったらこうなったという 「 相 」 を報告したい。
● OM-D E-M5 の場合
さて、OM-D E-M5 には、このリアルタイム性を少しでも向上させようと、EVF の表示遅延を短くする 「 フレームレート : 高速 」 設定ができる。そこで、「 背面表示 」、EVF 表示の 「 フレームレート : 標準 」、「 同 : フレームレート : 高速 」 の3種類の表示において、どの程度の表示遅延があるかを調べてみた。 表示遅延の確認は、図-1や図-2のようなしくみを作れば誰でも実行できる。図-3のABCは、各表示方式の典型的的な遅延実写だ。 この計測の結果、 「 EVF 表示 : フレームレート : 標準 」 で 0.066 秒の表示遅延。 「 同 : フレームレート : 高速 」 では 0.028 秒の遅延。 「 背面表示 」 では 0.033 秒の遅延となった。 僕の過去の測定経験からも、多くのミラーレスカメラの背面表示は 0.03 〜 0.04 秒、EVF では 0.10 秒程度の表示遅延があるので、OM-D E-M5 は比較的優秀である。 「 EVF 表示 : フレームレート : 高速 」 はそれなりに遅延が短く、シャッターチャンスをねらう撮影では 「 標準 」 よりはマシである。ただし、このモードでは蛍光灯照明などではちらつきが生ずることがあるそうだ。僕の実験した範囲ではちらつきは視認できなかった。夜景や暗い室内 ( たとえば結婚式におけるキャンドルサービスのシーン ) などを観察するときはモードオフの方が若干明るく表示される。しかし、暗い場所での表示能力については、他メーカーのミラーレスに比べてかなり劣っている。たとえば、図-4のような状況では構図決めもままならないのはいささか閉口してしまった。
● 明暗差記録可能域!
次に、撮影した写真画像に反映されるカメラ特性を述べてみたい。まず最初に、「 ダイナミックレンジ 」 について調べてみた。ダイナミックレンジとは、カメラが1回の露光で記録可能な明暗差のことをいい、写真的には絞り段数 ( あるいはシャッター段数 ) で何段分の明暗差を記録できるというような言い方となる。 テスト方法はさほど難しくない。図-5のように、カメラはレンズをとりはずした状態で使う。「 ピクチャーモード 」 は 「 Flat 」 がいいだろう。ホワイトバランスはオートか屋外光活用ならデーライトに。JPEG 撮影としておく。また、「 メニュー ⇒ カスタム ⇒ 露出 / 測光 / ISO ⇒ 露出ステップ 」 でステップ数は 「 1/2EV 」 を選んでおく。 マニュアル露出設定にし、シャッター速を 1/30 にセット、背面表示の露出インジケーターが適正露光 ( プラマイ0 ) 表示になるように、ISO 感度と白紙面の明るさ ( 光源の距離 ) を調整する。ISO 感度はあまり高くするとノイズの影響で測定誤差が生じやすい。ISO = 800 程度が上限である。 この状態で、シャッター速 1/4000 から1秒まで、1/2EV ずつ速度を変化させながら都合 25 コマ、撮影を繰り返す。撮影された JPEG 画像を Photoshop でオープンして、全ての画像の同じ位置の RGB 値を読み取って平均値を計算して図-6Aの表を作成、図-6Bのようなグラフを作成する。このとき Photoshop の 「 ファイル ⇒ スクリプト ⇒ ファイルをレイヤーとして読み込み 」 コマンドを使えば、撮影した複数の画像ををレイヤーに重ね合わせてオープンしてくれる。さらに、ツールパネルの 「 カラーサンプラーツール 」 を活用すれば、読み取りたい位置を確実に固定できる。 読み取った結果は、グラフ用紙にプロットしてもいいし、表計算ソフトで 「 散布図 」 グラフを作成してもいい。 図-6Cの青線のようにグラフに、ダイナミックレンジを読み取る線を引いてみよう。僕らが普通に使う 「 実用ダイナミックレンジ 」 は、階調値が約 5 〜 250 に対応する EV 値である。縦軸の 5 と 250 付近から水平線を延ばし、グラフカーブと交差したら垂直下方に線を下ろす。この二つの平行線の間の EV 値の幅が 「 実用ダイナミックレンジ 」 である。
このようにして求めた本カメラのダイナミックレンジは、約 9.5EV、絞り値で9段と2分の1絞り分の被写体の明るさの変化を記録できるということが分かる。ちなみに、デジタルカメラは、標準的な撮得モードのときに、中庸な明るさの物体 ( 18% 反射率の物体 ) を適正露光で撮影すると、その RGB 値が 118 になる前提で設計されている。図-6Cの緑線のように、作成したグラフの縦軸の 118 の位置からグラフのカーブに接する水平線を描き、さらにその交点から垂直線を下ろして横軸を読み取る。その位置からハイライト規準点までは約 3.7EV の距離があることがわかる。すなわち、適正露光によって得られた 18% 反射率の物体の明るさよりも3絞りと3分の1段、明るい物体までは階調飛びを越さず記録できるが、それ以上明るい、たとえば陽光を浴びて白く輝く雲など、がある場合は、その階調は記録されず白飛びしてしまうことを意味している。このことを 「 ハイライト側ダイナミックレンジ 」 と言う。 ちなみに、業務用一眼レフデジタルカメラなどでは、ハイライト側ダイナミックレンジをできるだけ広める工夫がなされていて、18% 反射率の物体の明るさよりも約 4.5 〜 5 段明るい物体まで白飛びしないように撮影できる。E-M5 のダイナミックレンジ = 9.5EV は最近のデジタルカメラの中では一般的な値と思うが、ハイライト側ダイナミックレンジが 3.7EV というのは、若干もの足りない。このままだと晴天屋外などで真っ白な物体などが白飛びを起こしてしまうことが懸念される。ミラーレスカメラは、業務用サブ機としても普及して行くだろうから、せめて 4EV、欲を言えば 4.3EV 以上は確保してもらいたいものだ。しかし、E-M5 でも RAW 撮影し、Adobe CameraRaw にて現像すると、もう少しダイナミックレンジを広くできたことを補追しておきたい。 なお、ハイライト階調だけに限って言えば、1段アンダー露光で撮影し、その分明るくなるように RAW 現像したり、カメラのメニューの深層部にある仕上がりの設定要素 ( たとえばハイキー / ローキー設定 ) を明るく仕上がるように設定しておけば、0. 5 〜 1絞り程度のハイライトダイナミックレンジの拡張が可能である。
● カメラの第一義的な使命
● 階調記録特性
● 色彩記録特性