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第8回 湯気をはっきりと撮るには |
2012/03/28 |
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★拡大すると縦位置写真になります。
湯気を上手に撮るテクニックは、物撮りの中でも指折りの難しさがあります。ライティングのテクニックはもちろん、中学で習う理科の基礎知識が必要となります。 ( 写真を Click で拡大 ) |
Camera |
NIKON D7000 |
Lens |
Tokina AT-X 165 PRO DX |
F. Dist. |
67 mm |
EV |
0.0 |
Aperture |
F5.6 |
S. Speed |
1/6 sec |
ISO |
100 |
WB |
6600 |
M.Mode |
ESP |
Strobe |
Main + Fillin
Accent |
S. Light |
黒レフ |
Filter |
Non |
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湯気をよりはっきりと映し込むには、背景を暗めにしてアクセントライトでライトアップ。さらに、室温をエアコンでできる限り下げて、湿度は加湿器で高くします。もちろん、真っ暗な部屋でストロボだけで撮影します。 |
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● シズル感
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物撮りの世界において、料理やお茶、珈琲など、食べ物や飲料を撮るときにもっとも大切なのが、「 被写体のシズル感を表現すること 」 だと言われています。この 「 シズル感 」 という言葉は、肉が焼けるときのジュージューという状態を表す英語の擬音 「 Sizzel 」 からきており、もともと広告業界で使われはじめた用語でした。缶ビールの表面につく水滴で冷たさを表し、アイスキャンディーはより冷たさを表現するために白い冷気を漂わせたり、土鍋から湯気を出して熱々感を表現するなど、消費者に対して被写体が持つ訴求ポイントを強調するときなどに、この 「 シズル感 」 という言葉が使われています。
そこで最終回の今回は、暖かい食べ物や飲料のシズル感を表現するときに必須となる、「 湯気を撮影するテクニック 」 を、お茶の写真を例題にして紹介していきましょう。「 えっ? 料理の写真じゃないの? 」 …………はい。次回予告で何度も料理写真をちらつかせておいてなんですけど、今回のポイントはあくまでも 「 湯気 」 のみで、料理の写真ではありません………。すみません。料理写真って、ホント難しいですよね。右の写真程度なら誰でも簡単に撮れますが、これじゃぁ読者に失礼だと思いまして、これまでに読者からの質問で特に多かった 「 湯気の撮りかた 」 をピンポイントで紹介することにしました。料理を期待したかた、ごめんなさい。それでも 「 湯気撮り 」 は料理写真に活かせるテクニックですので、ご勘弁を。
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● 気まぐれな湯気に四苦八苦
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実は編集会議の席で、「 薮ちゃん、湯気の撮りかたやってよ 」 と何度も言われていたのですが、当初は 「 難しいからやだ 」 と子供のいい訳じみた理由で断っていました。実際、本当に湯気は難しいんです。明るい環境では写真2のようにほんの少ししか映らないですし、湯気は常に上に流れていきますから、これぞと思う形で撮ることはできません。さらに湯気がたくさん出ている時間はほんの少しですから、気に入ったカットが撮れなければ、何度も被写体を取り替えて撮り直さなければなりません。以前、スッポン鍋の撮影をしたことがありますが、板前さんに何度も煮直してもらってスッポンがグズグズになったことがあります。もちろん撮影後に私がいただきました(笑)けど、板さんが 「 美味しい状態で食べてもらいたいよ 」 と嘆いていました。
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背後の窓から射し込む午後の自然光と、天井にバウンスさせたクリップオンストロボ一灯で撮影した料理の写真。それでも光量不足は否めず、さらに料理全体にフォーカスを合わせたかったので、シャッタースピードを1秒の長時間露光にして、絞りは 8.0 に絞り込んだ。
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背景を含め写真全体が明るくなるようにライティングして、シャッタースピードを1秒間の長時間露光に設定して撮影した写真。わずかだが湯気が流れるように映り込んでいるのがわかる。
( 写真を Click で拡大 ) |
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そんな気まぐれな湯気ですから、フィルムカメラでの撮影は大変です。撮影の場で結果の確認できないので、ラボから上がってきた写真を見て、湯気の形が変だったり映り込みが薄かったりで嘆くこともあります。こうしたことを考えるとデジタルカメラはその場で確認できるので便利ですよね。なので失敗を恐れずに何度も湯気撮りにチャレンジしてみましょう。
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● 使用ストロボ
● ストロボ3灯の多灯セッティング
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それでは撮影のためにカメラとストロボのセッティングをしましょう。今回はストロボを3灯使う多灯撮影用のセッティング ( 写真3 ) をします。もちろん、湯気をはっきりと撮るためにストロボが3灯も必要だというわけではありません。窓から射し込む自然光を使って撮ることもできますが、前述したように撮影環境が明るいとかなり難しくなることだけは覚えておいてください。ここで紹介するセッティングでも、自然光を使ったセッティングでも共通して言えることは、湯気の背景をなるべく暗くすることです。そして重要なのは斜め後方から湯気に光を当てる ( 写真4 ) ことです。ここでは3灯のストロボのうち、アクセントライトにその役目を担わせています。 ( 「 第6回 3灯の多灯撮影 − 各ストロボの役割 」 を参照してください ) 自然光で撮るときは、湯気の背景が暗くなるようなシチュエーションで、ストロボを1灯だけ使って、湯気を後方から照らすと良いでしょう。 |
● アクセントライトは斜め後方から
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湯気を際立たせるために使うアクセントライトは、写真4のようにグラスの斜め後方から当てると良いようですが、実際の撮影ではよりはっきりと湯気が映る位置を探して、アクセントライトを移動させます。また、ライトの照射角度と光量も微調整します。ここでは照射角度をもっとも狭く ( ストロボの照射角をテレ端に寄せる ) して、光量は弱めに焚いています。注意すべきは、湯気の背後が暗くないといけないので、バックに垂らした布にライトが当たらないようにします。もちろん、まっくらでは味気ないので、拡散光にしているフィルインライトの光が多少当たるようにしておきます。
こうした微調整をしていると、当然ですがお茶が冷めてしまい、湯気もなくなってしまいます。ライティングが決定するまでは、お湯で代用しましょう。 |
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▼ストロボ |
ニッシン Di866 MARK II
ニッシン Di622 MARK II |
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ストロボを3灯使った多灯撮影でセッティングする。( 多灯撮影の詳細は本講座、第6回の 「 3灯の多灯撮影 − 各ストロボの役割 」 を参照 ) 湯気を照らすアクセントライトがポイント。
( 写真を Click で拡大 ) |
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実際の撮影に入ったら、アクセントライトの位置や照射角、光量を微調整して、湯気がもっともはっきりする場所を探す。このとき、アクセントライトの光がレンズに入らないように注意する。どうしても光がレンズに入るときはハレ切りする。( 第6回 の アクセントライトの項を参照 )
( 写真を Click で拡大 ) |
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● ほ、飽和水蒸気量……?
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ストロボとカメラのセッティングが済んだら、いざ撮影といきたいところですが、テスト撮影であまり湯気が出なかった、すぐに消えてしまったという人にアドバイスしましょう。それは……飽和水蒸気量です。懐かしいですね。中学あたりですか教えてもらったのは。つまり、室内が乾燥していたら、グラスから出る湯気もすぐに空気中に溶け込んでしまうので、グラスからの湯気を多くできるだけ長く出るようにするには、エアコンで室温を下げて飽和水蒸気量が少なくなるようにし、加えて加湿器で湿度を上げて過飽和状態に近づけておけばいいわけです。私は加湿器を持っていないので、写真5のように丼や鍋、フライパンに熱湯を張って対応しました。撮影しているときはいつも脚の踏み場がなくなるのですが、今回はさらに酷いことになってしまいました。(笑)
※湿度を上げすぎてカメラやレンズが曇ったり結露しないように注意 |
● 撮影環境の工夫
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ここで撮影台のアイディアを紹介しておきます。今回の撮影は、背景をなるべく暗くする必要があるわけですが、もし平坦な撮影台にバック紙と被写体をセットしてライティングすると、主題と背景の光の境目を調節するのが難しくなります。ライトの照射角を狭くして部分的にライティングすると、光の輪郭が絵に映ってしまったり、逆に照射角を広くとるとあまり照射したくない背景にまで光が届いてしまいます。さらに、背景用に照射した光が主題にまで届いてしまうこともあるでしょう。
主題である茶器を乗せたランチョンマットに当たる光と背景に当たる光に明確な違いを出したいときは、写真6のように被写体を乗せる台を別に用意して、主題を撮影台に垂らした布より高い位置に配置します。こうすることで、主題を照らすライトの光がバック布まで届きにくくなり、仕方なく漏れた光も高くした撮影台の影に隠れて見えなくなります。
今回、簡易撮影台にしたのは、「 第5回 ストロボの多灯撮影 ( ボトル編 ) 」 の 「 撮影の設定 − 半透明のアクリルを使う 」 で使った発泡スチロール製のブロックです。発泡スチロールで軽く、他の機材や被写体を傷つけることもありませんし、意外に頑丈で重いモノも載せられます。1個2〜300円程度なのでいくつか揃えておくと便利です。 |
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エアコンで室温を低くして飽和水蒸気量を下げながら、加湿器を使って湿度を上げると、グラスから上がる湯気が多くなり、さらに湯気が出ている時間が長くなる。
( 写真を Click で拡大 ) |
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被写体を置く台をバックに垂らした布よりも高い位置にして撮影すると、主題である茶器を乗せたランチョンマットに当たる光と背景に当たる光に明確な違いが出せる。
( 写真を Click で拡大 ) |
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● シャッタースピードと絞り値
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以上のセッティングが済んだら、いよいよ撮影してみましょう。レンズは望遠寄り、焦点距離 70mm 程度に設定して、絞りはグラス全体とグラス手前にフォーカスが合う程度に被写界深度を浅くするため 5.6 辺りが良いでしょう。こうすると、背後にある茶器が少しボケ、背景の布は大きくボケるはずです。グラス全体にフォーカスが合うようにしたのは、立ちのぼる湯気にもフォーカスを合せるためです。焦点距離 70mm で、絞りを 5 未満に設定すると被写界深度が浅くなりすぎます。
次にシャッタースピードですが、湯気をキレイに撮るためには、この値が重要です。経験則では、シャッタースピードは 1/4 〜 1/15 程度がもっとも美しく湯気が映ると思います。シャッタースピードを遅くすると湯気の流れが表現でき、速くするとモクモクした感じになります。 |
● 何枚も撮って湯気の変化をみよう
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湯気は時間とともに変化します。ストロボの充電時間を意識しながら、同じ設定でできるだけ早めに何枚も撮ってみましょう。すると、熱いお茶を注いだばかりのときと、少しだけ時間が経ったときとで、湯気の表情が大きく違ってくることに気がつきます。写真8は熱いお茶を注いだ直後の写真で、写真9は1分ほど経った写真です。ライトの設定やシャッタースピードにも違いがありますが、写真8のもうもうと立ち上がっていた湯気が少しだけ落ち着いて、写真9ではキレイなラインを描き始めているのがわかるでしょう。どちらの湯気の方が主題であるお茶のイメージに似合っていると思いますか? 個人的には写真9の湯気の方が私は似合っているように思いますが、とにかく熱い! をイメージさせるなら写真8が良いかもしれませんね。 |
● 湯気を撮る他のテクニック
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今回は本物の湯気を撮りましたが、コマーシャルフォトの世界では、短時間で確かな湯気を表現するためにいろいろな方法を使っています。もっともよく使われる方法が、スチーマーの湯気を使う方法です。被写体の背後などにスチーマーを隠して撮影するわけですが、連続して湯気が出続けるので、撮影の試行錯誤が大きく減ります。また、カゴに入れたドライアイスから落ちる煙を湯気に見立てて撮る方法もありますが、本物の湯気とは異なるので、最近ではあまり使われなくなっています。次も偽物の湯気ですが、煙草の煙を被写体に吹きかけて湯気に見立てる方法を使う人がいます。しかし、煙草の煙には薄く色が付いていますし、よく観察すると湯気とは異なる動きをするので、これも私は使いません。 |
● Photoshop で湯気を作る
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グラスに熱いお茶を注いだ直後に撮影。背景をできるだけ暗くしているので、湯気がはっきりと映っている。
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フィルインライトの光量を上げ、照射角を少し大きくし、シャッタースピードを 1/6 秒に下げて、湯気が落ち着いてきたころを見計らって撮ったもの。湯気の渦がキレイに出た。
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● 新企画計画中!
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「 薮田織也の物撮り講座〜ストロボ達人への道! 」 は今回でいったん終了です。短い間でしたが、お付き合いいただいてありがとうございました。物撮りテクニックが少ないとお叱りをいただいていたスタジオグラフィックスですが、今後は新しい企画で物撮り講座に取り組む予定です。また、物撮りというわけではないのですが、人物写真家の私が、人物以外の被写体に取り組む企画も計画中ですので楽しみにしていてください。それではまた逢いましょう。 |
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