コンテンツのトップページへ StudioGraphics Special Issue
スタグラ・特集記事
メーカーに聞く デジタルカメラのココが知りたい!!
第7回 富士フイルムに聞く
「眼のメカニズムに迫る スーパーCCDハニカムEXR」
2008/11/19
 


質問画素数が多いデジカメほど、
    きれいな画像が撮れるわけじゃない?
質問画素混合ってなに?
きれいな画像を生み出すのに必要な
    3つのモードってなに?
スーパーCCDハニカム EXR の
    新技術を教えて?

2008年9月、富士フイルムは "人間の眼のメカニズムに近づいた画期的なCCD" と銘打って「スーパーCCD ハニカム EXR」の開発を発表しました。人間の眼のメカニズムに近づくとはどういうことなのか、新しいイメージセンサーは、現状のCCDのどんな課題をクリアするものなのか。

聞き手 神崎洋治、西井美鷹
 

今回のインタビューは、富士フイルム株式会社 電子映像事業部の河原氏(写真)と広報部の宮田氏。

  高解像度に優れたCCD「HR」と、ダイナミックレンジ性能に優れた「SR」 このページのトップへ  

画像A 富士フイルムに聞く
インタビューに応えてくれた、富士フイルム株式会社 電子映像事業部 商品部 担当課長 河原 洋氏。
画像B 富士フイルムに聞く
インタビューに応えてくれた、富士フイルム株式会社 広報部 宮田 恵実氏。

画像C 富士フイルムの『FinePix F100fd』
従来比4倍のダイナミックレンジを実現しつつ、有効画素数1200万画素、最高感度ISO12800(*4)の高感度・高画質を誇るイメージセンサー「スーパーCCDハニカム HR」を搭載したコンパクトデジタルカメラ。
画像D ハニカム EXRがめざすもの
「HRとSRで、それぞれ突き詰めてきた高解像度、高感度、広ダイナミックレンジを、ひとつのイメージセンサーで結実させたい」

Q:
開発を発表した「スーパーCCD ハニカム EXR」のお話を聞く前に、まず現行のスーパーCCD ハニカムの種類と特長を教えていただけますか?

現在、スーパーCCD ハニカムには「HR」と「SR」があります。

高画素化の流れに合うように設計されたのは、高度な微細化技術を採用した「スーパーCCD ハニカム HR」です。高画素と高感度に特長があります。

Q:
一方のSRは高解像度をめざしたものではないんですね?

皆さんもご存じかと思いますが、銀塩フィルムに比べてデジタルカメラで苦手とされている点に"ダイナミックレンジ"の狭さがあります。

「スーパーCCD ハニカム SR」は、ダイナミックレンジを従来と比較して4倍にひろげる技術を導入したもので、白とびや黒つぶれに強い画像を目指して開発しました。面積が大きく感度が高い“S画素”と、面積が小さくダイナミックレンジを広くするための“R画素”という2種類の画素で構成することで実現しています。

解説
デジタルカメラのカタログや広告において、××万画素と表記される画像の解像度は購入の際にユーザが最も気にする点のひとつです。ただし、高解像度(数値が高い)ほど画像が良いかというとそうとは限りません。

例えば、同じイメージセンサー(撮像素子)のサイズ(銀塩カメラでいえばフィルムのサイズ)であれば、1画素(フォトダイオード)の大きさを小さくして、より多くの画素で構成することによって、画素数の値は大きくなります。画素数が高くなれば、ユーザーは高画質な写真が得られるような印象を受けるので、メーカー各社は画素数競争を繰り広げてきました。

それはそれで悪いことではありませんが、もう一歩踏み込むと課題が見えてきます。

例えば、論理的には、1画素の大きさが小さくなることで解像度はアップし、画像もより細かい点で構成できるようになります。しかしその反面、受光面積が小さくなることで光を十分に集めることができず、色の再現の幅が狭くなり、ダイナミックレンジが狭く(白飛び/黒潰れがおきやすい)、画質が低下した画像になりやすいのです(イラスト入りのしくみは「気になる○○教えます デジカメのしくみ 第3回 : 画素数と画質の関係」をご覧ください)。

Q:
異なる特長を持った2種類のイメージセンサーが今後、どのように進化していくかは、デジタルカメラに詳しい多くのユーザに注目されていますね。

「スーパーCCD ハニカム SR」はダイナミックレンジを拡げるという目標を達成し、好評をいただいていますが、高画素化の流れにおいては弱点があります。

高画素化によって1画素がもっと小さくなると、もともと小さい“R画素”を同一サイズのセンサーの中にもっと小さくして入れ込むことにになり、技術的に難しくなります。

Q.
高解像度・高感度で設計、進化してきたHRは、SRに比べてダイナミックレンジは狭いわけですね?

もう少し詳しくお話しすると、ダイナミックレンジはどちらも4倍を実現しています。だから同じということもできます。

しかし、HRの手法は、あらかじめ白トビしない条件で撮影し、画像処理の段階で感度を上げながらシャドー部を明るくする、というやり方です。

そのため、必然的に高感度が必要になり、ISO-100で撮るところを400で撮ることになれば、厳しい目で見ればノイズが乗りやすくなるわけです。

Q.
ダイナミックレンジの性能は同じでも、厳しい目でみるとノイズが乗りやすいと。

長年開発を進めてきた上で、高画素化は進む一方で、高感度も必要だし、SRで実現してきた広いダイナミックレンジも欲しい…どうしたらいいだろうか、ということになったわけです。

 

  次世代「EXR」が目指した"ヒトの目"のメカニズムとは このページのトップへ  

画像E

人間の眼のメカニズムに近づく
「人間は、明るいところでは細かいところまで見ようとするし、暗いところでははっきりと明るく見ようとする…その切り替えをイメージセンサーでもやりたい」

画像F

従来の画素混合のメリットと課題
ノイズを抑えた高感度画像を生成するために「画素混合」がよく用いられる。同色の画素を合わせて面積を大きくして信号レベルを高める技術だ。しかし、合わせる際に、別の色の画素を挟むことで画素の距離が離れてしまい偽色が発生しやすい。例はイメージ図だが、紫色の偽色を生成してしまっている。(元資料提供:富士フイルム)

画像G

スーパーCCDハニカムEXRの利点
スーパーCCDハニカムEXRでは、同色が斜めに隣り合うカラー配列を採用。画素混合の際には別の色を飛び越さずに、隣の画素と合わせるため、距離が短く
なり偽色が発生しにくい利点がある。(元資料提供:富士フイルム)

Q.
高画素、高感度、広いダイナミックレンジは、相反する機能であり、これまでは異なる進化が必要だったと言えますね。

私たちには「目で見たものをそのままに」撮りたいというキャッチフレーズがあります。フイルムを作っていく上でのポリシーでもありました。

高画素化がなお進む時代にあって、「人間の目に近づける」ということをもう少し押し進めてみようということになりました。

Q.
HRとSRの双方にメリットとデメリットがありますが、それを両立していいとこ取りをしたい、というわけでしょうか。「人間の目に近づける」とは、具体的にはどういうことなのでしょうか?

ヒトの目は両立できるんですね。

というのも明るさによって解像度を変えて見ることができるんです。光が十分にある明るいところでは細かいところまで見たい、つまり細かく見えることで画質が良いと判断します。一方、暗いところでは解像度が落ちるので、髪の毛一本一本まで見ようとするのではなく、はっきりみるために少しでも明るく見ようとするんです。

これをヒトの目は自動的に切り替えているんですね。

Q.
その切り替えをイメージセンサーでも実現しようということですね。

光が十分にあるケースでは高解像度の画質を実現する技術、暗いところでは明るくクリアにノイズの少ない画質を実現する技術とを切り替え、どちらのケースでもダイナミックレンジが広い、白飛び/黒潰れしにくい階調表現ができる、もしくは、シーンにあわせてひとつのセンサーでこれを切り替えることができるようにしたのが「スーパーCCD ハニカム EXR」です。

Q.
それが、人間の眼のメカニズムに近づけたという意味ですね。では、具体的にはどのようなしくみの技術が導入されるのでしょうか。

新しい技術が2つあります。まずひとつは、ハニカム配列のカラーフィルタを新開発し、同じ色を斜めに隣り合わせるようにカラー配置しました。

Q.
同じ色を2つならべると何がよいのでしょうか。

従来の方法は取り込んだ電荷をゲインアップ(電荷の信号量を電気的に増幅させること)することによって感度を上げますが、その際にノイズも増幅されるのが難点です。そこで「画素混合」というしくみを使います。同じ色の画素を合わせることで信号レベルを高め、高感度でもノイズを抑えるしくみです。ただ、このしくみを使うと今度は偽色やカラーノイズが多くなる欠点が課題になります。

解説
「画素混合」とは同色の画素を合わせて信号レベルを高め、ノイズを抑えて高感度に対応する技術です。しかし、画素混合時に別の色の画素を飛び越して画素混合すると、画素間の距離が離れているため偽色が発生しやすいという課題があります。
イメージで解説すると、右の「画像F 従来の画素混合のメリットと課題」のように、混合する2つの「赤」画素や「青」画素の距離が、「緑」画素の距離に比べて遠い場合、緑色や紫色の偽色を生み出してしまうといったものです。(イメージ上の解説です)

富士フイルムが発表した「C.I.C(クロース・インライン・カップリング)」は、同色の画像を斜めに隣り合わせで配列(間に別の色の画素を挟まない)することで、画素混合を行った際に、ノイズも偽色も抑えるという効果が期待できます(画像G スーパーCCDハニカムEXRの利点)。

Q.
偽色は隣にある別の色の画素の影響を受けて発生することが、要因のひとつなのですか。

そうです、発生しやすいというか、色を補間するときに間違った色を作ってしまうわけです。「EXR」では、同色のフィルタを並べ、隣り合わせの色信号を合わせることで、画素混合したときにも色の純度が高く偽色が減る、というメリットが生まれます。

隣り合わせた同色の画素をひとつに合わせて感度は2倍になり、さらに偽色が少ない画素混合の方式だと言えます。

Q.
ノイズが少なくて感度が高い、というわけですね。

解像度が上がる要素もあります。というのは、従来型の場合、偽色を抑えるために補正する処理のため解像度も落としていたのですが、この技術を使えば、偽色を抑えるために解像度を落とす必要がないので、十分な解像度が期待できると思います。

 

  薄型コンパクトデジカメ・レンズユニットの驚異 このページのトップへ  

画像H

Dual Capture Technology概念図
1回の撮影で、高感度画像を作るAパターンと、低感度に相当する画像を作るBパターンを生成し、それを組み合わせて最適化することで、ダイナミックレンジの広い画像を作る技術(元資料提供:富士フイルム)。

画像I

スーパーCCDハニカムEXRが
実現する3つのモード

「高解像度重視のモード、ワイド・ダイナミックレンジ重視のモード、高感度でノイズを抑えたモードの3つの切り替えをひとつのイメージセンサーで切り替えたい」

Q.
もうひとつの技術は、どういうしくみでしょうか。

EXRでは、隣接した同色の画素に異なる2つの感度を持たせ、高感度の画像データと低感度の画像データをそれぞれ作って組み合わせるような方法によって、広いダイナミックレンジを実現しました。

Q.
一度のシャッターで、同時に低感度の写真と高感度の写真の2枚をとって、合わせていいとこどりするイメージですか。

実際には2枚の画像をとっているわけではありませんが、しくみのイメージとしてはそういうことですね。例えば、一方で白飛びのしない画像データを、もう一方で通常の画像データをとって合わせて最適化することで、ノイズが少ないし、ダイナミックレンジが広い画像を実現するイメージです。

Q.
なるほど。それなら、いいトコどりで、きれいな画像が実現できるしくみが理解できます。ところで、せっかく細かく配列している画素も、画素混合などの技術によって、解像度としては半分に落ちてしまいますよね。

例えば、1200万画素のイメージセンサーで撮影しても解像度は600万画素になりますよね。高解像度を望むユーザにはマイナスではないでしょうか。

お客様にも、高解像度だけの競争には終止符を打って欲しい、とおっしゃる方が意外と多いんです。

フォトキナに参加した際にも、たくさんの来場者の方とこの点についてのお話もさせていただきましたが、高画素化に向かえば、解像度はよくなっても高感度ノイズなど、犠牲になるものも出てくる、それだけ高画素の恩恵を受ける場もない…パソコンの画面上でみるのには大き過ぎますし、データも大容量で負担が増える等、現在のデジタルカメラの解像度としては600万画素あれば十分、という方が多かったのです。

ただ、EXRでは1200万画素を活かした高解像度の撮影もできますので、忘れないでください。写真画質を追求する上では高解像度がすべてではなく、シーンに応じて解像度が必要なときもあれば、別の要素が必要なときもある、これを両立したいということですね。

Q.
高解像度が必要なときは1200万画素で、高感度や広ダイナミックレンジが必要なときは解像度は600万画素にしても画質を優先する、という切り替えが可能ということですね。

モードとしては3つですね。
高解像度重視のモード、ワイド・ダイナミックレンジ重視のモード、高感度でノイズを抑えたモードの3つの切り替えをひとつのイメージセンサーで行うことを想定しています。

Q.
ユーザが実際、モード設定のように切り替え操作をすることができるんですか。

製品に搭載される際に検討する機能になりますので、今はまだなんとも答えられませんが、イメージセンサーのポテンシャルとしては技術的に可能です。現在のデジタルカメラの多くにはシーン認識の機能が搭載されていますので、シーンに合わせて高解像度か、高感度か、白飛び/黒潰れを抑えるのか、自動的に切り替えたり、ユーザが選択できるということが大切だと思います。

※今回、富士フイルムが発表したイメージセンサーの仕様が1200万画素のため、対話では例として1200万という画素数を使用していますが、製品化の際の画素数などは未定です。

 ▼ このインタビュー記事の内容はこの書籍に反映されています。

スタジオグラフィックス執筆 デジタルカメラユーザ必携の教科書!!

体系的に学ぶ次世代DVDのしくみ

■デジタルカメラのしくみと機能を基本から理解するなら・・
体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ 第2版
 
発売中
日経BPソフトプレス刊 神崎洋治/西井美鷹著
デジタルカメラの最新技術とそのしくみ、トレンドを加筆。デジカメの歴史から、仕様表の概要、レンズや撮像素子(CCDやCMOSセンサーなど)の構造や特徴、手ぶれ補正のしくみと違いなど、デジタルカメラをより詳しく理解するためのしくみに主眼を置き、やさしく解説。初級者からプロカメラマンやデジタル一眼レフ愛好家まで必携の一冊。
詳しく・・


 


>> 次回の「メーカーに聞く デジタルカメラのココが知りたい!!」

  第08回 タムロンに聞く
       「高倍率ズームレンズのしくみと新技術 / 手ブレ補正のしくみ」

  • 高倍率ズームレンズとは?
  • 世界最小・最軽量の高倍率ズームレンズ 小型化と軽量化を実現した新技術とは?
  • レンズや口径を小型化しても画質は落ちない?
  • 手振れ補正機構のしくみを教えて

 

<< 前回の「メーカーに聞く デジタルカメラのココが知りたい!!」

  第06回 ソニーに聞く 「顔検出とスマイルシャッター」

  • 顔検出のしくみを教えて?
  • 横顔も顔検出できるの?
  • スマイルシャッターってどんな時に便利なの?
  • 極薄カメラの手ブレ補正機構内蔵レンズって どうなってるの?

 

■ご注意
本文および、メーカーご担当者のコメント、写真/画像等、許可なく転載することはご遠慮ください。
記事内容は記事初出当時のもので、記事で紹介した機能や仕様、しくみなどは変更になる場合があります。製品や機能など、最新情報はご自身でご確認ください。
本文および、メーカーご担当者のコメント内容などは、規格や製品の仕様や特長を保証するものではありません。

 
初出:2008/11/19
  このページのトップへ
 

 


     
 
 

     
 
Created by
トライセック
サンタ・クローチェ
リンクについて
著作権について
プライバシーポリシー