第4回 Cokin フィルターを使った窓際でのポートレート
TOPIX
ポートレートを中心として雑誌の表紙やコマーシャルフォトで活躍中の写真家、萩原先生がお送りする Cokin レンズフィルター講座の第4回目です。今回はハウススタジオ撮影の第2回目。ハウススタジオでは必ずといっていいほど利用される窓際でのポートレートで角形フィルターの効果を見ていきます。
■ SCENE 1 フィルターによる光の演出
● 屋内撮影では定番、窓辺のポートレート
今回は、ハウススタジオにてフィルターを使ったカットの第2回。前回は『フラット光でのポートレート』を念頭に作例を紹介したが、今回は『窓際でのポートレート』を念頭に、作例を紹介してゆく。
ハウススタジオを含む屋内での撮影においては、窓際での撮影は定番といっていいほど、必ず行なわれるもの。窓は大きな面光源なので、モデルが正面になればフラット光に、サイドになればサイド光に、バックになれば逆光に……と、使いやすい上、光の変化のバリエーションもつけやすい。そんな窓際でのポートレートも、いつも同じ撮り方をしては飽きがきてしまう。そこでフィルターを使用することで、いつもの窓際ポートレートにスパイスを効かせ、別テイストの作品へと表現の幅を広げてみよう。
なお、毎回述べているが、フィルターの選択や露出に「正解」があるわけではない。本連載で紹介する作例は、個人個人が意図したカットを撮影できるよう、そのヒントとなる、私なりの「提案」だ。今回も、読者の方々がご自身で撮影される際の参考にしていただけるよう、数多くの作例を紹介するため、露出などが異なる写真の効果を分かりやすくべく、写真を並べて紹介している。各写真は、本文中のリンクから拡大表示できるようにしているので、参考にしてほしい。
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● フィルターによる光の演出
まずは、窓際で外を見つめる情景を、引きのカットから撮影する。光は優しく入り、モデルの全身に光がまわる状態というよりは、サイド光オンリーといった状況だ。窓を構図内に多めに取り込むことで、窓のハイライトと、モデルの陰(シャドウ)の対比を作り、立体感を出すことを念頭に置いた。
作例1では、光が窓から入り込んでくるような情景を演出したいと思い、光学効果フィルターの「スピード」( P216 / A216 )を選択。このフィルターは、少しだけずれた中心部のみがクリアで、周辺は一方向に流れるような画になる。自在に効果の位置が変えられるcokin角形フィルターならではの効果を調整しながら、ソフトっぽい効果なので、セオリー通り“適”露出の写真1-1から、オーバー目の写真1-2と撮影したが、アンダー目の写真1-3の全体に滲んだ雰囲気が私の好みにハマった。
作例1 P216使用例
作例2では、窓からの光にのみカラーを加えるべく、ハーフグラデーションフィルターから「タバコ2ライト」( P125L / A125L )を選択し、黄昏感を演出すべく選択した。黄昏の、これから暮れてゆく切なさにはアンダー目があうと判断(写真2-1)。これはP125Lのカラーの濃さ加減もよく、意図どおりのカットになった。対比としてオーバー目で撮影してみたのが写真2-2だ。キュートさを演出するようなカラーになったので、モデルには笑顔になってもらった。
上2つのフィルターによるテイストと、まったく異なる傾向のカラーとして、全面カラーフィルターの「グリーン」( P004 / A004 )でも撮影してみたのが写真2-3だ。グリーンはいかがなものか……と思っていたが、窓のハイライトも手伝って、非日常的な雰囲気を醸し出しながらも、違和感のない画になった。ここでも、実際にその場で試してみなければ分からない写真の面白さを実感した。
作例2 P125L、P004 使用例
なお、今回も寄りの画を紹介していく。寄りはライティングと肌色の調子とフィルターのマッチングや表情などで、同じフィルターでも引きの画と印象が違うことが多い。寄りのカットでは、モデルに、より窓に近づいてもらい、光がモデルの全体を回るようにしている。作例3と作例4では、同じ構図でフィルターの違いなどによる違いを見てほしい。構図における窓の割合も大きく変わったので、フィルターによるテイストもかなり変わっていることが分かるだろう。写真3-1は、フィルターなしの状態、写真3-2が「スピード」( P216 / A216 )を使用したアンダー目、写真3-3が同オーバー目だ。また、写真4-1は、「タバコ2ライト」( P125L / A125L )を使ったアンダー目で、、写真4-2が同オーバー目、、写真4-3が「グリーン」( P004 / A004 )のオーバー目だ。
作例3 寄りのフィルター効果1
作例4 寄りのフィルター効果2
■ SCENE2 白系の清潔感を活かしたフィルターワーク
● 色味をつけ足す
そこで、
1. ポイントにカラーを足す
2. 全体的にカラーをつける
ことを考えフィルターを選ぶことにした。全体が白系なので、どちらも意図した雰囲気をフィルターでつくることができそうだ。ただ、せっかくの白、清潔感があるので、それを消さないようなフィルター選択を心掛けた。
アクセントカラーを加えるべく、ハーフグラデーションフィルターの「フルーイエロー」 ( P661 / A661 )を選択。窓からの光という雰囲気を意識した位置にイエローを配置し、イエローが飛ばないように、まずはアンダー目で撮影した(写真5-2)。この露出は、シチュエーションにマッチしていると思うが、対比でオーバー目も撮影したところ、意外にも窓周辺の黄色が気になってしまった(写真5-3)。そこで、フィルターを動かし、黄色の配置を構図右下にチェンジしてみたのが写真5-4だ。黄色い花を前ボケさせたような、淡さにメルヘンな薫りが加わった。カラーポジションで全体の印象がガラリと変わる好例になった。
作例5 P661使用例
淡く、白系のこのカットに、さらに透明感を加えてみようと考え、作例6では、全面カラーフィルターの「ブルー (80A) 」( P020 / A020 )を選択した。フィルターの効き具合を考え、少しアンダー気味で撮影(写真6-1)。少し寂しさを伴ったので、ポーズを変えてもらった(写真6-2)。窓のハイライトを背にするポーズになり、伏せ目になったので、この場所にある優しさのような感じがでた。窓方向に目線があるときの前向き感(屋内をアンダーにし窓のハイライトに目を向けると、屋外への意識や、あこがれた感じが出る)よりは、屋内に合わせた明るさがよいと判断し、オーバー目に撮影したのが写真6-3だ。透明感も爽やかさも出て、ポーズにマッチしたと思う。
涼しげな全面カラーフィルターの「ブルー (80A) 」に対比して、暖色系のフィルターをと思い、作例7では、同じく全面カラーフィルターの「サンセット 2」( P198 / A198)を選択。濃いフィルターなので、オーバー目に撮影してみた(写真7-1)が、ここでは雰囲気に合わなかった。おそらく、夏の夕方の強い陽射しが感じられるようなシチュエーションでは、これくらいオーバーで活きてくるだろう。次に“適”で撮影したのが写真7-2だ。しっとりした空気感が出た。また、写真7-3のようにアンダー目でも撮影したが、日が暮れる直前の、厚みのある色調になったので、ポーズを変えてもらった。この場面なら、このくらいアンダーでもいいだろう。
作例6 P020 使用例
作例7 P198 使用例
さて、ここでも寄りのカットを紹介しておく。モデルには窓のそばに寄ってもらい、手間をボカすことで距離感を作っている。窓はその一部が構図に入るのみだ。作例8の写真8-1がフィルターなしの状態、写真8-2ではハーフグラデーションフィルターの「フルーイエロー」 ( P661 / A661 ) を使用し、アンダー目でも撮影した写真8-3が、このシチュエーションでは一番好みの画になった。作例9は「ブルー (80A) 」( P020 / A020 )を使用。“適”露出の写真9-1も、ややオーバー目でも撮影した写真9-2も、引きのカットほどの効果が出ず、白い壁などブルーを感じさせてくれる要素が構図内に多く取り込まれていないと、効きが実感できないようだ。また、作例 10として、「サンセット 2」( P198 / A198)を使用したオーバー目の写真10 – 1と、アンダー目の写真10 – 2も参考にしてほしい。
作例8 寄りのフィルター効果3
作例9 寄りのフィルター効果4
作例10 寄りのフィルター効果5
■ SCENE3 特殊効果フィルターを使った光の演出
● さまざまな応用が可能な特殊フィルター
作例 11は、窓からの光がモデルに対してほぼフラットに回るライティング状況。窓はハイライトの役割は果たしているが、モデルの背景を暗くし、モデルそのものが浮かび上がってくるような状態での撮影だ(写真 11 – 1)。
そこで可愛らしさを前面に出すために、ソフト系のフィルターである特殊効果フィルターの「ソフトスポット」 ( P188 / A188 )を選択。中心がクリアで周辺にゆるいソフト効果が得られるフィルターだ。
ソフト系フィルターは、露出オーバー目のほうが効果が出やすいのだが、ここではモデルは白い服を着ており、モデルの背景が暗くなっているので、オーバー目にしなくてもソフト効果は得られると判断。まずは“適”で撮影してみた(写真 11 – 2)。ホワッとソフト効果が効き、それでいてナチュラルな好印象だ。次いで写真 11 – 3のアンダー目だが、ここでは効果が今ひとつ。だが、全体の柔らかさは出ているので、好みの問題と言えるだろう。セオリーのオーバー目(写真 11 – 4)は、あくまでも参考に……という感じだ
作例11 P188 使用例
つぎに作例 12では、窓からの光を大きく演出すべく、特殊効果フィルターの「レインスポット」 ( P186 / A186 )を選択してみた。ふりそそぐ雨のような流れの効果が出るこのフィルターでは、光りが降り注いでくるような雰囲気をつくることができる。写真 12 – 1では、オーバー目で撮影してみたが、思った以上にソフト効果が大きく、全体に飛んでしまった印象に。そこでモデルの顔が明るさの対比でアンダー気味に見えてしまうが、“適”の露出で撮影したのが写真 12 – 2だ。ここでは窓枠も服もボケずに残り、このフィルターではベストチョイスだろう。ただ、アンダーで撮影したカット(写真 12 – 3)も雰囲気があった。目線を外してもらい、光の入るような方向を見てもらうことで、艶がある画になった。
作例12 P186 使用例
可愛らしさ強調で、ソフトフィルターの「コールドカラーディフューザー」 ( P088 / A088 )をチョイスてみたのが、作例 13だ。このコールドカラーディフューザーは、周辺にブルーとピンクのベールのような柔らかさがプラスされるフィルターだ。ソフト効果なので、写真 13 – 1では、まずはオーバー目に。しかし、モデルの顔ばかりが浮かび上がってしまい、イマイチ。そこで思い切ってアンダーにしてみたのが、写真 13 – 2だ。可愛らしさは影を潜めたが、ミステリアスな雰囲気が出て、良い意味で裏切られた。これもやってみて初めて感じた効果の違いだ。そして“適”露出の写真 13 – 3。ここでは一番落ち着いた画となった。表情はアンニュイだが、ほくそ笑んでもらってもよかったと思えてくる。
作例13 P088 使用例
最後に、寄りの作例をもうふたつ紹介しよう。作例 14の写真 14 – 1?がフィルターなしの状態だが、「レインスポット」 ( P186 / A186 )を使った写真 14 – 2?と、アンダー目の写真 14 – 3?では、だいぶ印象が違う。とくに写真 14 – 2?は「レインスポット」の効果の恩恵をもっとも受けたカットだと思う。光の差し込んだ感じがとても出ている。このほか、作例 15の写真 14 – 1?が「ソフトスポット」 ( P188 / A188 )、写真 15 – 2?と写真 15 – 3?が「コールドカラーディフューザー」 ( P088 / A088 )を使った作例だ。引きの画と違い、背景が明るくなったので、フィルター効果の印象もかなり違って見えてくるはずだ。
作例14 寄りのフィルター効果6
作例15 寄りのフィルター効果7
■ 次回予告
次回は、ハウススタジオでの撮影で、総合的な要素のシーンでのフィルターを使った作例をお見せしながら解説していきます。お楽しみに!
■ 協力企業 ■
ケンコートキナー
STUDIO EASE
■ 制作・著作 ■
萩原 和幸?
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