第5回 Cokin フィルターを使ったハウススタジオでのポートレート まとめ編
TOPIX
ポートレートを中心として雑誌の表紙やコマーシャルフォトで活躍中の写真家、萩原先生がお送りする Cokin レンズフィルター講座の第5回目です。今回はハウススタジオ撮影の3回目。角形フィルターの総合的な使い方を見ていきます。
■ SCENE 1 窓を構図内に大きく取り入れたカット
● ハウススタジオ撮影のまとめ
ハウススタジオにおいてフィルターを使った撮影も、今回が3回目。『フラット光でのポートレート』と『窓際でのポートレート』と題して、Cokin角形フィルターを使ったカットを紹介してきた。今回はそのどちらも含む総合的なシーンにおいて Cokin 角形フィルターを使用したカットを紹介したい。
ハウススタジオでのカットは今回がラスト。いくつものバリエーションが撮れるようになっているハウススタジオにおいても、Cokin 角形フィルターを使用することで、表現のバリエーションがさらに広がることは、前回、前々回のカットからもご理解いただけていると思う。撮影した私ですら、Cokin 角形フィルターを使用することで「こんなことができるんだ」と再発見したほど。使うたびに、シーンを変えるごとに、気の利いたスパイス的存在感が増していく面白みがあった。今回の作例もそんな面白みを感じていただけるとうれしい。
毎回述べているが、フィルターの選択や露出に「正解」があるわけではない。本連載で紹介する作例は、あくまでも私からの提案であると同時に、読者の方々がCokinフィルターを使用される際のヒントにしていただきたいというスタンスで撮影している。今回もできるだけ多くの撮影シーンや表現に対応でき、かつ効果が分かりやすいように露出を変えるなどして写真を並べて紹介している。ぜひ参考にしていただきたい。なお、各写真は、本文中のリンクから拡大表示できるようにしているので、参考にしてほしい。
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● 窓をどう活かすか
窓は大きな面光源であると同時に、雰囲気を作り出す大切な小道具だ。この窓をどう活かすかが、窓を大きく取り入れたカットでの肝になる。
ここではカーテンで外の風景は全く写らない状況。そこで Cokin 角形フィルターを使用して、光質に変化をつけた場面と色を添える場面を撮影してみた。また Cokin 角形フィルターはすべてハーフグラデーションを選択した。構図内の窓にのみ効果を効かせることで、一見、淡白になりがちな構図から、雰囲気がどう変わるかを楽しみたかったからだ。
写真1はフィルターなしのカット。光源は窓からの自然光で、モデルの背中側に白レフを置いている。全体的なカラーの統一を考え、モデルには白のワンピースを着てもらった。
そこで、幻想的な雰囲気を作り出そうと、ソフト系フィルター「フォグ 1(ハーフ)」( A150 / P150 )を選択。ハーフポジションを自由に変えられるCokinの角形フィルターなので、ファインダーをのぞきながら、効果の位置を確認して撮影を行なったのが作例2だ。
フォグはソフトな効果が得られるが、ネーミングのごとく霧の中のような光の広がりを得られるのが特徴。写真2-1の“適”露出、写真2-2のアンダー目、写真2-3ののオーバー目と撮影。当初の狙いの幻想的な雰囲気を考えると、“適”のカットがもっともイメージにマッチした。女性的な柔らかさもプラスされて、私としてはこの露出が好み。アンダー目は思いのほか艶っぽい効果が表れたように思う。
作例2 P150使用例
つぎに、窓枠にのみカラーを加えられないかと考え、ハイライト部(窓の光)にはあまり影響がないカラーとしてブルーを選択。ハーフグラデーションフィルターの「ソフトブルー 2」( A123S / P123S )を装着して撮影したのが作例3だ。 ここでも予想以上のクールさが演出され、思った以上にいい感じのカットになった。とくににハイライト部(窓の光)がブルーにならない“適”露出のカット(写真3-1)とオーバー目(写真3-2)は、窓枠のブルーが心地いいアクセントになり、クールな中にも暖かみのある印象に。モデルにまで色がつかないハーフグラデーションの恩恵だ。写真3-3のアンダー目では、寂しさが前面に出た印象になったと思う。
作例3 P123S使用例
クールな「ブルーハーフ」( A123S / P123S )の対極を、とハーフグラデーションフィルターの「タバコ2」( A125 / P125 )を選んで撮影したのが作例4だ。夕暮れっぽさを期待していたが、「タバコ2」とのネーミングのどおり、どことなく昭和な匂いがする懐かしさが演出された。私の好みはアンダー目のは写真4-1。いっそうの懐かしさの中に影が感じられる。なお、“適”露出のカットが(写真4-2)、オーバー目が(写真4-3)だ。
作例4 P125フィルター使用例
今回も寄りのカットを合わせて紹介する。同じフィルターで、同じ条件で撮影していても、寄りと引きでは印象が異なることが多いので、ぜひとも参考にしていただきたい。なお、「ソフトブルー 2」( A123S / P123S )はオーバー目では効果がほとんど見られなかったので、掲載は割愛した。
作例5は、フィルターなしと「ソフトブルー 2」( P123S )を使ったカットで、それぞれ写真5-1がフィルターなし、写真5-2が P123Sを使用した“適”露出、写真5-3が P123S のアンダー目だ。
また、作例6は、「フォグ1(ハーフ)」( P150 )を使ったカットで、写真6-1が“適”露出、写真6-2がアンダー目、写真6-3がオーバー目。作例7は、「タバコ2」( P125 )を使ったカットで、写真7-1が“適”露出、写真7-2がアンダー目、写真7-3がオーバー目の順に撮影した。
作例5 寄りのフィルター効果1 P123S使用例
作例6 寄りのフィルター効果2 P150使用例
作例7 寄りのフィルター効果3 P125使用例
■ SCENE 2 ベッドのある部屋でのシーン
● キュートな印象に別の要素を加える
小窓から光が入る状況で、構図外のベッドの隅に白レフを置いている。可愛らしい部屋の中なので、雰囲気に合わせキュートな印象と、それとは別の、雰囲気を壊さない程度の憂いを求めてみた。窓のハイライトをアクセントとし、あとは比較的フラットなライティング。ハーフグラデーションのフィルターよりも全面に効果のあるフィルターのほうが向いている感じなので、どうカラーを加えるかが楽しみどころだ。
写真8は、フィルターなしの状態。ホワイトバランスは太陽光、少しアンバーがかかりのノスタルジックな雰囲気が漂う。
そこで、まずは可愛らしさに柔らかさを加えてみようと、ソフト系フィルターの「ネットホワイト 1 (強)」( A142/P142 )を選択したのが作例9だ。ネットホワイト 1 (強)は、紗がかかったような柔らかさが特徴のフィルター。ここではオーバー目の写真9-1がいちばん好み。ソフト系のセオリーであるオーバー目にはまり、窓からのアクセントライトが効き、朝のような爽やかさを醸し出している。写真9-2のアンダー目はともかく、“適”露出の写真9-3は、濁りとも捉えかねない中途半端な肌の調子になってしまった。
作例9 P142使用例
次に、透明感が出ればと思い、全面カラーフィルターの「ブルー 80A 」( A024 / P024 )を選択して撮影したのが作例 10?だ。。「ブルー 80A 」は薄いブルーのフィルターで、フィルムでの撮影時によく使われる“色温度変換フィルター”と同じだ。ちなみにホワイトバランスがマニュアルで変えられるデジタルと違い、フィルムはデイライトタイプとタングステンタイプの二つの光源によるタイプを選び、自分の好みに合わせて“色温度変換フィルター”で色調を調整する。
今回、ホワイトバランスは“太陽光”の固定で行っているので、まさに“色温度変換フィルター”と同様に、アンバーっぽさがあるフィルターなししの色味から、自然な白さがあふれる色調になった。“適”露出の写真 10 – 1?と比べ、オーバー目の写真 10 – 2?がもっともクリアな印象。ただ、シャドー部にわずかに涼しさ程度の青みが感じられるアンダー目の写真 10 – 3?ははかなり好みだ。
作例10 P024使用例
朝っぽさの逆のイメージで夕方っぽさをと、全面カラーフィルターの「オレンジ 85B」( A030 / P030 )を使って撮影したのが、作例 11?だ。写真は、それぞれ写真 11 – 1?が“適”露出、写真 11 – 2がオーバー目、写真 11 – 3?がアンダー目だ。このうち、アンダー目の写真 11 – 3?は、はこれから夜を迎えるであろう翳りが感じられ、可愛らしい雰囲気のこの部屋でも受け入れやすい艶が表現できた。あまりにも雰囲気に馴染んだので、目線をカメラにもらった。無表情ながら、夕方という時間帯が持つ匂いが、不思議な艶を出している。また、夕方っぽさを前面に押し出すなら、“適”露出の写真 11 – 1?がベストマッチだろう。
作例11 P030使用例
さて、ここでも寄りのカットを紹介しよう。作例 12?は、フィルターなしと「ブルー 80A」( P024 )を使ったカットで、それぞれ写真 12 – 1?がフィルターなし、写真 12 – 2が P024のアンダー目、写真 12 – 3?が P123S の“適”露出だ。なお、P024 のオーバー目は効果が感じられないと判断し、掲載を割愛した。
また、作例 13?は、「ネットホワイト 1 (強)」( P142 )を使ったカットで、写真 13 – 1が“適”露出、写真 13 – 2?がアンダー目、写真 13 – 3?がオーバー目。作例 14?は、「オレンジ 85B」( P030 )を使ったカットで、写真 14 – 1?がアンダー目、、写真 14 – 2?が“適”露出、写真 14 – 3?がオーバー目だ。それぞれ、引きの撮影とは異なる効き方もあるので、ぜひとも参考にしてほしい。
作例12 寄りのフィルター効果4 P024使用例
作例13 寄りのフィルター効果5 P142使用例
作例14 寄りのフィルター効果6 P030使用例
■ 次回予告
次回はロケ。ノスタルジックな感じの街並の中で、Cokinフィルターを使い、雰囲気を作り出していきます。お楽しみに!!
■ 協力企業 ■
ケンコートキナー
KKRポートヒル横浜
■ 制作・著作 ■
萩原 和幸?
スタジオグラフィックス