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吉田隆行の天空撮影
第2回 上級編 赤道儀「 スカイメモ RS 」で星空撮影 2013/11/19
 
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2013 年 11 月ごろから観測できると言われている「 アイソン彗星 」。撮影を楽しみにしている人も多いことでしょう。そこで、本講座では、天体撮影の第一線で活躍する吉田隆行氏に、星空撮影のテクニックを披露していただくことにしました。入門から上級まで、氏の丁寧な解説をお楽しみください。
はじめにを読む
 
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■ 赤道儀「 スカイメモ RS 」で星空撮影
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▼写真01 赤道儀「 スカイメモ RS 」
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 前回の入門編では、カメラ三脚を使った星空の撮影方法を紹介しました。今回は上級編として、ポータブル赤道儀による星空の撮影方法を紹介しましょう。赤道儀を使うメリットは、赤道儀が星の動きを追いかけてくれるので、長時間露光しても星は点像を保ち、より暗い星まで写せることです。話題のアイソン彗星の撮影にも適した方法ですので、この機会にチャレンジしてみてはいかがでしょう。

   
■ 赤道儀について
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▼写真02 赤道儀「 スカイメモ RS 」
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 撮影方法に入る前に、まず「 赤道儀( せきどうぎ )」について簡単に説明しましょう。赤道儀とは、モーターが内蔵されたカメラを載せる架台で、極軸と呼ばれる回転部分が回ることによって星の動きを追いかけます。赤道儀に載せたデジタルカメラがこのモーターの働きで星を追いかけていくので、赤道儀を使った撮影方法を一般的に「 追尾撮影 」と呼んでいます

 赤道儀には様々な大きさや種類がありますが、最近人気を集めているのは、持ち運びに便利なポータブル赤道儀です。ポータブル赤道儀は軽量コンパクトで、デジタル一眼レフカメラやカメラレンズと組み合わせて星空を撮るのに適しています。今回の撮影に使ったのは、ケンコーの「 スカイメモ RS 」です。スカイメモシリーズは、ポータブル赤道儀の定番とも呼ばれており、極軸望遠鏡も標準で内蔵されている本格的な一台です。

 スカイメモ RS をはじめとしたポータブル赤道儀の使いかたはそれほど難しいものではありませんが、使いこなすにはある程度の慣れが必要です。星空の撮影に出かける前に、まずは自宅でマニュアルを読みながら練習しておくとよいでしょう。特に、アイソン彗星は日の出前の僅かな時間に撮影する必要があります。手際よく機材をセットアップするためにも、それまでに機材に慣れておきたいところです。

   
■ 追尾撮影の実際
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 実際にスカイメモ RS にデジタルカメラとレンズを載せて、星空を撮影してみましょう。初めから望遠レンズを使うと難易度が高くなりますので、最初は広角〜標準レンズで撮影することをお勧めします。赤道儀の使いかたに慣れてきたら、望遠レンズで撮影するとよいでしょう。具体的な追尾撮影の手順は以下のようになります。

  1. カメラを設定する
  2. スカイメモ RS を設置する
  3. デジタルカメラを取り付ける
  4. スカイメモ RS の極軸を合わせる
  5. ピントを合わせる
  6. 構図を合わせて撮影開始

 では順を追って詳しく見ていきましょう。

 

1. カメラを設定する

 

 スカイメモ RS に載せる前に、デジタルカメラの各種設定をしておきましょう。追尾撮影の際も、カメラ三脚を使った固定撮影の時と同様に、マニュアルモードでの撮影が基本となります。固定撮影の場合には ISO 感度を上げて短時間露出で撮影しましたが、追尾撮影の場合は赤道儀が星を追いかけるので、数分にわたって露出しても星は点像に保たれます。ISO 感度を低めの 800 前後で撮影すれば、ノイズの少ない綺麗な画像が得られるでしょう。ノイズリダクションなどその他の設定は、固定撮影と同様です。

 

2. スカイメモ RS を設置する

 

 ポータブル赤道儀を使っていると言っても、赤道儀自体が撮影中に揺れてしまっては、星を正確に追いかけることはできません。揺れを防ぐために、赤道儀はなるべく水平で固い地面に置くようにしましょう。

 赤道儀には極軸と呼ばれる回転軸があり、正確に星を追いかけるためには、この軸を北極星の方向に向ける必要があります。そこで、赤道儀を設置する際は、極軸がおおよそ北の方向に向くように置きましょう。スカイメモ RS には極軸望遠鏡が内蔵されていますので、この望遠鏡の方向が北になるように設置します。

 

3. デジタルカメラを取り付ける

 
▼写真03 スカイメモ RS にカメラを2台取り付けたところ
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 次に、デジタルカメラを赤道儀、スカイメモ RS に取り付けます。デジタルカメラの赤道儀への取り付けには、構図を自由に動かせる自由雲台を使うと便利でしょう。スカイメモ RS は、アームの両側に2つの自由雲台を取り付けて、2台のカメラで同時に星を追尾できます。また、別売のバランスシャフトを使えば、一方にカメラ、他方にバランスを取るためのウェイトを取り付けられます。  赤道儀にカメラを取り付ける際には、誤ってカメラを落としてしまわないように、各部のネジが確実に締まっているのかを確認してから、慎重に取り付けましょう。なお、カメラアームの両側で重さが大きく異なっていると、モーターに余計な負荷がかかり、正確な追尾ができなくなります。両側の重さがなるべく同じになるように調整し、極軸周りのバランスをとりましょう。

 

4. スカイメモ RS の極軸を合わせる

 

 星空は、見かけ上、天の北極( ほぼ北極星の方向 )を中心に回っているように見えます。赤道儀で星を正確に追尾するためには、この星の回転軸と赤道儀の回転軸を平行にしなければなりません。これを「極軸合わせ」と呼んでいます

 極軸合わせは難しいと思うかもしれませんが、スカイメモ RS には極軸望遠鏡が内蔵されているため、比較的容易に極軸を合わせられます。説明書を見ながら、極軸望遠鏡スケール内の指示された場所に北極星を導入すれば完了です。ただこの導入の際には、スカイメモ RS 本体を上下左右に少しずつ動かす必要があります。オプションで用意されている、微動装置が付いた大型微動マウントを使うとスムーズでしょう。

 

5. ピントを合わせる

 

 いよいよスカイメモ RS の電源を入れて、追尾開始です。クランプを緩めて、明るい星をカメラのファインダー内に導入しましょう。そして、クランプを締めてからデジタルカメラのライブビューモードを起動し、レンズのピントを合わせます。

 ピントの合わせ方は、固定撮影の時と同様です。追尾撮影では星が点像に保たれるため、固定撮影と比べてピンぼけが目立ってしまいます。より入念にピントを合わせておきましょう。ピントが合ったところで、ピントリングをテープなどで固定し、撮影中にピントリングが動かないようにするとよいでしょう。

 

6. 構図を合わせて撮影開始

 
▼写真04 いざ撮影!
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 ピントを合わせたら、クランプもしくは自由雲台を使って構図を合わせます。この時、スカイメモ RS 本体を動かして、せっかく合わせた極軸をずらしてしまわないように注意しましょう。ファインダーが暗くて星の位置がわかりづらい場合は、10 秒程度の露出で星空をテスト撮影してみるとよいでしょう。その画像を参考にしてカメラを動かし、希望の構図に合わせます。

 構図を合わせたら、自由雲台をはじめ、各部のネジが締まっていることを確認してからシャッターを切ります。シャッターを切る際は、ケーブルレリーズを使いましょう。

 最初の一枚の撮影が終わって画像が表示されたら、その画像を液晶モニターで拡大し、星が流れていないか確認しましょう。望遠レンズを使っている場合は、赤道儀を使っても若干流れることがありますが、流れの程度が大きい場合は、極軸ズレなどの原因が考えられます。その際は、もう一度極軸を合わせ直すなどの対策をとりましょう。

   
■ アイソン彗星の撮影
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▼写真05 パンスターズ彗星
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 彗星の撮影と言うと特別なテクニックが必要と感じるかもしれませんが、上記と同じ方法で、彗星も撮影できます。ポータブル赤道儀とデジタルカメラで、話題のアイソン彗星を撮影してみましょう。以下に、アイソン彗星を撮影する際のコツを記します。

 

● 彗星が見える場所を探す

 

 入門編でも少し触れましたが、明るくなったアイソン彗星を見ることができるのは、明け方の東の低空です。従って、アイソン彗星を撮影しようと思えば、東方向が開けた撮影場所を探す必要があります。また、ポータブル赤道儀の極軸合わせに北極星が必要になりますので、北方向の視界もある程度開けている必要があります。これらの条件を満たす撮影地を探しましょう。

 また、アイソン彗星はマイナス等級まで明るくなる予想ですが、彗星の尾の部分は淡くて暗いため、できるだけ都市部の光害の影響を受けにくい、夜空の暗い場所で撮影したいところです。天の川が肉眼で見えるような場所がベストですが、東側に大きな街明かりがないだけでもかなり変わりますので、地図を参考にして探すとよいでしょう。

● アイソン彗星の撮影時期

 

 アイソン彗星は、2013 年 11 月 29 日に太陽に最接近し、最も明るくなります。しかし、この日の前後1週間程度は、彗星が太陽に近すぎるため、地球から観測・撮影することができません。そのため、太陽に近づく 11 月中旬から下旬にかけて、または、太陽に近づいた後の 12 月上旬が撮影に最適な時期となります。

 また、上記したように彗星の尾は大変淡いものです。都市部の明かりだけでなく、月明かりがあっても尾は見えにくくなってしまいます。11 月下旬の明け方は月明かりがあるので、12 月上旬の方が暗夜でより撮影に適していると言えるでしょう。12 月 8 日は日曜日なので、この日の明け方が、アイソン彗星の撮影の狙い目ではないでしょうか。

 ただ、アイソン彗星は太陽に約 190 万キロメートルの距離まで近づくため、太陽に近づいたときに、太陽の熱で溶けて消滅してしまう可能性があります。そういうことを考えると、念のために 11 月下旬にも撮影しておく方が安心ですね。

● 望遠レンズが適している

 

 アイソン彗星の尾がどこまで伸びるかはその時になってみないとわかりませんが、広角レンズでないと入りきらないような長い尾を見せることはとてもまれなので、一般的に彗星の撮影には 100 〜 200mm 前後の開放 F 値の明るい望遠レンズが適しています。このぐらいの焦点距離があれば、尾が伸びた彗星の姿を迫力ある姿で捉えることができるでしょう。

 彗星の明るさは日々変わっていきます。突然明るくなって長い尾を見せることもありますので、郊外に撮影に行く際には、焦点距離の異なるレンズを何本か持って行くことをお勧めします。

● ISO 感度を上げて素早く撮る

 

 ポータブル赤道儀は星の動きを追尾しますが、彗星は星とは異なる動きをするため、望遠レンズを使って長時間露出で撮影すると、点像に写った星空の中で彗星だけが動いて写ってしまいます。これを避けるため、彗星の撮影では普段より ISO 感度を上げて、シャッター速度を速くすることを心がけましょう。

   
■ 作例
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 スカイメモ RS にデジタル一眼レフカメラを載せて撮影した星空の写真を紹介しましょう。

※ 注意
以降の写真をクリックすると、すべて実画像で表示されます。 10MB を越える画像があるので、表示に時間がかかる場合や、携帯端末などでは正しく表示されないことがあります。

 

● 沈む夏の天の川

 
▼写真06  
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 広角ズームレンズのトキナー ATX 16-28mm を使って撮影した、西の空に沈んでいく夏の天の川の写真です。スカイメモ RS が星の動きを追尾するので、風景は若干流れていますが、星は点像に保たれています。固定撮影の写真と比べると、より暗い星まで写っているのがわかります。
( 撮影データー:トキナー ATX 16-28mm ( 16mm、F3.2 で撮影 )、キヤノン EOS 5D MarkII、 ISO:1600、150 秒 )

 

● アンドロメダ大銀河( 200mm )

 
▼写真07  
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 秋の星空で最も目立つ天体は、アンドロメダ座で輝くアンドロメダ大銀河です。アンドロメダ大銀河の広がりは大きく、広角レンズでも捉えられますが、この写真のように望遠レンズを使うと、渦を巻いている様子までよくわかります。望遠レンズで天体を拡大して撮影するのは、ポータブル赤道儀を使う醍醐味でしょう。
( 撮影データー:MILTOL 200mm F4 レンズ、キヤノン EOS 60D、 ISO:1600、300 秒)

● すばる

 
▼写真08  
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 秋の夜更けに東の空から上ってくるすばるの写真です。すばるは散開星団と呼ばれる星の集まりで、日本では古くから親しまれてきました。この写真もアンドロメダ大銀河と同じ望遠レンズで撮影したものです。すばるの周りで輝く青い星雲も写っています。
( 撮影データー:MILTOL 200mm F4 レンズ、キヤノン EOS Kiss X3、 ISO:1600、300 秒)

● オリオン座の星雲

 
▼写真09  
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 冬の王者オリオン座の中には、数多くの星雲が存在しています。最も有名なのがオリオン大星雲で、写真の右下に写っているピンク色の星雲です。左上には馬頭星雲も小さく写っています。なお、通常のデジタルカメラではこのような赤い星雲は写りにくくなっていますので、天文ショップなどで販売されている、ローパスフィルターを交換した天体撮影モデルを使っています。
( 撮影データー:MILTOL 200mm F4 レンズ、キヤノン EOS 60D、 ISO:1600、300 秒)

● アンドロメダ大銀河( 400mm )

 
▼写真10  
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 400mm のミラーレンズに交換して撮影したアンドロメダ銀河の写真です。400mm ともなると、赤道儀を使っても星はわずかに流れてしまいますが、迫力ある銀河の写真になりました。このレンズは開放 F 値が 8 と暗いため、淡い部分の写りはもう一つですが、大きく映し出せるのが魅力です。
( 撮影データー:Kenko ミラーレンズ 400mm F8、キヤノン EOS 60D、 ISO:3200、360 秒)

● オリオン大星雲( 400mm )

 
▼写真11  
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 400mm のミラーレンズを使って、オリオン大星雲を拡大した写真です。オリオン大星雲は明るい天体ですので、暗いレンズでも比較的良く写ります。天体の明るさや大きさはそれぞれ異なりますので、それぞれに応じた機材で写すと、より美しく写し出すことができます。
(撮影データー:Kenko ミラーレンズ 400mm F8、キヤノン EOS 60D、 ISO:3200、360 秒)

 

● 光害カットフィルター

 
▼写真12  
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 天体写真は、光害が少ない星空の綺麗な場所で撮影するのが理想ですが、日本は都市部の人工照明の影響が大きく、光害が全くない観測地まで出かけるのは大変です。そのような場合に便利なのが、光害カットフィルターです。

 光害カットフィルターは、光害の元となる波長の光だけをカットするフィルターです。今回のテストでは、タイプ1とタイプ2という特性が異なる2枚のケンコーASTRO LPRフィルターを使用しました。下がそれらのフィルターを使って撮影した画像の比較です。一番左がフィルター無しで撮影したアンドロメダ大銀河の写真、中央と右は、それぞれタイプ1、タイプ2のフィルターを装着して撮影した同じ天体の写真です。

 

▼写真13  
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 画像を見比べると、フィルター無しで撮影した写真と比べて、フィルターを使った写真は銀河の淡い腕の部分まで写っているのがわかります。また、光害カットフィルターを使うと光害がカットされて背景が暗くなるため、露出時間を延ばすことができ、撮影画像のコントラストも上がっています。タイプ1とタイプ2の画像を比べると、タイプ2の方がカラーバランスの崩れが少ない印象を持ちました。

▼写真14  
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 タイプ2光害カットフィルターを使用して撮影した画像のコントラストを、画像処理ソフトで強調すると、右のような写真に仕上がりました。アンドロメダ大銀河の巻き付く腕の様子がよくわかります。

 今回は、3等星が見える程度の都市部周辺で比較写真を撮影しましたが、都市部での撮影時だけではなく、星空が比較的綺麗に見える場所でも、光害カットフィルターを活用してコントラストの向上をはかることができます。天体撮影を楽しむ際、一枚持っておくと重宝するフィルターでしょう。

 

● まとめ

 

 ポータブル赤道儀を使った追尾撮影は、最初は煩雑に感じてしまうかもしれません。しかし赤道儀が星を追いかけてくれるので、星を点像に保って写すことができ、固定撮影とは違った表現が可能になります。是非、赤道儀の使いかたに慣れて、星空撮影の表現の幅を広げましょう。

 


■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
吉田隆行


 

 この冬に見頃を迎えるアイソン彗星の撮影でも、ポータブル赤道儀は活躍してくれるでしょう。撮影時間の限られる彗星だからこそ、素早く設置できるポータブル赤道儀が便利です。望遠レンズと組み合わせて、彗星の迫力ある姿を撮影してみてはいかがでしょうか。

   
 
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初出:2013/11/19 このページのトップへ
 
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