|
世界最小・最軽量を実現した新技術 |
|
|
画像H |
タムロン デジタル専用 高倍率ズームの変遷
2005年にデジタル一眼レフ専用高倍率ズームレンズとして「Model A14」が登場(右)。2007年の「A18」では250mmに、2008年の「B003」では270mmに高倍率化がはかられた。B003から手ブレ補正機構「VC」を導入。最新のB008では更に高速・静音が特長のオートフォーカス機構「PZD」が採用されている。(※クリックして拡大写真を表示) |
|
|
|
画像 I |
最新機種(左)と前機種との比較(1)
「B008」は前モデル「B003」(右)からの小型化をはかり、同クラスで世界最小・最軽量を達成。 |
|
|
画像J |
最新機種と前機種との比較(2)
「B008」は「B003」と比較して体積でマイナス24%、フィルター径で10mmの小型化を実現。重さは100グラム軽量化。
(※クリックして拡大写真を表示) |
|
|
画像K |
手ブレ補正機構 VCユニット比較
最新のB008 の手ブレ補正ユニット(右)と前機種B003 の手ブレ補正ユニット(左)。最新のものは口径が小さく、厚さは約1/2 にコンパクト化されている。
(※クリックして拡大写真を表示) |
|
|
画像L |
「レンズボディの小型化には手ブレ補正ユニットの小型化が必要だった」
基礎開発本部 基礎開発四部 部長
舘野登史邦氏 |
|
|
画像M |
手ブレ補正VCユニットの展開図
駆動コイルとマグネットの位置を入れ替えることで、全体的なVCユニットの小型化が測られている。実際はイラストの各層が重なるようにユニットが組まれて実装されている。 |
|
|
画像N |
手ブレ補正効果の比較写真
「吸い付くように止まる」と定評のあるタムロンの手ブレ補正「VC」。最大でシャッタースピード4段分の手ブレ補正効果を発揮する。(写真提供:タムロン) |
|
|
画像O |
手ブレ補正ユニットのデモ
白い土台がブルブルと震えても、コイルとマグネットで電磁制御された上部のレンズ部分は振動を抑制する動きをして手ブレ補正を防ぐ…というデモンストレーション。 |
|
|
画像P |
手ブレ補正VCユニット
最新機種B008の手ブレ補正VCユニット。上部に絞り羽根ユニットが組み込まれる。下は絞りを開けた状態だ。 |
|
|
|
Q.
B008は「15倍のズームで世界最小、最軽量」を達成しました。持ち歩くことを考えると「小さい、軽い」はとても大きな利点ですね。
渡辺
当社の高倍率ズーム製品のラインアップを歴史的にみると、実はひとつ前の「B003」ではレンズのボディが大きくなっています。
2008年に発売したB003 は、デジタル一眼レフカメラの主流となっているAPS-Cセンサー向けに開発した製品ですが、手ブレ補正機能を搭載したためレンズもボディも大きくなってしまいました。
「B003」発売当時は、手ブレ補正を入れればレンズは大きくなってしまう、ということが、いわば常識のようなものでした。
解説
小型のレンズにとっては手ブレ補正機構を組み込むことは容易ではない。手ブレ補正機構を途中に追加すると、レンズを通してイメージセンサーに達する光の通り道の距離が長くなるため、光学設計を基本からやり直す必要がある。その結果、レンズを大きくしたり、光学上のクリアランスを設ける等が必要となり、手ブレ補正ユニットの追加分以上にレンズボディは大型化する傾向にある。
舘野
2008年当時の技術では、できるだけ小さく設計しても手ブレ補正ユニットのサイズの小型化はこれがせいいっぱいでした(写真画像 K 左のユニット)。
このユニットの大きさが制約になり、光学設計とメカ設計の両方に影響して小型化には足かせになっていたのです。
Q.
レンズを小型化する核心には、手ブレ補正ユニットを小型にする技術があったわけですね?
渡辺
技術というよりは、「B003 で大きくなったレンズボディを、なにがなんでも「A18」(18-250mm DiII )のサイズにしなさい」という号令ひとつで小さくしたようなものです(笑)。
「A18」で小型化を実現していましたから、光学設計だけに限って言いますと、小さくできるという確信はありました。しかし、レンズ以外の手ブレ補正ユニットやオートフォーカ用のアクチュエーターを搭載するとなると、収まりきらないため、小型化には抜本的な見直しが必要でした。
解説
タムロンには最初の高倍率ズーム製品を開発した際の逸話が残っている。高倍率ズームが大きくて重かった頃、28〜200mmの高倍率ズームを開発・製品化するにあたり「市場で受け入れられるとしたらどのような製品か」を話し合った。その結果、ポイントはサイズだということになった。そのとき、当時の常務取締役が「携帯に便利なサイズはこの大きさだ」とポケットからタバコの箱を取り出して主張した。それを、当時の開発本部長が、具体的に想像しやすいように、方眼紙を切って丸め、「では、これくらいの大きさの製品を作ろう!」という号令ひとつから開発がはじまったと言う。
最初は誰もが"そんなに小さくはできないだろう"と思っていたが、大口径複合非球面レンズが量産可能になったこと、エンジニアリングプラスチックによる小型軽量化など、最新技術の導入と工夫によって小型化を実現したのである。(詳しくは同社のホームページ「高倍率ズームへの挑戦」を参照」)
Q.
そこで手ブレ補正ユニットを小さく改良する開発に入ったのですね?
舘野
レンズボディの厚みや口径が決められているわけですから、それに合わせたサイズの手ブレ補正ユニットを組み込む必要がありました。当社では「できない」という言葉は禁句なので、どうにか小型化をしなくてはいけないと。
Q.
小さくするためにどのような技術の導入があったのですか?
舘野
手ブレ補正ユニット内部構造の話になりますが、初の手ブレ補正ユニットからの一番大きい変更点はコイルとマグネットの位置を入れ替えたことです。手ブレ補正レンズは一般的にコイルとマグネットを使って動かしています。最初の手ブレ補正ユニットは構成をシンプルにするために動作する手ブレ補正レンズ側にマグネットを配置していました。しかし、マグネットは比較的重く、重いものをレンズと一緒に動かすためにはコイルを含めてユニット全体のサイズが大きくなります。
そこで、全体の小型化を考えてコイルとマグネットの位置を入れ替えました。固定側をマグネット、動作する側に軽いコイルを配置して設計し直しました。同じ電流であれば軽いものを動かす方がユニットは小さくなるのでコンパクトになりました。
解説
タムロンの手ブレ補正機構は独自開発の「VC」(Vibration Conpensation)を採用している。3つのスチール製のボールにVCレンズ(補正レンズ)が乗っていて、マグネットとコイルで電磁的に制御している。
初期型はVCレンズ側にマグネットを配置した『ムービングマグネット方式』を採用した。しかし、これだと前述の通り、動く側のマグネットは質量が重いため、より大きな駆動力が必要となり、コイルを含めてユニット全体が大きくなってしまう。そこで、逆転の発想で、コイルとマグネットの位置を入れ替え、固定側をマグネット、動作する側に軽いコイルを配置して設計し直した『ムービングコイル方式』を採用した。軽いものを動かす方がユニットは必然的に小さくできるからだ。ただし、VCレンズ側にコイルを配置するには電気を送るためのフレキ(ケーブルの一種)配線が必要となるため、制御動作に制限が出やすくなるが、新開発のVCユニットでは、制御の自由度を落とさないように配線の設計を工夫し、手ブレ補正機能の精度を維持したままコンパクト化を実現した。
タムロンの手ブレ補正「VC」の効果には定評がある。「VC」のオン/オフを切り替えて意図的に効果を見比べるとブレがピタリと抑えられるので著者もその効果に驚いた記憶がある。「吸い付くようにとまる」と表現するユーザーもいる。まず手ブレ補正のスイッチをオフにし、ズームを望遠側にして片手でカメラを持って、ファインダーで遠くの被写体を見ると当然ぶれて見える。次に手ブレ補正のスイッチをオンにするとそのブレが抑えられる様子が実感できるので、カメラ店の店頭で試せる機会があればやってみると良い。また、カメラと映像関連の展示会「CP+ 2012」のタムロンブースでは実際にB008を体験できるコーナーがあるのでそこで試してみるのも良いだろう。
Q.
ユーザーが店頭でズームレンズの製品選びをする場合、ズームしてみて重さや引っかかり(ズームリングのトルク)をチェックすることがあります。高倍率ズームレンズの場合は一般的に、引っかかりや重さが少し気になる製品もありますが、鏡筒が長い分、ズームしている最中に途中でひっかかる感じは発生しやすいのでしょうか。
戸谷
そうですね、高倍率ズームでは、ズーム操作の途中で重さに変化のない(トルク変動がない)スムーズな動きをさせることが大変難しいですね。先ほども申しましたが、通常のズームレンズと比べると、ズーム幅が広い分、レンズの繰り出し量が多いので、幾つものズームカムが複雑に動いてズームしていく機構となっています。
一定のトルクでズームできるよう設計時にはチェック事項として必ず確認しています。最新の
B008 はこの点にも改良が施してあり、ひっかかりがなく、スムーズにズーム駆動ができるように設計をおこなっています。
Q.
ありがとうございました。次回はオートフォーカスの新技術ピエゾモーターのしくみ、一眼レフとミラーレス一眼用レンズの違いなどをお伺いします。 |