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光画倶楽部
第4回 モノクロ写真 A to Z その1 2013/03/11
 
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カメラレビューでスタートした 「 笠井アキラの光画倶楽部 」 ですが、第4回目からのしばらくは、笠井先生お得意の 「 モノクロ写真 」 について言及していただきます。デジタルカメラ全盛の時代だからこそ、モノクロの魅力に触れてみましょう。
<著者メッセージ>

▼目次  

はじめに

モノクロ出力できるプリンターを使う
モノクロ写真のプリントは超簡単!
じゃなぜモノクロなのかというと…
次回予告


笠井先生の写真展がスタート!
2013 年3月7日より、笠井享 写真展 「 京都 洛苑考 --- 花 ( さくら ) のころ 」 が4都市で開催されます。ファインプリントにこだわった写真展に、あなたも足を運んでみませんか? 詳しくはコチラ
 
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■ はじめに
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● 今こそモノクロ写真にチャレンジ
 
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 今から 10 年以上前、ようやくインクジェットプリンターがまともにカラー写真をプリントできるようになった時代に、僕はセイコーエプソンの要請で、モノクロプリントを上手に創作する解説を同社の Web ページ上で連載解説したことがある。その解説は、主として当時はまだ主流だったフィルム写真をスキャナで取り込んで上手にモノクロ写真としてインクジェットプリントに仕上げるノウハウを解説したものだった。この解説、モノクロ写真とはどういうものなのかをしっかりと説明しているという意味ではとてもよくできていたという自負があった。

 なんでこんな話をするのかと言うと、最近になってモノクロ写真を美しくプリントするための 「 マルチブラックインクプリンター 」 と呼べるプリンターが登場してきていることと、時代はデジタルカメラ全盛ということを合せて考えてみたら、かの時代の解説を、今風にアレンジして、もう一度復活させるべきだと思った。そういうことで、第4回の 「 笠井アキラの光画倶楽部 」 は、デジタル時代のモノクロ写真について語ることにした。モノクロ写真に興味のある方はご一読ください。


 
■ 白黒 と モノクロ ■

「 白黒 ( 黒白 ) 写真 」 という言葉と、 「 モノクロ写真 」 という言葉がある。何が違うのか? 実は厳密に定義されてはいないが、本、光画倶楽部内では、以下のような定義付けをしようと思う。

●白黒 ( 黒白 ) 英語で Black and White photo。銀塩白黒写真印画紙にプリントした写真のこと。
●モノクロ写真 英語の Mono Chrome ( モノクローム ) photo の省略形。
「 モノ 」 は 「 単一 」、「 クローム 」 は 「 色彩 」 のことで、赤や茶色、あるいはブルーなど、画像全体が一つの色合いに統一されている写真のこと。上記 「 白黒写真 」 も含まれる。ちなみに、コンピュータ画像処理用語では、「 グレースケール画像 」、「 ダブルトーン画像 」 なども 「 モノクロ画像 」 と類義・同義。

以上のような違い ( や同一性 ) があるのだが、光画倶楽部では、すべてを 「 モノクロ 」 と呼ぶことにする。

   
■ モノクロ出力できるプリンターを使う
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● マルチブラックインクが使えるプリンター
   モノクロ写真のおもしろさは、撮影作業だけでなく撮影画像に好みの味付けを施してプリントするまでの 「 工程のおもしろさ 」 にもある。特に、最終工程の 「 プリント 」 は、紙の種類を変更してみる/グレーの色調をわずかに調整してみる/額装・デコレーションして飾ってみるなど、独特の手工芸的なおもしろさがある。これは、デジタル化した外界の光景を再び紙の上に戻してアナログ化するおもしろさと言い換えることができるだろう。

 そこで、まずはプリンター選びから始まるのだが、モノクロ写真を美しく仕上げるにはどのようなプリンターでも OK とはいかない。人間の目は、カラー写真を見るときは、そのカラーが実在のカラーや記憶色に近似していればそれ以上に違和感を感じることはないのだが、モノクロ、とりわけグレーの写真を見るときは、わずかな色のずれでも違和感を感じ取ってしまいがちなので、色合いのずれがない ( 出にくい ) プリンターが必要となる。そこでおすすめなのが各社から発売されている 「 マルチブラックインク 」 が使える上級機種である。

 「 マルチブラックインク 」 のプリンターとは、黒ならびにそれを薄くしたいろいろな明るさのグレーを再現するのに、まっ黒のインク以外に、やや濃いめのグレー、淡いグレーなど、複数の濃さの違うブラックインクを使うしくみになっているプリンターである。セイコーエプソンのプリンターでは 「 K3 インク 」 というニックネームがついている機種であり、キヤノンのプリンターではニックネームはないのだが 「 3 ( 5 ) 色の黒系インク 」 というように特徴付けているプリンターだ。

 これらのプリンターを使った場合とそうでない場合について、図-1 にその違いを示しておこう。

▼図-1 モノクロインクジェットプリントの問題
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A:ハイライトからいくつかのグレーを経てシャドウへ至る濃淡変化の過程で、たとえば暗い領域は緑っぽく、明るい領域は赤っぽいというように 「 グレーの色合いのねじれ 」 が起こってしまう。この写真の事例では、もっとも明るいハイライト領域 ( 右上の煙の部分 ) に色合いの違和感がある。このような現象は、グレーを作るのにグレーやブラック以外の色インクを重ねて印字するために、ある濃度範囲を印字するときに、ある色あいのインクだけがわずかに過多 ( 過少 ) になった結果発生する。

B:一見、普通のグレーに見えるプリント。本来このように見えるのが理想だが…。

C:たとえば蛍光灯の下で観察するとBのように見えていたプリントを、太陽光の下に持って行き観察すると許容できないほどグレーの色合いが変化してしまう。この現象は色彩学的には 「 メタメリズム ( 条件等色 ) 」 があると言われる現象で、ある色が視覚的に同じ色として見えるには照明の条件を一定に保つ必要がある=照明条件が違うと異なる色に見えることを言う。マルチブラックインクのプリンターでも旧型機種ではインクの成分自体が強いメタメリズムを持っていたが、今日のマルチブラックインクのプリンターでは積極的にこの問題の解決がなされている。

   
■ モノクロ写真のプリントは超簡単!
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● プリンタードライバーを活用
   上述のプリンターを使ってモノクロ写真をプリントするのは超簡単。拍子抜けしてしまうはずである。しかし、意外にその方法は知られておらず、説明すると 「 えーっ! そうなんだ〜!! 」 と驚かれることがある。そこで、少し旧型機種であるがエプソン PX-5800 と最新型キヤノンピクサス PRO-1 でモノクロ写真をプリントする設定を図-2a / 図-2b に示す。

 これらのプリンターは、そのプリンタードライバーというソフトウエアが、写真データを受け取ってから美しいモノクロ画像を生成させて、かつ、必要な微調製を与える機能も備わっている。Photoshop などの画像補正機能を一切使わなくても、デジタルカメラで撮影した画像を表示させるソフトさえあれば、そこからプリンタードライバーを呼び出して、図のような各項目を設定すれば、そのプリントした結果は1枚目から結構満足度が高いはずだ。

 特に、何が便利かと言えば、プリントするデータがカラー絵像であっても、出力結果としてはモノクロ画像を得られる点である。この機能が搭載されたプリンターを使う限り Photoshop などの高度なモノクロ変換機能を使ってカラー絵像をモノクロに変換したり、あるいは、撮影段階でモノクロモードで撮影する必要はまったくないのだからすこぶる簡単なのである。

▼図-2a エプソン PX-5800 のプリント機能 ( Photoshop CS6 から使用する場合 )
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【1】 「 Photoshop プリント設定 」 ダイアログにて、 「 カラーマネージメント/カラー設定: 」 ポップアップメニューを 「 プリンターによるカラー設定 」 とする。必ずこうしなければモノクロプリント機能はうまく動作しないので要注意だ。
【2】 「 プリント設定... 」 ボタンをクリックすると、それぞれのプリンターの機能設定の 「 プリント 」 ダイアログへと移行する。
【3】同ダイアログで 「 用紙サイズ:ポップアップメニュー 」 の直下にある機能切り替えポップアップメニューを 「 カラーマッチング: 」 にして 「 EPSON Color Controls 」 にする。ここも、必ずこうしなければモノクロプリント機能はうまく動作しないので要注意
【4】同じポップアップメニューを 「 印刷設定 」 にして、エプソンプリンタドライバーを呼び出しその領域の最上段タグを 「 基本設定 」 する。この状態で、使用する用紙を選び、 「 カラー: 」 ポップアップメニューを 「 モノクロ写真 」 にする。また、同じモノクロ写真でもわずかに暖かみのあるグレー/やや冷たい印象のグレーなどを選択する 「 モノクロ色調 」 欄にて希望の色調を選ぶ。通常は 「 純黒調 ( ニュートラル ) 」 を選べばよい。
【5】最上段タグを 「 詳細設定 」 にすると、前出の 「 モノクロ色調 」 を選び直したり ( A ) 、ダイアログ左下のカラーサークルで座標を指定することでグレーの色調をさらに微妙に制御できる。
( B ) の 「 調子: 」 ポップアップメニューは 「 より硬調 」 〜 「 軟調 」 まで5段階のコントラスト選択ができるようになっているが、これは銀塩写真印画紙のコントラストグレードの1号 ( 軟調 ) 〜5号 ( より硬調 ) に整合させているので暗室作業経験者には理解しやすいはずだ。
( C ) のスライダーグループは、 「 明度 ( =デジタルカメラ ) の露出に相当 」 や 「 コントラスト 」 、 「 シャドウ領域階調 ( 暗い部分の微妙な濃淡変化調整 ) 」 「 ハイライト領域階調 ( 明るい部分の微妙な濃淡変化調整 ) 」 が任意にできる。
また、最近のインクジェットペーパーの漆黒部分は銀塩白黒印画紙の漆黒よりも、より漆黒感が大きい ( 濃度が高い ) ので、写真印画紙的な漆黒感を得たい場合は 「 最高濃度: 」 スライダーを調整して漆黒感を弱めることも可能である。
( D ) 「 白地にかぶり効果を与える 」 を 「 オン 」 にすると、インクジェットペーパーの真っ白の部分にわずかにインクをスプレーして、まぶしいほどに白すぎるインクジェットペーパーを印画紙のように落ち着いた白さにすることもできる。


▼図-2b キヤノン PRO-1 のプリント機能 ( Photoshop CS6 から使用する場合 )
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【1】 「 Photoshopプリント設定 」 ダイアログにて、「 カラーマネージメント/カラー設定: 」 ポップアップメニューを 「 プリンターによるカラー設定 」 とする。必ずこうしなければモノクロプリント機能はうまく動作しないので要注意だ。
【2】 「 プリント設定... 」 ボタンをクリックすると、それぞれのプリンターの機能設定の 「 プリント 」 ダイアログへと移行する。
【3】同ダイアログで 「 用紙サイズ:ポップアップメニュー 」 の直下にある機能切り替えポップアップメニューを 「 カラーマッチング: 」 にして 「 Canon カラー・マッチング 」 にする。ここも、必ずこうしなければモノクロプリント機能はうまく動作しないので要注意
【4】 同じポップアップメニューを 「 品位と用紙の種類 」 にして、キヤノンプリンタドライバーを呼び出し、使用する用紙や給紙方法を選び、最下段の 「 モノクロ写真印刷 」 チェックボックスをオンにする。
【5】 「 モノクロ写真印刷 」 チェックボックスをオンにした状態で【3】・【4】と同じポップアップメニューを 「 カラーオプション 」 にすると、エプソン PX-5800 同様に 「 モノクロ色調 」 選ぶことができる ( A ) 。
その直下のカラーピックアップフィールドで座標を指定することでグレーの色調をさらに微妙に制御できるのもエプソン PX-5800 同様である。
( B ) の 「 明るさ: 」 ポップアップメニューは 「 明るく 」 〜 「 暗く 」 3択。これは実質的には、画像のガンマ値 ( 中間調の明るさ ) を調整するのに等しい。
( C ) のスライダーグループは、 「 濃度 」 はデジタルカメラの露出に相当するようだ。また 「 コントラスト 」 スライダーでプリント仕上がりのコントラストを調整できる。

   
■ じゃなぜモノクロなのかというと…
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● モノクロは実在しない光景
   そんなに簡単に良質なモノクロプリントを作り出せるのならば、特段にモノクロ写真について述べることもなかろうというと、決してそうではない。モノクロ写真には、通常のカラー写真にはない難しさとそれゆえのおもしろさ、アート性があるのである。そもそも、カメラは目で見えている外界を目で見たのと同じように記録する。目に見える世の中の光景は 100% カラー像である。たとえ、霧がかかった薄暗い森の中に入り込んでも、月明かりだけの暗闇であっても、その光景はカラーのはずだ。

 逆に言えばモノクロの光景とは実在するものではなく、撮影者が創作する絵像の中でのみ成り立つ。それゆえに、モノクロ写真は、作者自身のものごとの見方、感じ方、見せ方、他もろもろの作者の積極的な創作への意識が下地にあるからこそ、よい作品となると言ってよい。つまり、モノクロ写真をしっかり作り込むということは、作者のカラー写真を含む写真全体の技能やセンスの向上に大いに役立つのである。


● モノクロ写真作品の勝負どころ
 
▼図-3A イマイチの事例
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▼図-3AA 元のカラー画像
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▼図-3B シャッターチャンスで勝負
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▼図-3C 光と影で勝負
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▼図-3D フォルムで勝負
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    ここで、撮影時にカラーだったねらった光景が、思ったとおりのモノクロ写真として成り立つかどうかについての典型的な事例を図-3に掲載しよう。

 

図-3A
イマイチの事例

ここに掲載した写真は、数年前の夏の日の京都鴨川のスナップ写真である。図-3Aはモノクロ化してもあまり印象的な写真にならなかった例である。元のカラー写真は、図-3AAのように子供たちのカラフルな服や帽子と、夏らしい深い緑色の対比的な効果があるのだが、こうしたカラー情報はモノクロ写真においては何の効果を与えることはできない。

 

図-3B
シャッターチャンスで勝負

同じ場所で撮影したこのシーンの場合、一番手前の少年の動きをうまく捕らえることができ、その動的な姿が水面のやや濃いグレーを背景にして浮き上がって見える。主題はあきらかに少年のアクションであり、 「 シャッターチャンス 」 を活用してうまく作品化できた例である。

 

図-3C
光と影で勝負

こちらは橋の下で遊ぶ少年の姿だ。画面としては、薄暗い画面下半分に対して上半分は強い日差しでかなりハイキーな調子となっている。この明暗の対比構成の中に、水面の揺らめきテクスチャーによって、向こう側からこちらへと差し込んでくる光の活用によって作品化に成功した。

 

図-3D
フォルムで勝負

鴨川の河川敷にの散歩道でえさをついばむ鳩たちのスナップ写真。画面底辺 ( 手前 ) から、画面上辺 ( 奥 ) へと連なる散歩道の三角形のフォルム ( 形状 ) に加えて、同じようなフォルムの同じ方向に向かう鳩たちの姿の組合せ。すなわち、フォルム・パターンを活用することで作品化した事例だ。

   
■ 次回予告
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 このようにモノクロ写真では、活用できないカラー情報に代わって、写真に写る、あるいは写真から感ずる、別の要素をうまく活用し、必要に応じてそうした要素を強調することで作品をより高位な次元へと導くことが肝要となる。これらモノクロ写真作品作りを意識した撮影方法については、次回により詳しく述べてみたい。


■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
笠井アキラ
   
 
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初出:2013/03/11 このページのトップへ
 
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