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フォトグラファーに聞け!

第7回 川北茂貴 / Shigeki Kawakita

    〜 夜景写真家と呼ばれて

2013/08/23
 
● 川北 茂貴 インタビュー
川北茂貴
夜景写真家  1967 年 京都市生まれ。
▼ Topix  
今回の 「 写真のコダワリ~フォトグラファーに聞け! 」 は、夜景写真家の川北茂貴氏にご登場いただき、夜景写真の魅力から、一段上の夜景写真を撮るための、誰もが試せるヒントをうかがってみた。
▼ 川北 茂貴 情報  
公式 Web サイト:夜景時間
スローシャッターバイブル( 玄光社 )、夏のフォトレシピ( アストロアーツ )にも執筆している。
 
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川北茂貴● 川北 茂貴 ●
1967 年京都市生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業。学生時代のアメリカ旅行で、大陸の雄大な光景に触れ、写真家を志す。卒業後に世界各地を巡り、作品をストックフォトや書籍で発表。その後、都市の夜景撮影に熱中し、作品を発表。さまざまな場所で、一日の半分を占める夜景の時間を精力的に撮り続けている。

編集部 夜景写真家と呼ばれるようになったのは、いつ頃からですか?
川北 私が初めて雑誌に出たのが 2004 年なんです。それからじゃないですかね。夜景を撮って 20 数年になるんですが、それまでは夜景の撮影は好きでしたけど、昼間の写真ももちろん撮っていました。でも、夜景の撮り方を執筆してくれっていう話がよく来るようになったので、「 そんなに仕事があるんだったら、夜景写真家って名乗ってもいいのかな 」と思ったんです。そんなに隙間のところで人がいないんだったら、自分がやってしまおうということで。
編集部 それ以前はどういう写真を撮られていたんですか?
川北 ストックフォトが中心です。風景を中心に写真を預けていました。昼間の写真も、夜の写真もです。ストックフォトって、神社仏閣から綺麗な風景など、カレンダー向きの写真が多いんです。私の場合、他の写真と違ってビル群とかが多くて、都市夜景もあったりしたので、夜景撮影にもすぐに入りやすかったです。 川北茂貴
編集部 都市風景の中の夜景っていうのがきっかけだったんですか?
川北 そうですね。
編集部 本格的に夜景を撮り始めるようになったのはいつ頃からでしょう?
川北 1994 年頃からですかね。まだフィルムの時代でした。
編集部 どういう都市での撮影が多いんでしょう?
川北 基本的には首都圏ですね。東京から横浜、千葉、埼玉辺りまでが多いですね。
編集部 最近はフィルムでは撮ることはないんですか?
川北 最近は全く使っていないですね。夜景は特にデジタルと相性がいいと思っています。
編集部 どんなところが?
川北 その場ですぐ見れるっていうことがあります。また、画像処理で暗部を明るくできるというのもあります。すぐ見れるっていうのは、光跡を入れた撮影のときなんかにいいんですよ。光跡の入り方って、カットごとに違うわけですよ。フィルムだと、現像が上がってみて初めて確認できるわけですけど、デジタルなら、その場で確認しながら何度でも試行錯誤できる。それがいいですね。
編集部 画像には、けっこう手を加える方なんですか?
川北 川北茂貴いいえ、そんなに極端なことはやりません。ホワイトバランスを変えたりだとか、暗部を調整する程度です。ホワイトバランスを変更することは多いですね。基本的に僕は、夜景写真って決まった色がないと思っているので、白熱電球で仕上げたりだとか、蛍光灯で仕上げたりだとかっていうことはよくあります。太陽光だけじゃなくて、全然いいと思いますよ、撮る人の自由で。もちろん、現場でホワイトバランスを変えて JPEG で撮ってみるというのもありですけど、時間がもったいないので、RAW で撮っておいて後で調整する方がいいんじゃないのかな。
編集部 気に入ったシーンの写真をホワイトバランスを変えてイメージを作っていくという感じですか?
川北 そうですね、はい。現像時にプレビュー画面を見ながら、こんな感じかな、あんな感じかなという具合にクリックしながらホワイトバランスを変えてみて、自分のイメージに近づけていきます。
編集部 その時の気分でずいぶん仕上がりが変わったりしませんか?
川北 もちろんそうなります。以前撮った RAW 画像を日を置いて現像すると、全然違う絵になることもありますよ(笑)。でも、それはそれでいいかなと思います。正確に色を再現する必要もないわけだし。
編集部 まさに、デジタルならではの表現ですね。
川北 そうですね。フィルム時代には後から変えることができなかったですからね。


編集部 夜景撮影で、ストロボはどういうシーンで使うんですか?
川北 川北茂貴私はけっこうよく使いますよ。クリップオンストロボを手に持って、マニュアルで発光させたりします。基本的には地明かり( その場の光 )だけで撮れるんですけれど、例えば、手前に暗い部分があったりするとき、30 秒くらいシャッターを開けているんだったら、そこに向けて5回くらいパンパンパンパンパンと、ストロボをマニュアルで発光させます。そうすることで、本来真っ暗な部分のディテールが見えてくる。そんなことを意外とよくやっていますよ。自分が明るくしたいなという部分に光が当たっていないと、デジタル処理で明るくすることはできるけれど、そこにノイズがのってしまうので、それだったら、撮影のときに光を当てて明るくしてあげる方がいい。例えば夜桜を撮るときなんか、どうしてもその花に光が当たっていないというようなことってありますよね。マゼンタのゼラチンフィルターをクリップオンストロボの発光部に当てて、何回か発光してやると夜桜がほんのりと赤い明かりが当たっているような再現になりますよ。
編集部 ストロボにフィルターをかけたほうがいいんですか?
川北 桜の花をストロボで撮影すると、印象よりも白く写ってしまうんです。桜はピンクだというイメージがあるので、マゼンタのフィルターがちょうどいいんです。また、夜桜だと多少色が濃くてもそんなに違和感がないですから。
編集部 ストロボを使う際は、完全にカメラから離して使うっていうのが川北流なんですね。
川北 そうですね。発光量もマニュアルで 1/2 とか、1/4 とかにして使います。どうしてもフル発光させてしまうと、発光間隔が長くなってしまいます。ですから、同じ光量を当てるのであれば、少ない発光量で何回も当ててやった方がいいですよね。フル発光で1回発光させるよりも、光量を 1/4 にして4回発光させた方が、いろいろ方向に向けて光を当てることができるので、影ができにくいんです。発光させる回数は、露光時間に左右されます。露光時間が長ければ、それだけストロボを発光させる回数も増やすことができますよ。
編集部 デジタルだったら、確認しながらできますからね。
川北 ホントそうですよ。フィルムだったら確認のしようがないんで運任せみたいなところもありますけれど、まさにこういう撮影は、デジタルならではのだと思います。
編集部 一晩で何カットくらい撮影されるんですか?
川北 夜景だとそんなには撮れないんですよ。RAW で1GB いくかいかないかくらいだから、100 カットは撮っていないでしょうね。1カット撮るのに5〜 10 秒はかかりますからね。だから、他の写真家の方よりもメディアの容量も少ないものを使っています。4GB を何枚か持って行くので充分です。
編集部 レンズは何本も持って歩くんですか?
川北 普段は 24-105mm に、100−400mm のズームと 17−40mm のズームと魚眼レンズくらい。実は、それで持っているレンズ全部なんです(笑)
編集部 その中で好きなレンズというのは?
川北 キヤノンの EF24-105mm F4L をよく使います。画質的にものすごくいいというわけではないんですけれど、バランスがよくて、すごく使いやすいレンズです。周辺部の歪みは、現像時にキヤノンの RAW 現像ソフト DPP で補正できますから。
編集部 夜景撮影には三脚は必須ですよね。
川北 基本的には使いますけど、最近のカメラは手ぶれ補正の性能もよくなっているので、手持ちでも撮れますよね。でも三脚があれば光跡が撮れたりもするので、一段ステップアップするなら、三脚を使った夜景撮影がオススメです。
編集部 EOS 5D Mark III を使っているのは何か理由がありますか?
川北 川北茂貴フィルム時代からずっとフルサイズのカメラを使っていて、画角とかがイメージできるので使っています。デジタルになったときに、ストックフォトがメインだったので、2,000 万画素オーバーじゃないとというのがありました。とにかくデータ量が大きい画像を撮りたかったので、最初に使ったのが EOS-1Ds Mark III でした。今だったら、どのメーカーでもいいんですけど、僕がデジタルを始めたときには、EOS-1Ds Mark III くらいしかなかったんです。実は、フィルム時代にはニコンユーザーだったんですよ。EOS 5D Mark III が出て、高感度ノイズがずいぶんよくなったので買い替えました。
編集部 そんなに機材にはこだわりがない方なんですか?
川北 まあ、そうですね。自分で使っている機材以外は、あんまり知らないんです(笑)。そういう意味でいえば、やっていることはフィルム時代とあまり変わっていない。高感度がよくなって、手持ちで撮れるようになったことはありがたいですけど。


編集部 夜景撮影の魅力って何ですか?
川北 川北茂貴同じ場所なのに、夜になると綺麗に見えるってことじゃないかな。昼間、太陽の光の下で綺麗なところって夜もだいたい綺麗なんですけれど、昼間汚いところでも、夜になると綺麗なところってあるんですよ。工場街とか倉庫街とか。そういう自分だけの撮影ポイントを見つけたときって嬉しいものですよ。基本的に、皆さんがよく知っている夜景スポットってあんまり撮らないんです。誰が撮っても綺麗ですから(笑)。それよりも、自分だけの場所を見つけたいですね。
編集部 そうすると、工場街とかをけっこう歩き回るんですか?
川北 そうですね、基本はクルマ+歩きですかね。ちょっと郊外になるとクルマは必要ですね。
編集部 けっこう移動して歩くんですか?
川北 いろいろですね。スナップみたいな感覚で、三脚にカメラを装着したままで歩きながら、気に入った場所で撮ることも多いし、路地に入ってみたりすることもあります。
編集部 夜の撮影だと、職務質問をされたりすることもあったりするんじゃないですか?
川北 そうですね、何度もあります。工場街で車中泊をしたりすることもありますから。相手を怒らせずに短時間で終わらせるには、とにかく免許証を見せることなんです。写真撮ってることを説明して、モニター画面を見せる。そうすれば、たいていはすぐに引き上げてくれます。
編集部 クルマで寝泊まりすることって多いんですか?
川北 地方に行くとよくありますよ。宿の食事の時間とか、門限に間に合わないので、クルマの方が楽です。クルマの後ろ半分がベッドのようになるようにしてあります。クルマの中でカメラのバッテリーの充電もできるので、全く問題ないです。風呂だけですね(笑)。
編集部 クルマだと、昼間は暑くて大変じゃないですか?
川北 この時期は寝てられないですよね。
編集部 夜、アマチュアの写真家の方にばったり会ったりすることも多そうですよね。
川北 多いですよ。ブログとかホームページを見ていると、すぐ近くで撮影していたんだってことはよくありますね。でも撮影のときはあまり声をかけられたくないので、できるだけ目立たないようにしてます。現場ではなるべく撮影に集中したいんです。その場で試行錯誤してシャッターを切っていたら、5分、10 分はすぐですから。
編集部 川北さんの活動時間って、何時から何時までなんですか?
川北 基本的に日没から夜明けまでなんですけど、実際には日没から終電までです。本当は昼夜完全逆転したいんですけど、昼は昼で人と会ったり電話がかかってきたりしますから。だから、普通の人よりも6時間くらい後ろにズレてる感覚ですかね。
編集部 花火は撮らないんですか?
川北 花火の撮影は難しいですよね。仕事としては撮りますけど、作品として自信を持って撮っているかというとそうじゃないですね。花火を専門に撮っている方には到底敵いませんから。
編集部 花火専門家と全然違うものなんですか?
川北 花火を撮っている方にすれば、花火そのものを美しく撮ることに慣れているんですが、私の場合は、夜景の脇役として花火を捉えているので、見方が花火メインではないんです。もちろん、花火に対する知識も全然敵いません。


編集部 これからの時期、夜景撮影のオススメというとどういうところになるんでしょう?
川北 川北茂貴冬だと空気が澄んでいるので、遠くまで見渡すことができますが、夏は水蒸気が多くて見通しが悪いんです。だから川べりだとか、夕涼みがてらに歩いて撮るというのがいいかもしれません。隅田川なら屋形船がたくさんいるので、それを光跡にしたりすることもできます。夏場は昼に撮影をするのは日差しもきつくて大変ですけれど、日没後は比較的過ごしやすくなるので、夏の夜は、水辺の撮影がオススメです。蚊にくわれるのだけ注意すれば(笑)
編集部 長時間露光をする場合は、シャッタースピードはどのくらいにすることが多いんでしょう?
川北 基本的には 30 秒までですかね。私の使っているカメラのオートで設定できるのが 30 秒までなので。
編集部 あんまり長くないんですね。
川北 ええ、別に1分でも2分でもワンカットだけ撮るんだったら長くてもいいんでしょうけど、構図を変えたりいろいろな場所で撮りたい方なんで。コンポジット夜景っていう同じ構図を何百カットも撮って合成する撮影方法があるんですが、それだとひと晩に数カットしか撮れないんですよ。そういうのは他の方にお任せして。僕には 30 秒くらいがちょうどいいんじゃなのかなぁ。
編集部 今後、どういう夜景を撮ってみたいと思っていますか?
川北 場所で言えば、発展著しい中国を撮ってみたいですね。もちろん、行こうと思えばすぐに行けるんですけれどね。フィルム時代にしか撮っていないので、行ってみたいなぁ。ご飯も美味しいし、物価も安いし。日本って、灯りが途切れないうちに隣の街に着いちゃうでしょ。外国は、いったん完璧な闇になってからまた明るくなる。そこは大きく違うかな。
編集部 日本って夜景の撮影をしやすいんですか?
川北 撮りやすいですね。なんの怖さも不安もないですから。外国って「 ここから先は行かない方がいいかな 」って思うような場所がありますよね。日本だとまずそういうところがないですから。
編集部 日本で怖い思いをしたことはないですか?
川北 交通事故とか、暗闇でつまずく怖さはありますけど、治安の悪さを感じたことはないですね。水辺だと、夜景を撮っている周りで釣りをしている人っていっぱい居ますから。工場街だとガードマンが巡回してるので、まったく無人ってことはないですよね。
編集部 雨の日はどうされているんですか?
川北 川北茂貴基本的には、わざわざ雨の日に撮影に出掛けることはないです。出先で降られたときに、アスファルトに映る夜景を撮ったりすることはありますけど、好んでは出掛けないです。ただ、雲が低いときに、スカイツリーや高層ビルの先が雲の中に入っているようなときにはすごく綺麗なので、雨上がりとか小雨だったら撮りに行きますよ。雲の中の灯りを雲が反射して綺麗なんです。それはけっこう好きです。
編集部 今年の夏は夜景撮影ですね?
川北 そうですね。昼間暑いので、夕涼みがてら夜景撮影に出掛けるのがいいんじゃないですか。夜になればどこでも夜景なんで、別に夜景スポットに行かなくてもいいじゃないですか。それこそ玄関開けたら夜景ですよ(笑)。ご近所で撮影できちゃうわけだから。絶対ににオススメです。
編集部 今日はどうもありがとうございました。



 
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初出:2013/08/23 このページのトップへ
 
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