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フォトグラファーに聞け!

第4回 山田 愼二 / Shinji Yamada

    〜 ラーメンから裸まで <後編>

2012/12/29
 
● 山田愼二インタビュー
フォトグラファー  1959 年、新潟県生まれ。
公式サイト http://www.yamadashinji.com/
▼ Topix  
「 ラーメンから裸まで 」 を標榜する山田氏が、一番好きな被写体は、実は 「 人物 」 だった。そんな山田氏の人物撮影におけるテクニックに迫る第4回目の 「 写真のコダワリ〜フォトグラファーに聞け! 」 では、人物撮影の裏話やモノクロ写真へのコダワリ、そして、山田氏の仕事を広げるノウハウも掘り下げて紹介したいと思う。

山田愼二の
「 ラーメンから裸まで <前編> 」 は
コチラから
 
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編集部 山田さんの人物写真を拝見すると、モノクロで撮られたものが多いように見受けられますが、そこにコダワリはあるんですか?
山田 山田愼二人物に限らず、モノクロは好きだね。特にローライやハッセルで撮る1対1比率のモノクロね。仕事では 35mm よりもロクヨンゴやロクナナで撮ることが多かったけど、指定がなければロクロクで撮っちゃってた。カラーも好きだけど、人物撮るときはモノクロにこだわっちゃう方だな。
 
  ローライ/ハッセル
ローライはドイツのカメラメーカー。二眼レフカメラのローライフレックスで有名。ハッセルはスウェーデンのカメラメーカー、ハッセルブラッドのこと。レンズ交換型 6 × 6cm 判一眼レフカメラを世界で初めて発売した。
  35mm
一般的な一眼レフカメラで使う 135 フィルムの別称で、ロールフィルムの幅 ( 一コマの幅ではない )が 35mm なためにこう呼ばれる。ちなみに、35mm フィルムの一コマは 24 × 36mm。
  ロクヨンゴ/ロクナナ/ロクロク
いずれも中判カメラで使うフィルムの呼称で、フィルムの縦横サイズからきている。ロクヨンゴは 6 × 4.5cm、ロクナナは 6 × 7cm、ロクロクは 6 × 6cm判。他に、 6 × 8cm、 6 × 9cm、6 × 12cm、6 × 17cmがある。
編集部 山田さんご自身の Web サイトに故・田村隆一氏のモノクロ写真があがってましたが、どういった経緯で田村さんを撮られたのでしょう。
 
  田村 隆一 ( 1923 年生 - 1998 年没 )
日本の詩人、随筆家、翻訳家。詩誌『荒地』の創設に参加し、戦後詩に大きな影響を与えた。( Wikipedia より )氏を撮影した写真家には、荒木経惟氏や高梨豊氏などがいる。
山田 山田愼二講談社でボクサーや競輪選手の取材を一緒にしていたライター氏が、田村さんを撮る仕事をくれたんだ。某男性誌で若者の悩みに田村さんが答える連載企画が通って、その撮影を任されることになったのが経緯。この仕事以前から田村さんの詩集を読んでいたし、僕のゼミの教授だった高梨豊さんが田村さんを撮っていたので、個人的に田村さんの撮影には興味があったんだ。この連載は人気でね、1年の予定が3年ほど続いて、その間、2ヶ月に1回の頻度で鎌倉にある田村さんの自宅に撮影に行ったよ。
編集部 田村さんは気難しそうな人に見受けられますが、山田さんは田村さんから渾名を付けられたそうですね。
山田 山田愼二話せばユーモアがあって……、知識人だし、アガサクリスティの翻訳をするくらい英語もできるし……、それに女性好きだし(笑)。豪放磊落な方だったよ。最初の撮影のときなんか、田村さんはパジャマ姿でベッドに横たわったままで取材を受けるんだ。もちろんその姿も撮影したけど、記事でそれを使うワケにもいかないから、別カット用にお願いして再撮影に挑んだら、数枚撮ったところで 「 もういいだろう。( カメラマンも ) 巨匠なら速いモンだ 」 ってね。ヒヤヒヤものだったけど、構わずとり続けていたら、そこで渾名を付けられたんだ。「 蝮 ( まむし ) の愼二 」 ってね。(笑) そうしたことがあってから、田村さんも撮影時にパジャマでいることがなくなってね、NHK の仕事だったかでイギリスに行かれたとき、向こうからお洒落なスーツを買われてきて、「 このスーツはお前の撮影用に買ってきたんだ 」 って。(笑)
編集部 (笑)そんな風に、山田さんは人から好かれるタイプなんですね。人と過ごすのがお好きな方ですか?
山田 山田愼二う〜ん、孤独が好きな寂しがり、ってとこかな。みんなでワイワイやるのも好きだけど、シャイだから初対面の人には構えちゃう。でも酒が入るとはじけちゃう(笑) 基本は孤独でいないとクリエイティブなことってできないって思ってる。クリエイターってみんなそうなんじゃないかな。それと、人から好かれるかどうかはわからないけど、僕のこれまでは、仕事でお付き合いした人との繋がりで大きくなってきたことは確かだね。
編集部 お話しを伺っていると、独立からここまで恵まれたお仕事を手がけてこられたように感じますが、その背景にあるものはやはり人との繋がりですか?
山田 山田愼二そう。人との出会い。若い頃に NHK 出版の仕事をしたときの担当編集者が質のいい仕事をする人でね、仕事の質だけじゃなくて、フリーランスのカメラマンの仕事環境まで気を配ってくれる人だった。たとえば撮った写真を買い切りじゃなくて、都度カメラマンにギャランティが発生するようなシステムを組んでくれたりしてね。NHK 出版の編集者や、前回話した K さんたちが、営業下手だった僕の代わりをしてくれたんだな。僕が今、キヤノンの EOS 学園の講師をしてるのも、元はといえば、K さんがキヤノンの広報担当を紹介してくれたのがきっかけなんだ。ありがたいことだよね。

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  フォトグラファーに限らず、自分の実績は自身の努力の賜 ( 実際そうなのだが ) とするプロが多い中、山田氏は周囲の人に支えられてきたことを強調する。こうした山田氏の姿勢が、より多くの、そしてより質の高い仕事に巡り会う機会を創出してきたように感じる。しかし、より質の高い仕事をするためには、謙虚な姿勢以上に、紛れもない努力があったはずだ。
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編集部 山田さんの人物写真は、被写体の内面を表現していると評価する人がいますが、そのためにどのような撮影を心がけているのでしょう。
山田 山田愼二舐め回すように撮る。同じカットで撮るのはイヤだから、被写体を中心に 180 度以上廻って撮るよ。その人を見渡すようにね。ほとんどの被写体が初対面だから、限られた撮影時間内に良い表情を探さなければならない。女性ならキレイに、男性なら格好良く、それがライティングで表現できるのか、寄りなのか引きなのか、見下ろすのか見上げるのか、それを探すにはフットワーク良く動き回るしかないんだ。そうしてると、ふとした瞬間に、普段は初対面の人間に見せない表情が出るんだ。だから僕はできる限りファインダーから目を外さない。
編集部 「 ねちっこく 」 撮る 「 蝮の愼二 」 ですものね(笑)。
山田 山田愼二映画監督の篠田正浩さんを撮ったときも 「 そんなに撮ってどうするんだ 」 って言われて、怒られる一歩手前だったな。でも、そうした僕の 「 ねちっこさ」 につきあってくれる人もいる。泉谷しげるさんなんかその代表だったな。緑山スタジオの近くの土手で撮影しようと思い、泉谷さんにギターを持って座ってもらうとあまりにもはまりすぎでつまらない。本当はスタジオ近くの空き地にスタジオセットの処分場のようなゴミ置き場があって、そこで泉谷さんを撮りたいって思ってたんだけどね(笑)。怒らせると問題だからって悩んでたら、泉谷さんの方から、「 ここじゃはまり過ぎだろー 」 って言ってくれたんで、調子にのって 「 ゴミの山で撮りましょう 」 って言ったら快諾してくれたよ。結局、その写真をすごく気に入ってくれて、その後も泉谷さんが個人で出版する本の写真の仕事も僕に振ってくれた。
編集部 話は変わります。山田さんは比較的早くからデジタルカメラを使っているようですが、モノクロ好きな山田さんとしては、やはり銀塩フィルムに戻りたいとお考えなのではないですか?
山田 山田愼二これも K さんのおかげで、かなり早くからデジタルカメラには馴染めたね。彼がパソコン系の出版社にいたときには、週に2回くらいうちに来てくれて、Mac をはじめいろいろ教えてくれた。でも彼は 「 デジタルなんていいからフィルムでモノクロやってください 」 って(笑)。でもねー、仕事が要求するからね、デジタルを。それでもモノクロとなるとね、やっぱり銀塩プリントの質感は捨てがたくて……。今のインクジェットプリンタはとっても良くなっているけど、やっぱり銀塩のモノクロプリントは素晴らしいよ。だから最近は、デジタルデータを元に銀塩プリントするシステムの勉強をしてる。永嶋勝美さんが開発した DGSM プリント ( Digital Gelatin Silver Monochrome Print )っていう、デジタルデータから反転ネガを作って銀塩モノクロ印画紙に密着プリントする手法があるんだけど、このプリントをやってる人たちと一緒にモノク ローム展 ( monochromeVII - Snapshot - flaming 2:3 ) に出品してるよ。
 
  monochromeVII - Snapshot - flaming 2:3
2012/12/18〜2013/1/26
場所 : 港区西麻布 4-17-10 ギャラリー E & M 西麻布
Phone : 03-3407-5075
編集部 山田さんが人物を撮るときのライティングテクニックについてお伺いします。まず、山田さんは自然光で撮る方ですか?
山田 山田愼二自然光が使えるハウススタジオの場合でもストロボを使うことが多いね。それは日中シンクロってことじゃなくて、アクセントライトとしてストロボで味付けするためなんだ。当たり前だけど自然光は時間で変化していくから、前もってイメージした光じゃないときが多いわけで、ドラマチックな光が期待できないときは、ストロボで味付けしてイメージに近づけるようにしてるよ。
編集部 大型ストロボだけですか? それともクリップオンストロボも使いますか?
山田 山田愼二機動性からいったらクリップオンだよね。一応スタジオに入るときは大型とクリップオンの両方を持っていくよ。ただ、企業の社長さんとか地位のある方を撮るときはなるべく大型を使う。なぜなら、そういう大がかりな機材でセットを組むと 「 ちゃんとした撮影なんだ 」 と理解してまんざらでもない感じなんだ(笑)。 でも最近のクリップオンストロボは優秀だから、十分に大型ストロボ並みの撮影ができるよね。
編集部 クリップオンストロボを使って人物を撮るときのヒントをお願いします。
山田 山田愼二被写体が男性の場合は陰影を付けて、女性の場合はフラットにして影を作らないように。肌のキレイな若い女性なら陰影があってもいいけどね。歳のいった女性に陰影付けるとシワが目立っちゃうから気をつけるように。撮る方のイメージとしてシワを強調したいって思いがあっても、被写体の女性の方はそうは思ってないからね。それから、陰影を付ける場合は、光を真正面から当てずに、被写体が良く写る角度を探すこと。女性はあごの ラインが決め手だから、スッキリスマートに見える光の角度を探すことだね。
編集部 今後、個展とかの計画はありますか?
山田 若い頃からグラビアの仕事に恵まれていたから、田舎で個展をやったくらいであとはグループ展ばかりだね。グラビア自体が個展みたいなものだったし……。実は以前、軽井沢高原文庫の庭で 「 田村隆一 」 写真展の計画があったんだけど奥様に野外はダメと言われて………残念だったよ。直近の計画はないけど、そろそろ動かないとね。
編集部 将来個展を開くとしたら、何をテーマにしますか?
山田 「 山田愼二 」 がテーマかな? (笑)

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  人の心を動かすクリエイティブな作業とは、言い換えれば自分自身を掘り下げる作業なのかもしれない。なぜなら、作品を作り出す自分自身の心が動かなければ、他者の心を動かすことは到底できないと言えるからではないだろうか。山田氏との取材を終え、ふとそんなことを考えたりした。
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山田愼二の
「 ラーメンから裸まで <前編> 」 は
コチラから



 
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初出:2012/12/29 このページのトップへ
 
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