写真のコダワリ
フォトグラファーに聞け!
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Photo & Text by
編集部
第1回 魚住 誠一 / Seiichi Uozumi
〜 ポートレートはスリリングだから面白い! <前編>
2012/11/22
● 魚住誠一インタビュー
ポートレート・フォトグラファー
1963年、愛知県生まれ。
▼ Topix
フォトグラファーの写真へのこだわりポイントにフォーカスを当ててインタビューしていく 「 写真のコダワリ・フォトグラファーに聞け! 」、第1回目は、女性ポートレートで著名な魚住誠一氏に登場いただいた。ロックアーティストから 27 歳でフォトグラファーに転身という異色な経歴を持つ魚住氏は、スタジオアシスタントを経て 1994 年に独立。ファッション誌を中心としたコマーシャルフォトをはじめ、独自の切り口で制作するオリジナル・ポートレート写真集まで、多彩に活躍する氏に、プロへの経緯を聞いてみた。
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編集部
27 歳で写真業界に脚を踏み入れるというのは、第一線で活躍されているフォトグラファーの経歴の中では少し遅く感じるのですが、転身のきっかけはなんだったのでしょう。
魚住
高校時代から本気でやってたバンドが、27 歳でぽしゃってね、そこで次の道を探すために渡米してホームステイしてたんですよ。そのとき、高校時代から音楽と同じくらい好きだった写真の道を模索し始めてみて、まずは風景写真を撮ってみた。だけどこれがまったく評価されなかった。高校時代に写真部で現像から紙焼きまでやった経験もあったから、素人としての写真のテクニックにはそこそこ自信があったんだけど、撮った写真を人に見せても誰も感動してくれない。やっぱり
本気で撮りたいものがないとダメ
だなって思って、学生時代から写真の分野で一番興味を持ってたポートレートに集中してみようと思ったのが最初のきっかけかな。
編集部
高校生の頃からポートレート撮影をしていたんですか?
魚住
初めは興味だけ。中学の頃、明星とか平凡で篠山紀信さんの撮った写真を観て
ドキドキ
してたわけで、高校で写真部に入ったからには自分も女の子を撮ってみたい欲求はあったけど、男子校だったから同級生に女の子はいないし。身近に女の子がいたとしても、雑誌のポートレートのように撮れるはずもなかったよね。だいたいその頃はコンパクトカメラと一眼レフで撮ることの違いもわからなかった。フィルムサイズが同じなら、どっちでも同じように撮れると思ってたから。
編集部
初めて本気で女の子を撮ろうとしたのは?
魚住
高校時代に代々木ゼミナールへ通ったときに、代ゼミでも評判だったすんごい可愛い子が僕の隣に座ってね、どうしても君を撮りたいって頼んだら、彼女が軽井沢でプロに撮ってもらったっていう写真を見せてくれたわけですよ。その写真が衝撃で、いわゆるプロの写真ってやつ。85mm とかの長いレンズを開放にして、逆光でレフが当たってるわけ。もういてもたってもいられなくなって、絶対うまくなってやるって思ったね。
編集部
その当時に使っていたカメラは?
魚住
高校の写真部のときは、部の機材だったニコマート。個人で一眼レフは買えなかったんだけど、代ゼミで知り合った友人がお金持ちでね、家に仕舞ってある 50 台以上のカメラの中からどれでも好きなのを持ってっていいっていうんで、古いペンタックス SP と F1.7 の 50mm 単焦点レンズを譲ってもらった。そのペンタで女の子をただのめり込んで撮ってたなぁ。その写真を街の DPE ショップにフィルム持っていくと、もっと+補正しなよとか言われるわけ。
ASA400 のネガカラーを入れて、ASA100 で撮れとかね。要はオーバー目に撮るのがポイント
だって教えてくれるんですよ。そうやって、カメラ店の人から基礎的なことを教えてもらいながら、大学生になって、そこそこテクニックも上達してきた頃かな。夕方の美味しい光を使って、さらにコンクリートの地面をレフ代わりにして女の子を撮ったんだけど、現像して紙焼きにしたら、どうもコントラストが低い。ショップの店員さんがカメラ見せろっていうんで渡したら、レンズがカビだらけだぞって。魚住君、これなら芸術的なソフトフォーカスになるわけだ(笑)ってね。
編集部
当時の中古カメラを手にした写真好き学生の通る修行道ですね(笑)
そのペンタ SP は今でも持ってますか?
魚住
もちろん大事に持ってますよ。でも、カビ(笑)を指摘してくれたお店に中古の OM-10 が置いてあってね、ズイコーの単焦点レンズとシグマのズームレンズを付けて安く売ってくれるっていうので、頑張ってバイトして買った。そういうわけで、2台目が OM-10。
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そうして女性ポートレートにのめり込みながらも、若かりし頃の魚住青年の本業は音楽活動へとシフトしていく。しかし、本気で活動していた音楽の道が閉ざされ、単身渡米して次の道を探しているときに出会ったのは……。
編集部
ポートレートを目指すきっかけになったのは渡米中ですか?
魚住
そう。渡米中に観たアメリカのファッション誌やポルノ雑誌の写真が衝撃的だった。当時、自然光をレフ板でかき集めるライティングがほとんどだった日本でのポートレートと違って、アメリカだと山でも海でも崖の上でも発電機を持っていってジェネレータを使った
ストロボを日中シンクロさせて撮ってるん
ですよ。十分に光があるロケーションでも、ストロボを使うと鮮やかさが違うし、ディテールが違う。日本であまりやってないなら、俺もこの分野に挑戦したいって思ったね。
編集部
それで帰国してスタジオ・アシスタントに就くわけですね?
魚住
写真を仕事にしている知人がみんな、本気で写真やるならスタジオに入って、人脈作りやテクニックを学べとアドバイスしてくれるので、とりあえず地元の名古屋でスタジオの扉を叩いてみましたね。でもどこもすぐクビになっちゃう。
編集部
えっ? 素行が悪かったとか?(笑)
魚住
いやいや真面目、真面目、大真面目。アシスタントの中で誰よりも早くスタジオ入りして掃除してたくらいだったし。なんてたって、こっちは 27 歳。写真学校出たての子達と比べれば遅すぎるくらいの弟子入りだから。ただ、遅いスタートと先行きの不安から、変に強気になってったんじゃないかな。そんな生意気なヤツだったけど、可愛がってくれる人もいてね。最後に入ったスタジオのときは、人物写真が得意だった人のスタジオを選んだ。
編集部
そのスタジオでどんなことを学びましたか?
魚住
そりゃもういろいろと。人物撮影が得意なスタジオだったけど、大手自動車メーカーや百貨店がクライアントだったおかげで、車の撮り方から雑貨までこなしたし。ライティング方法から……なんでもね。特に勉強になったのは、ポートレートやってるとメチャクチャキレイなおねーちゃんが、エージェントに連れられて毎日のように営業にくるってことかな。(笑) そんなのを見てて、俺も一日でも早くああなりたいって思ったよ。(笑)
編集部
(笑)プロを目指すには、スタジオ・アシスタントになるべきですか?
魚住
スタジオでアシスタントをすると
金銭的な感覚と大勢のスタッフとのワークフロー、そして人脈と、さまざまな撮影テクニックを身につけられる
ね。特に金銭感覚は独立してからじゃ遅いからね。1年でいいからスタジオ・アシスタントを経験した方がいいと思うよ。スタジオで経験を積めば、急な依頼にも応えることができるようになるしね。
編集部
そして 1994 年、31 歳からフリーランスとして独立するわけですね。
独立は順調でしたか?
魚住
ポートレートを専門にしたかったけど、独立当初は依頼された仕事は何でもやったなぁ。それもただこなしたわけじゃなくて、なるべく人と違う方法にチャレンジしながらね。早い段階から暗室を作ってセルフでカラープリントしたり、ポジのネガ現像とか、オタクでケミカルなことはなんでもこなしてきたよ。そうした人と違うことを積み重ねたことで、おかげさまでやりたいポートレートの仕事が増えていったように思う。
編集部
つまり自己表現に努力したということですね。
そうした表現ができた背景にあるものはなんでしょう。
魚住
本来、写真という表現方法は一人で完結できるものだけど、ファッション誌などで仕事するときはメイク、スタイリスト、監修やデザイナーなど、大勢の人とするわけ。大勢と仕事をすると、自分の存在が薄くなりがちだけど、そこでバンドの経験が活きた。
他の人との間でバランスをとりながらも自分を埋没させずに表現する方法を会得できたのはバンドのおかげ
だな。
編集部
そのバランス感覚の延長で、クライアントの要求に自身の表現方法を迎合させるってことも重要ですか?
魚住
う〜ん、それはないかな。自分のやりたいことがクライアントの要求と合致することの方が重要だよ。俺はこういう写真が撮れる、こんな風に表現したいって、そうした人材であることがクライアントに重宝されればいいなとは思っている。基本は若いときのマインドと変わらない。昔に比べれば少しは丸くなったと思うけど。
編集部
プロフォトグラファーを目指す若い人たちに、プロの心構えを教えていただけますか?
魚住
もし、フォトグラファーが儲かると思っているとしたら、それは大きな間違い。そんな時代はもう終わったんだ。儲けたいからフォトグラファーになると言うならやめた方がいいよ。多くのプロは写真が好きだから続けているんだと思うよ。俺は少なくともそう。写真で自己表現したいから、仕事仲間との一体感が欲しいからやってる。だから、プロを目指す前に一度、
本当に写真が好きか、夢中になれる被写体があるかどうかを考えてみる
といいよ。
編集部
魚住さんの夢中になれる被写体は?
魚住
もちろん、女の子!(笑)
写真は記録メディアであると同時に、表現手段でもある。そうした写真を職業とする上で欠かせないことは、魚住氏が言うように、夢中になれる被写体があるかどうかではないだろうか。その上で、プロとしての表現方法や周囲との調和を大切にするマインドが必要なのだと感じた。前編である今回は、氏がプロになるまでの経緯を中心に伺ってきたが、次回は、ポートレート・フォトグラファーの魚住氏が夢中になれる被写体、女性の撮り方について、魚住氏ならではのテクニックやマインドを拝聴したいと思う。お楽しみに。
第2回 魚住 誠一 / Seiichi Uozumi 〜
ポートレートはスリリングだから面白い! <後編> はコチラ
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初出:2012/11/22
Photo & Text by 編集部
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