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製品レビュー & 特集
コンパクトデジタルカメラ進化論 〜XZ-1に見る〜 基本技術を読み解く
第1回 大きなレンズと明るさとF値 2011/03/30
 
コンパクトデジタルカメラ進化論 〜XZ-1に見る〜 基本技術を読み解く

超高度で未来的な最新技術も良いけれど、基本に忠実に、実直に性能を追求したカメラやレンズに心を動かされることがあります。
「XZ-1」は実に真っ直ぐなスペックを持ったカメラです。デジタル一眼の良いところを吸収し、更に凌駕しようとしているようにも見えます。つい、デジタル一眼と比べてみたくなります。
この特集ではXZ-1の特長を一緒に見ながら、デジタルカメラの基本技術を読み解いていきましょう。デジタルカメラのカタログに書かれているスペックが、もっと理解できるようになると思います。

Photo & Text by 神崎洋治
 
  コンパクトデジタルカメラ買いました このページのトップへ  

「どんなデジタルカメラを買ったらいいんだろう?」
「デジタル一眼とコンパクトデジカメはどう違うの?」
「コンパクトデジタルカメラはどれがオススメ?」

デジタルカメラを買うときにはいろいろと迷うものですよね。

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写真1 オリンパスのコンパクトデジカメ「XZ-1」。今までの愛機ソニー「DSC-W300」(奥)から乗り換えた

私も先日、個人的な趣味でコンパクトデジタルカメラを購入しました。オリンパスの「XZ-1」です。今まで使ってきたコンパクトな愛機はソニーの「DSC-W300」ですが、その後ソニーの後継機には残念ながら、わたしが感じていたW300の良い点を受け継いだ機種が登場しませんでした。

そのかわり、オリンパス「XZ-1」の登場をみたとき、久しぶりにコンパクトデジタルカメラの進化を昇華させたな、と感じたのです。

「進化論」と言うと実に大仰ですね。すみません(最初に謝っちゃいます)。

コンパクトデジカメにはいろいろなニーズとコンセプトが詰め込まれていますので「この機種こそベスト!!」なんて迂闊にはいえませんが、スタジオグラフィックスのプロデューサである私、神崎流にコンパクトデジカメの進化とはこうあって欲しいという思いを込めて「XZ-1」の特長とカメラの基本技術について解説したいと思います。タイトルは「コンパクトデジタルカメラ進化論」、この機種のどこにコンパクトデジタルカメラとしての進化の昇華を感じるのか、初心者にも解るデジタルカメラの技術とカタログスペックの読み方をまじえて解説したいと思います。

  XZ-1ってどんなカメラ? このページのトップへ  

オリンパスの「XZ-1」はレンズ交換式ではないので、コンパクトデジカメに分類されます(とはいえコンパクトと呼ぶには大きめです)。「XZ-1」にはいくつかの新技術が導入され、たくさんの特長がありますが、中でも私が気に入った特長は次のとおりです。

  1. 大口径のレンズを採用し、F1.8〜という明るさ
  2. 撮像素子に大きめの1/1.63型の高感度CCDセンサーを採用
  3. マニュアル操作ができる、シャッター速度や絞り優先モードがある
  4. RAWで保存できる
  5. 水中写真撮影用のハウジングがオプションで用意される
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価格も下がって買いやすくなってきた  > Amazonの価格

 

  画質の基本はレンズ性能 このページのトップへ  

「画質の基本はレンズ性能」このカメラはそう言い切ります。
実に明快で気持ちのいいひとことです。

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写真2

オリンパス「XZ-1」(左)とソニー「DSC-W300」。電源をオンにしてレンズを出したところ。XZ-1のレンズがとても大きな口径だとわかる

レンズが交換できないコンパクトデジカメだからこそ、搭載されているレンズ性能にはこだわりたいものです。

銀塩フイルム式一眼カメラの頃は写真の"画質"を決めるのはレンズとフイルムでした。良いレンズと状況に合わせたフイルムを使うことで魂を持った写真が産まれたものです。しかし、デジタルカメラになってフイルム性能の部分をカメラ本体が受け持ち、絵作りをいわばICチップ(画像処理エンジン)が行うようになりました。そのため、良い画質を作り出す比重がカメラ本体の技術にも大きく依存するようになってきたのです。

少し話がそれましたが、レンズ性能とフイルムの性能は撮影の基本、どん欲に多くの光を取り込み、きれいな画像として残す基本技術を重視すれば、まずは大口径レンズと大型のセンサーから、というのは実に痛快なアプローチです。

ちなみに「XZ-1」のレンズ口径は、同じオリンパスのマイクロ一眼「E-P2」や「E-PL2」のレンズキットに付いてくる「M.ZUIKO DIGITAL ED14-42mm F3.5-5.6」よりも大きい、と言うとちょっとした驚きを感じる読者もいるでしょう。

レンズの口径が大きいほど、たくさんの光を取り込むことができるので「明るい」レンズにつながります。

  明るいレンズってなに? このページのトップへ  

「XZ-1」の最大の特長のひとつが、明るいレンズです。
では、そもそも「明るいレンズ」ってなんでしょうか?

蛍光灯のワット数なら見た目にも明るさが解りやすいのですが、レンズの「明るさ」って言われると、かなり解りづらい気がしますね。

カタログ上でそれが表されるのが「F値」です。
「F値」には2つの意味があります。

F値はレンズの明るさを示す

「1:1.8」の記載は、F1.8と同義(写真)
写真3

レンズにはたいてい、明るさを示す「F値」が記されている。「1:1.8」の記載は、F1.8と同義。

F値はレンズの明るさを示す数値で、小さい値ほど明るいことを示しています。カタログでみると「XZ-1」は「F1.8 - F2.5」とあります。最も小さい数値の「F1.8」は、広角のとき…ズームをきかせていないときに最も明るくできる性能と思えば良いでしょう。望遠ズームを最大にすると「F2.5」が最も明るい性能となります。

では次に「F1.8」がどのくらい明るいか、という話になるわけですが、数年前に明るいと言われていたソニーの「DSC-W300」が「F2.8 - F5.5」です。

デジタル一眼の場合、明るいズーム式レンズはとても高価です。F2.8など明るいズームレンズの場合、キヤノンやニコンの純正だとレンズだけで15〜30万円もします。デジタル一眼のレンズセットなどには、もう少し暗いけれど価格が抑えられたレンズ、がセットにされています。「EOS Kiss X50レンズキット」を例に取ると付属のレンズは「F3.5 - F5.6」となります。

こうして比べると「F1.8」という数値が明るさという点ではとても優れていることが解ると思います。

MEMO
レンズのF値に「F1.8 - F2.5」とあり、「F1.8」から「F2.5」まで数値に幅があるのは、本文で解説したとおりズーム域によって最小のF値が変化するためです。このレンズの場合、最も広角のときには「F1.8」が可能ですが、最も望遠にセットしたときは少し暗い「F2.5」が最も明るいF値になります。これは次の「絞り」と「シャッタースピード」に関連します。
なお、ズームでも最小の明るさが変わらないレンズもあり、その場合は「全域F1.8」や「全域F2.8」とか呼ばれます。広角でも望遠でも最大の明るさが変わらないということを示していて、それはそれですごい技術なのです。

F値は絞り値

「F値」のもうひとつの意味が絞り値です。レンズから入った光の量は、絞り羽根と呼ばれる機構で調節することができます。羽根を全く絞らない状態を「開放」といい、光を最も多く取り込む明るい状態です。そのことから絞りの数値を基本に「開放F値」という呼び方をすることもあります。「XZ-1」の開放F値は広角のとき「F1.8」、望遠のとき「F2.5」となります。

F値と絞り羽根機構の関係を示したイメージイラスト

絞り値は何枚かの羽根のような形状のもので穴の大きさを調整する。絞り込むほど(図の右にいくほど)、光の量は少なくなり、暗くなる。そのため簡単撮影モードなどでは通常、シャッタースピードを遅くして明るさを保つしくみが働いている。図は解放値がF1.8のカメラレンズの場合を例に、絞り値と絞り羽根の関係をイメージ図で示したもの。(『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』より)

例えば下記の写真の左右を見比べてください。小さいF値で撮った写真ほど、被写界深度が浅い(狭い)写真になっています。被写界深度とはピントの合う距離や範囲のことです。下の例で言えば、F1.8で撮ったとき、ピントが合う距離が最も狭くなり、背景や手前がより大きくボケるため、主題を引き立たせた写真を撮ることができます(背景のボケ(ボヤけ)はF値だけでなく望遠ズームによっても演出できます)。ただシャッターを押すだけでなく、撮影者の意図で撮影を楽しめるのもカメラには大切な要素です。

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写真4

同じアングルから撮った2枚の写真。左はF値を「8.0」に設定して撮影。右は開放F値「1.8」に設定して撮影したものだが、背景がぼやけて被写界深度が浅い写真になった

「背景をボカした写真が撮りたいのでデジタル一眼レフを買った」という人も多いと思いますが、開放F値が小さいレンズほど被写界深度が浅い(狭い)写真を撮るのに有利だと言えます。いちがいにデジタル一眼とコンパクトデジカメを比較するのは適切ではありませんが、F値の視点だけ見れば、デジタル一眼のレンズセットよりもむしろ XZ-1 の方が、広角では背景をボカした写真を撮りやすいカメラだと言えるかもしれません。

とにもかくにも、通常はコンパクトデジタルカメラではシーン別の撮影モードはあっても、撮影者がこのように絞り値等を変更して撮影することができない機種がほとんどです。もちろんカメラに詳しくないユーザにとってはそれで良いのですが、せっかく撮るなら、撮る楽しさも味わいたいものです。

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比較

XZ-1で、F値を 8.0 に絞った設定で撮影。手前のカメラと背景の樹木も視認可

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XZ-1で、F値を 4.0 に設定して撮影。背景がややボケて、実用度の高い絞り値

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比較

XZ-1で、開放F値 1.8 で撮影。意図的にカメラのみを引き立たせるボケ味

 

開放F値はレンズの性能によってF値をどこまで小さく指定できるかが異なってきます。

被写界深度が深い(広い)写真を撮りたければ、大きいF値に設定して撮ります(上の写真ではF8.0のように)。絞る方は絞り羽根によって光が通る穴を小さくするのでレンズの明るさ性能に関わらず選択することができます。

 

  明るいレンズのメリット このページのトップへ  

F値の話になって「理屈だと難しいなぁ〜」と感じられた方もいるかもしれませんので、メリットで少しまとめてみますと、XZ-1など開放F値が小さいレンズのデジタルカメラでは、1点にピントを合わせて周囲をボカした独特の写真を撮ることもできる、ということなのです。
XZ-1の場合は広角に強みのある機種なので、料理やマクロの写真でも強烈に威力を発揮します。

明るいレンズにはもうひとつ、「シャッター速度を早く設定できる」というメリットがあります。この関係については次回、詳しく解説しますが、それはストロボなしで撮影できる明るさにも影響します。その日の夕食に食べた料理の写真をブログ等に掲載する人も多いと思いますが、明るいレンズほど、レストランや飲食店でストロボを使わずに料理を撮るのに有利です。撮影時の手ぶれも発生しにくくなるメリットもあります。

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写真4 「料理」モードでの撮影例。被写界深度の浅い写真が気持ちいい
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写真5 広角レンズならではの遠近感を利用した演出が楽しい

ただし、写真は開放F値で背景をボカした写真さえ撮れれば良いというものでもありません。
例えば、被写界深度の浅い(狭い)写真はピントが合う範囲が狭いので、ピンボケの失敗写真になりやすいという一面があります。特にスポーツ写真やペットなど、被写体が動いている場合、被写界深度の浅い写真をピントぴったりで撮るのは至難の技です。
また、観光旅行などのスナップで、被写体の人物のみにピントを合わせて背景を大きくボカしてばかりいると、せっかくの観光地の景色を背景に活かすことができません。
このような場合には、被写界深度の深い(広い)写真の撮り方を理解している方が、失敗写真を防いだり、撮影者の意図を反映した写真を撮ることができますよね。

Text : 神崎洋治  
みんなが撮った写真を見てみよう Studio_Graphicsギャラリー
 
初出:2011/03/30
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