雨の季節となりました。梅の実が熟す頃の長雨のため「梅雨」と呼びますが、陰暦でいう五月頃にあたるため「五月雨(さみだれ)」とも呼ばれますよね。五月雨という表現は、梅雨が六月の現代ではちょっと・・という感じです。閑話休題。
さて、今回はデジタルカメラにはなくてはならないメモリカードの代表格「コンパクトフラッシュ」について、デジカメPopEyeなりに研究をしてみましょう。
まずは、うんちくから。最近コンパクトフラッシュ製品の広告やカタログでよく目にする30倍速とか40倍速とかってあるでしょ。あれって何の40倍も速いの!?
■××倍速の基準はなに?
コンパクトフラッシュ(CF)の広告やカタログで「32倍速(32×)」や「40倍速(40×)」という表記を目にします。パソコン用のCD-ROMやDVDドライブなどにもよく見られるデータ転送速度の高速性を表わすのに解りやすい方法ですが、果たしてCFの場合、何を基準にした数字なのでしょうか。
レキサー・メディア社のコンパクトフラッシュ。パッケージの右下に「40X」というマークが見える。これはなにと比べて40倍速!?
さらに、WAってなに?
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「×倍速」という表記方法は、CFカードのメーカーであるレキサー・メディア社が初めに導入した表記の方法で、業界の取り決めや規格に準拠するものではありません。そのため、フラッシュメモリー最大手のサンディスクや、国産メーカーで有名なハギワラシスコム製品などには×倍速といった表記は書かれていません。で、何を基準にしているかというと、CD-ROMと同様に音楽CDで使用されている転送速度150KB/秒を標準速(1倍速:等速)として、製品の持つ最大データ転送速度(主に理論値)を×倍速として表記しています。例えば、32倍速であれば4.8MB/秒、40倍速であれば6MB/秒の転送スピード性能を持つ、ということになります。そのため、表記のないCFカードと比較して40倍高速という意味ではありませんので、ちょっとした注意は必要ですね。
ちなみに、レキサーメディア社の一部のCFカード製品には、メモリやコントローラの性能向上に加え、特定のカメラ機種と技術調整を行い、専用のプロトコルを用いる技術「WA(ライトアクセラレーション)」(Write
Acceleration)を搭載しています。同社の発表によるとWA対応のデジタルカメラ機種とWAに対応したCFカードの組み合わせで使用した場合、WAではないCFカードの最大40%の高速化を達成するとされています。また、デジタルカメラで動画をよく撮るひとにも高速化の恩恵があって、最大録画時間が延びるなどの効果があるようです。WA対応のデジタルカメラ機種は、ニコン
D1X/D1H/D100/D2H、コダック DCS Proバックシリーズ/760シリーズ/14n、サンヨー DSC-MZ3、シグマ
SD9などで、最新の情報は同社のWEBサイトに掲載されていますので確認すると良いでしょう。
ただ、実際の使用にあたっては、広告の表記通りにスピードがアップして快適になるかと言えば、必ずしもそういう訳ではありませんので、雑誌のレビューや比較記事を参考にすると良いでしょう。
ところで、DVDとCDは実は基準となる速度が違うんですよ。CDは前述のように音楽CDの転送レート150KB/秒を基準(等速)にしていますが、DVDはDVDフォーラムが定めた1385KB/秒を基準(等速)としています。そのため、現在最速のDVD+R、12倍速書込みはCDに換算すると144倍速以上にもなるんです。DVDってすげぇ〜。
■温故知新、フラッシュメモリがもたらしたもの
コンパクトフラッシュとは、フラッシュメモリを使った小型(36.4mm長 x 42.8mm幅 x 3.3mm高)のメモリーカードのことです。商標は米国サンディスク社が持っていて、もちろんちゃんと規格化されています。さて、そもそもフラッシュメモリのことをよく知らない、という人もいるかもしれませんので、この際ですからこの辺から話しましょう。
短い、ほんのわずかなデジタルカメラの進歩の歴史で見ても、フラッシュメモリとは画期的な進歩をもたらした立役者といっても過言ではないのです。それまでは、メモリと言うと電源が切れると内容が失われるものでした。パソコンのメインメモリーがいい例ですが、一般的なデスクトップPCの場合、(スタンバイモードなどを除いて)電源を切るとメモリの内容はクリアされてしまいます。そのため昔のデジタルカメラは、メモリカードに小さな電池を積んでいて撮った画像が消えないようにしていました。しかし、電池が消耗してなくなれば画像もなくなります。そんな不便な環境を一変したのがフラッシュメモリです。フラッシュメモリは電源が切れてもデータを保持できるため、自由に持ち運びが可能なIC記録メディアとして瞬く間に普及しました。しかも最近はデジタルカメラの高画素化に併せてフラッシュメモリの大容量化も順調に進んでいます。ふつーの消費者はこの進歩になんとなく触れていますが、もし、仮に商品化されているフラッシュメモリが昔のように「1MB」とかしかない世の中だったなら、今のデジタル一眼レフなんてあと10年は登場しなかったかもしれません。
■コンパクトフラッシュ vs スマメ
CF対スマメの勢力争いは、CFに軍配。スマメは128MB以上のマイルストーンが描けなかった。
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フラッシュメモリを使ったカードの規格化がいろいろと行われましたが、その初期の代表的なものが「コンパクトフラッシュ」と「スマートメディア(スマメ)」です。堅牢でガッチリしていて値段が高いコンパクトフラッシュ、薄くてペラペラだけど値段が安いスマメ、と両社はその性格を全く異にしていました。ユーザーによって好みは別れますが、コンパクトフラッシュ派には、スマメのことをGパンのポケットに入れたまま椅子に座ったら割れた、とか、折角撮った画像が風で飛んでいっちゃったとか、面白おかしく揶揄した人もいました。現在、スマメは規格化する団体の活動もほとんどなく、大容量化への道筋が明確にならなかったことから、大手メーカーが見切りを付けた格好です。後継はxDピクチャカードだと言われています。「xDピクチャカード」は富士写真フイルムとオリンパス光学が規格提唱している規格ですが、ほかにもソニーが規格提唱している「メモリースティック」、東芝と松下、米サンディスク社などが共同開発した「SDメモリカード」などがありますが、どれもフラッシュメモリ技術が活かされています。
■コンパクトフラッシュが高い理由
「高い」という表現は適切ではありませんが、スマメと比較するとコンパクトフラッシュは価格的に高価だったことは事実です。これは、ライセンスされた限られた一部のメーカーだけが生産しているという政治的な事情もありますが、技術的に見るとコンパクトフラッシュの特長のひとつである「カード本体にコントローラチップを内蔵し、メモリへの読み書きをそのチップが制御している点」に起因しています。コントローラチップによって、パソコンなどの機器側からはコンパクトフラッシュが、内蔵型ハードディスクやMOなどのリムーバブルドライブと同様(ATA準拠のストレージ)に認識されます。これは標準化の観点からはとても大きなメリットです。ATAとは「AT
Attachment」の略で、規格の統一と標準化を行なう米国規格協会(American National Standards
Institute)がIDE(内蔵ハードディスクなどで使われているインタフェース規格)を正式に規格化したものです。このことによって、WindowsやPDA(携帯端末)からは標準のデバイス管理の延長として開発ができるというメリットがあります。
また、CFカードはカードアダプタに装着することによって、パソコンのPCMCIAカードスロット(PCカードスロット)で利用することができますよね。CFが高価なのに比べて、一般のカードアダプタはとても安く売られています。これは、CFが標準として利用できる使用を既に装備しているため、カードアダプタとしてはただ大きさを合わせ、ピンを結線するだけのもので良いため、安く作ることができるのです。
■飛鳥のCF32が高速なわけ
32ビット高速カードバス対応の『CF32A』。コンパクトフラッシュを装着した状態。装着するCFカード等にもよるが、マイクロドライブで3倍、CFカードで5倍高速化された例もある。
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高速なコンパクトフラッシュ製品について前述しましたが、高速なCFカードアダプタも販売されています。それが飛鳥の『CF32A』です。これがなぜ高速なのか少しだけ説明します。
今、市販されているノートPCのほとんどが、PCカードスロットを装備していますよね。で、このPCカードスロットはひとつでふた役をしています。ひとつが、PCカード(PCMCIA)規格の16ビットに準拠していること、普通のカードアダプタを使用すると16ビットで画像データの転送が行われます。もうひとつがカードバス規格の32ビットに準拠していることです。PCカード対応のカード製品とカードバス対応のカード製品ではよく見るとコネクタの形状が違うので識別できます。ノートPCが「カードバス」に対応していればどちらの製品を挿しても動作しますし、最近のノートPCであれば、ほぼカードバス対応です。
もちろん、バス幅が拡張された32ビットのカードバス規格に対応した製品の方がパソコンとは高速にやりとりができるわけです。更に、飛鳥の『CF32A』はカードバスに32ビット対応のバスマスタ転送という高速コントローラチップを搭載することで、高速なデータの転送を実現しています。高速なデータの転送ということはつまり、大容量の画像をノートPCに転送する時間が短くなるということです。
同じPCカード製品でもコネクタのデザインが異なる。左がPCカード16ビット製品、右がカードバス(32ビット)対応製品のコネクタ部分。
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ちなみに、バスマスタ転送とはなんでしょうか。これは昔からのパソコンマニアには垂涎のキーワードです(笑)。バスのマスタだから風呂屋の主人・・番台に上る人か?
そりゃあ、垂涎ですがちがいます。バスマスタは「DMA」(Direct Memory Access)とも呼ばれ、ディスクとメモリ間でデータ転送を直接行うことです。つまり、パソコンのCPUがデータの送信受信をいちいち管理しないのです。パソコンのファイルをコピーしたり移動している最中に、パソコンで他の作業を行おうと思ってもすごく遅く(重く)て動作が鈍い、ということを感じた経験をお持ちの人もいるかと思います。これはデータ転送作業をCPUが一生懸命やっていて、他の作業どころではないからです。『CF32A』が採用しているバスマスタ転送では、前述のようにデータ転送中にCPUの関与が少ないために、それほど遅く感じずに済むでしょう。
こうした理由から『CF32A』は高速でCPU低負荷なのです。市販の普通のカードアダプタに比べてちょっと高価ですが、元月刊アスキー編集長の遠藤さんをはじめとして、ちがいが解る人の物欲をそそっている理由もここにあるのです。
コンパクトフラッシュのうんちくでした。
次回も更にコンパクトフラッシュやメモリカードの話題を予定しています。
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