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新・女性の撮りかた講座
番外編 モデルとのコミュニケーション
第30回 初心者モデルをその気にさせるコツ 2005/11/08
 
■自分の世界はほどほどに
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 人物撮影においては、コミュニケーション以上に大事なものはないんだと、撮影の現場を積み重ねる毎に強く思うようになった私ですが、思い起こせば、趣味で人物写真を撮ってるころはひどいものでした。撮影中にも関わらず、「こうすればもっと面白いアングルか撮れるんじゃないか」とか、「絞りとシャッタースピードはこれでいいかな?」など、頭の中はカメラマンの都合ばかり。自分だけの世界に浸って、モデルが今どんなことを考えているか、何を感じているかなんて考えたこともありませんでした。

 これって、モデルの立場で考えると随分失礼なことですよね。もちろんよりベターな、そしてベストな写真を撮りたいと思う気持ちからだというのはわかりますが、そんなものは日頃から練習して、考えなくてもズバリ狙えるようにしておくべきです。厳しすぎますか? 確かに厳しいですよね。でも、人物写真家の被写体は感情のある人間ですから、やっぱりそこには最低限の礼儀ってものがあるんだと思うわけです。大御所のモデルの撮影のときにはアシスタントを使って照明と露出の設定をするくせに、駆け出しのモデルになるととたんに横柄な撮影になって、当のモデルでテスト撮影するカメラマンって結構いるんですよ。私がモデルの立場なら、「ざけんなよ」と思ってしまうわけです。駆け出しだろうがプロだろうが、どちらも人間ですからね。やっぱり人物カメラマンは相手(モデル)の立場で考えられることが必要と思うわけです。で、今回はこの「モデルの立場」というのがキーワードです。

 

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写真0 割烹着姿の藍海夏です。いつも元気なイメージの、というか元気じゃないときをほとんど見せたことがない彼女ですが、割烹着を着てもらって日本のお母さんを演じてもらいました。前回の写真と比べてみてください。しっとり感が少しは出ていますでしょうか? なんだか週刊○ストの表紙のイメージを感じるかもしれませんが…。(笑)
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  モデル:藍 海夏
■凍りついた表情をどうやって溶かす?
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●モデル初心者はなぜ緊張するのか

 

 自分に自信を持っているタレント志望の若い女の子は除いて、一般的な女性は本格的な撮影となるとかなり緊張します。写真に撮られることなんか普段の生活の中で極普通のこととなっていても、業務用のストロボやレフ板に囲まれた時点でもうガチガチです。これ、なぜだと思いますか? 初心者モデルが緊張するのは当たり前のように予測できると思いますが、「なぜ」緊張するのかを考えて「言葉」にしてみてください。「業務用スタジオでなんかで撮ったことないからわかんないよ」なんて言わずに、ひとまず考えてみてもらいたいのです。

 答えはモデルによっても異なるとは思いますが、私は女性が自分自身に「自信がないから」緊張するのだと思います。カメラマンから見れば可愛い、キレイと思える女性でも、プロのモデルでなければ業務用スタジオでいきなり自信は持てません。

●モデルの気持ちを想像してみる

 

 私は、モデル初心者の女性を撮影するときは、その女性が考えていることを想像してみることにしています。できるだけ頭の中で言葉にして。

 「このカメラマンは普段はプロのモデルを撮っているんだから、きっと私よりもずっと可愛くてキレイな女性ばかり見てるんだろうな。私なんかじゃつまんないだろうな…」

 などなど…。自信なさげでソワソワしている女性は、多分こんなことを考えているものです。前回の文中に出てきた客室乗務員の女性(写真1)もそんな感じでした。でも、こちらから「自信がないんでしょ」とダイレクトに聞くのも相手に失礼ですから、できる限り優しく、「こんな感じで写真を撮られるのは初めて?」と聞いてみました。すると案の定、「初めてですよー。友だちとか、大勢で撮るときは緊張しませんけど…。本業のモデルの子と比べられちゃうんじゃないかって思うと緊張しちゃいます」とのこと。自信がないと顔に書いてあるような状態では、決して魅力的な写真を撮ることはできません。こういう状態になると、ムラムラっと意欲がわいてくるんですよ、私。あっ、決して変態チックな意欲じゃありませんよ。(笑) どんな意欲なのかと言いますと、縮こまってしまった彼女の自信を解き放たせようという意欲です。

●自信を持たせるトーク

 

 女性は基本的にナルシストだと思います。きっと、どこかに「ここが私のお気に入り」って場所があるはずです。それは、目や口、耳や手だったりと、体のパーツに限ったことではないかもしれません。 写真1の彼女は、スタイルも良くて十二分にキレイな女性なのですが、職業柄でしょう、周りにキレイな女性が多いので、容姿に特別な自信を持てないできたのかもしれません。そんな彼女に「目が可愛いね」とか、「キレイな手だね」なんていったところで、あまり効果はなさそうです。それどころか、そうして褒めた体のパーツに自信がなかったとしたら逆効果です。

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写真1 モデル初心者の女性「ε子」さん。「緊張します〜」の言葉どおり、本当に緊張していました。撮影は2部に分けて、1部はスタジオにε子さんと顔馴染みにスタッフに入ってもらい、世間話をしてもらいました。この写真は、その最中に撮ったものです。世間話中は緊張がある程度はとれるのですが、シャッター音やストロボの光に反応して、ε子さんはすぐまた緊張してしまいます。それでも、1部はシャッター音とストロボに慣れてもらうために、捨てカットのつもりで撮りまくりました。
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写真2 1部でいたスタッフはスタジオから出ていってもらい、2部の撮影ではε子さんと二人きりに。で、彼女の性格を知るために、いろんな質問をします。年齢的に趣味とか聞くより、現役の客室乗務員として、どんなことにプライドを持って仕事をしているかとか、同僚との揉め事とか…。そのうち、彼女が髪の毛を触るのがクセだと気づきます。もちろん接客業のプロとして普段は抑えているのでしょうが、ふと気を許すと髪の毛を触る。それがわかってからは、もっと意識して髪の毛をいじってもらうことにしました。その仕草が可愛かったので一枚…。
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 こういうときは、フィジカルな話題は脇に置いといて、メンタルな面を攻めてみましょう。たとえば仕事に対するプライドに関して突付いてみるんです。知的な女性であればあるほど、容姿に対する自信よりも仕事に対する自信や誇りを持っているものです。そこで私は、シャッターを押しながら彼女に仕事や、同僚、先輩たちとの関係なんかの質問をいくつかぶつけてみることにしました。

 それでも、「私よりも仕事ができる先輩や同僚」といった感じで、自信なさげな話がちらほら出ていたので、「他人と自分を比べた結果じゃなくて、自分で自分を褒めたくなる部分ってのがあるでしょ?」とファインダーから目を離して真剣に聞いてみました。すると、遠慮がちではあるのですが、「…そうですね、たとえば○○○なところなんかは自信がありますね(笑)」と、恥ずかしそうでありましたが、初めて本当の笑顔を見せてくれました。当然、そのときがシャッターチャンスです。(笑)


●モデルの小さなクセを見逃すな

 

 と、まぁ、こんな感じでどうにかこうにか彼女の緊張はほぐれ始めたようです。でも敵もさるもの、ほぐれたとはいっても、だからってノリノリな調子になるわけじゃありません。 ん? 「大変だなぁ〜」ですか? いえいえ、私はこれを苦労だとは思っていません。逆に楽しんでいます。そう、まるで女性を口説くときのような楽しさです。(笑) この楽しさがわからないと、人物カメラマンはつらいだけの職業かもしれませんね。と、余談はそれくらいにして本題に戻ります。

 次に私が目を付けたのは、恥ずかしそうに話しているときの彼女の小さな「クセ」です。彼女は自分では気がついていないのかもしれませんが、ふとしたときに髪の毛に手をやるんです。聞きかじりの心理学では、髪の毛を触るという行為は自分で自分を慰める、不安な気持ちを落ち着けようとする、とのことだそうですから、それなら思い切って髪の毛をいじってもらおうと、それまでアップにしていた髪の毛を降ろしてもらって、「さぁ、思い切り髪の毛をいじってみて」とおどけて言ってみました。もし、聞きかじりの心理学が当たっているのなら、どんどん髪の毛をいじってもらうことで、気持ちを落ち着けてもらえるかもしれませんし、髪を触る女性の絵(写真2)というのもいいものです。仕草として可愛いですしね。そうしているうちに本当に緊張がほぐれてきたようで、ちらほらと自然な笑顔を見せてくれるようになりました。

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写真3 髪の毛を触るのが好きだとわかってからは、思い切り髪の毛で遊んでもらいました。アップにしてウナジを出したり、おでこを出したり…。最後の方は、髪をかき乱してもらってこんな写真を…。顔を出すのが仕事上NGなので、前髪が顔にかかっている写真を掲載していますが、おでこがとてもキレイな女性でした。この写真はもともとコントラストの強い写真でしたが、Photoshop でさらにコントラストを高めて、顔を暗くして誰だかわからなくしています。
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 こうなったらこっちのものです。髪の毛をいじってる手がキレイなことに気づいたら手を褒めるし、髪の毛を降ろした方が魅力的だと思ったら素直にそう伝える。ついでに「前髪を上げてみて」なんて馴れ馴れしく言ってみれば予想以上にキレイなおでこなので、「なんで隠してるのもったいない」なんて、まるで恋人みたいなこと言ってみたりして、もうどんどん攻めていきます。(笑) そして、写真3のような仕草までしてもらっちゃうわけです。と、まぁ、こんな感じで小1時間、初心者モデルの彼女との格闘は終わりました。次も必ず撮らせてもらうことを約束して別れました。

 ここまで読んでもらったらおわかりいただけるかと思いますが、モデルとのコミュニケーションで大切なのは、「モデルの立場」に立って緊張を解きほぐす努力をすることです。私自身、以前から努力していたことでありますが、今回の彼女を撮影して、再認識することができました。感謝です。

 

■おまけ
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●予定は未定…いいのかそんなことで

 

 なんだか偉そうなことばかり書いてきましたが、番外編のモデルとのコミュニケーションもこれで終わりです。次回は第3部の続きをお送りします。

 いやあ〜それにしても更新予定がズレズレで申し訳ないっ! こんな拙稿でも楽しみにしてくれている読者がいるというのに…。この生来の怠け者体質をどうにかしてくれる優しい人はいないものか……そういう女性を募集しています。ドシドシご応募ください。もちろん男性は嫌です。女性オンリーです。限定です。

 それでは最後に、藍海夏の写真をおまけ掲載してお別れです。また(さ?)来週〜。

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写真4 かなり大きな胸をしている藍海夏ですが、着ているものによってそのイメージは大きく違ってしまいます。今回の撮影では胸を強調する衣装はほとんどなく、特に割烹着となると服に余裕がある分、胸の大きさはまったくわからなくなってしまいます。そこで、右手で割烹着のダブつきを背中でまとめてもらい、体を斜めにしてもらうことで胸をある程度に強調しました。
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写真5 500 万画素程度のデジタルカメラだと、全身を写すのは少々つらいところがあります。当たり前のことですが、フルショットだとディテールが潰れてしまうからです。そういうわけで、私の写真にはウエストショット以上の寄りの写真が多くなってしまうのですが、この写真のようにモデルに座ってもらえば、フルショットの欠点もある程度抑えられます。それに、座りのポーズは、単純な立ちポーズよりも絵になりやすいものです。
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写真6 ただの立ちポーズはあまり好きじゃないし、せっかくバスケのスタイルをしているのだからと、シュートする直前を演じてもらいました。実際、藍海夏はバスケット選手でもあるので、ポーズそのものは様になっています。もちろん、静止ポーズですからリアリティはありませんが、撮影中はいろんなことにチャレンジして、楽しくやれればいいんです。そう思いませんか?
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初出:2005/11/08 このページのトップへ
 

     
 
 

     
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