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オヤジの夏休み 奇跡の海
第39回 オヤジの夏休み 〜置き去りにした夢〜
     絶対にこの夏、ハンマーヘッド・シャークを見る !
 

今年の夏休みはどんな思い出ができましたか。

オヤジは今年、ちょっと奮起しました。
置き去りにしてきた夢に、もう一度チャレンジしました。

家族のおかげです。今回はシリアスでディープな感じの日記を書きました。ウスッ。 

(2007/08/22)

 

■きっかけは「息子のがんばり」と「銀細工のプレゼント」

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我が家の子供達の夏は、今年もまた沖縄から始まった。

夏休みには毎年、私の実母を加えて家族6人で旅行に行っている。今年も沖縄… 3年連続になる(ダイビングサービスは(ブルーゾーンさん(翌年2009年の記事はこちら)にお世話になっている)。でも、今年はいつもと雰囲気が少し違った。長男の息子(小学6年生)がスクーバ・ダイビングのライセンスを沖縄で取得したいということになったからだ。前もって送られてきたスクーバの教本を読んで頭に入れて行かねばならないそうだ。読んで頭に入れると言っても息子はまだ小学生…教本に書いてある日本語そのものが難解なのだ。そこで、読み合わせと解説を担当するのは僕、ということになった。

毎晩、少しずつ教本を読み合わせながら、親父が持っているスクーバの知識を息子に教えていった。そんな傍らで自分がスクーバのライセンスを取得した頃のことを思い出したりもしていた。

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娘と細君がくれたペンダント。トップにはハンマーヘッド・シャークが。

息子が何か目標に向かって努力しているのをみるのは親父として悪い気はしない。いや、何か触発されるところがあったのだろう、きっとそうだ。なにせスクーバを始めた時から数えておよそ20年になる。自分もすっかり年をとったが、器材もそんな古いものなのかと思うと感慨深い。

そんな中で、僕には置き去りにしてきたある「目標」があった。ささやかだが、スクーバにおいて、果たせなかった目標、あきらめたつもりの目標があった。そうだ・・目標があったのだ。それは・・。

息子が沖縄で無事にスクーバのライセンスを取得した夜、家族でお祝いをした。そして、お父さんにも、と国際通りで買ったプレゼントを、娘と細君が僕にくれた。

それはとてもきれいな銀細工のペンダントで、ハンマーヘッド・シャーク(シュモクザメ)が燦然と泳ぎ、輝いていた。


■ ハンマーヘッド・シャーク
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なぜ、ハンマーヘッド・シャークに魅せられたのか、きっかけは覚えていない。ただ、ダイビングや旅行に行く先々でハンマーヘッド・シャークの置物や銀細工があるとつい手を出してしまう。ハンマーヘッドの日本名は「シュモクザメ」、トンカチのようなカタチをした奇怪な頭が特徴的だ。いかにも古代的な体型だが、ナショナルジオグラフィックスの記事によると、あの体型は鮫の中で、もっとも進化したカタチなのだそうだ。

スクーバをはじめて、いろいろな海に行き、たくさんの生物やサカナを見てきた。しかし、ハンマーヘッドには出会うことができなかった。ハンマーヘッドが出没するので有名なメキシコのポイントにもわざわざ出かけて行った。ドン深で急な流れの中、トンカチ頭を追い続けたが出会えなかった。悔しくて、帰国してすぐ伊豆の神子元島に足を運んだ。神子元島は下田に近い弓ヶ浜から船で、わずか20分の沖に浮かぶ無人島…伊豆のダイビングでもっとも黒潮に近づけるポイントのひとつだ。無数の回遊魚が群れ、流れ、大型のサメもいる。

裕福な日本、カネがあればなんでも買える時代に生まれても、自然は必ずしもチャンスを与えてはくれない。どれだけ「見たい」と思っても、空振りを何度も繰り返し、ときに悪天候に阻まれ、アンラッキーを恨むうちに、ハンマーヘッドを見たいという目標を自ら置き去りにした…。それから10年近くが経っていたんだと思う。

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■ オヤジの奮起
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いつものように今年も沖縄・ケラマ諸島の海を楽しんだ。ジンベイザメ(※1)の大きさに驚き、ボートで移動中にイルカを見た。沖縄でイルカを見たのは初めてだ。

海洋実習 沖縄

海が本当に澄んでいてきれい。海洋実習を受ける小学生の息子。無事にライセンス取得。ブルーゾーン(写真)の方々、お世話になりました。沖縄ケラマにて。

沖縄では多くのダイビング・ポイントがゆったりしていて優しく、いつも明るく迎えてくれる。ただ、世界に誇る透視度の海ケラマも珊瑚礁のあちこちで瀕死な状態が見られる。一年に一回しか見ないから、変わっていく様がよく解る。哀しい現実だ。

そんなこととは別に、置き去りにしてきた目標、悔しかった思いが僕の記憶には鮮明によみがえっていた。息子も頑張った。彼がダイバーになり、なんだか自分に近づいた気がした。そんな親父は目標を目標のままで終わらせていいのか。もう一度追ってみたい。奇怪なトンカチ頭を・・。

ハンマーヘッド・シャークは海流に乗ってやってくる。外洋で潜るのには体力がいる。スクーバはメンタルが重要だから、体力以上に自信が必要だ。オヤジがスクーバに対する自信を失ってからでは、外洋に潜るのは手遅れかもしれない。もう一度、神子元に行ってみよう。今年はハンマーヘッドの当たり年で、かなりの確率で見られるらしい。宇佐見(海水浴場)にまで出たくらいだ。親父にとってはちょっとした決断だった。

 

■ もう一度、神子元へ
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伊豆の沖には黒潮が流れていることはご存じだろう。この黒潮の流れる位置は季節や日によって大きく変わる。

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神子元島は下田沖に浮かぶ無人島。黒潮が近づくと、回遊魚や大型魚が群れで見られる稀少なダイビング・ポイント。初心者は潜れない。

黒潮の流れが伊豆半島に近づけば、伊豆半島沖にある神子元島は回遊魚や鮫が群がり、黒潮ブルーが拡がる絶好のポイントになる。しかし、黒潮が離れたり、波やうねりが出たり、湖の底のように暗く濁った時は、つらく苦しいダイビングになる。僕が見た神子元島はいつもそんな、つらく冷たい海だった。
ちなみに神子元島を潜るには、ある程度の経験を積んだダイバーに限る、という規定が設けられている。安全のためだ。

今年の夏の神子元は嘘のように穏やかだった。

熱い思いと自信を取り戻すためのダイビング…目標のあるダイビングに久しぶりにワクワクした。朝3時に起きて、東名高速へ。小田原、熱海を経て、下田に入り神子元ダイビングサービスへと到着。胸が高鳴った。ブルーに拡がる海が迎えてくれた。夢の入り口・・愛用の「富士フイルムFinePix F30を握りしめて、ガイドの指示に従い、ほかのダイバーとともに、祈るような気持ちで蒼い海にエントリーした。長い間、引っかかっていた気持ちにケリをつけたい、子供達にいい知らせをしたい・・そんな気持ちだった。

しかし、1日目、やはりハンマーへッドは現れなかった。タカベやイサキの巨大な群れ(何千尾もいる)は見事で、神子元の魅力が存分に見られたが、目標はまたもや達成できなかった。寄港してうなだれながら器材を片付けている僕を見て、海水浴場から戻ってきた息子や娘が「明日は見られるといいね」と声をかけてくれた。
たかが鮫・・それでもささやかな目標。

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魚影が濃いのがここの特長。視界一面にタカベやイサキが拡がる光景も珍しくない。暗さに強い愛用のコンパクトカメラ「富士フイルムFinePix F30」も頑張っているが、この深さで濁りが出ると厳しい。

翌日の1本目。同じ船に乗っているダイバーの何人かが船酔いや恐怖感、体調不良を訴えていた。僕たちには穏やかに見えても、経験の浅いダイバーにとって、この海は抵抗があるようだ。ダイブすると昨日より少し濁りが出ていた。
タカベの大群の向こうから巨大なメジロザメが次々と視界に飛び込んでくる。さすが神子元だ。しかし、濁りは強くなる一方で、ブルーだった海は緑色…黒ずんで見えてきた。

そして2本目。更に濁りはすすみ、視界は悪くなった。メジロザメの影が遠くで横切る程度ではっきりと寄ってこない・・トビエイやウミガメ、モロコ(クエ)、巨大な伊勢エビ、ワラサ、カンパチ、ツムブリ…ほかで見たとしたら大喜びの生き物が次々と現れる…でも、ここでは脇役だ。

ガイドが中層の流れに身を任せ、潮に流されるドリフトダイビングにスタイルを変えた。しかし、時間だけが過ぎ、30分のダイブは終わりを迎えた。ダイビング時間はわずか30分。

ダイバーの体には水圧によって悪い窒素がたまる。その窒素を正常に抜くために、水深5mの位置で5分間じっと待機する。安全停止と呼ばれる時間になった。ガイドがフロートを水面にあげ、海面で待機するボートに自分たちの位置を知らせる。流されたチーム一行を拾ってもらうためだ。またハンマーヘッドには会えなかったとチーム全員に落胆の表情がマスク(水中メガネ)越しにも見えた。と、そのとき、フロートから数m下に垂らしたオモリに複数のサメが寄ってきた。オモリは太陽の光を反射して中層でキラリと光る。そのたびに、メジロザメがオモリにガツンとアタックしてくる。よく見るとチームの下、数mのところにいつの間にかメジロザメが数匹群れていた。

ハンマーヘッド
この後、こちら側に向きを変え、悠然と横をかすめていったハンマーヘッド・シャーク。すれ違うときにシャッターを切る心の余裕はなかった。

遊泳客なら震え上がって逃げるところだが、ダイバーはちょっとオカしい。わざわざ鮫の近くに寄って行くのだ。安全停止していたのに再び深度15mまで急ぎ潜行してメジロザメを追う。メジロザメに混ざって、奇妙な頭のカタチをしたサメが突然、姿を現した。ハンマーヘッド・シャークだ。ついに出た。

追いかけると反転してこちらを向き、ゆっくりと数mのところを横切っていった。もっと追いたい、と思った瞬間、レギュレータ(※2)からエアが来づらくなった。あぁ、あと10数回も吸えばエアは来なくなるな…ハンマーの後ろ姿を見送りながら思った。水面で久しぶりにエア切れを起こした。それほど夢中でメジロザメの群れを追いかけていたのか…あと5分あれば、ハンマーヘッドをもっと追いかけられたのに。

家族がくれた孫の手
家族が記念に僕にくれた孫の手。「ハンマー記念日・神子元 おめでとう!!」と書いてある。

ボートの上でケータイを出すと、下田の水族館に行っているはずの家族にメールを打った。ついにハンマーヘッドを見た。10年、いや15年来の思いがようやく叶った。息子達は水族館の後、寝姿山の山頂にいたようで、"山頂から遠く見える神子元島をバックにみんなで万歳しているムービー"がすぐに返信で届いた。しかも即席で記念品を作り、プレゼントしてくれた。おみやげの孫の手。そこには「ハンマー記念日 おめでとう」とサインペンで書いてあった。

実は、この日は3本潜った。
3本目はまるで東京湾のような濁りが出て、ハンマーヘッドどころかサカナさえ見えないほど。でも、出会い頭に一匹だけ少し大きな妙なものに出会った。家族には内緒でこっそりとログブックに書いたのだが、それを見た息子達が疑いの目で僕をみて訊いた。
「お父さん、3本目…マンタ(※3)見たの?」
僕は笑ってうなづいた。ガイドも笑ってうなづいた。

オヤジの夏。
今年は忘れられない夏休みになった。

 

※注釈
1. シンベイザメ…鯨くらいでっかいサメ。プランクトンやオキアミ(エビ)等しか食べないので安全。沖縄の水族館では人気者。今年、海の中で初めて間近に見た。
2.. レギュレータ…タンクから送られてくるエアを吸うための呼吸装置。口にくわえる。
3. マンタ…オニイトマキエイ。畳八畳くらいにも成長する巨大なエイ。沖縄の水族館では人気者。海では石垣島周辺で何度か見たことがあるが、珍しい。特に伊豆ではなかなか見られない。

>> 続編こちら
  「オヤジの夏休み2008 〜神子元島から沖縄の美ら海へ〜
  ソニー Cyber-shot W300 で撮った沖縄の海中散歩!」 
   オヤジはついにハンマーヘッドの大群遭遇へ。
   そして、ダイビング初心者の娘を待っていたのは
   タイマイ(ウミガメ)が舞う奇跡の海。

神子元島から沖縄の美ら海へ

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サンタ・クローチェ
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