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スタグラ・特集記事
メーカーに聞く デジタルカメラのココが知りたい!!
第5回 ソニーに聞く 「裏面照射型CMOSイメージセンサー」 2008/10/29
 


質問CCDとCMOS、ソニーは製品によって
    イメージセンサーをどう選択しているの?
質問コンパクトデジカメにはCCDとCMOS、
    どっちがベター?
最近の一眼レフでは
    CMOSセンサーが多いのはなぜ?
新開発の裏面照射型CMOSセンサーって
    なにがどうすごいの?

少し前までは「画質ならCCD」と言われていました。しかし、最近では高性能なデジタル一眼レフにもCMOSセンサーが搭載されています。一方でCMOSにはいろいろな課題があるとも言われています。「CCDとCMOS、どっちがいいの?」ソニー半導体事業部の方に聞いてみました。

聞き手 神崎洋治、西井美鷹
 

インタビューに応えてくれた、ソニー株式会社 野村秀雄氏。ソニーのモノ作りにこだわるDNAを感じる。


  コンパクトデジカメ向きのセンサーはCCD? CMOS? このページのトップへ  

画像A ソニーに聞く
インタビューに応えてくれた、ソニー株式会社 半導体事業本部 イメージセンサ事業部 事業推進部 事業戦略担当部長 野村秀雄氏。
画像B ソニーのコンパクトデジカメ
スリムボディが目を引く『DSC-T700』。イメージセンサーにはソニー独自開発の有効1010万画素、1/2.3型の「Super HAD CCD」を搭載している。ソニーはコンパクトデジカメでは多くの製品にCCDを選択している。

解説
2008年6月、ソニーは「裏面照射型CMOSイメージセンサー」を開発していることを発表しました。同社では「従来比約2倍(*1)の感度、および低ノイズで高画質を実現できる」としています。

「裏面型」とはつまり「ウラ面」を使うということ…ウラ面と聞くとあんまり良いイメージは浮かばないのですが、ウラ面やオモテ面っていったいどういうことなんでしょうか。

話を聞いていくうちに、CMOSセンサーのオモテ面を使っている現在の技術が持つ、いろいろな課題も理解できました。ソニーの「裏面」照射型…もしかすると10年後には、こっちがオモテ面になっているかもしれませんよ。

(*1 同じ画素サイズ(1.75um)の同社従来型(表面照射型)と裏面照射型のCMOSイメージセンサーとの比較)

Q:
以前、デジタルカメラで使われているイメージセンサー(撮像素子)はCCDが主流でした。特に"画質を重視するならCCD"なんて言われている頃もありました。

ところが、CMOSセンサーが台頭しはじめ、デジタル一眼レフで爆発的に売れたキヤノンの『EOS Kiss Digital』あたりから大型のCMOSセンサーが注目されはじめ、今ではデジタル一眼ではCMOSセンサーが多くなっています。

御社では、コンパクトデジカメやデジタル一眼レフはもちろん、関連会社含めればカメラ付きケータイなど、豊富な機種をラインアップしていますが、CCDとCMOSではどのように利点に注目して採用しているのでしょうか。

まずはそのあたりを教えていただけますか?

現時点では、コンパクトデジカメの場合はCCDが良いでしょう。

同じ小ささのユニットセルサイズを作るとしたら、CMOSよりCCDの方が圧倒的に利点が多いからです。CMOSは信号を電圧として取り出す関係上、配線層が必須になりますが、開発メーカー各社はこの配線層を減らしたり、薄くする技術を開発しています。

一方、CCDは信号がシリコンの中を伝わっていくため、シリコンに電圧を与える電極があれば良いんです。つまり、CMOSのような配線層はほとんど不要で、しくみはとてもシンプルです。

解説
半導体用語では、よくメタル層の数で構造の複雑さを現します。基板でも×層基板などと表現します。例えば、CMOSセンサーが3層基板構造になるのに対して、CCDは1層で済む等、とてもシンプルなしくみをとっていることを解説してもらいました。

画像C イメージセンサーの基本構造
光は (1).オンチップレンズ/カラーフィルタ → (2).配線層→ (3).フォトダイオード受光 というルートを通る。配線層(2)が多い(左図)とオンチップレンズ(1)からフォトダイオード(3)までの距離が長くなるために、光(情報)が欠損する可能性が増える。右は、配線の層数が少なく薄い場合のセンサーをイメージした図。光の欠損は少ない。(左イメージイラスト出展:ソニー株式会社。右は編集部で改変して作成)

 

Q:
断面図を見ると、カラーフィルタとフォトダイオードの中間に配線層がありますが、それはCCDとCMOSのどちらも中間にあるんですか?

そうです。CCDの場合は配線層が1層で済むケースが多いですが、CMOSの場合は2層3層になり、更に絶縁層を設ける必要が出てきたりもしますので、層の数が増えるほど、フィルタからフォトダイオードまでの距離が長くなってしまいます。

画像D コンパクトデジカメにはCCDを選択
「CCDは配線層が薄くシンプルにできるので、光の欠損やケラレが少なく、小型機には向いている」
画像E CMOSセンサーのメリット
「CMOSは消費電力が低く、開発がしやすい」
画像F

CMOSセンサーの課題
「配線層が厚くなりがちなCMOSセンサーは例えるなら長い筒。まっすぐな光は集光できるが、斜めからの光はケラレやすく周辺光量の落ち込みも顕著」

Q.
光が通り抜けなければならない筒が長くなるわけですね。

オンチップレンズとカラーフィルタを通った光は配線層を通ってフォトダイオードに集光するので、配線層が長くて光の通り道が細いということは、解りやすく表現すれば望遠鏡や顕微鏡のように長い距離を使って集光する必要があります。

まっすぐに入ってくる光は問題ありませんが、斜めに入ってくる光は集光しきれずに欠損が出てきますね。この欠損のことを「ケラレ」と呼んでいます。

Q:
なるほど、オンチップレンズからフォトダイオードまでの距離が短ければ横からの光であっても問題は少ないけれど、長くなればなるほどケラレによって届かない情報が増えるわけですね。

そうです、これは画素のサイズと相対性にあります。例えば、700〜800万画素のセンサーの場合、ピッチが2ミクロンを切っています。配線層はCMOSセンサーだと画素ピッチの数倍の厚さが必要なので、かなり長い筒状の通路を如何に集光するかという技術が重要になります。

Q.
小型で高解像度のセンサーほど、CMOSでは相対的に筒が細長い形状になってしまうわけですね。

つまり、コンパクトデジカメなど比較的小さいセンサーを積む製品の場合、CCDの方がまっすぐに光を届けなければならないというレンズ設計上の制約も比較的少なくて済むし、情報のケラレ(欠損)が少ないので良いということですね。

更に、CCDの配線部は山のような形状に切れているので、斜めの光も集光しやすいという要素もあります。
まっすぐな光というのは2つの要素で決まります。ひとつは元々のレンズが持っている「画角」です。最近のコンパクトデジカメでも「広角何mm」という広告コピーを見ると思いますが、広角になればなるほど光は斜めに入ってきます。

もうひとつは「絞り」です。絞りを開くと光は斜めにも入ってきます。

Q.
最近はコンパクトデジカメでもF値が2.8など、明るいレンズの製品が増えてきました。

絞りが絞られた状態だと光は比較的まっすぐに入ってきますが、明るいレンズで広角になると光が斜めにも入りやすくなります。

レンズやセンサーなど、性能はあくまでトータルで考えなければいけませんが、小型のセンサーを使うコンパクトデジカメの場合、CCDは安定していますが、CMOSセンサーでは周辺光量の落ち込みなどを抑制する配慮をレンズ設計などでより綿密に行う必要があります。

Q.
よくわかりました。しかし、CMOSセンサーにも利点はありますよね。

CMOSセンサーの利点は消費電力が低いことです。次に、システムインテグレートがしやすいこと…弊社製のセンサーの場合はADコンバータが内蔵されているなど、作りやすい点がメリットになります。携帯電話やビデオカムコーダーでは重要な要素ですね。

Q.
各社のデジタル一眼レフに積まれる大型のセンサーにも、CMOSが多く採用されていますね。一眼レフなどの場合はCMOSのどの部分が利点となっているのでしょうか。

一眼レフなどの大型センサーの場合、オンチップレンズからセンサーまでの厚さは画素ピッチと比較すると比率的に大きくないためCCDの配線層が薄いという利点は薄れます。またセンサーは大型になるほど消費電力が大きいこと、連写などで高速な処理が必要なことなどから、CMOSの利点が活きてきます。

 

  CMOSセンサーの欠点は裏返して解決? 裏面照射型CMOSセンサー このページのトップへ  

画像G

従来型のCMOSセンサーの構造図
前述のように光はオンチップレンズ/カラーフィルタ→配線層→フォトダイオード受光というルートを通る。光が通る大切な通路に邪魔な配線層が存在することは、構造上のデメリットであることは明らかだが、現在の技術ではこの構造をとらざるを得なかった。(イメージイラスト出展:ソニー株式会社)

画像H

裏面照射型CMOSセンサーの構造図
配線層と
フォトダイオードの順番を入れ替えたような格好の裏面照射型。受光するフォトダイオードがオンチップレンズ/カラーフィルタに隣接するため、光の欠損が少なく抑えられる。(イメージイラスト出展:ソニー株式会社)

画像I

裏面照射型CMOSセンサーの利点
「ひとつは感度が上がって明るく撮れること、もうひとつは開発の自由度が上がること」

Clickで拡大
画像J 裏面照射型の画像は明るい
低照度時(30ルクス)撮影をおこなったサンプル画像。裏面照射型CMOSセンサーの画像は明るいことがわかる。

Q.
デジタルカメラではCMOSが採用されるケースが増えてきていますが、今回発表された新技術は、CMOSのどんな欠点を改善するものなのでしょうか。

私たちは「センサーを使っていただけるお客様が満足できる、より良い映像を作る」ということにはこだわりがあります。CCD開発の長い歴史を経て、CMOS開発にあたってもそのこだわりは全く変わっていません。

微細画素になったときに、より良い映像を作るには、高ISOモードでの画質のダウンや光学的なクロストーク(周辺の画素への光の漏れや伝送時の信号の漏れ等)を如何に抑えるかが開発のポイントだと思っています。その技術のひとつがCMOSの特性を活かしながら性能を向上した「裏面照射型CMOSセンサー」です。

解説
左のイラスト画像Gのように、フォトダイオードの配線層側が受光面で「表(オモテ)面」と呼ばれています。裏面照射型CMOSセンサーは、それをひっくり返して、裏側で受光し、配線層に伝送する構造です。断面図を見ると、従来はオンチップレンズ/カラーフィルタとフォトダイオードの間に配線層があって光を遮る障害になっていますが、裏面照射型ではオンチップレンズ/カラーフィルタとフォトダイオードが近接しているため斜めの光も届きやすい構造です。

Q:
裏面照射型の方がより理想的な配置構造であることはイメージ図を見るとよく解りますが、どうして今まで実現できなかったのでしょうか。

裏面照射の考え方は昔からあって、各社が開発して完成もしています。しかし、天文光学などの専門分野では実用化されていますが、これまではコンスーマ向けのレベルでの製品化は困難だったのです。

Q.
CMOSセンサーの場合、配線層の厚さや障害物のために光の情報の欠損が多く出ていたけれど、裏面照射型CMOSではその欠損がグッと抑えられるようになるわけですよね。では、デジタルカメラで製品化する際に、その良さはどんな点に現れるのでしょうか。

2つの利点があります。

ひとつは性能面で「感度が上がる」ことです。明るく撮れる…明るく撮れる分だけ、シャッタースピードを速くすることができ、手ぶれなどを抑える効果も期待できます。また、広角側にふったり、F値を上げたり、といった光学的なバリエーションが増えますよね。

もうひとつは開発面で「自由度が増す」ことです。配線層がフォトダイオードの後ろにあるためです。

通常のセンサー開発では、配線層を増やせばたくさんの回路を積むことができ、特性を上げたり、開発期間を短くするなどのメリットが考えられるのですが、従来型では配線層が増えるほどオンチップレンズとフォトダイオードの距離が長くなってしまい、先ほど説明したように光学的には難しくなります。

Q;
なるほど、裏面照射型の場合は配線層を厚くしても受光の邪魔にはならないんですね。レンズはレンズ、センサーはセンサーでそれぞれに良い物を開発するための自由度が増すと。

また仮に「配線のことを考えると微細画素化はこれで限界」という技術的な制約があったとしても、配線層を後ろに持っていくことで「もっと小さい画素、高解像度ができるんじゃないか」という発展にも繋がるのではないか、と思います。

つまり、今後発展できる開発の余地が増える技術だと思っています。

Q:
10年後はこの方式が「オモテ」と呼ばれるようになっているかもしれませんね(笑)。この技術は具体的にどんな製品に活かされるのでしょうか。

例えば、当社の製品では言えば、デジタルカメラやビデオカムコーダーなど、一般の方に親しまれる製品で実用化を目指しています。

 

裏面照射型CMOSセンサーの詳細やイラストは、同社の報道資料(プレスリリース)「従来比約2倍の感度および低ノイズで高画質を実現した、裏面照射型CMOSイメージセンサー 新開発 〜民生用のデジタルビデオカメラ・デジタルスチルカメラ向けにSN比+8dB を実現〜」でご覧いただけます。

 

 

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■ご注意
本文および、メーカーご担当者のコメント、写真/画像等、許可なく転載することはご遠慮ください。
記事内容は記事初出当時のもので、記事で紹介した機能や仕様、しくみなどは変更になる場合があります。製品や機能など、最新情報はご自身でご確認ください。
本文および、メーカーご担当者のコメント内容などは、規格や製品の仕様や特長を保証するものではありません。

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初出:2008/10/29
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