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 2007年 10月 16日 火曜日 Photoshop CS3 で 32bit HDR を試す
 
樽に行ってきました。いや、正確には札幌に仕事で行ったついでに、帰りの飛行機までの時間つぶしに小樽まで足を伸ばしただけです。正味2時間程度しかなかったので、満足いった撮影はできなかったんですが、とりあえず、超有名な小樽運河を撮影してきました。写真1がその一枚です……「はぁ? これが写真?」と思った方のために説明しておきますが、これ、Photoshop CS3 の 32bit HDR 統合で作った写真です。元の写真は写真2です。とはいっても、写真2も 32bit HDR 統合した写真なんですがね。 32bit HDR 統合の説明をする前に結論を言ってしまえば、 32bit HDR 統合は写真1のような幻想的な写真も作れますが、普通の写真も作れるわけです。で、32bit HDR 統合とはなんぞやというわけですが、まず、HDR の説明です。


DR とは、High Dynamic Range の略で、ハイダイナミックレンジと読みます。ダイナミックレンジとは、銀塩フィルムで言えば 「 ラティチュード 」 のことで、要は、「 黒から白までの濃度(階調)が変化する幅 」 のことです。そのダイナミックレンジが 「ハイ」 なわけですから、HDR は、「高いダイナミックレンジ」 というわけですね。どう高いかといいますと、一般的なデジタルカメラじゃとても記録できないほど 「高い」 ダイナミックレンジなんです。デジタルカメラのダイナミックレンジは、JPEG 記録で 8bit、RAW データで 12〜16bit の階調まで記録できるものが一般的なのですが、HDR は 32bit で編集しますから、そりゃもう大変な階調幅が扱えるといえるわけですね。(ちなみに、ここで書いている 8bit とか 32bit は、RGB で言えば個々のカラーチャンネルのビット数で、全チャンネルのものではありません)


2bit HDR 統合とは、一般的なデジタルカメラで撮影した露出の異なる複数の写真を合成して、32bit のハイダイナミックレンジな写真を作ってしまおうというものです。ポイントは合成する写真の撮影時の露出設定がすべて異なること。同じ露出の写真を合成しても意味がありません。写真3を見てもらうとよく理解できると思います。これは、暗い部屋の中の写真で、絞り値を4段階に分けて撮影したものです。当然ですが、明るい窓の外の景色を明瞭に写す露出にすると部屋の中が暗くなり、逆に部屋の中に露出を合わせると窓の外は明るく飛んでしまいます。普通のカメラのダイナミックレンジでは、ここまでの輝度の違いを記録しきれないのが原因です。そこで、部屋の中が確認できる程度の露出から、外の風景が確認できる露出まで、数段階の絞り値で撮影した写真を使って 32bit で統合すると、暗いところから明るいところまで、全階調が表現できる写真が作れてしまうのです。


りゃぁすごいや! ということで早速 32bit HDR を試してみると、がっかりしてしまうかもしれません。なぜなら、ディスプレイ上では全然ハイダイナミックレンジに見えないからです。残念ながら一般的なコンピュータのディスプレイは 8bit しか表現できないので、せっかく 32bit HDR 統合をしても、ディスプレイ上ではハイライトとシャドウ側の情報が切り取られてしまって、変わり映えのない写真しか見ることができません。でも、コンピュータの内部では 32bit の情報が扱われているわけで、この統合後の 32bit 画像を 8bit に変換する際に、ディスプレイでは見ることのできないシャドウとハイライト部分の情報を 8bit 画像内に押し込むことで、はじめて HDR 画像のすごさが実感できるというわけです。


際の 32bit HDR 統合の流れを簡単に紹介しましょう。詳細はいずれ Photoshop Tips & Manual で紹介しますね。(いつもこう書くけど、紹介してないネタがたまりまくってるのも事実ですな。すんません) まず、露出の異なる同じ被写体の写真を3枚以上(写真4)用意します。HDR 画像は2枚から作れますが、より精細な画像にしたいのなら、3〜5枚が良いでしょう。ちなみに、デジタル一眼レフカメラにある露出ブランケット撮影機能を使うと、連写で露出の異なる撮影ができます。また、HDR 統合には同じ被写体を同じ画角とアングルで撮影した写真が必須ですので、三脚を使った撮影がベストなのですが、Photoshop CS3 の HDR 統合では 「レイヤーの自動整列」 (写真5)機能によって、アングルが多少ズレた写真でも、ピッタリと合わせてくれるので、手持ち撮影した写真でも使えます。


ースにする写真(写真5)は、JPEG 画像でも良いのですが、より精細な画像にしたいのであれば、RAW データを使います。Photoshop のCamera Raw を使って現像設定を施した RAW データも扱えますが、切り抜き処理した RAW データは注意が必要で、ソースにするすべての画像が同じサイズになっている必要があります。


合処理で一番最初にすることは、[ 白色点プレビューを設定 ] スライダ(写真6)の設定です。[ 白色点プレビューを設定 ] スライダを左右にドラッグすると、写真の輝度が変化します。ここでプレビュー画面のハイライトが白く飛んでしまう設定にしたとしても、それはディスプレイ上で見えないだけで、8bit 変換するときにハイライトが戻ってくることもあるので、メインの被写体がキレイに見えるようになるまでスライダをドラッグしましょう。基本的には、Photoshop が自動で設定したままで進めても大丈夫ですが、HDR 統合に慣れてきて、統合後のイメージを大きく変化させたいときに使うのも良いでしょう。


後の処理が [ HDR 変換 ] です。32bit 画像のままでは Photoshop 上でしか使えないので、 [ イメージ ] メニューの [ モード ] から [ 8bit/チャンネル ] を選んで、8bit 画像に変換します。このとき表示されるのが写真7のダイアログボックスで、これは 32bit 画像のハイライトとシャドウ部をどのようにして 8bit の画像に押し込めるかを設定するもので、変換方法には、[ 露光量とガンマ ]、[ ハイライト圧縮 ]、[ ヒストグラムを平均化 ]、[ ローカル割り付け ] の4つの方法があります。個々の詳細は Photoshop Tips & Manual にゆずるとして、ここでは一番自由度の高い変換ができる [ ローカル割り付け ] を使います。[ ローカル割り付け ] では、 [ トーンカーブ ] を使うことで、任意の階調の輝度を変化させることができます。通常は、 [ トーンカーブ ] のグラフが全体的に右上がりになるように設定しますが、写真7のように少しイタズラをすると、写真1写真8のような画像にすることもできます。


のようなイメージ作りは、以前から映画でよく使われている方法で、廃墟や近未来都市のイメージを強調するときなどに使われます。最近、ある CM でも HDR 画像が使われているのを発見しました。ネット上でも、昨年辺りから、こうした HDR 画像を使ったイメージ写真をチラホラ見かけますね。髭も Photoshop CS2 を手に入れた 2005 年からいろいろ試しているんですけど、これぞといった作品はまだ作れていません。やはり重要なのは元の写真で、適当に撮った写真では、適当なのしか作れないようです。髭は人物専門ですから、風景写真がヘタですし、興味もないので普段からあまり撮ってないのも原因のひとつなんですが、こうしたイメージ作りは撮影時から HDR 画像を作るための撮影を心がけるべきで、最近はなんとなく 「こうすればもっと…」 とわかりかけてきているので、とりあえず満足いける作品が創れたら、いずれまたここで紹介したいと思います。


真9は、事務所の屋上から撮った、早朝の東京の空です。もちろん、5枚の露出ブランケット撮影の写真を HDR 統合したもので、8bit 変換時に町並みの部分を明るくし、空だけ波型の [ トーンカーブ ] で調整したものです。このときは HDR 統合のことをあまり意識していなかったので、適当な写真にしかなりませんでしたが、一枚でも町並みに露出を合わせた長時間露光の画像があれば、もっと素敵な HDR 画像になっただろうと思います。今度やってみますね。
 
▼写真1  
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±0.7EV で露出ブランケット(3枚)撮影した写真を Photoshop CS3 で 32bit HDR 統合をかけて、8bit 変換する際に 「ローカル割付」 でトーンカーブをいじった画像です。

▼写真2  
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32bit HDR 統合の後、普通に 8bit 変換した写真。

▼写真3  
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32bit HDR 統合を使うと、露出の異なる複数の写真を合成して、暗い部分から明るい部分まで鮮明に見える写真を作ることができます。

※ この写真は、Photoshop CS3 のプレス向けレビュワーズガイドに入っていたサンプル写真を使っています。


▼写真4  
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それぞれ、s:1/100、f:4.5、s:1/80、f:4.0、s:1/125、f:5.0で撮影した写真です。カメラは手持ちですので、アングルにはブレがあります。

▼写真5  
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Photoshop CS3 の [ ファイル ] メニューの [ 自動処理 ] にある [ HDR に統合 ] を選択すると、このダイアログボックスが表示されます。HDR 画像を作るには、RAW データを使うことが最良です。 [ ソース画像を自動的に配置する ] にチェックを付けると、Photoshop の 「自動整列」 機能によって、アングルにブレのある画像もピッタリと合わせてくれます。

▼写真6  
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ソースに選択した写真を統合した結果のプレビューが表示されます。とは言ってもディスプレイで表示しきれないシャドウとハイライト部があるので、見た目はあまり変わり映えがしません。逆に、実際のシャドウとハイライトが切り取られて表示されるので、コントラストの低い写真に見えます。ここでのポイントは、[ 白色点プレビューを設定 ] スライダをどう設定するかです。

▼写真7  
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32bit で統合された画像を 8bit に変換するときのダイアログボックスです。4つある変換方法から、[ ローカル割り付け ] を選んで [ トーンカーブ ] を調整すると、画像をドラスティックに変化させることができます。

▼写真8  
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[ HDR 変換 ] ダイアログボックスで、 [ トーンカーブ ] を波型にいじると、ちょっと不気味な画像に変換することもできます。

▼写真9  
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町並みの階調は普通に明るくなるように調整して、空の部分だけ [ トーンカーブ ] を波型に調整した HDR 画像です。
 
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