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ストロボ達人への道!
第1回 ライティングの基本 2011/12/14
 
▼目次  
初めに知って欲しいこと
クリップオンストロボを使う理由
まずは地明かりで撮ってみよう
ストロボの正面照射は NG
ストロボ光を天井に反射させて使う
レフ板を使ってみよう
黒レフ登場
アンケートにお答えください
▼写真0 ライティングの基本
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外部ストロボ2灯使って撮影しています。バック紙は白からグレーへのグラデーションペーパーを使っています。また、被写体の左にはトレーシングペーパー、右は黒レフ、前面には白レフを配置し、トップにもトレーシングペーパーを2枚使っています。
撮影データ (写真をClickで拡大)
 
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■ 初めに知って欲しいこと
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● 光が当たると陰と影ができる

 

 物撮り ( ブツ撮り ) の基本中の基本は 「 光のコントロール 」 です。物撮りに限らず、すべてのジャンルの撮影において、光を上手にコントロールできるようになると、絵作りは格段にうまくなるはずです。私も日々研鑽に励んでいますが、これがなかなか。では、光をうまくコントロールできるようになるためには、どうした点に注意するばよいのでしょうか。それはとても地味なことですが、まずは普段から景色や物を観るときに、光がどこから射していて、どこに反射し、物体のどこにハイライトと影、そして陰ができるのかをよく観察することだと思います。写真1をみてください。この写真は、2つのタングステン灯 ( ※01 ) をトップライト ( ※02 ) とサイドライト ( ※03 ) にして当てて撮影したものです。

▼写真1 ハイライトと陰と影
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光が被写体に当たると、その被写体には必ずハイライトと陰、そして影ができる。
撮影データ (写真をClickで拡大)
 

 光が被写体に当たると、その被写体には必ず 「 ハイライト 」 と 「 陰 」 、そして 「 影 」 ができます。 「 ハイライト 」 は、物体上で光を反射している一番明るい部分で、「 陰 」 は物体上で光が当たらないために暗くなっている部分を指します。さらに 「 影 」 は、一般的な意味のままで、光が物体に当たることで、その反対側の床などにできる暗い部分を指します。


● 「 光 」 と 「 かげ 」 を自分で作るのが写真


 

 では、写真1のハイライトと陰や影は、ただ偶然に映り込んだのでしょうか。もちろん違います。私自身が、この講座で 「 ひかり 」 と 「 かげ 」 を説明するために、意図して光をコントロールして写真に描いたのです。当たり前のことなのですが、物撮りを上達させたいのであれば、「 ハイライト 」 と 「 陰 」 、そして 「 影 」 を、絵の中のどこに、そしてどのようにして作りだすのかをイメージして、実際に作りだすことが重要なのです。私は人物写真の場合、その場の雰囲気とノリで撮ってしまうことが多々あるので、これは自分への戒めとしても、太い赤字で書いておきます。物撮りの場合は、被写体の気分の上下はないのですから、じっくりとイメージを練って実践していきましょう。あっ、料理写真の場合は別ですからね。料理は待ってくれませんから。


● 光と陰のコントラストで写真は大きく変わる


 

  「 光 」 と 「 かげ 」 は、写真に 「 コントラスト 」 を作ります。簡単にコントラストと言ってしまうと、単なる明暗の差と思われがちですが、写真におけるコントラストには、ハイライトとシャドウ ( 暗部 ) のそれぞれの面積や色合い、ハイライトからシャドウへのグラデーションの描き方などによって印象が大きく異なります。また、被写体だけではなく、背景とのコントラストも作画に影響を与えます。コントラストが作画にどういった影響を与え、どう変化するのかは、後々具体的に紹介していきましょう。今はまず、コントラスト作りが大切なのだと覚えておいてください。

 さて、こうした複雑なコントラストを作るための 「 光のコントロール 」 を、映像の世界では 「 ライティング 」 と呼んでいます。プロの写真家は、常にライティングを研究、研鑽しており、情報としてだけでもさまざまな技術あり、それを実現するための照明機材がたくさん存在します。それらを全部紹介するのは到底無理ですが、この講座では、自宅で撮影するための、身近で手に入り易い機材 ( クリップオンストロボなど ) と、簡単ですが抜群の効果があると ( 私が ) 思うテクニックを紹介していくつもりです。


※01 タングステン灯
フィラメントにタングステンを使った電灯、または色温度が 3200 K 程度の灯りをさす。  戻る
※02 トップライト
被写体に真上から光を当てる照明のこと。  戻る
※03 サイドライト
被写体に横方向から光を当てる照明のこと。  戻る
   
■ クリップオンストロボを使う理由
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光による絵作りが自由にできる

 

 物撮りライティングの基礎を学ぶためには、どうしてもカメラとは別に 「 ライト 」 が必要になります。写真1を撮ったときのように家庭用の照明も物撮り用ライトとして使えますが、上手に光をコントロールするためには、やはり調光が細かく設定できるストロボを使うのが良いでしょう。ストロボにもいくつかの種類がありますが、一般的には一眼レフカメラのホットシュー ( アクセサリシューとも呼ぶ ) に装着できる 「 クリップオンストロボ 」 を使います。クリップオンストロボを使うメリットは、この後にも詳しく紹介しますが、発光部の角度を垂直、水平方向で変えられることで、反射光が使えるようになることです。( 角度を変えられないクリップオンストロボもあるので注意 ) カメラに内蔵されたストロボは照射角度が正面方向に固定なので、常に被写体に対して光が直接照射されてしまいます。( これによるデメリットは後述 ) また、内蔵ストロボの電源はカメラに依存するので、バッテリーの消耗が早くなってしまうのも困りものでしょう。クリップオンストロボなら、自前のバッテリーだし、Di866 MARK II※04 ) のようなハイエンド機なら大容量の外部バッテリーが使えます。さらに、クリップオンストロボはいくつかの方法でカメラから離して発光できるので、光による絵作りに自由度が生まれます。

 この講座ではニッシンデジタル Di866 MARK II を使って説明していきますが、操作性や一部の機能を除き、基本的なことは純正や他社製のクリップオンストロボで共通です。

▼写真2 講座で使う外付けストロボ
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今回の撮影で使ったクリップオンストロボは、ガイドナンバー 60 の Di866 MARK II。 ( 続きは写真をClick )

▼写真3 Di866 MARK II の
背面および側面
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操作は背面の液晶パネルで。
( 続きは写真をClick )
 



※04 Di866 MARK II
詳細はニッシンデジタルの Web ページへ。→ Go!   戻る
   
■ まずは地明かりで撮ってみよう
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● バック紙と三脚を用意

 

 クリップオンストロボを物撮りに使うメリットを知るために、まずは地明かり※05 ) だけで陶器を撮影してみましょう。写真4は、陶器を地明かりで撮影しているところです。まず、被写体を乗せるためのテーブル ( a ) を用意しましょう。できれば、簡単に高さが調節できる昇降型のテーブルがあるとベターです。次にバック紙 ( b )。ここではポリプロピレン製で艶消しの白いバック紙を使いました。バック紙は、写真4のようにアール ( 曲げること ) を作って、壁とテーブルに養生テープなどで固定します。そして物撮り必須の機材でもある三脚 ( c ) にカメラを固定します。では、カメラをプログラムモードやオートに設定して、さくっと撮影してみましょう。


● 室内灯の色かぶり

 

 こうして撮影したのが写真5です。地明かりの照明の色かぶり ( ※06 ) がおきて、かなり赤みがかってしまいました。本来、カメラに搭載されているオートホワイトバランス機能によって、色かぶりは補正されるものですが、それでも完璧ではありませんし、ある程度は場の雰囲気を表現するために敢えて色かぶりさせたりします。写真の目的によっては、この色合いでよしとするかもしれませんが、物撮りの場合、被写体が本来持つ色に忠実であることが原則です。もちろん、原則ですので例外もあります。後の講座では光に色を付ける方法も紹介する予定です。

 色かぶりだけではなく、「 影 」 の位置も気になります。被写体の斜め後方に影を作る撮影は初心者的に見えると思いませんか? 被写体の全容を把握するには自然で良いのですが、被写体の立体感が失われているはずです。

▼写真4 室内の灯りだけで撮る
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まずは、室内の灯りだけで陶器を撮影。用意するのは、撮影用のテーブル ( a ) に、白いバック紙 ( b )。そして、カメラを固定する三脚 ( c )。 ( 写真をClickで拡大 )
▼写真5 地明かりだけで撮った写真
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地明かりだけで撮影した写真は、当然、地明かりの色に影響される。地明かりが蛍光灯であれば緑がかり、ハロゲンや白熱灯であれば赤みががる。 ( 写真をClickで拡大 )
 

 

※05 地明かり
スチール写真の現場では、意図的にライティングしていない、撮影する現場にもともとある明かりのこと。舞台などでは、上から照らすフラットで影の出ない照明のことを指す。  戻る
※06 色かぶり
撮影時の照明が持つ色に被写体が影響を受けること。  戻る
   
■ ストロボの正面照射は NG
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● 素人っぽくなる正面照射

 

 では、カメラにクリップオンストロボを装着して撮影してみましょう。このとき、ストロボの発光部は曲げたまま、被写体に向かって正面から光が当たるようにして撮影します。この状態は、カメラの内蔵ストロボを発光させたときとほぼ同じ状態ですね。設定はカメラもストロボもすべて Auto にします。

 さて、結果はどうでしょうか。写真7がその結果ですが、写真5よりも超初心者っぽくなりましたね。どうしてそう感じるのかといえば、被写体に対して光が真正面から当たっているため、被写体の影が真後ろに落ちてしまい、とても平面的な絵になっているからです。ハイライトもど真ん中にできていますね。また、今回の被写体の表面に凹凸があるので助かっていますが、もし艶や光沢のある滑らかな表面だとしたら、被写体の真ん中に大きくて強いハイライトができてきたことでしょう。影も真ん中、ハイライトも真ん中といったシンメトリーな写真は、意図した場合を除いてあまり良い絵だとはいえません。

 人物写真では作品の演出上、わざと正面照射して撮影することがありますが、たいていの場合に意図しているのは素人写真のイメージです。

 こうした失敗をしないように、ぜひとも覚えておいて欲しいのが、次のようなストロボの使い方です。

▼写真6 ストロボを正面照射する
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ストロボの正面照射。 ( 写真をClickで拡大 )
▼写真7 正面照射で撮った写真
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ストロボの光が被写体の真正面から当たっているため、影が被写体の真後ろに落ち、被写体が平面的に見える。( 続きは写真をClick )
   
■ ストロボ光を天井に反射させて使う
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● 直接光から反射光に切り替える

 

 物撮りに限らず、外付けのストロボを使う上で必須のテクニックなのが、光を周囲に反射させて使うテクニックです。方法は簡単、写真8のように、ストロボの発光部を操作して、反射させたい方向に向けるだけです。こうしたストロボの使い方を、「 バウンス発光 」 と呼び、写真8のように、天井に反射させる方法、「 天井バウンス 」 と呼びます。

 こうして撮影した結果が写真9です。写真7に比べると、その差は大きいと感じませんか? 反射させることで、光が全体的に弱くはなっていますが、被写体に光が回り込み被写体のディテールと立体感が増したと思います。ストロボによる被写体の影は被写体の真下から、やや斜め前方向に落ちているのがわかると思います。ただ、斜め後ろに伸びた影と、赤みがかった色によって、室内灯の影響はまだ残っているのがわかります。


● 反射させることで光が拡散する

 

 天井や壁などにストロボ光を反射させる 「 バウンス発光 」 で撮影すると、ストロボを正面照射して撮った写真に比べて次のように変化します。

  • 明るさが下がる
  • 写真のコントラストが弱くなる
  • 被写体の影が薄く輪郭がぼける

 写真が暗くなるのは、光源から被写体までの距離が結果的に長くなったことと、直接光から反射光になったために光が拡散したためです。写真のコントラストの低下と影が薄くなったのも、光の拡散が原因です。しかし、このように違いを列挙すると、マイナス面が増えているように感じるかも知れませんが、結果は写真7写真9のように、絵作りとしては良い方に向かっているのがわかります。それでも室内灯の影響が残っていたり、被写体のフェイス※07が暗すぎるなど、まだまだ改善の余地はありますので、次の少し凝った方法を試してみることにしましょう。

▼写真8 発光部を天井に向ける
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ストロボの発光部を後ろに 180 度水平回転させた後、垂直方向に起して、発光部を天井に向ける。( 写真をClickで拡大 )
▼写真9 天井バウンスで撮った写真
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少し暗くなったが、光が全体に回り込むことで、被写体の立体感が以前よりも増した。室内灯の影響はまだ残っている。( 撮影データは写真をClick )

▼図1 天井バウンス
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ストロボの発光部を垂直に立て、天井に向かって発光することを 「 天井バウンス 」 と呼ぶ。こうすることで、光を拡散させ、被写体の全体に回り込ませられる。ただし、天井や壁の色が光りに乗ることに注意する必要がある。
( 図をClickで拡大 )
 

 

※07 フェイス
文字通り被写体の顔となる部分。  戻る
   
■ レフ板を使ってみよう
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● 被写体を白いレフで囲む

 

 バウンス発光によって被写体へ当たる光をある程度コントロールできましたが、写真9を観察すると、室内灯が邪魔に感じるはずです。ストロボの光は太陽光に近い色温度を持っていますが、室内灯は低い色温度のために、緑がかったり赤味がかったりするので、ストロボ+室内灯で撮影すると、被写体に余計な色が乗ってしまうのです。物撮りをより上手にこなすには、自分でコントロールできない光は一切をカットすることが大切です。( 自然光とストロボを使ったテクニックはまた今度 ) よって、室外からの灯りは遮光し、室内灯は消してストロボだけで撮るのがベストです。また、バウンス発光させたことで弱くなってしまった光を、新たな光源を用意せずに補足する必要もあります。

室内灯を消したことと、バウンス発光で暗くなってしまった光を補足するにはレフ板を使います。写真10は、ホームセンターで買える白いカラーボードを使って被写体をぐるりと囲んでいるところです。この手のカラーボードは表面が紙で、厚さは発泡スチロールでできているので加工が簡単です。安価ですので、何枚も購入しておき、撮影する被写体に合わせて加工すると良いでしょう。その際、白いカラーボード以外に黒いカラーボードも購入しておいてください。その理由は次のセクションで……。


● 赤かぶりが取れた

 

 こうして撮った写真が写真11です。室内灯による赤かぶりも取れ、被写体のフェイスも明るくなりました。しかし、いくらレフ板で光を集めたといっても、室内灯が届かなくなったために写真全体は多少暗くなり、また反射光だけの撮影なので、全体的なコントラストに欠けてしまいます。冒頭で説明した 「 ハイライト 」 と 「 陰 」 が目立ちません。被写体の性質と写真の目的によってはこれでも構わないときがあるとは思いますが、ここでは 「 陰 」 を作る方法にチャレンジしてみましょう。

▼写真10 被写体を白い板で囲む
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被写体の左右を白いカラーボード ( e ) で囲む。前面部分は、カメラのレンズに見切れないようにカラーボード ( f ) を細工して囲む。
( 写真をClickで拡大 )
▼写真11 天井バウンス+レフ板
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レフ板に反射した光によって、被写体のフェイスが明るくなった。また、レフ板で被写体を囲んだことで、室内灯の影響はなくなった。
( 撮影データは写真をClick )
   
■ 黒レフ登場
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● 陰を作りたい側に黒レフ

 

 さて、被写体に 「 陰 」 を作るとは言っても、どうすればよいのでしょうか。ところで皆さん、レフ板と言うと、どんな色を思い浮かべますか? レフなら白や銀色のものを思い浮かべる人がいると思いますが、実は黒レフというものがあるんです。レフとはリ ( レ ) フレクターのことで、意味は反射板ですから、黒じゃレフじゃないじゃんと突っ込まないようにお願いします。ええそうです。黒は光を反射しないから黒いのです。ですから、黒が光を反射しない性質を利用して、「 陰 」 を作りたい側には、「 黒レフ 」 を置くと良いわけですね。

 写真12は、被写体の右側を白レフから黒レフに替えたところです。この環境で撮影したものが写真13です。写真11と比べると全体は暗くなりましたが、絵としてはコントラストが上がり、より被写体が持つ質感が表現できるようになっているはずです。


● ハイライトが足りない!

 

 ……えっ? これでも何か物足りないと感じますか? そうですよね、結局写真全体が暗くなってしまったし、肝心の 「 ハイライト 」 が足りないですよね。「 ハイライト 」 を追加するにはいろんな方法がありますので、長くなるのでまた今度紹介しますね。お楽しみに!


▼写真14 完成形の写真
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クリップオンストロボ2灯をカメラから離して使い撮影。バック紙は白からグレーへのグラデーションペーパーを使い、被写体の左側にはトレーシングペーパーを用いてストロボ一灯をサイドライトとして、被写体の真横に配置。右側は黒レフ、前面には白レフを配置する。トップにもトレーシングペーパーを被せて、もう一灯のストロボをトップライトとして下向きに配置している。こうした撮影方法は後で紹介。
撮影データ (写真をClickで拡大)
▼写真12 一方のレフを黒レフに替える
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被写体の右側にある白レフを黒レフ ( g ) に替えて撮影する。このとき、フロント部の右側の白レフも外しておくか黒レフに替える。
( 写真をClickで拡大 )
▼写真13 天井バウンス+白レフ+黒レフ
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被写体の右側を黒レフに替えたことで、右側の反射光がなくなり、左側との明度の差ができて、写真に少しだけコントラストが生まれた。これにより、被写体の凹凸が際立った。
( 撮影データは写真をClick )









■ 協力企業 ■
ニッシンデジタル
ニコンイメージング


■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
薮田織也事務所
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初出:2011/12/14 このページのトップへ
 
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