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夜景写真家・岩崎拓哉の夜景撮影講座
第27回 工場夜景の撮り方( 応用編 )

Posted On 2017 2月 27
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Photo : Takuya Iwasaki

TOPIX

今回の更新は人気の工場夜景撮影の応用編です。夜景のRAW現像講座では素材として取り上げておりましたが、第7回以来、約2年ぶりに工場夜景撮影テクニックに関して執筆しております。2017年3月18日に「 川崎工場夜景撮影セミナー 」を企画しています。こちらもぜひご検討ください。 by 編集部

2月に入って、都心でも雪が降り始める日もあり、まだまだ寒い日が続いています。夜景撮影ベストシーズンも残りわずかとなってきましたが、今回はスタジオグラフィックスでは久しぶりの工場夜景テクニック編です。「第6回」の記事に続き、今回は工場独特の構図やカメラ設定などを重点的に、一歩進んだ応用的な解説をいたします。作例は全て川崎の工場夜景エリアで最も人気がある千鳥町。1つの地区に絞り込んで撮影しましたが、ロケーションや構図、カメラの設定による変化もお楽しみ下さい。

■工場夜景ならではの構図のポイント

一般的な街の夜景に比べて工場夜景撮影は構図の工夫が求められますが、構図による変化が面白いのも工場夜景の特徴。工場の種類や距離感によっても適切な構図は変わってきますが、今回は50mmの単焦点レンズを使い、3つのパターンを取り上げます。

(1)基本は横位置

夜景撮影はカメラの基本的な設定を理解していて、カメラを三脚で固定さえすれば初心者でも簡単に撮影できます。今回撮影した工場エリアは文末の夜景スポット紹介でもでてくる「千鳥町8番地」。作例は日本合成樹脂の化学プラントで白く輝く大きな塔が特徴的ですが、塔を入れる位置に悩んでしまいます。真ん中に持ってくると左側に大きな空白ができるため、やむを得ず塔を左側に入れて画面全体にプラントが入るようにしました。それでも右側に大きな空白が出来てしまったのが惜しいところです。

写真1 横位置でプラントのタワーが切れないように写す

基本の横位置

 

(2)縦位置も試してみる

では空白を減らすには焦点距離を変える(この場合は望遠寄り)にすれば良いのですが、単焦点レンズではそうはいきません。焦点距離を変えることは誰でも思いつくので、次に縦位置での撮影を試します。上下に余裕ができるため、レンズをやや下向けて手前の構造物(倉庫)を入れてみるのも良さそうです。横位置と比べると構図のバランスが取れたように思います。ただ、それでも右側の余白が気になるところです。

写真2 縦位置で正面のプラント全体を写す

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(3)周辺の構造物を入れる

次は横位置に戻して、余白を減らす方法を考えてみました。ちょうど手前に倉庫があり、プラントの両側に倉庫を入れることで余白が無くなります。もう少し近寄ればフェンスを隠せるのですが、フェンスがある=立入禁止なので、あえて、フェンスをアクセントに入れてみました。焦点距離や立ち位置をうまく変えれば、フェンスを入れない写真も撮れると思います。

写真3 手前の倉庫とフェンスをアクセントに入れる

横位置で手前の構造物を入れる

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■水蒸気の撮影に最適なシャッター速度を見極める

続いて、工場のプラント水蒸気を一緒に写すパターンです。煙突やクーリングタワーから水蒸気が出ていることが多く、水蒸気もアクセントとしてうまく写したいものです。まずは水蒸気を写す上で適切なシャッター速度を見極めましょう。

(1)水蒸気を停めるなら高速シャッターで

ここまで高速シャッターで撮影することは無いと思いますが、水蒸気の形をしっかりと写すのであれば、目安として1/10秒以下のシャッター速度で撮影すると良いでしょう。水蒸気の形をそのまま写せてリアリティがありますが、夜間で高速シャッターとなるとISO感度を上げざる得ないのが懸念でしょうか(写真4は絞りF5.6、ISO8000)。

写真4 シャッター速度 1/8秒

シャッター速度 1/8秒

 

 

(2)中途半端なシャッター速度

光跡や水面の反射を写す時もそうですが、1秒前後は最も中途半端になりがちです。水蒸気が止まっているような、流れているような状態です。

写真5 シャッター速度 1秒

シャッター速度 1秒

 

(3)水蒸気をほどよく写す

4~15秒ぐらいになってくると水蒸気の輪郭はほぼ目立たなくなり、流れているような感じになります。

写真6 シャッター速度 4秒

シャッター速度 4秒

 

(4)水蒸気の形を目立たせなくする

30秒で撮影すると水蒸気の流れも目立たなくなりました。水蒸気を目立たせたくない場合は、シャッター速度を最大限長くするのがポイントと言えそうです。

写真7 シャッター速度 30秒

シャッター速度 30秒

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■水蒸気でソフトフィルター効果を演出!?

ちょっとお遊び的なテクニックですが、先ほどの水蒸気のシャッター速度の設定例を活かし、手前のプラントを水蒸気でボカしてみました。まるでソフトフィルターがかかったような効果が演出できました。

(1)フィルター効果無し?

遠くのクーリングタワーから出ている水蒸気はとてもインパクトがあります。ただ、水蒸気が少し重たい感じがします。手前のプラントはくっきり綺麗に写せています。

写真8 シャッター速度 3.2秒

シャッター速度 3.2秒

 

(2)フィルター効果有り?

長時間露光で写すと手前のプラントの明かりがとても幻想的になりました。水蒸気がプラントの広範囲に映り込み、あたかもソフトフィルターを使ったような演出ができます。プラントを望遠レンズで切り取るとよりその効果は高くなるでしょう。

写真9 シャッター速度 20秒

シャッター速度 20秒

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■フレアスタックを格好良く写す

水蒸気と並んでテッパンなのが、フレアスタック。煙突から大きく炎が上がっていますが、工場から排出される有毒ガスを燃焼させて、無害化させているようです。フレアスタックは安全面を考え、プラントから離れた場所に煙突が設けられています。周りの施設に比べて高さがあるのも安全面の一環のようです。ここでは3つのパターンで比較してみました。

(1)煙突全体を写す

画面の正面に横位置で煙突とフレアスタックを写しました。煙突全体をバランス良く写せていますが、左右両側の空の余白が目立ってしまい、迫力ある写真とは言えません。手前に光跡を入れたり、トワイライトタイムを狙うなど工夫が必要でしょう。

写真10 煙突全体とフレアスタックを写す(焦点距離52mm)

フレアスタックを写す

 

(2)風向きを見ながら水蒸気とフレアスタックを重ねる

少し歩いて撮影位置を変えてみました。手前にプラントがある場所を探し、フレアスタックをプラントの隙間に入れる構図です。偶然、水蒸気がフレアスタックと重なり、独特の重みが感じられる写真となりました。

写真11 水蒸気とフレアスタックのコラボ(焦点距離67mm)

フレアスタックと水蒸気

 

(3)フレアスタックと周囲の構造物の高さ・位置関係を考慮する

さらに離れた場所からの撮影です。望遠レンズを使い、千鳥橋から手前のプラントと遠くの煙突から出るフレアスタックを写しました。煙突は高さがあるため、遠くから撮影した方が周囲の構造物とのバランスが取りやすくなります。あとはシャッター速度や風向きを見ながら、水蒸気の写し込みなどで差別化しても良いでしょう。

写真12 離れた場所からフレアスタックを写す(焦点距離135mm)

望遠レンズでフレアスタックを写す

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■今月のお勧め夜景スポット「千鳥町8番地」

川崎の工場夜景テッパンスポット「千鳥町 貨物ヤード前」から5分ほど南に歩くと倉庫の間から化学工場が姿を現す。
光量が多く、白く輝く明かりがなんとも美しい。貨物ヤード前付近が混雑している時に訪れてみるのもよさそう。工場は縦に長く、横位置で撮ると空白が生まれやすいので縦位置で撮影したり他の構造物を入れるなどして一工夫したい。

夜景スポット名

訪問時間:終日可能

所在地:川崎市川崎区千鳥町8

アクセス:川崎市営バス「川04系」乗車 「市営埠頭」下車、徒歩約4分

料金:無料

URL:https://www.nightview.info/yakei/detail/chidori8/

写真13 化学工場のプラントを斜めに写す

千鳥町8番地の工場夜景

[ ボディ:CANON EOS 6D / レンズ:SIGMA 50mm F1.4 DG HSM / 焦点距離:50mm / 撮影モード:マニュアル露出 / シャッター速度:8秒 / 絞り数値:F9.0 / ISO感度:400 / WB:白色蛍光灯 ]

著者について
■ 夜景写真家 岩崎 拓哉 ■1980年生まれ。大阪府出身、神奈川県在住。法政大学経済学部卒。 2003年より夜景写真家を志し、日本全国や海外で夜景を撮影。 Webエンジニアの経験も活かし、「夜景INFO」などの夜景専門サイトを立ち上げる。カメラ雑誌の原稿執筆、夜景撮影の講師経験も豊富。総合・国内旅行業務取扱管理者の資格も持つ。 著書に「プロが教える夜景写真 撮影スポット&テクニック(日経ナショナルジオグラフィック社)」「夕景・夜景撮影の教科書(技術評論社)」。