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髭達磨のフォト日記 2016 年 2 月 8 日
ファインダーから目を離したら赤の他人


TOPIX

写真には被写体によっていろんなジャンルがありますが、ポートレートほど撮り手と被写体との関係が難しいものは他にないと思うのであります。ポートレートを撮らない人でも想像がつくと思いますが、すべての写真のジャンルの中で、唯一、被写体が「 感情 」を持っているからです。あ~、昆虫や動物にも感情があるぞとか言わないでくださいね、ややこしくなりますから(笑) 撮り手と同じ言語が話せて意思疎通ができる被写体を撮るわけだから、考えようによっちゃ他よりも良い作品を撮りやすいジャンルでもあるはずなんですが、この意思疎通( してると思っちゃうところ )がどうやら時としていろんな問題を引き起こしてしまうようです。 ( by 髭達磨 )

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人物写真を職業にしている写真家、と一口に言っても、実はその中身はさまざまなんですね。一般の人物の撮影を専業にしている人もいれば、アスリートやアーティスト、職人さんの撮影を専業にしている人もいる。そして髭のようにプロのモデルさんを専門に撮る人もいるわけです。この撮られることを職業としているプロのモデルさん方と、その方達を撮ることを職業にしている写真家との間にある「 感情 」について、以前から髭が思っていることを、ちょっとお話ししたいと思います。

■ 被写体に恋しなければ良い写真が撮れない?

良い写真とはどういう写真のことを言うのでしょう。髭は、撮り手の想いが観る人に伝わる写真が良い写真だと定義しています。この定義が正しいとすると、人物写真の場合は、撮り手が解釈した被写体の個性を魅力に変えて伝えればいいわけです。多分、本来はこの「 個性の魅力 」だけが伝われば良い写真と言えるのでしょう。しかし、写真なんぞを職業にしている人間の性というものは被写体の魅力を伝えるだけでは収まらず、やはりそこに被写体に対する「 強い想い 」を乗せたがるものなのです。髭も同じです。しかし、人物写真の場合は被写体に対する想いが時として恋愛感情へと発展してしまう場合があります。これがとてもやっかいなものなのです。

写真が撮り手の想いを伝える媒体だとすれば、恋愛感情の対象である被写体を撮った作品は、結果としてその強い想いを伝えることでしょう。もしかしたら、極めて芸術性の高い作品として賞賛されるかもしれません。そういったことから撮り手が被写体に恋をすることは、ある意味で重要なことなのかもしれません。ただし……。

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■人物写真のルール

どんな写真のジャンルにも、被写体を撮るときのルールが存在します。スナップでは被写体に演出を加えてはならない、とか、ネイチャーでは立ち入り禁止場所に脚を踏み入れてはならない、とか。猫をストロボ撮影するときは猫の目にストロボ光が直接入らないようにする、などなど。当然ですが、人物写真にもたくさんのルールがあります。その中のひとつで、髭がもっとも自分に言い聞かせていることが、「 ファインダーから目を離したら赤の他人 」( 髭オリジナル )というものです。ミラーレスだからファインダーが無いとか言わないでくださいね。これもややこしくなるので(笑)

「 ファインダーから目を離したら赤の他人 」の意味は、ファインダーを覗き、女性モデルに対峙しているときは攻撃的であったとしても、いったんファインダーから目を離したら、極めて紳士でなければならないということです。もう少し詳しく書くと、攻撃的に撮影しているこちらの要求をどんどん飲んでくれる女性モデルであっても、それは撮影をしているからだということを忘れてはいけない。ファインダーから見える女性モデルの情熱的な視線は、レンズを通した先にいる写真を観る人へ送られているものであり、ファインダー越しの自分ではないことを肝に命じなければならない、ということでもあるわけです。撮り手は、演者である女性モデルの魅力を引き出す演出家であって、決して一緒に演じている役者ではないことも理解しましょう。



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■ プロ写真家の場合の注意点

なぜこんな当たり前のことを髭は書いているのだ?と思う読者もいることでしょう。当たり前のことではあるのですが、実際の現場では勘違いしてしまう写真家さん( プロアマ問わず )がいるからなのです。もちろん、髭もそういう勘違いをしたことのある一人です。髭の場合は、プロになる前にそういう経験をして大失敗したことがありました。プロになってからは撮る対象もプロですから、下手な感情を抱いて撮影に臨むと、大変なしっぺ返しを食らうことはわかりきっているので、素人の頃の経験を活かして前述した「 ファインダーから目を離したら赤の他人 」を守っています。

もしあなたが「 一人のモデルで失敗したくらいいいじゃねーか 」などと思っていたら大間違い。モデルたちの間に張り巡らされたアンダーグラウンドな情報ネットワークを侮ってはいけません。あなたのやらかした狼藉(?)は数日もしないうちに広まって、あなたに撮ってもらおうと思うモデルは次々といなくなってしまいます。素人写真家なら単にポートレートが撮れなくなっただけで終わりですが、プロ写真家の場合は始末が悪い。食っていけなくなっちゃいますからね。

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■ もっとも気をつけなければならないこと

ここまで読んでもらうと、「 モデルさんにエッチなことや乱暴を働くなってこと? 」なんて単純なことのように思えてしまうかもしれません。もちろんそれは原則として守ることではあるのですが、もっともやっかいなことがあるのです。それは、「 純粋な恋心 」というものです。乱暴はもちろんモデルの体に触れるわけでもない、無理なポージングを要求するわけでもない、ただ単にモデルに恋をしてしまうケースです。これはモデルがプロ写真家に恋してしまう逆のパターンもあり、どちらもかなりやっかいなことなのです。相思相愛ならいいじゃないかと思うかもしれませんが、よーく考えてみてください。撮り手も撮られ手もお互いにプロであるならば、自分以外の人間を撮ったり撮られたりする職業であるということを。

髭はモデルではないので、撮り手側の立場で説明します。自分がこの子は是非撮りたいと思うモデルがいて、まだ売れないうちに自分だけが撮っていたとします。良い作品が撮れたり、魅力的な宣材写真も撮ってあげていれば、当然のようにそのモデルには仕事が増えてくるはずです。そして他の多くの写真家に撮ってもらえるようになるでしょう。そうしたとき、自分はどんな気持ちでいるべきでしょうか。結論は、腹ではメチャクチャに嫉妬していても、表面では喜んであげるべきです。絶対に束縛してはいけません。どんな理屈を捏ねられようがそうするしかないんです。しょーがないんです。お互いにその仕事を好きでやってるわけだから。それが理解できなければ、仕事と恋愛のどちらかをやめるしかありません。「 髭はどうなんだい、紳士的でいられるのかい 」と聞かれたら、「 んなことあるかい! 嫉妬しまくってるワイ! 」と答えることでしょう。当たり前です。ファインダー越しだけとはいえ、自身の想いをつぎ込んできたのだから。



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■ 諦めたその先にあるもの

いろんな問題があることを承知の上で相思相愛であればどうぞご勝手に、その代り周りに仕事で迷惑かけないでね、で終わりなんですが、もし、その感情が一方通行であるならば、どんなに辛くてもすっぱりと諦めるしかありません。諦めるのは辛いでしょう。想いが強ければ強いほど辛いはずです。だけど、表現者であるならば、諦めた先に得るものもあると髭は思うのです。それは、写真に限らず、表現を仕事とする人達の本当の作品とは、作品を創り出すためにのたうちまわっている生き様そのものだと髭は思うからです。

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■ 宣伝させてもらいます!

髭こと薮田織也が、来る 2016 年2月 25 日からパシフィコ横浜で開催される CP+ 2016 で、ニッシンジャパン株式会社のステージに出演し、「 薮田織也のポージング&ライティング講座 」を実演します。出演日は 25 日(木)と 26 日(金)、時間は両日とも 14 時からです。お時間のある方はお立ち寄りください!

ニッシンジャパン・CP+2016 ブースの詳細はコチラ!

もうひとつの宣伝。トップイメージにモデルとして登場してもらった声優の天野亜希子さんが出演する舞台情報です。

舞台「 ラブストーリーはいらない 」
http://top-banana.net/offstage/195/
2016/02/10~02/14、ポケットスクエア 劇場MOMO
〒164-0001東京都中野区中野3-22-8
チケットはこちらから
https://ticket.corich.jp/apply/70456/011/

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薮田 織也
著者について
■ 薮田 織也( Oliya T. Yabuta )人物・光景写真家 ■  1961 年生まれ。テレビ番組制作会社、コンピュータ周辺機器メーカーの製品企画と広告制作担当を経て人物写真家に。2000 年よりモデルプロダクションの経営に参画し、モデル初心者へのポージング指導をしながらポージングの研究を始める。2008 年「モテ写: キレイに見せるポージング」を共著で上梓。2003年か らStudioGraphics on the Web の創設メンバーとして活動。近著に「 美しいポートレートを撮るためのポージングの教科書 」( MdN 刊 )がある。
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