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小林孝稔のパノラマVR撮影講座
第12回 HDR合成について


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TOPIX

今回の、小林孝稔のパノラマVR撮影講座は「 HDR合成について 」です。パノラマ撮影をしていない方でもHDR撮影にご興味がある方はぜひご一読ください。今回は参考になる情報を多く掲載しております。 by 編集部

今回は本連載の第5回で簡単に説明し、そして第7回で予告したHDR合成について解説します。第5回で述べた様にHDR合成を使う理由は主に被写体の明暗差を解消するためで、360度の全景を写すパノラマVRにとっては必要不可欠な手法であり、使用頻度はとても高いです( ほぼデフォルト )。HDR合成があれば撮影シーンの幅も、そして表現の幅もグッと広がるのでぜひ覚えてください。

■ HDRとは!?

HDRとはHigh Dynamic Range( ハイダイナミックレンジ )の略称で、対となる言葉はLDR( Low Dynamic Range / ローダイナミックレンジ )です。ダイナミックレンジは信号の情報量を表す指標の一種で、写真の場合はラティチュードと言う事もあります。写真撮影においてダイナミックレンジの制限を受ける事は多々あり、例えば晴天の日中ではハイライト( 明 )とシャドウ( 暗 )のコントラストが高すぎて、1枚の写真に十分なハイライトとシャドウ両方の情報を撮影する事は難しいです。その様な状況下では、シャドウのディテールを得たい場合には露光時間を長くしますが、その反面、空の様なハイライトが強い箇所はコントラストが低下したり、あるいは白飛びしてディテールが完全に失われてしまいます。反対にハイライトのディテールを得たい場合は露光時間を短くすれば、シャドウは黒く潰れてしまう事は容易に想像できるかと思います。

HDRは、それらダイナミックレンジの制限を補うための手法であり、同じ被写体を異なる露出値で撮影( 露出ブラケット撮影 )した複数の画像から大きなダイナミックレンジを有した1枚の画像を合成します。HDR合成で得られた画像は、通常はチャンネルあたり32bitのファイルで扱われ、一般的なデジタル画像フォーマットのJPEGがチャンネルあたり8bit、RAWでも12bitないし14bitなので、HDR合成で得られた画像は桁違いのダイナミックレンジを有しています。

ビット/チャンネル

階調

代表的なフォーマット

種別

8bit 256 JPEG LDR
16bit 65,536 TIFF(16bit/ch) LDR
32bit ほぼ無限 OpenEXR HDR

さて、HDRは非常に大きな階調を扱う事ができますが、残念ながらHDRの階調を表示できるディスプレイ( プリンター等も )は世に存在しません。一般的なコンピューター用のディスプレイはRGBチャンネル各8bitによる約1677万( 256の3乗 = 16,777,216 )色表示で、ハイエンドなディスプレイでも10bitが上限です。HDR合成で得られた大きなダイナミックレンジを持つ画像をディスプレイで表示するには、「 トーンマッピング 」と呼ばれる局所的な明るさの調整を施し、ディスプレイでも表示可能なダイナミックレンジへ圧縮する必要があります。よって、普段目にしている「 HDR写真 」の類はその様にしてダイナミックレンジが圧縮されたLDRです。似たような事例では、12bitないし14bitのRAWから8bitの階調分を取り出す「 RAW現像 」があげられます。

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■ 露出ブラケット撮影した画像からHDR合成

先述の通りHDR合成は露出ブラケットで撮影した画像を用いて行います。下記は露出ブラケット3枚( -2EV / ±0EV / +2EV )で撮影を行い、スティッチを終えた後に露出ごとに分けて出力した画像です。

-2EVの画像。ハイライト成分が強いガラス窓と電球だけが写り、建物内は真っ暗です。

-2EVの画像。ハイライト成分が強いガラス窓と電球だけが写り、建物内は真っ暗です。

±0EVの画像。ガラス窓は白飛びが始まっていますが、建物内は未だ明るさが足りずに暗いです。

±0EVの画像。ガラス窓は白飛びが始まっていますが、建物内は未だ明るさが足りずに暗いです。

+2EVの画像。建物内も十分な明るさを得る事ができましたが、ガラス窓とその周辺では白飛びが起きています。

+2EVの画像。建物内も十分な明るさを得る事ができましたが、ガラス窓とその周辺では白飛びが起きています。

この被写体は冒頭で述べたコントラストが高い状況にあり、どの露出値でも満足できる結果とはなりません。

■ 露出ブラケット撮影時のコツ

露出ブラケット撮影を行う際は、第5回で述べた様にカメラを被写体の明るい場所と暗い場所のそれぞれに向けて得られたシャッター速度の中間値を目安にしたり、より精度良く行う場合はスポット測光に切り替えた状態でそれらを行ったりもしますが、撮影で得られる画像にシャドウからハイライトまでの十分な情報( 階調 )が含まれる様に注意を払ってください。また、被写体の明暗差が大きな場合は、露出ブラケットでの撮影枚数を5枚( -4EV / -2EV / 0EV / +2EV / +4EV )ないし7枚以上( -6EV / 4EV / -2EV / 0EV / +2EV / +4EV / +6EV )に増やして対処する場合もあります。

露出ブラケット撮影 x 7枚での良い例、悪い例。枚数を増やして撮影する場合はハイライトが白飛びしてディテールを失わない様に注意してください。

露出ブラケット撮影 x 7枚での良い例、悪い例。枚数を増やして撮影する場合はハイライトが白飛びしてディテールを失わない様に注意してください。

なお、露出ブラケットでの撮影枚数を増やせば増やすほどスティチ時にコンピューターに掛かる負荷が高まります。お使いのコンピューターの処理能力との兼ね合いにも注意してください。

■ HDR合成に使用する画像の準備

先述の通り、撮影した画像にシャドウからハイライトまでの十分な情報が含まれている事が望ましいので、可能であればRAWから現像した16bit TIFFを用いるのが良いでしょう。16bit TIFFであればRAWに含まれていた全ての情報量( 階調 )を内包しています。RAWから現像する際は全ての画像に対して同じ現像パラメーターを適用したうえで書き出しますが、この際に誤ってEXIFデータを消さない様に注意してください。RAW現像に慣れていない方はカメラ撮って出しのJPEGでも構いませんが、ホワイトバランス等を固定したまま撮影する事を忘れないでください。

RAW現像時は自動階調、自動ホワイトバランス等は使用せず、全ての画像に対して同一の現像パラメーターを適用し、EXIFデータを保ったままファイルを書き出します。

RAW現像時は自動階調、自動ホワイトバランス等は使用せず、全ての画像に対して同一の現像パラメーターを適用し、EXIFデータを保ったままファイルを書き出します。

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■ PTGuiでのワークフロー

それでは、PTGuiでのHDR合成のワークフローを順を追って解説します。スティッチのワークフローは前回までの内容とほぼ同じなので難しい事はありません。画像の準備が整ったら三脚消しカットを除く全ての画像を読み込みます。露出ブラケット撮影を行ったデータを読み込んだ場合、Align Images..を実行するとPTGuiが露出ブラケットで撮影した画像と判断して、HDR合成の処理方法を尋ねてきます。

上段:三脚を使用して撮影しており、画像同士が全て揃っている場合。
中段:手持ち撮影で画像同士が揃っていない場合。
下段:HDR合成を行わない場合。

マニュアルで露出ブラケット撮影を行った画像を読み込むと、PTGuiが自動でブラケット撮影の画像と判断して処理方法を訪ねてきます。

マニュアルで露出ブラケット撮影を行った画像を読み込むと、PTGuiが自動でブラケット撮影の画像と判断してHDR合成の処理方法を尋ねてきます。

通常は三脚を使用して撮影を行うので上段にチェックを入れます。下段のHDR Methodについては基本は前者のExposure Fusion( 露出融合 )を使用します。

■ 2種類のHDR合成

PTGui Proでは「 Exposure Fusion( 露出融合 )」と「 True HDR / Tone Mapping( トーンマッピング )」の2種類のHDR合成が使えます。それぞれ目的・用途に応じて使い分けます。

○「 Exposure Fusion( 露出融合 )」:
・出力:( 最大 )16bit/ch LDRファイル
・トーンマッピング:自動
・用途:写真
・その他条件:露出オートで撮影したブラケット画像でもHDR合成可能

Exposure Fusion(露出融合)は、簡単に言うと複数の画像のそれぞれから露出値、彩度、コントラスト等の情報を抜き出して一枚の画像に合成する方法で、トーンマッピングは自動で行われます。合成結果は自然な見た目となるので、通常はExposure Fusion( 露出融合 )を使えば良いでしょう。
Exposure Fusion( 露出融合 )は、絞り優先オート等で露出ブラケット撮影した画像でもHDR合成が可能ですが、マニュアル撮影で露出を揃えた画像と比べて仕上がりが不自然になる場合があるので、極力マニュアル撮影を心がけた方が良いでしょう。

露出融合の様子

露出融合の様子

○「 True HDR / Tone Mapping(トーンマッピング)」
・出力:32bit/ch HDRファイル
・トーンマッピング:手動
・用途:コンピュータグラフィックス( CG )において画像を光源として扱うIBL( イメージ・ベースド・ライティング )用のHDR素材の作成等
・その他条件:露出オートで撮影したブラケット画像は合成不可、マニュアルで撮影したブラケット画像のみ合成可能

True HDR / Tone Mapping( トーンマッピング )では32bit/chのHDRファイルの生成が可能で、IBL用のHDR素材を作成する際は、露出ブラケット撮影7枚ないし9枚あると十分なダイナミックレンジが得られて良いでしょう。True HDRを選択してトーンマッピングを施した場合、ファイル出力時の補完アルゴリズムの選択に注意する必要があります( 後述 )。
HDRと聞くと細部のコントラストが極端に目立つ絵画調の写真を思い浮かべる方も多いでしょうが、あれらはトーンマッピングによる派生的な表現です。True HDRを選択した場合、HDRファイルの他にLDRファイルの同時出力も可能なので、印象的なパノラマVRを作りたい方はトーンマッピングを試してみると良いでしょう。

トーンマッピングで得られる絵画調のHDR写真

トーンマッピングで得られる絵画調のHDR写真

Align Images..を実行した後の設問で上段にチェックを入れた場合、画像はブラケットごとにリンクされた状態になります。

 Image Parametersのタブを開くとLinkの様子が確認できます。

Image Parametersのタブを開くとLinkの様子が確認できます。

画像がリンクされているので、基本的にはブラケットの先頭画像だけに対してマスク処理、コントロールポイントの調整等を行えば結構です。ここからの作業は前回までのスティッチ方法を解説した内容とほぼ同じです。

 例えば3枚ブラケット撮影した画像を読み込んだ場合、0:3、3:6、6:9とブラケットの先頭に来る画像に対して必要な処理を施します。

例えば3枚でブラケット撮影した画像に対してコントロールポイントを打つ場合、0:3、3:6、6:9とブラケットの先頭画像に対して行います。

水平と天地カットのスティッチを終えたら、三脚消し用のカットを追加で読み込みます。その後、Image Parametersのタブを開いて、三脚消し用カットのLinkにチェックを入れて三脚消し用カットもリンクさせます。

その後は前回の第11回で解説した方法で三脚消しを行い、三脚消しを終えたらExposure / HDRのタブを開き、選択したHDR合成に応じてTone Map Settings..、あるいはFusion Settings..を開きます。

選択したHDR合成に応じた方を開きます。

選択したHDR合成に応じた方を開きます。

先の「Exposure Fusion( 露出融合 )」と「True HDR / Tone Mapping( トーンマッピング )」の解説に用いた画面が表示されるので、それぞれのパラメーターを調整して好みの階調となる様に調整します。調整を終えたらビネット補正、微調整を行い、最後にファイル出力へと進みます。Exposure Fusion( 露出融合 )を選択した場合はLDRしか出力ができませんが、True HDRを選択した場合はHDRとLDRの両方が出力可能です。

True HDRを選択した場合はHDRとLDRの両方が出力可能。

True HDRを選択した場合はHDRとLDRの両方が出力可能。

True HDRを選択してトーンマッピングを施した場合、補完アルゴリズムによってはオブジェクトの周辺に極端なハイコントラスト(ハロ)を引き起こす可能性があるため、InterpolatorにはBicubic Softerを選択します。Exposure Fusion(露出融合)を選択した場合はデフォルトのLanczos2で結構です。

以上で完成です。

今回の作例で使用した画像を用いて、HDR ON / OFFの状態を比較できるサンプルを作成しました。画面右上の「 HDR ON / OFF」ボタンをクリックすると、下記のパノラマをそれぞれ切り替えながら閲覧する事ができます。

・HDR ON = 露出ブラケット3枚( -2EV / ±0EV / +2EV )からExposure Fusion( 露出融合 )を行ったパノラマ
・HDR OFF = ±0EVの画像1枚だけでスティッチを行ったパノラマ

HDR合成のメリットを実感頂けましたでしょうか。今回はここまで、次回をお楽しみに!

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著者について
小林孝稔(Takatoshi KOBAYASHI) | 1980年生まれ、長野県出身、東京都在住。尚美学園短期大学音楽情報学科卒業。業務で実写表現を用いたパノラマVRコンテンツの制作に携わり、その面白さに魅せられて制作を開始。広告分野でのパノラマVR制作を中心に活動中。その他、技術解説の執筆活動、レクチャー&セミナーの講師活動も豊富。東京工芸大学芸術学部非常勤講師。